赤ちゃん・子ども用品に特化 - 学生起業家が日本の伝統産業を救う

赤ちゃん・子ども用品に特化 - 学生起業家が日本の伝統産業を救う

昔ながらのビジネスモデルや、廃れつつあるモノやコト……。少しだけ手を加えて“リブート”させると、それが途端、斬新なビジネスに生まれ変わることがあります。そこには多くのビジネスマンにとってのヒントがある、かも。そうしたビジネスモデルにスポットを当て「リブート! “再起業”の瞬間」としてシリーズでお届けします。第3回目は、日本の伝統を次世代につなぐ「和える」の登場です。

赤ちゃん・子ども用に特化した日本の伝統産業品

「和える」創業者の矢島里佳さん。1988年東京都目黒区生まれ。慶應義塾大学に通いながら、日本の伝統産業の若手職人にスポットを当てた連載を雑誌に寄稿しはじめる。それをきっかけに2011年3月、大学4年生のときに株式会社和えるを設立する

色鮮やかな漆塗りのコップ。手に持つと、段差が自然と指にフィットして、吸い付くように馴染む。ただ、大人の手には少し小さいか――。

「ちょうど2歳くらいのお子さんが自然と両手で持ちたくなるサイズになっているんです。取っ手をつけていないのは自然と両手で丁寧に持つ習慣がつけばいいな、という思いから作りました」と、このコップを生みだした「和える」の矢島里佳代表はいう。

「お子さんが成人する頃には、そのままぐい呑みとしてもお使いいただけます。大人になっても愛着を持ってお使いいただける、一生モノのコップなんですよ」(矢島さん)。

「和える」は、日本の伝統産業の技術を生かし、現代にマッチした新たな付加価値を提案している新進メーカーだ。似たコンセプトの企業はいくつかあるが、同社がそれらと一線を画す特徴は「0~6歳向け」に絞って商品展開していること。

人気商品のひとつ「青森県から 津軽塗りの こぼしにくいコップ」。青森の伝統的な漆塗りの技法である「唐塗り」や「七々子塗り」を用いて、完成まで約2カ月半かけて丁寧に製造される

前出の漆塗りコップは青森の津軽塗りという伝統産業の技術を生かして、しっかりと子ども用に機能とデザインを工夫してある。産着や前掛け、器などもすべて「本藍染」「波佐見焼」「江戸更紗」といった各地で古くから受け継がれている伝統産業の技術を使っているが、乳幼児が使いやすいような機能とデザインが採用されているというわけだ。

販路はオンラインショップと百貨店、そして目黒と京都にある直営の実店舗だ。商品はどれも手仕事で、何十工程も経て仕上げられる。そのため、例えば前出の「青森県から 津軽塗りの こぼしにくいコップ」などは1個1万4000円~だが、ひとつのものができあがるまでの時間や“一生モノ”であることを考えれば決して高くはない。

子どもには可能な限り丁寧に作られた本物に触れてほしい――。そう考える親は多いもの。「和える」の伝統産業の技術を生かしながらも現代の生活にマッチした商品は、まさにそんな人たちの支持を受け、売上を伸ばしているというわけだ。

「丁寧な暮らしに目を向けてくださる方が増えるのはとてもうれしいことです。そのような方々の暮らしに“aeru”のものたちが寄り添うことができればと思っています」(矢島さん)。

もっとも、矢島さんは、いわゆるマーケティング的に「0~6歳向け」とターゲットを絞ったわけではないと説明する。

幼少期に触れた「ホンモノ」は忘れない。

“伝統産業×乳幼児向け”商品。そもそも矢島さんがこのアイデアにたどり着いたきっかけは、大学に通いながら取材・寄稿していた自身の雑誌連載だった。

もともと矢島さんは、中学で茶華道部に所属したのをきっかけに、茶器や棗(なつめ)、着物など日本の伝統に関心を持っていた。何せTVチャンピオン2の「なでしこ礼儀作法王選手権」で優勝したほどである。そして日本の文化や伝統に強い興味を抱いた結果、大学時代に自ら企画した「日本の伝統産業の若手職人を取材する」連載を持ち込み、夢を実現させた。

「各地で代々受け継がれてきた伝統を知るのは、とても楽しく学びのある経験でした。ただ、いつも気にかかるお話が聞こえてきました」(矢島さん)。

それが「ものが売れない、後継者がいない」といった声だった。伝統産業が今や衰退して、ジリ貧の状況にあるのを目の当たりにしたのである。

どうすれば、この流れを食い止められるのか――。

たどり着いたのが「伝統産業に出会う機会を生み出すことができればよいのでは」という考えだった。

人気商品のこぼしにくい器。内側に返しがついているため、子どもから大人まで、食べ物をすくいやすくなっている。砥部焼(愛媛)、大谷焼(徳島)、山中漆器(石川)、津軽焼(青森)の4種がある

「子どもの頃に触れたホンモノから得た感動は、大人になっても忘れられないもの。けれども、現代は幼少期に自国の伝統に触れられる機会が少ない。それなら、赤ちゃんや子どもたちにこそ伝統に触れてもらう機会をつくれば、大きくなったときにも『漆器の口当たりって心地いいよね』『木のぬくもりが好き』という感覚を持ち続けていただけるのでは、と考えました。私自身、茶道や華道に触れなければ、伝統の魅力に気づくきっかけがありませんでしたからね」。

そして、矢島さんは「伝統産業の技術を生かして赤ちゃん・子ども向けの商品をつくる」というありそうでなかったビジネスモデルで、学生向けのビジネスコンテストにて優勝。これを機に起業にいたり、それまでの取材で出会った職人さんとのつながりも活用して、唯一無二のブランド『0から6歳の伝統ブランドaeru』を立ち上げ、すでに5年目を迎えた。

矢島さんには、大事にしている“かんどころ“があるという。

それは商品を説明するときに、伝統産業であることをさもありがたがって伝えないことだ。

昨年京都にできた2つめの直営店「aeru gojo」

どこそこの伝統産業でこんな工程を踏んでいます、なんていうことを最初に伝えても、ほとんどの客にとっては意味がない。今は伝統産業がブランドとして伝わっていないのだから、心に響かない。それよりも「この機能とデザインが子どもたちにとってどんな意味があるか」をしっかりと伝えている。

「伝統産業だからという理由や、素敵なデザインだから人気が出るという時代ではなくなってきていると感じています。どんなものでも、しっかりと魅力を伝える努力をしていくことがなければ」(矢島さん)。

社名の「和える」は、先人の智慧と現代を生きる私たちの感性や感覚、それぞれの本質を引き出したうえで、新たな価値を生み出したい、という願いから名づけたものだという。それはとても丁寧だが、手間がかかることだ。

けれども未来につながる、まっとうなものづくりでもある。

(写真提供:株式会社和える)

【連載】リブート! “再起業”の瞬間

【第1回】「頼り合える関係」をネットで復活 -1000人の声で磨いた500円“子育てシェア”
【第2回】日本酒の定期購入サイトSAKELIFEはなぜ伸びる? -「居酒屋チェーンの日本酒を飲んだとき『これチャンスだ』と思った」
【第3回】赤ちゃん・子ども用品に特化 - 学生起業家が日本の伝統産業を救う
NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

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○森口将之のカーデザイン解体新書
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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
https://news.mynavi.jp/series/game_heisei

○岡安学の「eスポーツ観戦記」
https://news.mynavi.jp/series/e-Sports_review

○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
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○阿久津良和のITビジネス超前線
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○モノのデザイン
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○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
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○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu