【三井物産】「利益積み上げ型」事業の拡大に向けてインフラ関連へ出資

【三井物産】「利益積み上げ型」事業の拡大に向けてインフラ関連へ出資

2016.09.06

【三井物産】「利益積み上げ型」事業の拡大に向けてインフラ関連へ出資

 1876年に日本最初の総合商社として、旧三井物産が誕生した。当時は石炭の輸出や紡績機械の輸入などを行っていた。また中国やインドなどから綿花を輸入し、紡績産業の立役者となった。

 戦後、1947年には財閥解体により、旧三井物産が解散、現在の三井物産<8031>の前身である第一物産が設立された。60年代から70年代には高度経済成長のけん引力として、海外依存度の高い日本への重要資源の安定確保のため、資源開発に出資参画した。

63年1月 豪Moura炭鉱(現Dawson炭鉱)開発への参画
65年2月 豪Robe River鉄鉱山への参画
66年10月 豪Mount Newman鉄鉱石長期契約の締結
71年9月 アラブ首長国連邦・アブダビのダス島LNG(液化天然ガス)開発基本協定調印
71年10月 イラン石油化学プロジェクト基本協定調印

 一方、80年代から90年代にかけては、時代の先端分野への挑戦と急速な社会の構造変化に対応すべく、半導体などの高付加価値分野に進出。また海外においても大型プロジェクトに参画してきた。

85年7月 豪西部のLNGプロジェクト参画
94年6月 サハリンII石油・天然ガス開発契約調印
         

 2000年代に入ると「グローバル総合力企業」を目指し、新規投資の実行と既存投資のリサイクルを通じた戦略的ポートフォリオの構築を始める。

03年9月 ブラジルの総合資源会社Vale S.A.の持ち株会社Valepar S.A.へ出資
07年6月 米国鋼材加工サービスセンターSteel Technologies Inc.を買収

 現在は20年までの中期経営計画として、「攻め筋」の確立、「既存事業」の収益基盤強化と「パイプライン案件」の完遂、裏打ちのある「新規事業」への投資と「株式還元」の両立を目指してきた。

16年3月期は上場以来初の赤字

 三井物産の投資セグメントは鉄鋼製品、金属資源、機械・インフラ、化学品、エネルギー、生活産業、次世代・機能推進の7事業に分けることができる。16年3月期のセグメントごとの当期利益は金属資源(63億円)、金属資源(-1625億円)、機械・インフラ(183億円)、化学品(177億円)、エネルギー(-39億円)、生活産業(-140億円)、次世代・機能推進(161億円)となる。当期損益は834億円の損失となり、発足以来初の赤字転落となった。これは中国景気の減少に伴う資源安の影響が大きく、特に金属資源分野に力を入れてきた三井物産はこの影響を大きく受け、3500億円の減損処理をすることとなった。

 多くの商社も石油やLNGなどのエネルギー資源、鉄鉱石などの金属資源の開発事業に参画したため、11年以降の資源価格の下落とともに事業の撤退や評価損の計上に踏み切っている。三井物産は今回の市況下においても着実にキャッシュを生み出している事業と認識するとともに、今回のような短期的なサイクルに左右されることなくポートフォリオのさらなる強化行うとのこと。資源開発は、開発着手から生産・販売までを含め、20~30年の長期にわたる事業であるためとの認識のようだ。

 今後は、同社が強みと認識する「利益積み上げ型」事業の拡大に注力する戦略だ。キーワードとして、ハイドロカーボンチェーン、モビリティ、インフラ、メディカル・ヘルスケアの部門があり、これらはさらなる拡大を図る。最近の同社のM&Aはインフラ関連の出資が目立つ。権益などの獲得により「利益積み上げ型」を実践している最中なのであろう。

■直近の三井物産のM&A実績

2015.9 住友林業とともに、中国の北京金隅股份有限公司傘下である北京金隅装飾工程有限公司の第三者割当増資を引き受けて出資参画。20%の株式を取得
2015.10 チリ大手サーモン養殖・加工・販売事業会社であるMultiexport Foods S.Aの子会社Salmones Multiexport S.A.の第三者割当増資を引き受け、出資参画。23.4%を約121億円で取得
2015.10 エス・エム・エスと共同で、アジア・オセアニア地域で医薬情報サービス事業を展開するMIMSグループを共同で買収するため、同グループの持株会社であるMedica Asia (Holdco) Limited全株式の譲渡契約をAXIO Data Hedgeco Limitedおよび個人株主6名と締結。三井物産の出資比率は40%で、約120億円で取得
2015.10 米国三井物産を通じて、米国の非遺伝子組換え穀物を専門とする集荷会社Bluegrass Farms of Ohio, Inc(売上高3400万ドル)に出資参画。株式の50%を取得
2015.10 ブラジル国内19 州の地域ガス配給事業会社を保有するPetrobras GásS.Aの株式49%を約19億レアル(670億円)にて取得
2015.11 持分法適用関連会社であるSanta Vitória Açúcar e Álcool Ltda社の全出資持分である株式50%を、米国化学品大手のザ ダウ ケミカル カンパニーに約2億ドルで売却
2015.11 豪エネルギー大手Santos Limitedが保有する豪ヴィクトリア州キッパーガス・コンデンセート田35%権益を約450億円にて取得
2015.11 ブラジルで都市旅客鉄道事業を手掛ける100%子会社ガラナアーバンモビリティの株式49.9%を、西日本旅客鉄道と海外交通・都市開発事業支援機構に譲渡
2015.12 日立製作所と日立製作所のインドにおけるグループ統括会社であるHitachi India Pvt. Ltd.と現地の鉄道車両製造・エンジニアリング企業の4社で信号通信設備及び施工を約280億円で受注。また、三井物産、日立製作所、日立インドの3社で自動列車制御システムおよび施工を約110億円で受注
2015.12 三井石油開発株式会社と共同で設立した投資子会社Mitsui E&P Brasil Ltda.を通じ、英国BG Group傘下のBG E&P Brasil Ltda.がブラジル北部沖合バヘイリーニャス盆地に保有する深海探鉱鉱区群(4鉱区)権益の10%を取得する
2015.12 メキシコの鉱山機械販売・サービス会社Road Machinery Co., S.A. de C.V.社の株式60%をコマツ子会社へ譲渡

■直近の三井物産のM&A実績

2016.1 オマーンにおける発電事業への出資参画
2016.1 せとうちホールディングスと傘下の米国小型航空機メーカーであるQuest Aircraft Company, L.L.C.の第三者割当増資を引き受けて1000万ドルを出資し、12.5%の株式を取得
2016.1 三井物産がマレーシアに設立した100%投資子会社3B Power Sdn Bhd株式の50%を、中国電力に売却
2016.2 英国伝統校St.Albans Schoolのインターナショナルスクール運営事業に資本参画。同社の株を最大20%まで取得予定
2016.2 多様な分散エネルギーリソースを群制御する米国のソフトウェアサービス会社であるSunverge Energy, Inc.に出資
2016.2 オセアニア・アジア・北米において植林アセットマネジメント事業を展開するNew Forests Pty Limitedに出資参画(出資比率22.5%)する
2016.3 ノルウェーのオスロ証券取引所上場企業で樹脂ライナー製炭素繊維強化圧力タンク製造販売事業を行うHexagon Composites ASA(売上高1651百万ノルウェークローネ、約220億円)に25%出資参画する。
2016.3 スマホ向けフリマアプリ「メルカリ」の企画・開発・運営を行うメルカリの第三者割当増資を引受ける。第三者割当増資約84億円のうち、三井物産はリードインベスターの1社としての出資となる。
2016.3 100%出資子会社 Mitsui E&P Australia Pty Ltd を通じSantos Limitedと15年11月6日に締結した権益売買契約書(同年11月9日適時開示)の先行要件充足により、16年3月3日、豪ヴィクトリア州キッパーガス・コンデンセート田35%権益取得
2016.3 韓国証券取引所上場企業であるHankuk Carbon Co., Ltd.(売上約250億円)と炭素繊維などの複合材料加工事業分野で包括的な業務提携契約を締結。同社へ約28億円を出資し、株式10%を取得
2016.3 東南アジアの化学品販売大手のBehn Meyerと、シンガポールに投資会社BMM Venture を設立することで合意。新設会社の株式49%を取得予定
2016.4 産業向けIoT/M2Mデータ管理ソフトウェアの開発・販売において、グローバルリーディング企業である米国のOSIsoft, LLC.に出資参画
2016.5 日本曹達と共同で出資する米国の家畜飼料添加物メーカー、Novus International, Inc.が実施する増資を全額引き受け(三井物産:日本曹達=8:2)
2016.5 国内食肉業界最大手の一角を占めるスターゼンが実施する第三者割当増資を引き受け、持ち株比率を16.39%へ(約48億円)

■M&A戦略

 三井物産は以下のように7つの攻め筋を挙げている。

 ①ハイドロカーボンチェーン
  上流開発(原油・ガス)・商業化(LNG、化学品、発電)
  輸送・周辺事業(船舶、鋼管、インフラ建設など)

 ②資源(地下+地上)・素材
  金属資源の開発・生産、製品の流通・加工・再利用
  技術進歩を見据えた金属・化学素材事業の展開

 ③食糧と農業
  肥料・食糧資源、食品原料
  農業化学、食品・栄養化学

 ④インフラ
  電力・水・港湾など
  次世代型都市開発など

 ⑤モビリティ
  自動車、産業機械、船舶、航空、交通
  運送事業や他の「攻め筋」への広がり

 ⑥メディカル・ヘルスケア
  病院事業、周辺サービス事業
  医薬開発・製造・販売

 ⑦衣食住と高付加価値サービス
  衣・食(流通・データ・E コマース)
  住(不動産・金融・関連サービス)

 直近のM&Aの実績を見てみると、国内食肉製造、販売を手掛けるスターゼンの株式の取得があり、出資比率を2.5%から16.39%まで引き上げた。これは攻め筋で言うと「食料と農業」に該当しよう。国内の畜産農家は減少の一歩をたどっているものの、海外に目をやると中間層の増加により食肉の需要は増えている。三井物産としては、同社の世界的なネットワークを生かしてスターゼンの企業価値向上を狙っていくようだ。

  また、「食料と農業分野」では、日本曹達と共同で出資している「Novus社」の増資を引き受ける。同社は必須アミノ酸のであるメチオニンの世界的なメーカーである。このメチオニンという成分は、牛や豚の成長に欠かせないものであり、特に鳥に関してはこの成分量で成長促進が決まるという。Novus社は世界で3割のメチオニンシェアを持ち、三井物産はこの事業の将来性に大きな期待をよせているのであろう。補足として、Novusとしても10年に食料添加物の製造販売を行う企業を3社買収しているといった背景もあり、三井物産のこの分野の強化については余念がない。

 また、「衣食住と付加価値サービス」については、16年3月にスマホ向けフリマアプリで知られるメルカリの第三者割当増資の引き受け、東南アジアなどでネットを使った個人間での取引サービスを立ち上げる。メルカリは、国内ではフリマアプリとして最大手であり、日米合わせ3200万ダウンロードの実績を持ち、月間の流通額は100億円を超える。三井物産は同社が出資をするインドネシアやアフリカの高速通信会社で扱う端末にメルカリのアプリの導入を検討しており、情報通信分野への強化をもくろむ。

■財務分析

 上記の通り、三井物産の自己資本比率は30%程度で推移している。16年3月期は31%となるが、三菱商事(30.8%)、伊藤忠商事(27.3%)、住友商事(28.8%)と比較しても大きな差はない。

 17年3月期の通期見通しは最終損益で2000億円を見込んでいる。内訳としては金属資源が450億円、機械・インフラが600億円、生活産業が150億円、エネルギーが0億円、次世代・機能推進が100億円となる。16年3月期、金属資源の減損損失が一過性のものであり、効率の良い投資ができれば、提示している最終損益は問題なくクリアできるであろう。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

瀧澤信秋のいろはにホテル 第1回

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

2018.11.16

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏による新連載!

第1回は、「多様化するビジネスホテルの今」について

料金変動「するホテル」と「しないホテル」 それぞれの狙いは?

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏が、意外と知らないホテルビジネスを語る新連載。第1回は、瀧澤氏が“注目度の高いカテゴリー”と説明する「ビジネスホテル」について。ここ数年で急速に「多様化」が進んでいるビジネスホテルのこと、どれだけ知っていますか?

ビジネスホテルが大人気

ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、カプセルホテルにラブホテルと横断的な評論が筆者の生業であるが、ことビジネスホテルは昨今勢いのある注目度の高いカテゴリーだ。

旅行や出張で、ビジネスホテルを利用した経験のある人は多いだろう

筆者は、TBSテレビの人気番組「マツコの知らない世界」へ過去3回出演の機会を得たが、第2回で紹介した「ビジネスホテルの世界」は特に反響が大きく、TBS瞬間最高視聴率ランキングで1位をいただいた。視聴者の方々にとってビジネスホテルは身近な存在なのだと改めて認識した。

ということで、連載の第1回となる本稿では、「多様化が進むビジネスホテルの今」をお伝えしよう。

「ビジネスホテル」と「ホテル」の違い

そもそもビジネスホテルとは何なのか。業界ではビジネスホテルは“宿泊特化型ホテル”ともいわれるが、その名の通り宿泊に特化したホテルと定義づけられる。

ホテルとはフルサービスであることが特徴で、宿泊の他に料理・飲食、バンケット(宴会、または婚礼や大規模な会議)など多彩なサービスを提供する。一方のビジネスホテルは、朝食スペースなどが設けられてはいるものの(法令上の要請)、フロントサービスを中心に宿泊機能を提供するというリミテッドサービスであることが特徴だ。“イン”とも称される。

前述の番組で、豪華なスイートルームまであるホテルとして“これ以上のビジネスホテルは見たことがない”と「ホテル ココ・グラン高崎」(群馬県高崎市)を紹介したところ、「スイートルームなんてあるのにビジネスホテルといえるの?」と疑問の声をいただいた。

「ホテル ココ・グラン高崎」プレミアムココスイート

スイートルームがあろうが、基本的に宿泊に特化していればそれはビジネスホテルといえる。ただし、宿泊特化型のコンセプトは多様化しており、単にビジネスホテルとカテゴライズされることを良しとしないホテルもある。

話は逸れたが、ビジネスホテルといえば、伝統的には出張族御用達として人気を博してきた。今では旅のスタイルが多様化したことで、観光にも重宝されており、リーズナブルな旅を求める訪日外国人旅行者にも人気が高い。

「料金変動させるホテル」と「あえてさせないホテル」

しかし、「ビジネスホテル=リーズナブル」というイメージは徐々に崩れつつある。確かに高級ホテルよりは安いといえそうだが、繁忙日と閑散日の料金変動幅がかなり大きなホテルもみられる。

筆者は職業柄日々のホテル料金レートをチェックしている。「ビジネスホテルは高級ホテルより安いといえそう」と書いたが、とある繁忙日の新宿エリアを見たところ、ハイアットよりもアパホテルが高かったことがあり驚いた。料金を客室面積の㎡単位で換算したところ、ハイアットが約1,200円、アパホテルが約2,800円だった。

料金変動の大きさもクローズアップされたアパホテル

極端な例を挙げたが、ビジネスホテルに限らずホテルの料金は変動するのが一般的だ。これは業界では「レベニューマネジメント」などといわれる。ホテルの客室に限らず在庫の繰り越しができない商品を、売れ残りを少なくするためさまざまな価格設定をして販売を管理することは、需要予測のもとに収益を最大化する手法といえる。

需要が高くなると料金が上がるのはホテルに限ったことではないが、とはいえホテル料金変動幅のあまりの大きさに面食らった経験のある人もいるのではないだろうか。季節変動(季節や時期によって需要に増減が起きる変化)の大きなリゾートホテルなどではその傾向はさらに強いし、料金が高額なラグジュアリーホテルでも変動はする。しかし、より日常感のあるリーズナブルなイメージのビジネスホテルほど、ゲストは料金変動にシビアだといえそうだ。

他方、基本的に料金変動させないことをポリシーとするホテルもある。たとえば「東横イン」だ。全国最大規模のビジネスホテルチェーンであるが、宿泊需要の急増する時期でも大きく料金を変動させないことを公式サイトでうたっている

プライスポリシーとして「市場動向にいわば便乗するかのような料金設定は(中略)ビジネスパーソンをはじめとするお客様の信頼を裏切ることになる」と明記。料金の変動が少ないことはゲストの安心感につながるというのが同社の考えだ。

「東横イン」客室イメージ

前述のホテル ココ・グラン高崎も、基本的に料金変動させないことをポリシーにしているが、かようなポリシーのホテルを時々見かけることがある。このように、「料金変動をさせるホテル」と「あえてさせないホテル」があるのだ。

「本当はいくら? 」で部屋の価値を聞いてみた

料金変動でよく見られるのは、最初は高い設定なのに日が迫ると安くなり、当日の夜などに投げ売りされるパターン。レベニューマネジメントで適切な在庫管理ができれば緩和される側面はあるのかもしれないが、早く予約してキチンと泊まってくれる「ホテルにとって有り難いゲスト」が割を食うケースともいえる。そもそも定価で料金変動させないのであれば起こらない問題かもしれない。

ところで筆者は、ホテルの支配人や経営者への取材に際し「こちらの客室はいくらですか?」と質問することがある。「え~と今日は6,000円ですが明日は1万円で……」といった回答を得ることは多い。そこで「いえ、本当はいくらなんですか? 」と聞き返す。すると回答に窮する様子のケースが多く見られる。

ところが、過去の取材(4年ほど前の取材と記憶している)で「うちは5千円です」と即答したホテル経営者がいた。中国地方や福岡で大人気ビジネスホテルチェーン「ホテルアクティブ! 」を運営する、株式会社石田屋ホテルズ代表取締役社長の石田光一郎氏である。

「ホテルアクティブ!広島」外観

石田氏は「確かに今日は7,000円ですし明日は9,000円ですが、この部屋本当は5,000円なんです」と断言した。商売なので繁忙日は料金を上げることもするが、多くいただいた分は新しいホテル建設や事業拡大などには回さず、あくまでもそのホテル・客室の快適性向上に投資するという。確かに、前に一度宿泊した際に「もう充分快適」と記憶していたが、その後何度か再訪した際にも、さらに工夫が施されたリニューアルがなされていた経験があり、納得した。

***

今回は、ビジネスホテルについて「料金変動」の面からみてきた。料金変動の有無については、ホテルの特性やさまざまな条件などを鑑みれば決して一面からでは結論づけられない問題であるといえよう。昨今、インバウンド需要も後押しとなり、ビジネスホテルが多く誕生し、さまざまな経営・運営会社の手により多彩な施設が林立。同時にその「スタンス」も多様化している。

客室の快適性や利便性などと共に、そうしたホテルのスタンスを知ることも、賢い消費者として気に留めておくべき「ホテル利用術」のひとつだといえそうだ。

次回も引き続き「多様化が進むビジネスホテル」について取り上げます。ビジネスホテル市場に押し寄せる“差別化”と“コモディティ化”の流れ、そこから見えてくるものとは?

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

藤田朋宏の必殺仕分け人 第1回

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

2018.11.15

ちとせグループCEOの藤田朋宏氏による新連載

巷を賑わす”ヘンな出来事”の問題点を、独自の解釈で洗い出す!

第1回は、「日本の科学技術投資」について

バイオベンチャー企業群「ちとせグループ」のCEOを務める藤田朋宏氏による新連載。“手段と目的の違い”によって生じた「ヘンな出来事」の問題点を、独自の視点で語ります。第1回は、「日本の科学技術投資」について。日本の科学技術への投資の問題点とはいったい何なのでしょう?

才能と“伸びしろ”に投資する、日本サッカー協会

先日、クアラルンプールに出張したときのこと。宿泊先のホテルが偶然にもサッカーの日本代表と同じだった。「日本代表」と言っても、同じホテルに泊まっていたのは本田や長友ではなく、U-16アジア選手権に参加している若い選手たち。

そこで彼らを見ていて、ふと考えた。日本サッカー協会の「選手への投資」は、実は凄く効率がいいのではないか。どうしてそう思ったのか、順を追って説明したい。

ホテルに置いてあったU-16アジア選手権のバナー

チェックインを済ませ、「部屋の準備があるから、ちょっとだけそこで待っていて」と指示するホテルマンに従い、ひとりロビーに放置されている間、何となしに選手の情報を調べてみた。それから一時間半。23名の選手一人ひとりの顔だけでなく、利き足まで覚えるくらいの時間が経っても、僕はまだロビーで放っておかれたままだった。まぁ、東南アジアではよくあることなので、腹は立たなかった。

ところで、「過去のU-16日本代表がその後、何度も日本代表に選ばれる割合はどれほどだろうか」と疑問に感じ、調べてみたところ、各年20数名の代表選手のうち、現役で活躍している選手は約1人であることが分かった。確かに16歳の段階では身体の発達に差があるし、試合で活躍できるかは運の要素も絡む。コーチとの相性やケガの問題もあるだろう。

そうは言っても、16歳の時点で日本代表に選ばれるだけのポテンシャルを持つ選手のうち、その数%しか将来も活躍できる選手がいない、という事実には驚いた。実際、長谷部、本田、岡崎、長友……など、この10年で活躍している選手たちの多くは、16歳時点ではそこまで期待されていなかった選手ばかりだ。

ではなぜ、そういった選手が後に日の目を浴びられたかというと、それは彼らにも「チャンス」を与えられていたからだろう。日本サッカー協会は、16歳時点で選抜したトップ選手だけに集中投資するだけではなく、同年代の他の有望選手にもしっかりとチャンスを与え続けられるような仕組みをつくれたのだと思う。

際立って目立つ選手だけではなく、将来の伸びしろがありえる選手にも、最低限のチャンスは回ってくることで、未来のトップ選手の育成が図れる。そうやって日本サッカー協会はこれまで、世界に通用するような選手を輩出してきた。

「科学技術に投資せよ」ではなく、予算配分の再考を

前置きが長くなってしまったが、ここから本題に入りたい。

先日、京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル賞を受賞したというニュースが流れた。「自分がバイオテクノロジー業界で働く人間だから」というのは関係なく、本庶先生と周りのチームの方々の長年にわたる科学に対する貢献が認められたこと、その事実に接した関係者の気持ちを想像すると、とても嬉しい気持ちになった。

ノーベル賞メダル(レプリカ)

 

近年、日本人のノーベル賞受賞が続いている。彼らのような日本の科学業界の仕組みをよくわかった方々は、これまで数多くのご苦労をされてきたことだろう。しかし、1つ残念なこともある。能力はもちろん、人格的にも優れたそういった先生方が、ノーベル賞受賞のタイミングでマスコミに発表する一世一代のコメントが「日本国の科学技術投資、科学技術教育のあり方についての憂い」であることだ。

僭越ながら、先生たちのコメントを解釈すると、よくニュースで取り上げられるような「科学技術にもっとお金を使え」ということではなく、その先にある「国家予算の配分」についての指摘をしていると認識している。

誰がなんと言おうと、日本の科学技術投資の選択と集中は年々進んでしまっているのが現状だ。しかし、先生方のいうような「選択と集中が進みすぎている」という指摘に対して、「日本にはもうお金がないのだから科学技術にばかり投資できない」と答えがずれてしまっている。

これこそが、日本の科学技術投資における問題ではないだろうか。

日本にはびこる「選択と集中こそが正解だよ病」

随分前からずっと不思議なのだが、そもそも「選択と集中こそが正解である」なんて、誰がいい出したのだろう。「選択と集中」の戦略で物事をうまく切り抜けられるようなことは、本当に生きるか死ぬか、背水の陣を敷いている時くらいだと思うのだ。

今の日本の「選択と集中こそが正解だよ病」はなかなか根深く、そもそもの目的を実現することよりも「選択と集中」を行うことそのものが目的になっているんじゃないかと感じることが多い。

今の日本で行われている多くの意思決定の場面で、サッカーの例で例えると、U-16日本代表を選んだ人のメンツを潰さないということが、強い日本代表をつくることよりも優先されてしまっているように思う。

そのため、16歳の時点で選んだ選手だけに集中投資し、16歳の段階で選ばれなかった他の選手のポテンシャルに賭けることもしないというような「選択と集中が正解である」という間違えた進め方で意思決定が行われているようなことが多いように感じる。

サッカー選手の育成でも、科学技術の投資でも初期の段階で選抜してそこだけに集中投資するという戦略を繰り返せば繰り返すほど、全体としての力は落ちる一方になるのではないか。歴代のノーベル賞受賞者の先生方も、そういうことを言いたかったのではないかと思う。

手段であるはずの「選択と集中」が、目的となっている?

私は、「16歳の段階で、将来素晴らしいサッカー選手になる人物を見分けられる」なんて言葉は、伸びしろのある選手に対しておこがましいと感じる。これは科学技術の研究にも同じことが言える。「その研究が将来素晴らしい成果を残すかどうか見分けられる」なんて言葉は、科学者に対しておこがましい。

もっと言ってしまえば、どの研究が将来化けるかの判断は、16歳のサッカー選手の成長を言い当てることより遥かに難しいだろう。なぜならば、サッカーという競技のルール自体は変わらないが、科学と言う競技はルール自体を決めているので、科学研究の将来性をあらかじめ予測するのは16歳のサッカー選手の将来性を予測するより難しいためだ。

そんな中、日本サッカー協会が幅広い底上げに力を入れ、紆余曲折も有りながらも右肩上がりの成長を維持できているにも関わらず、日本の科学技術投資は過剰な「選択と集中」を強めるが故に、科学技術力の相対的な低下を招いているように感じる。

その差はいったい何か? これは1つの仮説でしかないが、日本サッカー協会の強さの秘訣は、会長の独断で物事を決められる側面が強い組織であるために「目的」がハッキリしている点にあるのではないだろうか。

その一方で、日本の科学技術投資のような“数多くの人の善意の組み合わせの上になり立っている意思決定機構”では「選択と集中を進めることが正解である」という、本来手段の一つである価値観が「目的」となってしまっているように感じる。

本来考えるべきは、「日本の科学技術をどうするべきか」ということであるにも関わらず、その手段と目的が逆転しまっているのではないだろうか、と思うのだ。