モバイルバッテリーのアンカーが家電ブランド立ち上げ、競合ひしめく日本市場にどう食い込むか

モバイルバッテリーのアンカーが家電ブランド立ち上げ、競合ひしめく日本市場にどう食い込むか

2016.10.05

モバイルバッテリーで一躍有名になったアンカー。設立わずか7年の新興企業が家電ブランド「eufy」を立ち上げ、本格的に日本市場に挑む。eufyブランド第一弾として発売する製品は、いずれもすでに日本で売られているものばかり。競合ひしめく中でアンカーはどうやって家電市場に食い込もうとしているのか。

Eufyブランドの領域と製品

アンカーが、新ブランドEufyで取り組む領域は、クリーニング(掃除機)、ライティング(照明器具)、エンバイロメント・エンハンスメント(空調に該当、アロマディフューザーや空気清浄機など)の3分野だ。"健康で安心な生活を後押しできる製品"をコンセプトに、新発売となるのが、ロボット掃除機「RoboVac 20」、LEDデスクライト「Lumos」、超音波加湿器「Humos Air」の3製品となる。

Eコマースでの販路の親和性が高くマーケティングのエッジが立てやすい3分野をeufyブランドスタート時の領域に設定したという

各製品には魅力的な特徴を備えているが、ロボット掃除機、LEDデスクライト、超音波加湿器として見てしまうと新味は感じられない。近年話題になったロボット掃除機でさえ、アイロボットのルンバがあり、シャープのココロボなどがある。LEDデスクライト、超音波加湿器にいたっては、数多くの家電メーカーが製造している。

それでも、日本市場に食い込もうとするアンカーには、それなりの戦略があってこそ。それを理解するには、同社の設立の背景と基本戦略を知っておくことが必要だ。

「RoboVac 20」は他社製より連続稼動時間が長く、機器の厚みが少ないことで、より多くの範囲をロボット掃除機に任せられるという。直販価格(税込み、以下同)は29,800円。10月5日発売
「Lumos」は一般的なLEDライトよりも照射寿命が25%長く、5万時間の長寿命を実現。上位モデルのLumos E1は背面に2つのUSB充電ポートを搭載しスマートフォンやタブレットなどの急速充電も行える。Lumos E1の直販価格は5,980円、Lumos A4は3,480円。11月上旬発売予定
「Humos Air」は静穏性が高く、約4リットルの大容量タンクにより、最大26時間の連続使用が可能。オイルディフューザーとしても使える。直販価格は4,980円。11月上旬発売予定

アンカー設立の背景と基本戦略

アンカーは米グーグル出身の数名の若者によって2009年に設立された生産設備を持たないファブレスメーカーだ。創業者の一人が抱いた疑問が設立のきっかけになったという。

なぜ、品質、保証、サポート、価格のバランスが良い製品が少ないのかという疑問だ。メーカー純正品は、保証やサポートがしっかりしているものの、価格が高い。一方で、ノンブランド品は保証やサポートが不十分。両者の間に大きな隔たりがあったのだ。

通常、製品がメーカーの手を離れるまでに多くのステップを経る。メーカー、メーカー系販売会社、商社、小売店があり、その分、価格は高くなってしまう。そこに目をつけたのがアンカーだ。商品知識を持ち購買判断が下せる消費者には、流通コストは単なる負担になってしまう。ネットを通じて直接販売を行えば、品質に妥協せずとも、価格が下げられ、消費者ニーズを満たせるというわけである。

こうした考えをもってして、始まったのがアンカーだ。今まで取扱ってきたモバイルバッテリ、USBケーブルといった製品は大ヒットし、モバイルバッテリーにいたっては累計1500万台を売り上げた。全世界40カ国に商品を展開し、2015年の売上は3億ドル、2016年は5億ドルの見通し。中期的には売上10億ドルを目指していくという。売上規模だけでも、設立後わずか7年でいかに多くのユーザーに支持され、急拡大してきたかがわかるだろう。

グーグル出身者が設立したメーカーだが本社は中国に。中国ほか日本、米国に拠点を持つ

品質、価格で攻めるアンカー。新商品のうち目玉と思えるロボット掃除機も確かに安い。ロボット掃除機「RoboVac 20」は2万9,800円(税込み、以下同)。対してiRobotの「ルンバ」は最も安い「ルンバ680」で53,870円(直販価格)、シャープのココロボのエントリーモデル「RX-V50-W」で4万円前後(ネットショップ価格)となっている。

機能自体は他社と比べて絞った部分があるとするが、試しに使ってみた範囲では、性能面では問題はない。細かいゴミをきちんと拾いあげ、掃除機としては十分な性能を有しており、「ロボット掃除機に掃除をしてもらいたい」という本来のニーズは満たせるものとなりそうだ。

スピード感にも自信

実店舗での取り扱いも増えたが、ネットを主体に勝負をかけるアンカー。同社が日本の家電市場で成功を収めるならば、他の家電メーカーもだまってはいないはずだ。場合によっては、アンカースタイルを取り入れることも考えられる。

オンラインだけではなく、auショップ、ソフトバンクショップなど実店舗での取り扱いも

そうした疑問を投げても、井戸代表は表情を崩さない。その理由は、大手家電メーカーがこれまでに作り上げた流通ルートをないがしろにできないと見ていること、そして、何よりも、他社にはない顧客の要望を的確に取り入れ、実現するスピードが同社にあるからだという。

コールセンターはアウトソースせず、訓練を積んだ担当者が一件一件、メールや電話に応対。顧客からの声を製品開発部門、品質管理部門に迅速に共有し、具体的なアクションにつなげていくことを創業当初から実施している。

「当社はどうすれば一番顧客の期待に応えられるかといった理想から逆算したインターネットネイティブなメーカーです。顧客の要望をきっちりと取り入れるシステムを作っています。大手メーカーに負けないきめの細かさがあると思っています。そして、それを反映するスピードにも自信があります。大手メーカーは2~3年先を読んで製品化するサイクルがありますが、うちはもっと早い」(井戸代表)

そのことを顕著に示す例がある。今回発表されたロボット掃除機の「RoboVac 20」だ。初代の「RoboVac 10」は今年の6月に発売されている。つまり、顧客の声を取り入れ、わずか3カ月で新製品が出したことになる。細かく性能をパワーアップし、新製品として発売できるスピード感があるというわけだ。

では、ローカライズ化という点ではどうか。家電はものによって、その国の人の生活や嗜好が強く反映されるもの。eufyブランドは世界で展開されるため、画一的になってしまっては、売れるわけがないという声だ。

聞けばそのあたりも考慮されており、日本法人から要望を出し、「RoboVac 20」にホワイトカラーを導入するなど、ローカルの声も商品に反映していくという。品質、価格、ローカライズなど、多くの面で、大手家電メーカーに負けないという自信を持ち、日本市場を開拓できると踏んでいるわけだ。

アンカーに死角はないのか

こうしてみると、アンカーは日本の家電市場でも成功できるように思えてくる。ただし、今回の家電ブランドの展開にあたり物足りなさを感じたことが2つある。そこが同社にとっての課題となるのではないだろうか。

ひとつはブランディングについて。ブランドは他のものと区別するために存在するものであり、「eufyだから買いたい」という気持ちを誘発する何かが必要になる。しかし、新製品が既存のカテゴリーの商品群だったからか、eufyらしさが見えてこない。品質と価格、サポートで攻めるアンカーらしさは理解できるし、今回の新商品が健康と安全を後押しするというコンセプトのもとに発表されたこともわかる。しかし、家電ブランド「eufy」の"eufyらしさ"はもっと鮮明にしていく必要があるのではないだろうか。

商品展開に関して、井戸代表は「単に世の中にある家電製品を作り直したいわけではない」とし、将来的に商品ラインナップを拡充し、スマートフォンアプリと連携した家電製品をリリースすることを検討していくという。Amazonの音声認識デバイス、alexaの対応商品も2017年に販売したい(alexaの日本発売が確定的だと見ていいかもしれない)と語っている。どんな製品、デザイン、コンセプトをもってしてeufyらしさを作り上げていくのかには期待したいところだ。

Amazonの音声認識デバイス、alexaの対応商品も2017年に発売予定

もうひとつ、商品説明について。これまでの取扱製品はモバイルバッテリーなど、それほど高価なものでもなく、ある意味、カタログスペックだけでも購入できる製品だった。しかし、今回発表した「RoboVac 20」は安いといっても3万円弱する商品。ウェブサイト上では、商品概要があるが、他社と比べると、商品説明はかなり質素だ。

RoboVac 10のページ。商品説明はかなり質素だ

ネットが消費者との接点となる同社にとって、ウェブサイトの充実は、重要になるはず。品質にも強い自信を持っているアンカーだからこそ、逆に損をしているのではないか。今回の家電ブランドをもってして、日本市場では来年度、売上7-8億円、米国では20-30億円を目指していくとする同社だが、こうした課題は解消されるのか、アンカー流が日本市場にどこまで食い込めるのか、eufyブランドがどうなっていくのか、これからに注目していきたい。

総務省施策が追い風に? 携帯分離の「歴史的チャンス」狙うファーウェイ

総務省施策が追い風に? 携帯分離の「歴史的チャンス」狙うファーウェイ

2019.03.20

モバイル業界を変える「携帯値下げ議論」が過熱

ファーウェイは日本を取り巻く環境を「歴史的チャンス」と発言

コスパ高いミッドレンジ端末でシェア拡大を目指す

20日、NTTドコモが特定の端末の購入を条件に通信料金を割り引く「docomo with」、購入する端末に応じて通信料金を割り引く「月々サポート」を終了する方針を固めたという報道が話題となっている。

国内のモバイル業界では携帯電話料金見直しが進んでおり、3月5日には総務省が中心に進めてきた端末代金と通信料金の分離が閣議決定された。NTTドコモは分離プランを軸とした新料金プランを4月に発表する見込みだ。

日本のモバイル市場を大きく変えるこの動きを「歴史的チャンス」と見ているのがファーウェイだ。2018年末から米中対立が加速する中、ファーウェイが打ち出すメッセージも語気を強めている。果たして日本市場でシェアを拡大できるのだろうか。

逆風吹けども、依然として業績は好調

今年に入り、ファーウェイの周辺が騒がしい。3月7日には、ファーウェイは米国政府を相手取って訴訟を起こした

さらにその内容をFacebookでライブ配信するなど、米国以外の世界市場に向けたメッセージにもしており、そのメッセージをまとめたウェブサイト「Huawei Facts」は、わざわざ日本語版も用意している。

2018年末から続く米中対立を巡る報道は、ファーウェイの業績にどのような影響を与えたのか。MWC19でインタビューに応じたファーウェイ・ジャパンの呉波氏は、「一部の消費者は影響を受けたが、2019年に入ってから売上は大幅に伸びている」と語った。

ファーウェイ デバイス 日本・韓国リージョン プレジデントの呉波(ゴ・ハ)氏

話題の「折りたたみスマホ」でもファーウェイは先行する。

ファーウェイに先立って折り畳みスマホを発表したサムスンだが、こちらはMWCではガラスケース内での「展示」のみにとどまったのに対し、ファーウェイは「Mate X」の実機を用いて報道関係者に折り曲げを試させるなど、製品化で一歩先を行っていることをアピールした。

ファーウェイの折りたたみスマホ「Mate X」。報道陣には手に取って折り曲げてみる機会も用意された

Mate Xは次世代移動通信の「5G」にも対応しており、日本では5Gサービスの開始を待って投入時期を見極める方針だという。

ちなみに3月26日に発表予定のフラグシップ機「HUAWEI P30」シリーズは、例年通りのタイミングで日本市場に投入するようだ。SIMフリーでの発売だけでなく、ドコモが採用した「HUAWEI P20 Pro」のように大手キャリアによる採用があるかどうかも注目したい。

分離プランを「歴史的チャンス」と捉えるワケ

一方、2019年の国内モバイル市場で話題となっているのが携帯料金における「分離プラン」の導入だ。KDDIとソフトバンクはすでに導入済みだが、NTTドコモは4月に発表する新料金プランから本格導入するとみられている。

分離プランの特徴は、NTTドコモの「月々サポート」のように回線契約と紐付けた端末の割引が禁止される点だ。端末の割引自体が禁止されるわけではないというものの、大幅な割引は難しくなる。その結果、10万円を超えるようなハイエンド機ではなく、3〜4万円で一括購入しやすいミッドレンジ機の需要が高まるとの見方が有力だ。

この動きをファーウェイはどう見ているのか。

呉氏は「非常に重要視している。スマホが登場したときや、SIMフリー市場が始まったときのインパクトに引けを取らない、歴史的な瞬間になる」と興奮気味に語る。

日本のSIMフリー市場でベストセラーとなった「HUAWEI P20 lite」を始め、ファーウェイのミッドレンジ機のラインアップは厚い。モデルによってはフラグシップと同じCPUでミッドハイの価格を実現するなど、コスパの高さも特徴だ。大手キャリア向けにさまざまな提案ができる体制といえる。

フラグシップと同じ「Kirin 980」搭載でミッドハイ価格の「HONOR View 20」

また、5G対応も順調だ。

モバイルWi-Fiルーターに強みを持つファーウェイは、MWC19でも5G対応ルーターを多く出展していた。日本ではまだ周波数の割り当てが終わっていないものの、国内大手キャリアは2019年内にもプレサービスを始める動きがある。5Gスマホが普及するまでの間、5Gルーターの需要は高まる可能性がある。

5G対応のモバイルWi-Fiルーターも出展していた

ミッドレンジ市場の拡大を狙って、今年はシャープやサムスン以外にも、ソニーモバイルの参入も予想されている。

この価格帯が激戦区になることは間違いないが、ファーウェイはその中で高コスパの製品ラインアップや、国内での地道な販促活動やブランドメッセージの打ち出しによって対抗していく構えだ。

ヨドバシカメラ梅田店での販促イベントの様子
関連記事
Googleがゲーム本格参入の衝撃、2019年中にゲーム基盤「STADIA」を投入

Googleがゲーム本格参入の衝撃、2019年中にゲーム基盤「STADIA」を投入

2019.03.20

Googleが新しいゲームプラットフォームを発表

配信方式でゲーム機不要、「ゲーム機」の時代の終焉?

2019年内にローンチ、性能はプレステやXbox以上か

3月19日、米国で開催中のゲーム開発者会議「GDC 2019」の会場で、Googleがクラウドベースのゲーミングプラットフォーム「STADIA」を発表した。特定のゲーム機に縛られず、ネットに接続したスマホやパソコン、テレビを通してストリーミング(配信)形式でゲームをプレイできる。

この事業を担当するバイスプレジデントとして、STADIAを発表するフィル・ハリソン(Phil Harrison)氏。そもそも彼からして、元はソニーのプレイステーション立ち上げの主要メンバーで、その後Microsoftに移りXboxを担当したという経歴の持ち主

かねてより、MicrosoftのXbox事業のトップマネージャーを引き抜いた、ソニーでPlayStationのハード開発にかかわったエンジニアが転職したといった噂が頻繁に流れており、「Googleがゲーム市場に本格参入する」という憶測は強まっていた。実際に2018年には、Googleは「Project Stream」と呼ばれるストリーミング形式のゲーム基盤の計画を発表し、米国内でベータテスターを募って技術テストを行っていた。

STADIAは、Project Streamの延長線上にあるサービスと見られる。ユーザーは特定のゲーム機を持っている必要がなく、従来のゲーム機の役割をするのはGoogleの設置するデータセンターだ。簡単に言えばクラウドサービスのように、実際にゲームタイトルが動作しているのはデータセンター側で、ユーザーはインターネットを介してゲームを遠隔でプレイする。

STADIAのデータセンターから配信されたゲームをパソコンでプレイしている様子
パソコンで遊んでいたのと同じゲームを、タブレットやテレビでも同じように遊ぶことができる

このプラットフォームの特徴によって、例えばYouTubeで新作ゲームのトレーラー動画を見ていて気に入ったときには、そのページ内の「プレイする」ボタンを押すだけで、インストールすら不要で、動画を再生するかのようにそのゲームをプレイできるようになる。

そして、STADIAのデータセンターが持つゲーム機としてスペックは、サービス開始時のものとして、GPUの演算性能は10.7テラFlopsに達するといい、これはPlayStation 4 Proの4.2テラFlopsや、Xbox One Xの6.0テラFlopsを大きく上回る。映像品質も4K/60fpsのストリーミングに対応し、将来は8K/120fps対応も予定しているという。

STADIA用の「STADIAコントローラー」も販売する。SNSアップ用のボタンや、Googleアシスタントボタンが備わっている

Googleは2019年中にSTADIAをローンチする予定で、まずは米国、カナダ、欧州でサービスを開始すると説明している。発表を受けた翌20日の東京株式市場では、任天堂とソニーの株価が揃って大きく下落した。投資家たちが、GoogleのSTADIAによって、Nintendo SwitchやPlayStationのビジネスが脅かされると考えたからだ。

関連記事