生産中止の余波は? 「Galaxy Note7」が残したもの

生産中止の余波は? 「Galaxy Note7」が残したもの

2016.10.15

サムスン電子の「Galaxy Note7」は、Androidスマートフォンのフラッグシップモデルだ。しかし、サムスンは10月11日に、GALAXY Note 7の生産と販売の中止を決め、ファブレットの代表格となるべく登場した製品は、その役割を果たすことなく、大きな負債だけを残すこととなった。

経緯を振り返る

少し経緯を振り返っておこう。Galaxy Note7は米国等で8月19日に発売された。韓国では2日で20万台以上の予約が入り、結果的に250万台の販売を達成していたと見られる。非常に高い需要から、Galaxy Note7は生産が追いつかないほどの好調さを見せた。

Galaxy Note7

そうした中、8月下旬から9月上旬にかけて、Galaxy Note7の発火問題がユーザーから報告されるようになった。これに対して、サムスンは9月2日、製品の販売を中止し、すでに販売された製品の交換に応じる対応を発表した。サムスンは発火の原因を明らかにはしていないが、「バッテリーセルの問題」として、サムスン子会社から、中国のアンペレックス・テクノロジー・リミテッドへと切り替えた。このメーカーはTDKが買収し子会社としており、iPhoneシリーズへのバッテリー供給も行なっている。

9月8日、米国連邦航空局は、Galaxy Note7について、航空機内で電源を入れたり、充電しないよう求めた。Galaxy Note7が米国消費者製品安全委員会で正式にリコールとなったのは9月15日になってからだ。

以降、バッテリー改善品への交換が進んでいたが、2016年10月に入り、交換済みのGalaxy Note7の発火が報告されるようになる。特に重大に受け止められたのは、サウスウェスト航空機内で交換済みのGalaxy Note7が発火したことだった。

米国内では10月10日までに、AT&T、T-Mobile、スプリント、ベライゾン、U.S. Cellularの5大キャリアは、原因が究明されるまでの間、GALAXY Note 7の販売を中止し、サムスンからも正式に、全世界の通信会社や小売店での販売と交換対応の停止を発表した。そして、10月11日にサムスンは顧客の安全確保を理由に、Galaxy Note7の生産を取りやめた。

根本的な原因究明を待つべきだった

サムスンはリコールがかかった際、バッテリーを切り替えて、交換と販売再開を行なった。発火の原因がバッテリーの不良であると判断したと見られるが、実際はそうではなかった。

当初、サムスンは、報告件数が販売総数の0.1%以下に過ぎず、製造上の軽微なエラーとコメントしている。これは明らかに問題を小さく見積もりすぎていた。

Galaxy Note7の販売状況は非常に好調で、iPhone 7よりも先にリリースでき、年初来のGalaxy S7の好調さを引き継ぐことに成功したこともあり、サムスンとしてはこの勢いに水を差したくなかったのかもしれない。そのため、再販売を急いだように映る。

年初来、販売好調のGalaxy S7

一方で、バッテリーの供給元の変更という対応は、改善後の製品からの発火も相次いだことから、結果として完全に「間違った対策」であった。初めのリコールの際に、根本的な原因を突き止めるしっかりとした時間を確保し、万全を尽くしてから再販売することが、顧客の安全を考える企業やブランドとしての姿勢であるはずだった。

なぜ発火したか

Galaxy Note7の発火は、いくつかのビデオを見る限りは、リチウムイオン電池のショートなどが原因ではないか、と推測できる。

ブルームバーグでは、サムスンが韓国当局に対してまとめた初期のレポートを紹介しており、バッテリーセルの中の鉄板が、外部からの圧力で、プラス極とマイナス極をショートさせているとしている

この説明は、電源のオン・オフや充電に関係ないため、電源をオフにしていた改善品がサウスウェスト航空機内で発火したことも説明がつく。そして、バッテリーセルを交換しても発火したことから、デバイスの設計上の問題であることを示唆する。

リチウムイオン電池は、非常に多くの容量を小さなセルに保てるモバイルデバイスの発展には欠かせない電池の技術だ。多くのエネルギーがショートして一気に流れれば、発火を伴う発熱につながる、非常にセンシティブな存在だ。

今日、スマートフォンはより長いバッテリー持続時間が求められており、その最も有効な策は、省電力性の向上と、より多くのバッテリーを搭載することだ。画面サイズとバッテリー容量が、スマートフォンのサイズと重量を決めていると言っても過言ではない。

スマートフォンなどのデバイスを分解し、修理のしやすさを評価するiFixitは、GALAXY Note 7の分解レポートを行っている。これによると、GALAXY Note 7には、3500mAhのバッテリーが搭載され、USB3.0による急速充電や、ワイヤレス充電をサポートしている。

レポートでは、バッテリー回りの配線は複雑で一般的なものではなかったとしている。また、バッテリーはユーザーによる交換が不可能なものとなっていた。

グーグルにとっても痛手に

サムスンにとって、フラッグシップのスマートフォンから得られる収益をまるまる失ってしまったことは、非常に大きな損失だ。

ロイターは、リコールによる初期の損失の50億ドルに加えて、機会損失による170億ドルの収益を失うと試算している。加えて、サムスン、そしてGalaxyのハイエンドスマートフォンとしてのブランドの毀損は、今後のサムスンのビジネスをゆがめていくことになる。

Galaxy Note7は、Androidスマートフォンの中でも、ハイエンドに位置するデバイスであり、発火事件が起きる前の評価は非常に高かった。今回の件はAndroid陣営を率いるグーグルにとっても、最も優れた体験を提供する手段を失ったことになる。

グーグルは10月4日にサンフランシスコでイベントを開き、「Made by Google」ブランドのデバイス群を披露した。目玉は、5インチ、5.5インチのスマートフォン、PixelとPixel XLであった。Nexusは製造メーカーをフィーチャーしてきたが、Pixelは、グーグルブランドで送り出されるハイエンドスマートフォンとして、新たなブランドの立ち上げとなった。

「Made by Google」ブランドのPixel

これはグーグルが、OSプラットホームの提供だけでなく、エンドユーザーの体験をデザインすることに取り組む姿勢を表すものであり、Android最高の体験を他社に任せず自ら行う意志と受け取っている。Galaxy Note7の販売停止は、グーグルにとっては当然頭の痛い問題ではあるが、一方でPixelの存在感と、グーグルによる体験作りへの関与という意義を高めることになるだろう。

アップルほかスマホ市場への影響は?

長らく、サムスンのGALAXY Sシリーズと、あらゆる点でライバル関係にあったのは、アップルのiPhoneだ。ここ最近、法廷では、サムスンによるデザインの模倣が認定されるなど、アップルに有利な展開が続いている。

Galaxy Note7の欠落が、Andoridが85%を占めるスマートフォン市場の構造に直ちに影響を与えるとは思えないが、アップルのライバルが、サムスンからレノボやシャオミなどの中国メーカーへ移行する速度は速まっていく。そのため、短期的には、ハイエンドスマートフォンブランドのライバル不在状態が、iPhoneのセールスに貢献するように見える。

しかし、649ドルからの高級スマートフォンの主な市場である先進国市場では、AndroidからiOSへとスイッチするユーザーは多くて15%に留まっており、前述の通り、スマホ市場の構造を変えることはないだろう。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu