創業135年のOKIが短期間で女性活躍に舵を切れた理由

創業135年のOKIが短期間で女性活躍に舵を切れた理由

2016.10.24

「女性活躍推進法」が施行され、ますます女性が活躍する社会が期待されている。しかし企業によってその進捗度合いはまちまち。主役となる女性も現場で様々な悩みを抱えている。そこで本連載は、自身も子育てをしながら企あ業に勤めた経験を持ち、現在は「女性のリーダーシップ」育成研修など、企業の女性活躍推進のサポートを行う杉浦里多が、企業が乗り越えてきた課題と、そこで働き続ける女性社員の生の声を通じてビジネスの現場で起こり得る課題を提示、解決のヒントを提示する。今回が2回目となる。

・第一回「P&Gの経営戦略に女性活躍が必要だった理由はこちら

著者が相談を受ける企業の中には、社会の流れに乗って「ダイバーシティ室」は作ったが、上層部が本気で考えておらず丸投げされている、と嘆く担当者も少なくない。そんな中、沖電気工業はトップダウンで力強く改革を進めている企業の1つだ。

「働き続けやすい」と「活躍しやすい」は別

日本の大企業は手厚く、働き続けやすい。だから、中にいる社員は男女問わず、「特に問題がないのではないか、今までのままで良いのではないか」、と思ってしまいがちで、なかなか意識改革が進まない・・・と頭を抱える企業も多い。

135年の歴史を誇る沖電気工業(以下、OKI)は、日本で最初に電話機を作った通信機器のメーカーだ。模範的な大企業らしく、早くから両立支援制度を充実させてきた(時短勤務、産休育休、在宅勤務、子育てや介護のための目的別休暇など)。平均勤続年数は男性が20.5年、女性が20.4年とほぼ同じ。育児休暇取得率は100%、育児休暇復帰率98%という驚異的な数字になっている。

【【OKIの女性活躍の歩み】

(女性活躍取り組みスタート)2013年10月
人事部内に専任組織「ダイバーシティ 推進チーム」を設置

(トップダウンからの発信)2014年
社長による女性活躍推進宣言
部門ごとに幹部への説明会、女性向けキャリアセミナーの実施

(幹部の意識統一のための改革)2015年
全幹部社員向け「ダイバーシティ・マネジメントセミナー」の実施
女性活躍推進法で2020年までに女性幹部社員比率を現在の2倍(2%から4%)に設定

「男性も女性も、働きやすいと言い、業績も悪くはない。なぜ変わる必要があるのか。」 OKIが女性活躍推進に本格的に取り組み始めたのは、2013年10月。中期経営計画の人材強化策に「女性活躍推進」を掲げ、人事部内に専任組織「ダイバーシティ推進チーム」を設置した。

「早くから両立支援制度の充実など『働き続けやすいしくみ』は整えてきましたが、幹部社員まで昇進する女性は少なかった。『活躍できるしくみ』が充分ではなかったということです。」(ダイバーシティ推進チームの川井茂子さん)。

社会環境の変化に対応し、持続的に発展し続けていくためには、多様な人材がそれぞれの能力を最大限発揮することが不可欠と考えてはいたものの、現在の同社は、正社員の女性比率は9.8%、女性幹部社員比率2.4%にとどまっている。

OKIは、2020年までに女性幹部社員比率を4%へ倍増する目標を掲げる。今まさに「活躍」に舵を切ったところだ。

菅野恵美子さん

数少ない女性幹部社員はどのようにして誕生したか

そんな中“女性幹部社員”として活躍するのが、金融ソリューション事業部営業店ソリューション開発部で、担当部長を務める菅野恵美子さんだ。3人の子どもの母でもある彼女は「菅野ママ」の愛称で社内でも取引先でも親しまれている。

87年に入社し、文系出身だがSEとして働いてきた菅野さん。男女雇用機会均等法第一世代である彼女が同社を選んだ理由は、以前から女性社員の採用歴があり、産育休などの制度の整備や活用の実績がある同社は、女性にとって働きやすい職場ではないかと魅力的に映ったからだ。実際、これまで女性だから働きづらい、と感じたことは全くなく、「気持ちよく働き続けてきた」と語る。

子育ての経験がキャリアにも。「我慢強くなった点で生きているのかも」と笑う。「部下に対してキツイ言い方をしてしまう、我慢の足りない人だったので」。

現在、100人体制のシステム開発プロジェクトを率いる彼女のマネジメント手法は、一人一人を見つめて、特性を見て、任せる。「見つめて(見守って)」という表現に、彼女のママの目を感じる。

「一人で出来ることは限界がある」「皆で支え合っていくもの」とチーム力を大切にする。

「子供も言うことは聞かない、別の生き物だから。始めは全部自分でやろうとして辛い思いもしたけれど、自分を責めるより、上手くやるには?と考え方を変えた。」と子育てとマネジメントを重ねる。

30代で結婚、2児を出産し半年ほどの育児休暇をとった。職場復帰後も育児を両立するため、時短勤務を希望し、職務も主に後方支援を担当する役割に変更した。

出世意欲があるタイプではなく、目の前にある仕事をきちんと自分の力を活かして会社に貢献できればいい、という考えだったので、裏方の仕事も「質のいい仕事をして、私に聞いてくれれば大丈夫という風になりたい」と前向きに取り組んだ。

