儲からないスポーツカーが次々に復活している理由

儲からないスポーツカーが次々に復活している理由

2016.10.01

S660、ロードスター、86、BRZ、GT-R、そしてNSX。新型スポーツカーが次々に登場している。使いにくい、乗り心地が悪いなどの理由で、一時は人気が低迷していたスポーツカーが、なぜ今、見直されているのか。販売台数が望めないにも関わらず、なぜメーカーは次々に新型を出すのか。そこには損得勘定を超えた判断があるようだ。

昨年から今年にかけて、次々に登場したスポーツカー達。写真左はトヨタ86、右はホンダS660
写真左はポルシェ911、右は日産GT-R

販売台数は望めないが…

スポーツカーの新型が続々と登場している。昨年はマツダ・ロードスターとホンダS660がデビューし、今年はホンダNSXが発表。トヨタ86とスバルBRZ、日産GT-Rはマイナーチェンジを実施した。欧州ブランドでも、今年はポルシェの911、ボクスター、ケイマンが相次いで上陸。ロードスターをベースとして開発されたアバルト124スパイダーも公開された。

多くは2人しか乗れず、乗り降りがしにくく、荷物もさほど積めず、燃費だって良いとは言い難い。ゆえに販売台数を多くは望めないスポーツカーに、なぜ今、多くの自動車メーカーが力を入れているのだろうか。

自動運転が普及しても残る“走る悦び”

スポーツカーはスピード、サウンド、ハンドリングなど、走りの楽しさを第一に考えて作られている。その歴史は古い。19世紀末、クルマが実用化されて間もなくレースが始まり、レースに適した車種が作られた。これがスポーツカーのルーツだ。当時はまだスポーツカーとレーシングカーが分かれていなかった。

しかし20世紀になって量産体制が確立し、一般市民に手が届く存在になると、人々はクルマの便利さや快適さに注目した。その結果、セダンやハッチバック、ミニバンなど、実用性を重視したジャンルが次々に登場。こちらがクルマの主役となり、スポーツカーは特別な乗り物になっていく。

ところが21世紀になると、今度は自動運転が話題になり始める。現時点で市販車に搭載されている技術は運転支援システムの域を出ていないが、近い将来ライドシェアやタクシーあたりから自動運転が導入される可能性があることは、「自動車販売にマイナスも? トヨタがあえてUberと組む狙いとは」で記した。

でもすべての人がすべての場で、自動運転を欲するわけではないはず。そこで人の移動や荷物の運搬は自動運転ライドシェア、運転を楽しむときは自家用車という使い分けをする人が出てくる。それなら後者はスポーツカーでいい。最近のスポーツカーは、大多数は女性を含めて多くの人が気軽に扱えるから、運転を楽しみたいという軽い気持ちで選んでも困らないだろう。

このように将来的には、自動運転の実用車と運転を楽しむクルマとの二極化が進むと考えている。となればスポーツカーの役割は重要だし、走りやデザインの魅力が見直され、販売台数が増えていくことも考えられる。そんな未来予想図を自動車メーカー各社は思い描いていて、スポーツカーに注力しているのではないだろうか。

走る広告塔としての機能も

もうひとつ、スポーツカーには走る広告塔としての役割もある。スポーツカーは、走りの性能を高めるべく、最先端のテクノロジーを搭載することが多い。デザインについても、ハッチバックやミニバンではなかなか実現できない、ブランドイメージをピュアに表現した形が実現できる。しかも少量生産なので、尖った技術や造形を取り入れやすい。

売れたほうが良いに決まっているけれど、たとえそれほど数が出なくても、ショールームに飾ってあったり、街や山を走っていたりするだけで、そのブランドの技術やデザインをアピールできる。複数のメーカーから、スポーツカーは儲からないという声を聞くけれど、それでも作って売るのはプロモーションとしての効果を期待しているからだ。

新興国市場の攻略にも欠かせないスポーツカー

その期待は、グローバル市場にも向けられている。日本車であっても、軽自動車枠に収まったS660やダイハツ・コペン以外は、多くが世界を見据えて開発されている。新型NSXは開発までグローバル体制で行われた。

ホンダは米国オハイオ州メアリズビル四輪車工場の隣接地に建設した専用工場で新型NSXを生産する

欧米は長い歴史を持つスポーツカーを文化として捉えている人が多い。その考えは新興国にも波及していて、スポーツカーに対して羨望のまなざしを送っている。スポーツカーを作っているか否かが、ブランドの評価を左右することもある。グローバルマーケットで戦っていく上で、スポーツカーは欠かせない商品なのだ。

増える共同開発、ブランドごとの差別化に工夫

しかし何度も書いているように、スポーツカーは販売台数が見込めない。つまりビジネスとしては旨味があるわけではない。だから単独ではスポーツカーが作れないこともある。そこで最近目立っているのは、複数のブランドが共同開発・生産を行うケースだ。

2012年に登場した86とBRZのペアは代表例だし、124スパイダーはロードスターのプラットフォームを用いて生まれ、日本で生産される。トヨタはBMWとの業務提携の中で、86のひとクラス上、かつてのスープラに相当するクラスのスポーツカーの復活を目指していると噂される。スポーツカーではないが、やはり2人乗りで販売台数が限られていたスマートが、 4人乗り仕様の復活を目論み、ルノーとの共同開発生産を選んだという事例もある。

124スパイダー(写真左)はロードスター(右)のプラットフォームを用いて作られた

ここで大事になるのは、ブランドごとの差別化だ。とくにデザインと走り味は、スポーツカーの肝となるだけに、ここが共通では魅力がぐっと薄れてしまう。しかし86とBRZの顔つきは別物で、ハンドリングの考え方も違うし、124スパイダーはロードスターと違うエンジンを積んでいることに加え、シャシーのチューニングも異なるなど、現行車種に関しては作り分けは絶妙だと思っている。

理想はエンジンもボディもゼロから設計することだろう。でもそうやって、21世紀のスポーツカーにふさわしいテクノロジーやデザインを盛り込んでいくと、フェラーリやランボルギーニ、そして新型NSXのように、価格が2,000万円を超えてしまう。こうなると一般ユーザーに向けたメッセージとはなりにくい。

こちらはプレミアムブランド(NSXは北米などではアキュラブランドとして販売される)としての評価を高めることが目的としてある。つまりスポーツカーの中でも、1,000万円以下と2,000万円以上という二極化が進んでいる。NSXが新型で思い切ったステップアップを敢行したのは、こうした状況が関係しているようだ。

スポーツカーが体現する自動車メーカーの存在意義

走る広告塔としての機能や、新興国市場攻略の旗頭としての存在感。自動車メーカーがスポーツカーに託す役割は多岐にわたるが、自動運転社会の到来を見据え、自動車業界がIT企業とのネットワーキングを急速に進める今こそ、自動車メーカーがスポーツカーを作り続けることの重要性は増しているように思える。

自動運転の分野では、UberなどのIT業界と既存の自動車業界との間で、主導権争いが繰り広げられている。しかしIT企業が走りの楽しさを熟知しているとは言い難い。この点では間違いなく、歴史の長い自動車メーカーにアドバンテージがある。スポーツカーは自動車メーカーが自分たちの存在意義をアピールする、大きな武器でもあるのだ。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
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○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
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○カレー沢薫の時流漂流
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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu