グーグルの新スマホブランド「Pixel」が変えるモバイルの行き先

グーグルの新スマホブランド「Pixel」が変えるモバイルの行き先

2016.10.07

グーグルは10月4日、米サンフランシスコでプレスイベントを開催し、グーグルブランドのスマートフォン「Pixel」を発表した。

Pixelは5インチ、Pixel XLは5.5インチのスマートフォンで、32GBモデルと128GBモデルを揃えるAndroidスマートフォンだ。予約サイトは日本語化されているが、米国など海外での発売となり、米国キャリア経由での販売は最大手のVerizonとなる。

価格は5インチ・32GBモデルで649ドルとiPhone 7 32GBと同等。Google Storeでの販売には、iPhoneのように月々27ドルの分割払いのプランも用意しているほか、同時に発表された布張りの新しいVRゴーグル「Daydream View VR」を無料で手に入れることができる。

iPhone対抗を印象付ける手堅いスペックのスマートフォン

Pixelは、価格、サイズ構成、そしてデザインから、iPhoneを強く意識していることがわかる。ディスプレイには解像度1920×1080ピクセル(Pixel XLは2560×1440ピクセル)のAMOLEDを採用し、背面はメタルケースとガラスのツートンで高級感を感じさせる。ただ、iPhoneでは廃止されたアンテナラインとヘッドフォンジャックは、Pixelには備わっており、iPhoneより1.5mmも厚い8.6mmだ。

グーグルブランドのスマートフォン「Pixel」(画像:Google Official Blogより)

プロセッサにはSnapdragon 821とメモリ4GBを搭載している。このプロセッサは、高速な2コアと低速な2コアの組み合わせ。また5インチモデルでも2770mAh、5.5インチモデルでは3450mAhのバッテリーを搭載し、15分で7時間の使用時間を確保する急速充電機能を備える。

グーグルが強調しているのは、Pixelのカメラの性能だ。DxOMark Mobileのスコアでは、iPhone 7を上回り、スマホで最高となる89を獲得し、HDR+やレンズぼかし効果、360度フォトなど、iPhone 7で実現する以上の撮影機能を誇る。

また、フル解像度の写真やビデオを無制限に保存できるGoogleフォトの専用プランを用意して、端末の空き容量を気にせず写真を撮影することが可能としている。ちなみにGoogleフォトアプリでは、写真のバックアップと空き容量の確保を、他のAndroidデバイスやiPhoneで行うことができる。

iPhoneからの乗り換えを促す機能として、LightningケーブルでiPhoneとGoogle Pixelを直接接続して電話帳や写真のデータを転送する機能を備えた。

重要な「Made by Google」というキーワード

筆者にとってのGoogle Pixelの第一印象は、価格が高すぎるというものだ。アップルのiPhone 7と価格を合わせているが、久々の復帰となるグーグルブランドのスマートフォンに、iPhoneと同じ価格を掲げるほどのブランド力があるかと言われると、大きな疑問が残るからだ。

これまでグーグルは、サムスン、LGなどをフィーチャーするAndroidスマートフォンの標準的なデバイス「Nexus」シリーズを発展させてきた。PixelはNexusシリーズを引き継いだシリーズと位置付けられるが、Nexusとの違いは、デバイスメーカー名を「Google」としている点だ。

Google Pixelは、同時に発売がアナウンスされた音声コマンドデバイス「Google Home」、連携可能なWi-Fiルーター「Google Wifi」、前述のVRゴーグル「Daydream View」、そしてストリーミングデバイスChromecastシリーズとともに、「Made by Google」のデバイス群を構成する。

Google Home
Google Wifi
Daydream View

グーグルは引き続き、Androidを他のメーカーでも利用して欲しいし、現状考えうる代替プラットホームは存在していない。そうした中で「Made by Google」シリーズには2つの意味があると考えている。

1つ目は、グーグルが、プラットホームとしてエンドユーザーの体験に直接関与を深めていく姿勢の表れだ。

前述のように、これまでグーグルは、OSやクラウド上のサービスを通じてユーザーと対話しており、その間を取り持つのはウェブブラウザか、Androidスマートフォン・タブレットを作るデバイスメーカーだった。デバイスメーカー間でも競争があり、デバイスそのものや、独自の機能で差をつけていくことになる。

結果、OSのカスタマイズが進み、Android特有のバージョンの断絶問題が起きたり、同じメーカー間での体験の差異が広がっていた。Google Pixelは、ユーザー体験をいまいちど、グーグルの手元に引き戻していく初手として考えることができる。

デバイス生産国の問題も

2つ目は、どの国のデバイスか、という問題だ。

現在、米国発の主要スマートフォンは、アップルのiPhoneしかなくなってしまった。モトローラは中国レノボに買収されており、サムスンやLGといった人気のあるAndroidスマートフォンは韓国勢だ。日本のメーカーは米国において、廉価版でしか生き残れていないし、カナダのブラックベリーやフィンランドのノキア(買収されて米マイクロソフト傘下)も、Android・iOS主体のモバイル市場において、存在感は消えてしまった。

米国議会や政府は、中国の通信機器大手であるファーウェイやZTEに対して「安全保障上の潜在的な脅威」と指摘してきた。米下院では、スパイ行為やサイバー戦争に利用される可能性があるとして、ルーターやスイッチの購買を避けるべきだと2012年に報告している。特に、ZTE製Androidスマートフォンには、メンテナンス用とはいえバックドアが仕掛けられていたことがわかっている。

産業面、安全保障面で中国製の通信機器に対して神経をとがらせている政府や議会の反応は、米国大手企業の調達にも影響を与える。特にアップルは、唯一の米国メーカーとしてビジネス市場の拡大を狙っており、2016年3月にはFBIの捜査への協力を拒否してまで、ユーザーのプライバシーを守る姿勢を見せたのもそのためだ。

エンタープライズ市場を意識する際、Androidに、主要な米国製のデバイスが必要となっている点を補う目的を見出すことができる。

これからのモバイル体験を作るのは?

さて、Pixelの1つ目の目的、ユーザー体験のグーグルによる深い関与について話を戻す。グーグルがこのタイミングで自社デバイスを打ち出した背景には、いよいよ人工知能を主体とした新しいユーザー体験づくりに着手しようとしているからだとみている。

グーグルは機械学習のオープンソースプロジェクトに関与し、また日本でも話題になった囲碁のAI、AlphaGOの人間との対戦は、人工知能の存在と有効性を表す非常に良いデモとなった。こうした研究開発レベルでの充実とは裏腹に、我々はまだ、人工知能が何かということ、そしてそれが我々の生活に、良くも悪くも、どのような影響を与えうるのか、ということを理解していない。

グーグルは、同社のプラットホームの優位性をアピールしようとした際、人工知能がどのように役立つのか、理解を深める「体験」から作り出さなければならない。Pixelは、そうした新しいユーザー体験を伝えるわかりやすい役割を担っている。

グーグルが5月の開発者会議で発表した人工知能を用いたアシスタント「Google Assistant」は、Pixelからすぐに呼び出すことができ、音声や文字による対話型で情報を調べたり、タクシーやレストランの予約などを行うことができるようになる。

Google Assistantを搭載したチャットアプリの「Allo」。画像認識を行い即座に返信可能なスマートリプライ機能を備える

グーグルはサードパーティーの開発者がGoogle Assistantに対応できるSDK「Actions on Google」を12月から公開する予定だ。

これまで、スマートフォンは、アプリの形で、ユーザーの新しい体験を作ってきた。インターフェイスはタッチスクリーンであり、視覚的なフィードバックを得ながら利用するスタイルだ。そのため、デバイスの使い勝手やサイズはより重要であった。

Google AssistantのSDKがどのようなものになるか。アマゾンや、限定的な公開にとどまっているアップルのSiriとの比較はこれから明らかになるだろう。いずれのアシスタントサービスも、声と対話型が主となるインターフェイスであり、人工知能に機能と情報を与えることが、開発者の役割になっていく。

すでにスマートフォンそのものの機能面、デザイン面での進化も峠を越えていることは、iPhoneを見ても明らかであり、次の発展の方法の模索が始まっている。Google Pixelは今後、新たなモバイル進化の道筋を、より意識させる存在になるだろう。

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そのセグメント、ちょっと待った! 本当は怖いターゲティングと恋の落とし穴

恋するSNSマーケティング講座 第2回

そのセグメント、ちょっと待った! 本当は怖いターゲティングと恋の落とし穴

2018.11.21

Facebook社員に「マーケティングのイロハ」を聞く新連載!

第2回は、効率を上げるために必要な「ターゲティング」について

恋愛もマーケティングも、まずは「ブロードリーチ」が必要?

フェイスブック ジャパンのSNS運用コンサルタントに「SNSマーケティング」について聞く短期連載。初心者~中級者に知ってほしい「マーケティングの考え方」について、全5回にわたって説明します。

キーワードは「恋愛」。とっつきづらいマーケティングも、恋愛に喩えて考えてみると、意外とわかりやすいようです。

前回に引き続き、フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リード 丸山祐子さんに話を聞きます。今回もよろしくお願いします!

「恋愛とマーケティングは似ている」という前回の話に引き続き、今回もフェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リードを務める丸山祐子さんに、マーケティングを考える上で重要なことを聞いてきました。今回のテーマは、「ターゲティング」です。

闇雲にリーチを増やしても意味がない

「広告において重要なのは、できるだけ多くの人にこちらの情報を届けること。もちろん『数』だけではなく、誰に届けるかという『質』の部分も重要です」(丸山さん:以下、丸山)

広告の目的は、顧客となりうる層に商品やキャンペーンなどの情報を届けることであり、さらにいうと、最終的なゴールは“購入”などのアクションにつなげることである。

これを“恋愛”に置き換えると、「パートナーとなりうる層に自分の情報を届けて、最終的に“好きになってもらう、付き合う”などのアクションにつなげる」ことと言えるだろう。恋愛も広告も、まずは存在を認知してもらわなければ「コンバージョン」につながる確率はゼロのままだ。知ってもらわないことには、一向に話が始まらない。

とはいえ、絶対譲れない条件があるのに闇雲に合コンを重ねてもムダなように、広告でリーチする相手も「質」が重要だ。ターゲティング次第で広告の成果は大きく変わる。

「その点、FacebookやInstagramはユーザーデータに基づいて細かく広告を出す先を変えることができます。例えば30代を対象とした化粧品の場合、『都内に住む30代の女性で化粧品に興味を持っている層』にのみ広告を出すことも可能です」(丸山)

細かすぎるセグメントは時に機会損失につながるかも?

では、「量と質、どちらにウェイトを置くべきか?」というと、それはケース・バイ・ケースだと丸山さんは言う。大切なのはバランスなのだとか。

「商品のターゲットがF1層だったとして、最初からそこでバシッとセグメントしてしまうと、34歳から35歳になった途端、広告は届かなくなります。だけど34と35で人はそんなに変わりませんよね。セグメントすることで、実は機会損失になってしまっている、というケースも少なくありません」(丸山)

そこでオススメする方法の1つが、まずはターゲットを詳細に定めず広範囲で広告を出して、そこから反応のある層に絞ってアプローチをしていく方法だという。この方法で広告を出すことによって、機会損失の減少につなげられるとのこと。

Facebook、Instagramでは、広告に対する反応率をユーザー属性ごとに細かくチェックすることができるため、広範囲で広告を打った結果「30代に刺さると思っていたら、実際には20代の方が反響が大きかった」といったことがわかることも多いのだという。細かくセグメンテーションするのは、反響が大きい層の目星を付けてからでも遅くないというわけだ。

ちなみに丸山さん自身も、婚活においてこの「量」と「質」の罠にハマってしまった経験があるそう。

「昔は、国際感覚があって、ロジカルシンキングができて……など、色々と相手に求める条件を考えていました。でも、『自分が思うすべての条件を満たす人なんてこの世にいないんじゃないか』『そもそも本当にこの条件って必要なのか』といったことを考えはじめ、最近はあまり固く考えすぎない方がいいのかな、と思うようになりましたね」(丸山)

「マーケティングは得意なのですが、恋愛はまだまだ勉強中です……」

その後丸山さんは、まずは条件を細かく定めずに「月に10人と会う」ことを目指しているのだとか。好きな人探しの“ブロードリーチ期”というわけだ。

恋愛も広告も、タイミングが重要

ターゲティングに加えて意識しておくべきは、タイミングであるという。

恋愛においてもタイミングは重要で、相手が今どんな関係を求めているのかを意識して行動、関係性を築くことが求められる。

それは広告においても同じことが言える。セグメンテーションが適切でも、たまたまそのとき関心がないことは十分に考えられる。例えば、「若い女性に人気の旅行スポット」の情報を、ただ若い女性向けに配信しても、その人が旅行を計画しているタイミングでないと、思ったように刺さらない。ユーザーの質は良かったのに、タイミングを間違えたケースである。

「量」と「質」と「タイミング」を考えてターゲティングする――。なかなか難しそうに思えるが、これこそがFacebook・Instagram広告の得意分野だと丸山さんは言う。

「FacebookやInstagramには人ベースのターゲティングができ、リーチの数も質も親和性が高い形で届けることができるのです。ニーズが顕在化している層だけでなく潜在層にもリーチできるのが、Facebook・Instagram広告ならではのメリットです」(丸山)

広告は「一方通行」ではない

もっとも、自分のデータを勝手に参照されて広告が出ることを良しとしない人もいるだろう。興味のある記事を読んだり、シェアしたりしていると、その内容に似た広告が表示された、という経験がある人も多いと思う。ただ、Facebookではプライバシーセンター機能により、「見たい広告」「見たくない広告」を利用者側で設定することもできる。

これは、「広告は決して一方通行ではなく、広告主と利用者の『見たいもの』と『見せたいもの』がお互いにマッチすることによって、質の高い利用体験につながる」というのがFacebookの考えであるため。プライバシーセンターは、その世界を実現するための機能の1つだ。

***

今回は、マーケティングについて重要な「ターゲティング」の話を聞いてきた。しかし、「これで広告を届けるべき“質の高いユーザー”にリーチができるようになったから万々歳」……というわけにもいかないようで、次は「引きのある広告内容」について考える必要があるとのこと。

ということで、第3回では「効果的なクリエイティブのつくりかた」について聞いていこうと思う。

第3回「恋するSNSマーケティング講座」は11月28日(水)に掲載予定です

クレジットテックで“新しい”信用情報が果たす役割

まるわかり! Credit Tech 最前線 第2回

クレジットテックで“新しい”信用情報が果たす役割

2018.11.21

テクノロジーの進化によって誕生した新しい信用情報

サービス提供者と利用者、双方にメリットが生まれる可能性がある

金融サービスだけでなく、シェアリングエコノミーでの活用も

連載の第1回では、Credit Tech(クレジットテック)が盛り上がりを見せる背景について紹介した。第2回では、テクノロジーによって可視化されてきた“新しい”信用情報について、具体的な内容を紹介するとともに、クレジットテックが果たす役割について俯瞰してみたい。

クレジットテックにおける“新しい”信用情報とは

新しい信用情報を紹介するにあたり、まずは、社会信用システムが発展している中国において、信用スコア算出の事例としてよく登場する「芝麻(ジーマ)信用」を見てみよう。

芝麻信用とは、中国アリババグループのアント・フィナンシャルサービスグループが開発した個人信用評価システム。「身分特質」「履約能力」「信用歴史」「人脈関係」「行為偏好」という5つのパラメーターを用いて、個人に350~950点の信用スコアを付与する。

芝麻(ジーマ)信用のイメージ。アント・フィナンシャルサービスのHPより

この5つのうち、「身分特質」「履約能力」「信用歴史」は“従来の”信用情報に該当する項目、「人脈関係」「行為偏好」は新しい信用情報に該当する項目だと私は考えている。

従来の信用情報とは、行政・銀行・信用情報機関といった信用の担い手が、以前から保有/利活用してきた信用情報のこと。例えば、預金や借り入れの状況、クレジットカードの利用履歴、居住地、職業、学歴などが該当する。

そして、新しい信用情報とは、テクノロジーの発展した現在において民間企業が担い手となって、生まれた信用情報である。例えば、どんな人とコミュニケーションをとっているのかといった「SNS上のつながり」だ。日本ではLINE、中国ではWeChat、世界的に見ればフェイスブックなどが、この情報を保有している。

また、一般消費における現金の動きも新しい信用情報にあたる。これまで、匿名性が高く、移動の履歴が残りにくいため、現金は精緻な利用状況が取得できなかった。しかし、キャッシュレス決済の登場によって、個人に紐付いた現金の移動を記録して追うことができるようになったのだ。2017年の中国の実績では、約1,362兆元(約22,901兆円)ものモバイル決済取引が行われている。

信用情報が多面化するイメージ

新しい信用情報がもたらす3つの価値

では、こうした新しい信用情報の出現により、どんなことが起きるのか。1つは、機会損失の解消だ。従来の信用情報のみに依拠していると、そうした情報を持たない、もしくは開示していない個人は、サービスを享受しにくい状況が発生していた。例えば、本当は支払能力があるにも関わらず、クレジットカード支払いの遅延歴があったために、住宅ローンを組めないというケースなどだ。ここに新しい信用情報が加わるとどうなるか。

ソフトバンクがみずほ銀行と合弁で立ち上げた、デジタルレンディング企業「j.score」を例に説明しよう。同社のサービスではまず、ユーザーは従来の信用情報に該当する項目に加え、普段の生活習慣など、複数の新しい信用情報を回答する。その結果、導き出された信用スコアに応じた条件で、融資を受けることができるようになるのだ。

これにより、従来であれば金融サービスを享受できなかった個人でも、サービスを受けられる可能性が出てくる。よりマクロな視点でみれば、金融包摂の文脈に該当する利点と言えよう。

J.Scoreの「AIスコア・レンディング」紹介動画

もう1つは、これまで以上に高付加価値のサービス提供が可能になることだ。従来の信用情報のみでは、年収の低い個人や、過去の売上データが芳しくない法人は、融資を受けられたとしても高金利にならざるをえなかった。しかし、住信SBIが提供する「レンディングワン」などのトランザクションレンディングサービスでは、企業の売上状況を新しい信用情報として参照することで、即日で最大1億円までの融資を低金利で可能にしている。

ほかにもメルカリでは、サービスの利用状況や評価の高さといった新しい信用情報を取得できるユーザーに対して、「メルカリ月イチ払い」という後払い決済サービスを提供している。

お金の貸し手が新しい信用情報を活用することで、借り手の信用をより精緻に推し量ることができるようになったからこそ、双方にとって、低コスト低リスクかつスムーズな取引ができるようになったのだ。

そして最後に、新しい信用情報は、その可能性を金融以外の領域に派生していけることにも価値がある。個人の嗜好性や行動の結果や人脈といったよりパーソナルな情報を精緻に可視化することから、金融に限らずとも、いわゆる信用によって成立するさまざまな領域で、商取引を活性化することができるのだ。

最たる例は、シェアリングエコノミーに代表されるCtoCサービス。貸し手、借り手ともに信用が重要なこの領域では、双方が安心して利用できるサービスを目指し、早期からSNSなどの情報が活用されていた。人材のマッチングにおいても、求職者のパーソナリティを推し量る多面的な指標として、キャリア以外の観点で新しい信用情報が活用されるようになるかもしれない。そのほか、当然マーケティングデータとしての活用も可能。電通やUFJ信託銀行の「DPRIME(ディープライム)」といった情報データ銀行の登場は、個人のパーソナルな信用情報をマーケティングに活用する動きを加速するものだと思われる。

信用情報の利活用に向けた各国の状況

個人の信用情報をどの主体がどう蓄積するかは、国や地域によっても扱いが異なる。中国では、行政や一部の企業が「社会信用システムの構築のため」として、個人の信用情報を中央集権的に掌握、管理している。これにより、急速なスピードで信用情報や信用スコアの活用が進んだが、スコアが低いために社会の利便性が極度に低下し、不利益を被る個人も一部出てきており、ディストピアと称されることもあるのだ。

一方、欧州ではGDPR(EU一般データ保護規則)が施行され、個人が自分の情報を「どの企業にどこまで渡すか」を意思決定できる状態になっていることから、中央集権的な管理ではなく個人に強く帰着される傾向にある。

個人データの蓄積方法や主体に違いはあれど、中国、欧州どちらも、個人データを利活用する土台が整備されてきていると言える。

今後、日本でも、個人の信用情報は、信用スコアの算定とそれに基づくサービスとして利活用されていくだろう。信用スコアに関する事業としては、ソフトバンクとみずほ銀行の合弁会社であるJ.scoreを端緒とし、すでにドコモも参入を公表している。

しかし現状の日本では、行政や企業が個人の信用情報を個別に保有しており、今年5月に改定された個人情報保護法の範疇では、匿名データにマスキングした形でしか、個人データの受け渡しや企業間の利活用はできない状況だ。今後、信用情報の利活用領域に対して、日本でもさらなる法整備を実施していくことが想定されるが、中国型、欧州型のどちらの発想になるかにより、サービスや受け入れられ方に大きな差異が生じることは間違いない。