新機能タイムフリーは通過点、まだ成長するラジオの最終形態とは

新機能タイムフリーは通過点、まだ成長するラジオの最終形態とは

2016.10.11

いよいよ本日、インターネットでラジオが聴ける「ラジコ」がタイムフリー聴取に対応した。過去1週間分の番組を後から聴けるようになったことで、ラジオ聴取環境は激変したといえるが、ラジコを考案した関西大学の三浦文夫教授によれば、ラジオの進化にとって今回の動きは「フェーズ3まであるとすれば、やっとフェーズ1が終わったくらい」(以下、発言は三浦教授)の段階なのだという。ラジオは今後、どんなメディアになっていくのだろうか。三浦教授への取材をもとに展望する。

3フェーズで展望するラジオの将来

ラジコを考案し、権利者から許諾を得たりシステムを設計したりと実用化に奔走した関西大学社会学部の三浦文夫教授。音楽や映画など、様々な文化とラジオを通じて出会ったと語る三浦教授は、ラジコを進化させることで、「ラジオを新しいメディアとして再規定」しようとしている

ラジコはPCやスマートフォンを通じ、ラジオ番組をネット経由で聴けるサービス。原型が登場したのは、1995年に大阪で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)だ。このAPECでは複数の会場をネット回線で結び、様々なアプリケーションを実際に動かしていたのだが、その中にラジオ放送も含まれていた。ネットを使って何をするかについては、産学から集まったメンバーが合宿を行って議論したという。当時、電通に在籍していた三浦教授は、このグループにコンテンツサイドの責任者として参加していた。

大阪での先行実験を経て、2010年に本格的なサービスを開始したラジコ。今では月間ユニークユーザー数が約1,200万人に達する規模に成長している。ラジコはこれまで、放送中のラジオ番組をネットで流す同時(サイマル)配信だったが、タイムフリー聴取に対応したことで、これからは過去1週間分の番組をさかのぼって聴くことが可能になる。番組をSNS経由で知人と共有できる「シェアラジオ」の機能も実装されたことから、今後は若年層を含めたユーザー数の増加に期待できそうだ。

三浦教授は便宜上、ラジコの始まりから将来の展望までを3つのフェーズに分けて説明してくれた。フェーズ1はサイマル放送の確立で、フェーズ2はタイムフリー・シェアラジオの実装。フェーズ3はラジコがさまざまなものと連携する“ラジオのプラットフォーム化”だ。この分け方でいくと、タイムフリー聴取が実証実験として始まった現段階は、フェーズ1が完了し、フェーズ2が緒に就いたところと捉えることができる。まず、フェーズ2でラジオが目指すのはどんな姿だろうか。

フェーズ2で改めて問うラジオの価値

ラジオがネットという新たな伝送路(ラジコのこと)を整備したことで、リスナーの減少に歯止めをかけ、一部ではあるが若年層の新たなリスナーを獲得したのがフェーズ1の成果。フェーズ2はリスナーのみならず、放送局や広告主を含む多くの関係者にとってもラジオの価値を再認識する契機となりそうだ。

タイムフリー聴取対応前のPC版ラジコ。ラジオ本放送との同時配信だったので、選べるのは放送されている番組だけだった

リスナーにとってみれば、タイムフリー聴取でラジオの聴きやすさは大幅に向上する。時間が合わなくて聴けなかった番組でも、これからは移動時間などを利用して好きな時に聴くことができるからだ。タイムフリーであれば、ネットなどで話題となった番組を後から聴くことができるため、ラジオに馴染みのない人がリスナーになる機会も増えると見られる。ラジコは広告を含めてラジオ番組をそのまま放送しているので、広告主にしてみても、自社のCMがより多くのリスナーに届くのは利点といえるだろう。

シェアラジオは新規リスナー、とりわけ若年層にリーチするうえで効果がありそうな機能だ。今は少数派と思われる若いラジオファンにしてみれば、自分の好きな番組を、SNSで友人とシェアできるのは面白い仕組みに映るだろう。「若い人にとって(ラジオが)身近なものになる」というのが三浦教授の見立てだ。ラジコであればPCやスマホの画面も活用できるので、例えば番組をシェアする際に、好みの画像を添付できるような仕組みも検討中だという。

独自の番組制作がますます重要な時代に

ラジコは現在地の放送しか基本的には聴けないが、月額350円(税別)で「ラジコプレミアム」に加入すれば全国の放送をエリアフリーで聴くことが可能になる。エリアフリーとタイムフリーが組み合わさることで、ラジオ放送局が番組制作の力を発揮する余地は大いに拡大すると三浦教授は語る。

ラジオが後から聴ける今、「例えばデスメタルしか流れないような」コアな番組を、一般的にラジオを聴く人が少なくなる深夜から朝方にかけての時間帯に放送することも真剣に検討すべきアイデアだ。それが地方局で放送されていたとしても、エリアフリーであればリスナーの住んでいる地域は関係ない。「思いっきり振れている番組」を制作することで、固有ファンを獲得できるチャンスが全国の放送局に訪れたのだ。ラジコでは無料アカウント登録の導入も検討中とのこと。アカウントを作ることができれば、リスナーは自分の好きな番組を集めた「プレイリスト」をラジコ上に作成することが可能になる。

タイムフリー化により広告費が増えれば、放送局は今よりも多くの資金を番組制作に投入するようになるはずだ。この資金は既存番組のブラッシュアップにも使えるし、とがった新番組の制作にも使えるだろう。番組が面白くなればリスナーが増えて、ラジオの広告媒体としての価値は更に向上する。ラジコのタイムフリー対応をきっかけに、ラジオ業界が上昇スパイラルに突入するイメージが描けるわけだ。

ラジオ番組の面白さが求心力となり、多くのリスナーが集まるようになれば、今度はラジコが外に向かって広がるフェーズ3が始まる。ラジオのプラットフォーム化とは、どのような将来像なのだろうか。

ラジオのプラットフォーム化、位置情報の活用も重要に

ラジコは現時点でも多くのラジオ局が参加するプラットフォームと捉えることが可能だが、三浦教授がフェーズ3で思い描いているのは、ラジオを核として、音楽、スポーツ、地域社会といったさまざまなものがラジコと連携する姿だ。

例えば音楽であれば、ラジコで流れている楽曲について、アーティスト情報を知らせたり、ダウンロードサイトへのリンクを貼ったりする感じがイメージしやすい。ラジオは元来、リスナーが新しい音楽に出会う場所としての機能を持っていたメディアだ。フェーズ2で沢山のリスナーがラジコに集まれば、ラジオで未知の音楽に出会い、音源を購入したり、ライブに足を運んだりする人が増える可能性も出てくるだろう。

ラジコが外部との連携を図るとき、キーになる要素の1つが位置情報だ。ラジコは起動している人の現在位置に合わせたラジオ番組を配信しているため、当然ながらPCやスマホの位置情報を把握している。この位置情報がラジオのプラットフォーム化に役立つ。

例えばサッカーの観戦に出かけたとき、ラジコに「スポーツモード」のような機能があれば、サッカーの音声中継に加えて、選手の情報などをラジコ経由で配信することが可能だと三浦教授は語る。位置情報がつかめているので、そのサッカー場にいるラジコ保有者にだけ選手情報を流すことができるのだ。例えばライブ会場であれば、アーティストの情報やライブのセットリストをラジコに送ることも可能だろう。

タイムフリー対応後のラジコ(画像はPC版)では、番組表を見て過去1週間分の放送から聴きたい番組を選べるほか、番組名や出演者などのキーワード、日付、地域などから過去番組を探せる機能も使用可能だ

外部との連携で広がるラジオ経済圏

三浦教授は位置情報とラジコの広告を組み合わせる方法についても考えを巡らせている。例えば位置情報を活用し、ある地点を通過する人にだけ、ラジコ経由でクーポンを配るといった使い方だ。ラジオでは地域に根ざした広告をよく耳にするが、ラジコならば更にきめ細かく、リスナー各人(の位置情報)に合わせた広告を流すことができそうだ。

ラジコがどういった分野と、どの程度の連携を行うかについてはさまざまなアイデアが浮上している様子。ラジコが発信する情報がユーザーの購買行動に繋がったり、ラジコ発のイベントに人が集まったりすれば、そこから新しいビジネスモデルが生まれてくる可能性がある。ラジオ広告費が減少基調にあったのは間違いないが、これからは広告費と周辺ビジネスを足し合わせた“ラジオ経済圏”の規模を見ていく必要がありそうだ。

周辺ビジネスを含めた商圏の広がりに可能性

ラジオ広告費は近年、最盛期の半分程度となる1,200億円台で推移している。これを従来型の手法、つまりは放送局が手売りでラジオCMを獲得する方法で盛り返すのが難しいというのは、ラジオ関連の取材を進めている時によく耳にした話だ。しかし、ラジコ独自の広告枠が整い、プラットフォームとしてのラジコに連携する周辺ビジネスのマネタイズが上手くいくようになれば、ラジオが以前の勢いを取り戻すどころか、3,000億円を超えるビジネスに成長するのも夢ではないというのが三浦教授の見立てだ。

ただし、三浦教授が考えるラジコは、誰でも参加できるプラットフォームではない。ラジコはネットラジオなので、聞き手の属性を把握して広告を打つことも可能だが、広告ならば何でもアリというわけにはいかないというのが三浦教授の考え方だ。ラジオが長年の放送実績で培ってきた信頼感や、これまでに構築してきたリスナーとのつながり。更には災害時の緊急情報などを放送する社会インフラとしての側面などを考えると、ラジオが信頼性を重要視するのは当然の話だ。

ラジオの信頼性を背景とするラジオCMには、企業のブランディングに役立つ部分がある。一方でネット広告は、リスナーの属性に合わせた効果的な情報発信が可能だ。両者の良い所を上手くチューニングし、ハイブリッドな仕組みを確立する必要があると三浦教授は指摘する。それは広告に限った話ではなく、プラットフォームとして連携相手を選ぶ際にもラジコは信頼性を重視する。これはラジコに参画する側にとって参入障壁ともいえる側面だが、ラジコのユーザーにとっては安心感につながる要素でもある。

10月11日の昼前にタイムフリー聴取に対応したPC版ラジコを早速チェック。確かに前日放送分の深夜番組を聴くことができた。「シェア」ボタンを押すと、facebookおよびtwitterで番組を共有したり、URLをコピーしたりするという機能が立ち上がる。「通知を予約」ではカレンダーアプリに放送予定を追加できるようだ

ラジオを核に拡張し続けられるか

ラジコがフェーズ3へと進むことで、ラジオを中心とするエコシステムは相当な広がりをみせる可能性がある。しかし、求心力となるラジオ放送は信頼性を担保するので、誰もが参加できる仕組みとはならない。このような在り方を三浦教授は「里山のようなプラットフォーム」と表現する。さまざまなプレイヤーに開かれた、多様性のあるプラットフォームでありつつも、里山のように人の手(参加者を選ぶラジオ放送の目)が加わることによって、「美しさ」が保たれるメディアをラジコは目指していく。

三浦教授がラジコを作ったときに大事にしたのは拡張可能性だ。実際にタイムフリーに対応したり、プラットフォーム化を目指したりできるのも、ラジコに拡張の余地があったからだということができる。このままラジコが拡張を続けていけば、放送とネットが融合した、独特のプラットフォームとして存在感を発揮することも夢ではないだろう。

PayPayが100億円「本日終了」の怪文章で停止? 現在は復旧も大騒動に

PayPayが100億円「本日終了」の怪文章で停止? 現在は復旧も大騒動に

2018.12.13

12月13日夕方、PayPayが全面的に利用できない状態に

100億円キャンペーン終了の噂が原因? Twitterに怪文章

緊急メンテナンスにより復旧したが、今後の心配は?

ソフトバンクとヤフーが展開するスマホ決済サービス「PayPay」。総額100億円のキャッシュバックキャンペーンが話題となり、PayPay狂想曲とも言える状況となっているが、12月13日の夕方頃より、一時的に全機能が利用できない状態に陥った。

PayPayが緊急メンテナンスに入り、13日18時5分~19時26分頃まで利用できなかった。記事を掲載した13日20時現在、PayPayは利用可能になっている

PayPayはこの不具合について、利用者が殺到したことにより、サービスを利用しづらい状況となったため、13日18時頃から~19時30分頃まで、全機能を停止して緊急メンテナスを実施したと説明している。広報担当者は、ここまで利用者が殺到した理由について正確に把握しているわけではないが、夕方の時間帯は利用者が多いという傾向も影響したと話している。

なお、ちょうど13日のPayPay不具合の直前、Twitter上では「PayPayの100億円キャンペーンが本日で終了する」という怪文章が出回り、SNSを中心に大きく拡散していた。出回っていたのはコンビニエンスストアの店舗向けに送付された内部資料を撮影したという体裁の画像で、投稿者もコンビニ関係者であることをにおわせていた。真偽は不明ながら13日の23時59分をもって、キャッシュバック原資が尽きることからキャンペーンを終了するといった内容だ。

Twitterで出回った問題の投稿文章。投稿は既に消去されているが、「13日でキャンペーンが終了する」「13日22時まで極秘」などと記載されている。PayPay側は「弊社が公開したものではない」と説明 (宛名部分には編集部でぼかしを入れています)

PayPay側はこの怪文章と利用者が殺到したことの因果関係について判断しかねるとし、また内容についても「弊社が公表したものではない」と話している。

同キャンペーンは2019年3月31日までの期間限定であるが、期間内であっても利用者へのキャッシュバック総額が100億円に到達した場合は終了するとされている。PayPay側は今回の騒動のなかで改めて、期間内の終了がある場合、「事前にホームページ上で告知した上で終了する」と説明している。

追記: 12月13日22:00、PayPayは、"100億円キャンペーン"の還元額が上限に達したため、同日23:59にキャンペーンを終了するとWebサイト上で告知した。同時刻に配信されたプレスリリースによれば、「今後も新たなキャンペーンの実施を予定している」とのこと。

かつての腕白少年も今やベテランの風格…ホンダが新型「インサイト」を発売

かつての腕白少年も今やベテランの風格…ホンダが新型「インサイト」を発売

2018.12.13

ホンダが3世代目となるハイブリッド車「インサイト」を発売へ

やんちゃな男の子が社会人に? 「インサイト」のデザイン史

ホンダらしさを感じるパッケージングのうまさ

ホンダは2018年12月14日に新型「インサイト」を発売する。初代インサイトは後輪の上半分を覆い隠す「ホイールスカート」など、主張の強い近未来的なデザインが目を引いたが、3世代目となる新型は一転してオーソドックスなカタチとなった。今回は、そんなインサイトのデザイン史を振り返ってみたい。

2018年12月14日に発売となる新型「インサイト」。グレード別の価格は「LX」が326万1,600円、「EX」が349万9,200円、「EX BLACK STYLE」が362万8,800円。燃費はJC08モードでLXが1リッターあたり34.2キロ、EXが同31.4キロだ

まるで“やんちゃな10代”のように自己主張した初代

1999年にハイブリッド専用車としてデビューしたホンダ「インサイト」は、コンサバティブなノッチバック(※)セダンとして誕生したトヨタ自動車「プリウス」とは正反対ともいえる近未来的なスタイリングだった。そのインサイトも、時代を経るに従い徐々に落ち着いたデザインとなっていったのだが、その様子はまるで、やんちゃだった男の子が、だんだんとまともな社会人になっていく過程のようだった。

