本業売却に暗雲も? インターネットの老舗

本業売却に暗雲も? インターネットの老舗"ヤフー"の今

2016.10.25

米ヤフーといえば、検索エンジン登場前、インターネットにどんなウェブサイトがあるか、をまとめる電話帳のような存在として重宝されてきた。その後はポータルサイトとして、インターネットを、テレビを超えるメディアと広告の場として押し上げる重要な役割を担ってきた。

そんなネット企業の老舗が、米国最大の携帯電話キャリアであるベライゾン・ワイヤレスに買収されることが決まったのは2016年7月26日のことだ。48億3000万ドルの現金で、ヤフーの本体事業、すなわち広告・コンテンツ・検索・モバイルの一切がベライゾンの手に渡る。

買収により広告・コンテンツ・検索・モバイルの一切がベライゾンの手に渡る

ベライゾンは2015年にも、同じくインターネット黎明期を支えたプロバイダとして出発したメディア企業AOLを44億ドルで買収済みだ。ベライゾンはモバイルキャリアの本業に加え、モバイルコンテンツ・広告企業としての地位を固める投資を行ってきたことになる。 その点で、ヤフーが持つ6億人のモバイルユーザーを含む10億ユーザーを手に入れることは、大きな価値を持つ。

暗雲が立ちこめる買収

ベライゾンによるヤフー買収は2017年第1四半期に完了するとみられていたが、ここにきて問題が発生している。ヤフーの2012年時点でのユーザーデータが、ウェブサイト上で売買されていることが、2016年9月に発覚したのだ。この盗まれたデータには氏名とメールアドレス、生年月日、電話番号、暗号化されたパスワード、秘密の質問の答えが含まれており、少なくとも5億件に上るという。

ヤフーは当初、国家の関与もほのめかしていたが、同社、そして書記の調査に当たっているFBIからも、具体的な証拠は示されていないのが現状だ。データが売買されていることから、政治的な意図を持ったハッキングとは考えにくい。

ベライゾンのCFOであるフラン・シャモ氏は、ヤフーのユーザデータの流出件数について非常に膨大であることを指摘し、ヤフーにとって極めて大きな影響を与えるとの考えを表明した。

ベライゾンにとってヤフー買収は実現したい戦略であることに変わりないが、魅力の1つとなっていたユーザーの半数がハッキング被害に遭っていることは、ヤフーの価値を大きくそぎ落とすものにほかならない。買収金額の減額や、買収そのものを破棄することも、可能性として視野に入るとの見方もある。

ベライゾン買収に向けた努力を続ける

こうした中、10月18日に、ヤフーは2016年第3四半期決算を発表した。収益は10億3100万ドルと、前年同期に比べて400万ドル上昇し、1株あたりの利益は予測の0.14ドルを上回る0.20ドルを記録した。株価も上向きに反応している。

同社がモバイル、ソーシャル、ネイティブ、ビデオといったデスクトップの時代より新しいテクノロジーへの広告に対する投資とビジネス展開を行っている点は実を結びつつある。前年同期に4億2,200万ドルだった売上は、2016年第3四半期は5億2,400億ドルに上昇。また、検索広告も7億300万ドルと、前年同期の5億1,600万ドルから大きく上昇している。

ヤフーが力を入れるMavens(Mobile/Video/Native Advertising/Social Network)は好調を維持

それでも、急速な成長を続けているグーグルとフェイスブックに対して、成長速度の面で遅れを取っている状況は変わらない。これが、ベライゾンによる買収、AOL事業との深い連係によって、大きな変化を生み出すことができるかに注目が集まる。

ヤフーを舵取りしているマリッサ・メイヤーCEOは、「ビジネス強化への努力を続けて、ベライゾンによる買収に向けて準備を進めている」と表明している。

今後の焦点は

現在の段階で、ハッキングに関する詳しい情報は明らかにされていないが、テクノロジー業界から政治も巻き込んで、今後の検証が進んでいくことになるだろう。いくつかの焦点の中で注目されるのは、ヤフー自身がいつ、ハッキングの事実を把握したか、という問題だ。

もしもベライゾンとの買収交渉を行っている過程で、ヤフー経営陣がすでに5億件のハッキングを知っていた場合、買収金額を高くするために隠蔽していたことになる。ハッキング被害が顧客離れやブランド毀損を来せば、当然ヤフーの企業価値は低下するからだ。

加えて、情報セキュリティーの観点では、別の注目もある。誰が、何を目的にして、どのように情報を盗んだのか、という点だ。

ヤフーは当初から、国家が関与するハッキングを指摘している。これは米国では、暗に中国やロシアによるハッキングを表すが、その事実をつかむには至っていない。

そうした中、10月21日には、米国で大規模なサイバー攻撃が観測され、ツイッターやアマゾンがその被害に遭った。米国のインターネットサービスに対する外部からの攻撃は、すでに身近な「解決すべき危機」として認識が拡がっているのだ。

日本のヤフーへの影響は

ヤフーブランドは、日本でも、インターネット企業の最大手として絶大なものだ。しかし、同じ名称であっても、米国のヤフーと日本のヤフーは、アカウントもメールアドレスも別々に発行されており、今回のハッキングによるユーザー情報の流出とは無関係、と指摘できる。

ただし、日本から米のサービス、例えばYahoo! Financeや写真共有サービスFlickrなどを利用しているユーザーは、情報流出の対象となっているため、パスワードの変更や、最悪の場合、利用停止を行うなどの対処が必要となる。

ちなみに、日本のヤフーはソフトバンク傘下であり、そのソフトバンクは米国携帯電話キャリア第4位のスプリントを買収済みだ。米国でヤフーをベライゾンが買収したとなると、日米ヤフーブランドが、異なる通信会社のグループ企業に分かれる現象が起きてしまう。この点の整理も、日本からは今後注目していくべきだろう。

米国モバイル通信業界はベライゾンによるAOLとヤフーの買収に加え、業界第2位のAT&Tは、タイム・ワーナーを854億ドルで買収すると発表した。よりネットよりで取り組むベライゾンと、テレビコンテンツの取り込みに走るAT&Tに、戦略の違いを見出すことができる。

ただ、日本のモバイルユーザーからすると、両社の目指すところは現在のドコモのような存在に近いのではないか、と感じる。モバイルを接点としたコンテンツから生活連携に至る総合的なサービス企業の姿。ドコモはスマホ以前から実現しており、あるいは10年ほどのアドバンテージすらあると考えて良いだろう。

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

2019.01.21

CESで存在感を放つアマゾンとグーグル、各社の最新動向は?

レノボはGoogleアシスタント、Alexaに対応した新製品を発表

アップルは各社にプライバシー問題を警告、独自路線を貫くか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」で、別格の存在感を放っていたのがアマゾンやグーグルだ。2018年はグーグルがCESに初めて本格出展したことで話題となったが、2019年も大がかりなブースを設置して来場者の注目を浴びた。

ラスベガスのCES会場前に設置されたグーグルのブース

アマゾンやグーグルは音声アシスタントで競争しており、家電製品への組み込みを進めている。2019年のCESではどうだったのか、両社の最新動向をレポートする。

グーグル対アマゾンの音声争いが加速

グーグルは今年もCES会場に「Googleアシスタント」を目玉にした大型ブースを設置。巨大な壁面広告やモノレールのラッピング広告で存在を示し、家電メーカーのブースには白い帽子のスタッフを派遣するなど、CESを乗っ取る勢いだった。

「Googleアシスタント」に対応した家電製品が並ぶグーグルブース

一方、Alexaで先行するアマゾンも展示エリアを拡大。業界やメーカーの枠を越えた「Alexa対応製品」を一挙展示することで、エコシステムの強大さを示した。家庭向けのスマートホーム用途だけでなく、オフィスで使う事例も示すなど、応用範囲を広げている。

アマゾンは「Amazon Alexa」対応製品をブースに集めた

具体的な対応製品として、音声で操作できるスマートスピーカーやスマート電球はもちろんだが、これまでにないジャンルの製品も増えている。たとえばレノボは「目覚まし時計」と「タブレット」の2機種を発表した。

レノボの目覚まし時計「Smart Clock」(左)とタブレット「Smart Tab」(右)

Googleアシスタントに対応した「Smart Clock」は、目覚まし時計の置き換えを狙った製品だ。音声だけでなく画面のタッチ操作にも対応しており、カレンダーの予定や寝覚めのいい音楽、室内の照明と連動した目覚まし機能を提供する。

一方、Amazon Alexaに対応した「Smart Tab」は、一般的なAndroidタブレットとして使えるほか、ドックに置くと音声とタッチで操作するスマートディスプレイに早変わりする。自宅でも外出先でも1台2役で使えるお得さが特徴だ。

アップルが投げかける「プライバシー」問題

CESに両社が注力する背景には、音声アシスタント市場におけるシェア争いがある。「Amazon Echo」や「Google Home」といったスマートスピーカーの売上ではグーグルがアマゾンを猛追しており、2018年第1四半期には逆転劇を果たした(英Canalys調べ)。しかし第3四半期にはアマゾンが再び首位に立つなど、接戦が続いている。

その勢力はスマートスピーカーを越えて、家電全体に広がりつつある。家電の操作といえばスイッチやリモコン、タッチ操作が一般的だが、音声に対応する製品は増えている。これまで独自の音声アシスタント「Bixby」を展開してきたサムスンも2019年にはグーグルとアマゾンとの連携を発表した。

サムスンはスマートTVでグーグル、アマゾンと連携

このまま音声が普及していけば、世界中の人々がインターネットのサービスやコンテンツにアクセスする手段になる可能性がある。音声アシスタントのシェア争いは、スマホOSのシェア争いと同じくらい重要というわけだ。

ただ、音声操作はプライバシーに関する懸念もある。音声操作を受け付けるには、マイクが常時オンになっている必要があるからだ。マイクをオフにする機能はあるとはいえ、家庭内のプライベートな会話を常にマイクに拾われるのは心地よいものではない。

この問題に一石を投じたのがアップルだ。CES会場からよく見えるホテルの壁に意見広告を掲載。ラスベガスの有名なコピーをもじって「iPhoneで起きることはiPhoneの中にとどまる」と訴え、サードパーティと広く連携するアマゾンやグーグルを牽制した。

アップルはCESでプライバシー重視をアピール。元々の言葉は、「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」というもの

アップルも独自の「Siri」をiPhoneに搭載し、スマートスピーカー「HomePod」も販売している。だがサードパーティとは積極的に連携していないため、音声のシェア争いでは不利な立場に追い込まれている。アップルがこのまま「プライバシー重視」路線を貫くかどうかも、音声アシスタント市場の行方を左右しそうだ。

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第30回

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

2019.01.21

いまや当たり前の「ワイヤレス充電」スマホ

開発も販売も、実は日本が世界初だった

過去にナゼ廃れたのか、今はナゼ流行っているのか

最近、ケーブルに接続する必要なく充電ができる、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンが増えてきている。一時は姿を消していたワイヤレス充電が、ここにきて再び脚光を浴びるようになったのはなぜだろうか。

世界初のワイヤレス充電対応スマホは日本製

スマートフォンを充電する際、多くの人は充電用の電源ケーブルに接続して充電していることだろう。だがここ最近、スマートフォンをケーブルに接続することなく、専用の充電台に置くだけで充電ができる「ワイヤレス充電」に対応したスマートフォンが増えているのだ。

例えばアップルのiPhoneシリーズであれば、2017年発売の「iPhone 8」シリーズ以降からワイヤレス充電に対応している。他にもグーグルの「Pixel 3」やサムスン電子の「Galaxy Note 9」、そしてファーウェイの「HUAWEI Mate20 Pro」など、海外製のハイエンドスマートフォンを中心として、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは着実に増えている。対応スマートフォンの広まりとともに、ワイヤレス充電をするための充電器も数が増え、家電量販店などで目にする機会も増えている。