手を挙げることの大切さ

彼女のキャリアの転機は、2人目の育児復帰から1年後。変化のきっかけは、目の前に現れた新しいプロジェクトだった。その内容を知った際「私がやりたい」と思い立候補した。 すごく魅力的で「やりたい」と、初めて自分の中に起こった“仕事への欲”に突き動かされたのだという。

「正直、残業ができない状況や、能力的にも『任せて大丈夫か』とみられたとも思う。しかし、仕事はみんなで支えあって進めていくものだとの考えを自分自身で持っていたし、上司も『できないことは助けてやろう』という気概をもって任せてくれたのだと思う」。“言いやすい雰囲気”と“やりたいことをやらせる”社風が、彼女のキャリアをかえるきっかけを作った。

幹部に抜擢! もっと仕事が面白くなる。

自身が中心になって仕事を回す、という前線に戻ると、「やはりこの働き方楽しい。」と仕事の中身に欲が出た菅野さん。1年ほどして第3子を妊娠・出産したが、「仕事が面白くて、自分がやりたくて」、今度は2カ月で復帰した。しばらくは時短勤務で後方支援業務をおこなったが、第3子が、2~3歳のころ、新しいシステム開発のプロジェクトに声をかけられ、プロジェクトマネージャーとして再度、前線に復帰した。

以降、課長、担当部長に昇格。「仕事の内容への欲はあったが、管理職への欲はなかった」という彼女だったが、昇進への打診があったとき、「取引先が金融機関だったので、密にやるには役職が大事そうだなと、少し昇進の欲が出始めたいいタイミングだった」と振り返る。管理職になったことで業務を俯瞰する視点が上がり、動かせる範囲や、変えていける事柄が増したことなどに、「仕事がもっと面白くなった」とも語る。

上層部が変われば、社員が変わる

菅野さんは、自身がキャリアで培ってきた知見とともに、母としての経験を「結婚・出産してもできるよ」と伝えていきたいと、後輩女性の育成にも意欲的だ。

著者は15年から女性のリーダーシップ研修を通じて、同社の女性活躍推進の取り組みに参加しているが、外部の視点から見ても「大きな変化」を感じる。当初は「上司に薦められて」と半ば強制的な意識や、「なぜ今さら活躍?」とキャリアの長い女性の反発、「私なんて・・」と自信のない女性にあふれていた。しかし今は研修に定員を大きく超える応募があり、開催回数を増やすなど急遽対応を迫られるほどだ。参加者の意識も「もっと活躍したい」「ロールモデルになりたい」と前向きに変化している。

(右)菅野さんの上司・宇田川則幸部長

短期間のうちに、これほど女性の意識が変わった理由は、改革を「トップの肝入り」で進めたコミットメントだと筆者は分析する。同社は時間や予算、人員を優先的にしっかりと割いて、女性活躍推進はやったほうがいいではなく、やらなければならないこと、という圧倒的なコミットメントの高さで取り組んだ。その一例として、上層部の理解を共通にし、推進のキーマンとしての自覚を促すことを狙った「ダイバーシティ・マネジメントセミナー」を幹部社員全員を対象に実施。「最後の1人まで追いかけて受けてもらっています」(ダイバーシティ推進チームの川井茂子さん)と徹底した。前述の菅野さんも「会社の本気度が通じた」と評価する。

「もっと活躍」のために上司ができること

「ダイバーシティ・マネジメントセミナー」に参加した菅野さんの上司・宇田川則幸部長は、セミナーでも伝えられた「コミュニケーションの重要性」を認識し、日ごろから実践している。

「菅野さんはすごく頼りになる方。女性だからとは意識していないが、3人のお子さんのお母さんでもあるので、家庭のことは考慮してあげないといけない。」と一人ひとりの個性や考え方、働き方を尊重する。そのために上司として環境作りに心を砕いているという。

そのために心がけているのは、一人ひとりの違いを自分の目で見ること。

例えば、言いたいことが言える人も言えない人もいる。課長クラスから上がってくる報告だけを参考にするのではなく、通りがかりのあいさつの延長、席に行って会話、ランチや飲み会など、かしこまらない形で直接コミュニケーションをとることを意識して行い、本音を引き出す。もちろん、長期的なキャリアデザインや、年間の成果へのフィードバックなど規定の評価制度も活用し、成果主義を基にしたその人にあった仕事の配置や配分を行っている。

特に、今課題である「活躍しやすさ」を進めるために、若い頃から敢えて部下をつけて、面倒をみる経験をさせるなどさせているという。またマネジメント研修にも積極的に参加する後押しをする。そうやって上に立つことの意識や興味の醸成が肝であると考えているのだ。

今年第1子が成人になる菅野さんは、「女性が働く際に目指すところはいろいろ。サポートする仕事に回っても、戻りたい、もっとやりたいと思ったら、そのように言うといい。」子供はずっと小さいわけではないから「自分の欲に忠実に。」とこれから活躍する後輩にエールを送る。

【OKIの女性活躍のポイント】

1:トップダウンの発信
2:「言いやすい雰囲気」「やりたいことをやらせる社風」醸成
3:幹部・女性に向けた意識改革

杉浦里多(すぎうらりた)
人材育成の研修などを行う株式会社DELICE(デリィス)代表取締役社長。P&Gジャパンでのマーケティング・広報渉外部での経験をベースに、マーケティングや経営戦略の教鞭をとる傍ら、最近は特に女性のリーダーシップについての研修、講演に力をいれる。著書に「1年で成果を出すP&G式10の習慣」、「がんばりが評価される女性の仕事術」などがある。杉浦里多ブログ会社HP

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。