※編集部注:ノッチバックとは、エンジンルーム、客室、トランクルームが独立していて、横から見ると凸型になるオーソドックスなクルマのカタチのこと

世界初のハイブリッド車として1997年にデビューしたトヨタのプリウスは、トランクリッドのあるノッチバックの4ドアセダンスタイルだった。今はかなり先進的で挑戦的なスタイリングのプリウスだが、初代はコンサバティブそのもの。言葉は悪いが、まるで“華のない”見た目だったのだ。少年漫画に出てくる学級委員をクルマにしたら、きっとこんな感じだろうなあ……という雰囲気だったといえば伝わるだろうか。

優等生然とした初代「プリウス」(画像提供:トヨタ自動車)

対して、1999年にデビューしたインサイトは、プリウスとはまるで逆方向のスタイリングを採用していた。3ドアのハッチバックで、乗車定員は2人。とにかく、効率を追求し尽くす考え方で、ものすごく挑戦的な姿となっていたのだった。

やんちゃな男の子然とした初代「インサイト」(画像提供:本田技研工業)

初代インサイトのボディデザインは、徹底して空気抵抗を減らす方向で行われている。その象徴となっているのが、リヤフェンダーに取り付けられた「ホイールスカート」と呼ばれるカバーだ。ホイールの露出を避けて空気の流れを綺麗にする手法は、競技用ソーラーカーなどではよく見かけるものだが、市販車ではまれな採用例となった。さらに、ホイールもディッシュタイプで空力重視、リヤウインドウは3次元形状となっているなど、隅々まで空力デザインが徹底されていた。

アルミと樹脂を多用したボディも特徴的だ。もちろん、これは軽量化が目的だった。ホンダはすでに「NSX」でアルミボディのノウハウを得ていたから、そのテクノロジーを流用したのだ。NSXがアルミの板材を多用したのに対し、インサイトではアルミ押し出し材の採用比率を上げている。アルミ押し出し材を使ってフレーム構造を成立させ、そこにアルミ板材や樹脂パネルを組み合わせることで、軽量なボディを作り上げた。

風洞実験中の初代「インサイト」。徹底して空気抵抗を減らすボディデザインで、後輪の上半分を覆う「ホイールスカート」が特徴的だ(画像提供:本田技研工業)

もちろん、エンジンやモーター、内装品などでもホンダは効率を追求した。搭載したのは1リットル3気筒のエンジンだ。結果として、燃費は当時のガソリン自動車として世界最高となる35.0km/L(10・15モード)を達成。「燃費」という一点に対する徹底したこだわりは、思春期の少年少女が譲れないものを持って突っ張る姿のようだった。

ホンダは2006年にインサイトの生産を終了した。インサイトがラインアップから消えたとき、多くの人は「このクルマはホンダの実験だったのだ」と感じ、再び世の中に登場することはないと思ったはずだ。しかし、その予想は裏切られる。

2代目「インサイト」は“リクルートスーツの新入社員”?

ホンダは2009年に2代目のインサイトを発表する。しかし、そのクルマは初代インサイトとは似ても似つかぬ、ごくごく普通の格好をしていた。初代が2人乗りの3ドアハッチバックだったのに対し、2代目は5ドアハッチバックスタイルで登場したのだ。リヤホイールの「スカート」もなくなっていた。

初代に比べれば“ごくごく普通”のデザインとなっていた2代目「インサイト」

これは完全にトヨタのプリウスを意識したモデルであり、「インサイト」という名前だけを引き継いだモデルにも見えたのだが、一方、その中身はと言えば、やはりインサイトそのものだった。かつては自己主張が強く、突っ張っていた若者が、就職試験のためにリクルートスーツを着て就職活動を実施し、無事に企業に入社して新入社員になった。そんな姿だったのが2代目インサイトだと言えるかもしれない。

2代目インサイトは1.3リットルの4気筒エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドモデルとして登場。インサイトがハイブリッド専用車であるという基本的な部分は変わっていなかったのだ。しかし、非常に興味深いことが起きる。それは、発表から3年後となる2011年のこと。なんと、ホンダはインサイトに1.5リットルモデルを追加したのだ。

ハイブリッド車はエンジン+モーターという複雑な構造をもつため、2種類のエンジンを持つことは非常にまれなケースだ。しかし、インサイトはそれを行った。実は、この出来事の裏には「CR-Z」というクルマの存在がある。2010年に登場したCR-Zは、インサイトよりも高い出力を得るため、1.5リットルのエンジンを積んでいた。ホンダはCR-Zのシステムを使い、インサイトに1.5リットルモデルの「エクスクルーシブ」を追加した。

1.5リットルのエンジンを積んだハイブリッド車「CR-Z」(画像提供:本田技研工業)

普通の新入社員だったインサイトは、1.5リットルエンジンを手に入れたことで、「燃費重視」と「走り」という2つの顔を持つ存在となった。

しかし、2009年から2014年まで生産された2代目インサイトは、またも姿を消す。まるで突然の退職、そして失踪といったような感じだ。さすがに、2度も生産が止まったクルマが再び登場するとは誰も思っていなかったのだが、それは現実となった。

新型「インサイト」から感じる“ベテラン社員”の落ち着き

3ドアハッチバックの突っ張ったスタイルで誕生したインサイトは、2代目で5ドアスタイルを取り入れ、普通のクルマに近づいた。そして、3代目となる今回の新型では、ついにノッチバックセダンという“真面目な”デザインを採用した。新入社員のようだった2代目インサイトからみると、まるでベテランの領域。たぶん、身を潜めている間に考え方が大きく変わったのだろう。

真面目なノッチバックセダンとして登場した新型「インサイト」

初代インサイトが登場したとき、ハイブリッドというのはとても珍しいクルマだった。しかし、それが今や、ハイブリッドは当たり前の時代になった。「ハイブリッドでるあること」を強調するために突っ張っていたインサイトだが、今の時代にハイブリッドであることを際立たせても意味がない。とはいえ、3代目となる新型インサイトの落ち着きぶりには、かなり驚いたというのが本音だ。

「インサイト」は3世代目でかなり落ち着いたという印象だ(画像提供:本田技研工業)

新型インサイトのプレスインフォメーションの冒頭には、「燃費世界一への挑戦から生まれたインサイトは、魅力世界一のミドルセダンへと進化する」と書いてある。

この言葉が、新型インサイトの全てを物語っていると言えるだろう。新型インサイトのボディサイズは全長4,675mm、全幅1,820mm、全高1,410mm。ちょうど「アコード」と「シビック」の中間に位置するサイズだ。価格帯も326万~362万円(税込み)とまさにアコードとシビックの間に入る。また、アコードにはハイブリッドがあるが、今のシビックにはハイブリッドが存在しないので、新型インサイトは「シビック ハイブリッド」の役目も果たしていると言える。

ホンダ「アコード」(画像提供:本田技研工業)
ホンダ「シビック セダン」(画像提供:本田技研工業)

新型インサイトでなんといっても感心させられるのは、そのパッケージングだ。ハイブリッドはエンジン車にモーターやバッテリーを追加しなくてはならないので、増える部品をクルマの中に収めるのが難しい。にも関わらずホンダは、室内やトランクルームを圧迫することなく、新型インサイトのパッケージングを成立させている。

パッケージングのうまさが感じられる新型「インサイト」(画像提供:本田技研工業)

当時は珍しかったハイブリッドを使いながら、従来同様の機能性を実現したのが初代インサイトだった。その誕生はかなり衝撃的なもので、世の中にインパクトを与えた。今や、見た目は普通のクルマになったインサイトだが、その中身が、初代同様に挑戦的なものであることには変わりない。目立たないながらもホンダらしさにあふれたクルマ、それがインサイトなのだ。