ワイヤレス充電対応機種は急増しており、「iPhone XS」など最新のiPhoneもワイヤレス充電に対応している

充電をするためにケーブルに接続するというのは手間がかかるし、何よりケーブルは絡まりやすく取り回しが面倒なもの。それだけに、スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電は消費者にとって非常に便利だ。したがってスマートフォンに搭載するという動きも比較的古くから進められていたのだが、現在のように広く普及するまでにはかなりの時間を要している。

実は、スマートフォン単体でワイヤレス充電ができる機種が最初に投入されたのは日本で、開発したのも日本企業である。2011年にNTTドコモから発売された、シャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」がそれに当たり、Wireless Power Consortium(WCP)が策定したワイヤレス給電規格の1つ「Qi」に対応。Qi対応の充電器に置くだけで、スマートフォンを充電できる仕組みを備えていたのである。

世界初のワイヤレス充電対応スマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」は、2011年にNTTドコモが提供。専用の充電器も提供していた

しかも当時、NTTドコモはQi対応のワイヤレス充電ができるスマートフォンの開発に力を入れており、「おくだけ充電」という名称まで付けて積極的なアピールを進めていた。さらにシャープだけでなく、NTTドコモと関係の深い他の国内スマートフォンメーカーともQi対応のスマートフォン開発を進め、市場に多くのワイヤレス充電対応スマートフォンが存在した時期があったのだ。

規格や充電性能の問題が解決し採用機種が増加

だが2013年を境に、NTTドコモのラインアップからワイヤレス充電対応のスマートフォンが一時期姿を消し、ワイヤレス充電は急速に存在感を失うこととなる。当時ワイヤレス充電に力を入れていたパナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなどが、iPhoneなどに押されてスマートフォン市場から撤退した影響も大きいが、より本質的な要因は2つあると考えられる。

1つは、急速充電に対する消費者のニーズが高まっていたためだ。当時はバッテリーの性能が現在より低かったため、スマートフォンを使っているとあっという間にバッテリーを消費してしまい、不満の声が多かったため、何よりも素早く充電できることが強く求められていたのだ。しかしながら当時のQiは電力の出力が弱く、充電速度が遅かったことから、消費者のニーズとマッチせず姿を消してしまったのである。

そしてもう1つの理由は、ワイヤレス給電規格が複数存在し、業界全体で、どの方式を採用するか方向性が定まっていなかったため、後続するスマートフォンがなかなか出てこなかったことだ。実際、2015年に日本でも発売されたサムスン電子の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」はQi規格だけでなく、Power Matters Alliance(PMA、現在はAirFuel Alliance)が策定したワイヤレス給電規格も採用することで、ワイヤレス充電に対応させている。

2015年発売の「Galaxy S6 edge」は、当時まだ事実上の標準規格が定まっていなかったこともあり、複数のワイヤレス給電規格に対応していた

そして最近になってワイヤレス充電が再び日の目を見ることができたのは、それらの課題が解決したことが大きく影響している。急速充電に関しては、当初Qiのモバイル機器に向けた「Volume I」という規格では、送信できる電力が5W以下とされていたため充電速度が遅かったのだが、その後10W、15Wといったより大容量の送信ができる規格の策定が進んだことで、より速く充電できるようになったのである。

また規格の統一に関しては、アップルなど影響力の大きな主要スマートフォンメーカーがQiの採用に傾いたことで、Qiがスマートフォン向けの事実上標準規格となった。そのため多くのスマートフォンメーカーがQiを採用しやすくなり、急速に数が増えたといえる。

さらにもう1つ、高いデザイン性や防水性能など、スマートフォンに求められる要素が年々増えていることも、ワイヤレス充電が復活した大きな要因として挙げられるだろう。一方で、かつて必要だったPCへの接続など、スマートフォンに何らかのケーブルを接続する必要性は年々薄くなっている。将来的にはスマートフォンのワイヤレス充電対応が当たり前となり、充電用のUSB端子やLightning端子がなくなることも十分あり得るだろう。