au・ソフトバンク系のMVNOが増えない理由

au・ソフトバンク系のMVNOが増えない理由

2016.10.28

料金の安さや多様なサービスが提供されていることなどから、最近人気が高まっているMVNOの通信サービス。だがそのMVNOの大半はNTTドコモのネットワークを用いており、auやソフトバンクのネットワークを用いたMVNOは極めてごく少数にとどまっている。なぜ、NTTドコモ以外のネットワークを用いたMVNOは数が増えないのだろうか。

MVNOの9割以上はNTTドコモのネットワークを使用

ここ数年来、大手携帯電話キャリアからネットワークを借りてモバイル向けの通信サービスを提供する、MVNOの利用者数が急速に伸びている。特に今年に入ってからは、4月に総務省の「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」が打ち出されて以降、大手キャリアが高価格なスマートフォンを、「実質0円」など大幅に値引いて販売することができなくなったことから、一層価格が安いMVNOへの注目度が高まりつつあるようだ。

MVNOはキャリアからネットワークを直接借りている一次MVNO、その一次MVNOからネットワークを借りてサービスを提供する二次以降のMVNOを合わせると、500以上の企業が参入していると言われている。だが実は、MVNOが利用するネットワークには非常に大きな偏りがあり、個人向けに通信サービスを提供しているMVNOの9割以上が、NTTドコモのネットワークを用いている。

総務省「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表(平成27年度第4四半期(3月末))」より。上記のとおりMVNOは500社以上あるが9割以上がNTTドコモのネットワークを利用する

実際、NTTコミュニケーションズなどMVNO大手と呼ばれる企業から、楽天やイオン、LINEなどの有名企業、さらには「FREETEL」ブランドでスマートフォンと通信サービスを一体提供するプラスワン・マーケティングなどのベンチャー企業に至るまで、大半のMVNOはNTTドコモのネットワークのみを用いてサービスを提供している。

では、それ以外のキャリアのネットワークを利用しているMVNOはどの程度存在するかというと、NTTドコモのMVNOと比べると極めてごく少数でしかない。例えばKDDI(au)のMVNOは、UQコミュニケーションズやジュピターテレコム(J:COM)などKDDIのグループ企業のほか、「mineo」ブランドのケイ・オプティコムや、MVNO大手の一角を占めるインターネットイニシアティブ(IIJ)などに限られる。しかもKDDIグループ以外の企業は、NTTドコモのネットワークも同時に提供している"兼業"のMVNOだ。

auのネットワークを用いたMVNOは、UQコミュニケーションズの「UQ mobile」などKDDIのグループ会社のほか、ごく少数のMVNOに限られる

ソフトバンクのMVNOとなるとさらに数が少なく、同社のMVNOを支援する子会社「SBパートナーズ」の発表では、現在のところ飛騨高山ケーブルネットワークの「Hitスマホ」と、ANAの「ANA Phone」のみ。しかもANA Phoneは、いわゆる"格安"のサービスを提供するのではなく、専用のスマートフォンを利用することでマイルが貯まりやすくなるなど、付加価値を重視したMVNOとなっている。

この他にも、ワイモバイルと同じネットワークを用いていると見られるU-NEXTの「U-mobile SUPER」などが、あえて言うならばソフトバンク系のMVNOということになるが、いずれにせよ非常に数が少ないことは確かだ。では一体なぜ、NTTドコモとそれ以外のキャリアとでは、これほどまでにMVNOの数に違いがあるのだろうか。

NTTドコモに偏る理由の1つは接続料の差

理由の1つは非常にシンプルで、回線を貸すキャリアに対してMVNOが支払う「接続料」が最も安いのが、NTTドコモだからである。特にMVNOが重視しているデータ通信の接続料を見ると、NTTドコモが月額約79万円であるのに対し、auが月額約97万円、ソフトバンクは月額約117万円と、約1.5倍の開きがある。

総務省「モバイル接続料の自己資本利益率の算定に関するワーキングチーム」第1回公開資料より。NTTドコモとソフトバンクでは接続料に約1.5倍の差がある

大半のMVNOは規模が小さい。しかも現在、MVNOの市場は価格競争が非常に激く、各社ともに儲けが少ない状況で戦っている。それだけに多くのMVNOは、キャリアに支払う接続料をできるだけ抑えてサービスを提供したいと考えているのだ。

そうしたことからMVNOは、できるだけ接続料が安いキャリアからネットワークを借りる傾向が強い。それが大半のMVNOが、NTTドコモの回線を選択する大きな理由の1つとなっているわけだ。

もっとも、キャリア間で接続料に大きな開きがあり、MVNOの利用するネットワークがNTTドコモに極端に偏っている現状は、行政側も問題視しているようだ。それゆえ現在、その料金差を縮めるべく、総務省は現在、「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」にて接続料の見直しに関する議論が進められている。

だが、MVNOがNTTドコモの回線を選ぶ理由は、実は単に接続料が安いからという理由だけではない。もう1つの大きな理由として挙げられるのは、NTTドコモのネットワークが最も制約が少なく、MVNOにとって扱いやすいことである。

au・ソフトバンクの制約の多さも問題に

NTTドコモのネットワークがなぜ扱いやすいのかは、他キャリアと比較すると分かりやすい。NTTドコモは、保有する周波数帯に関してはやや日本独自の部分があるものの、3Gの通信方式は世界的に用いられているW-CDMA方式であることから、3G・4G双方のネットワークに対応したスタンダードなサービスが提供できる。

だがauは、保有する周波数帯がNTTドコモ同様日本独自の部分が強いのに加え、3Gの通信方式に、世界的にマイナーなCDMA2000方式を採用するなど、ネットワーク構成が非常に特殊なのである。そのためauは最近、3G回線を使用せず、LTEネットワークのみに対応した通信サービスの提供が主になっているが、その場合LTE回線で音声通話ができる「VoLTE」に対応した端末でないと、通話ができないという制約を抱えしまう。

そうしたネットワークに起因する問題が、auのネットワークで利用可能なSIMフリー端末が劇的に少ないという大きなデメリットにもつながっているのである。最近になってようやくauのVoLTEに対応したSIMフリー端末が増えてきているが、NTTドコモと比べると非常に大きなハンディキャップを抱えていることに変わりはない。

auのVoLTEに対応したスマートフォンは増加傾向にあり、UQコミュニケーションズは10月25日の発表会で、対応スマートフォンが8メーカー12機種に増えたとアピールしている

一方のソフトバンクは、保有する周波数帯は世界的に利用されている標準的なもので、3Gの通信方式もW-CDMA方式を採用しているなど、ネットワーク面では非常に扱いやすいように見える。だがソフトバンクは使用する端末によってSIMが異なる仕様となっており、iPhoneを利用する場合はiPhone用のSIM、Android端末を利用する場合はAndroid用のSIMが提供され、さらにその種類も複数にわたるなど、NTTドコモのように1枚のSIMでどの端末でも共通して利用できるわけではないのだ。

そうしたSIMの複雑な仕様が影響していると見られるのが、現在ソフトバンクと日本通信の間に起きているトラブルである。日本通信はソフトバンクに携帯電話網の相互接続を申し入れ、MVNOとしてソフトバンク回線を用いたサービスを提供しようとしていたのだが、日本通信は9月29日、ソフトバンクに接続を拒否されたため、接続協定に関する命令申立書を総務省に提出したと発表している。

そのリリース文を読むと、「ソフトバンクは現在、3,938万回線を保有し、市場全体のスマートフォン比率(主にiPhone)は約70%程度なので推定約2,730万回線が新たに格安SIMを利用できるようになるということです」との記述がある。ここからはあくまで推測だが、日本通信側はNTTドコモのように、1枚のSIMで幅広い端末で利用できるサービスの提供を考えていたと見られるが、ソフトバンク側はSIMの仕様が複雑であるため、そうした形でのサービス提供が難しいとしたことから、交渉で溝が生じトラブルへとつながったものと考えることができそうだ。

この他にもNTTドコモ以外のキャリアは、MVNOのSIMを利用する上でさまざまな制約を設けている。そうした制約の多さが、MVNOがNTTドコモ以外のネットワークを選ばない、大きな要因の1つとなっているのである。

IIJのユーザーイベント「IIJmio meeting13」より。au回線を用いた通信サービス「タイプA」を提供する同社だが、使い勝手の問題からNTTドコモ回線を用いた「タイプD」の利用を推奨している

それゆえauやソフトバンクのネットワークを利用するMVNOを増やすには、単に接続料を下げるだけでなく、両者が抱える制約を少しでも減らす取り組みが必要になってくるだろう。「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」ではそうした両者の制約に関する議論もなされているようだが、キャリアのネットワークが抱える問題に起因する部分も多いことから、解決には時間がかかるといえそうだ。

関連記事
NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

ご愛顧いただいた読者の皆様、また関係者の皆様に、編集部一同、誠に感謝いたします。

なお、NewsInsightに掲載中の記事につきましては、引き続きマイナビニュース(https://news.mynavi.jp)へと掲載場所を移管いたします。

掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

○安東弘樹のクルマ向上委員会!
https://news.mynavi.jp/series/andy

○森口将之のカーデザイン解体新書
https://news.mynavi.jp/series/cardesign

○清水和夫の自動運転ソシオロジー
https://news.mynavi.jp/series/autonomous_car

○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
https://news.mynavi.jp/series/game_heisei

○岡安学の「eスポーツ観戦記」
https://news.mynavi.jp/series/e-Sports_review

○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

○藤田朋宏の必殺仕分け人
https://news.mynavi.jp/series/shiwakenin

○「食べる」をつくる科学と心理
https://news.mynavi.jp/series/food_science

○阿久津良和のITビジネス超前線
https://news.mynavi.jp/series/itbiz

○山下洋一のfilm@11
https://news.mynavi.jp/series/filmat11

○モノのデザイン
https://news.mynavi.jp/series/designofthings

○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu