100年単位の戦い! 国産ワインは熟成し世界に通用するか

100年単位の戦い! 国産ワインは熟成し世界に通用するか

2016.02.16

2015年9月、女優でタレントの川島なお美さんが、54歳という若さで幽明界を異にした。その彼女が心血を注いだのがワイン。「ワインエキスパート」資格を取得したり、フランス三大ワイン産地の騎士号を叙任したりと、1990年代後半に巻き起こった第6次ワインブームに少なからず影響を与えた。そして現在、再びワインの人気に火がつき、第7次ワインブームが日本の酒市場を席巻している。

一過性のブームで終わらない!?

今回のブームは前回のワインブームと様相が異なる。前回、つまり第6次ワインブームは、赤ワインに多く含まれる「ポリフェノール」が健康維持に効能があると、急速に世間に知れわたったことがきっかけだった。そのため、ワイン消費量は爆発的に伸びたが、赤ワインのみ、しかも限定的な層への広がりというイメージがぬぐえない。だが、2012年から現在まで続く第7次ワインブームは、ポリフェノールのような強烈な“フック”はないものの、着実に消費者の足元に浸透してきている感がある。一過性のブームではなく、広い客層に定着する兆しがみえているのだ。

現在のブームの牽引役となっているのが1,000円以下の安価な輸入ワインだろう。チリやオーストラリアといったワイン原産国とEPA(経済連携協定)を締結したことにより、こうした安価なワインが多く輸入されるようになった。ここ数年、コンビニのお酒コーナーに陳列されている輸入ワインが増えていることがそれを物語っている。「ボジョレー・ヌーボー解禁」といったニュースに毎年触れるようになったことも、ワイン人気定着の一因かもしれない。

一方、安価な輸入ワインだけが、今回のブームを牽引しているわけではない。日本産のブドウを原料にした、純国産ワインが力をつけてきていることも今回のブームに大きく寄与している。

ワイン展を案内してくれた読売新聞 事業局事業開発部 奥田香菜氏

現在、東京・上野の国立科学博物館で「ワイン展」(2015年10月31日~2016年2月21日)が開催されているが、その展示内容にも国産ワインにスポットを当てたものが目立つ。

ワイン展の主催者のひとつ、読売新聞 事業局事業開発部の奥田香菜氏は「ワインをテーマにした大規模展覧会が行われるのは国内初」と、この展示会の希少性について前置きしたうえで「ワイナリーの楽しさやワインの歴史の深さ、ワインを科学的に分析した展示など、幅広く楽しめる内容になっています。日本のワインの歴史も学べます」と、展示の内容を解説してくれた。

国産ワイン造りの結晶「甲州」「マスカット・ベーリーA」

入館してまず目に入ってくるのが日本で生産されているブドウの写真の数々。だが、「甲州」と「マスカット・ベーリーA」の2種類のブドウだけが写真ではなく、模型という3次元の姿で展示されていた。この差別化された展示には理由がある。前者が2010年に、後者が2013年にOIV(国際ブドウ・ワイン機構)にワイン用ブドウ品種として登録されたからだ。

展示されていた「甲州」(左)、「マスカット・べーリーA」(右)の模型

日本のワイン造りは1873年に国策産業として奨励されたのが始まりだが、ブドウ生産に向かない多雨地域であること、酸味や渋味が当時の日本人に受け入れられなかったこと、そして1941年に勃発した太平洋戦争など、数多くの艱難辛苦に見舞われ紆余曲折してきた。どのようにしてブドウを育て、いかにして先の大戦を乗り切ったのか、詳しくはワイン展の展示に譲るが、日本産ブドウのOIVへの品種登録は、100年以上ものあいだ、試行錯誤と努力を積み重ねた結果といえるだろう。

ワイン展の様子に戻ろう。現存する最古の日本産ワインや世界最古級シャンパーニュ、貴重なワインデカンタの展示、ワインの香りの体験コーナーなど、興味深い内容が披露されている。2月21日までと同イベントの会期は残り少ないので、興味のある方は早めに訪れるとよいだろう。

現存する最古の日本産ワイン
世界最古級のシャンパーニュ。沈没船から引き上げたもので、日本初公開だ
貴重なデカンタの数々
圧搾を体験できる展示物。ワインの香りなどの体験コーナーなどもある
ワイン展で販売されているオリジナルの「田崎真也セレクトワイン」

なお、会場内は女性の入館者が目立った。「女性客はもちろん、ご年配の方も多く入館されています。通常、博物館はお子さまづれのお客様が多いですが、さすがにテーマがお酒なので、大人の方がほとんどです」と奥田氏は話す。さらに「ワインにご興味をもってくださる方が多いためか、オリジナルワインの売り上げが好調です(笑)」とも付け加えた。

では、国産ワインが国際的にどのような位置にあるのか……日本屈指のワインメーカーの意見を聞いてみた。

メルシャン 営業本部 ワイン営業部 企画グループ シニアワインメーカー 藤野勝久氏

メルシャン 営業本部 ワイン営業部 企画グループ シニアワインメーカーの藤野勝久氏は、「日本のワインは国際的に戦える存在になったのか?」という質問に対し、「戦える存在になりつつある」という答えを返した。

そもそも、日本のワインが国際的に頭角を現し始めたのは1980年代だという。1970年代に拓かれた長野県・桔梗ヶ原の農園で栽培され始めた欧州系ブドウ「メルロー」を原料にした「シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルロー 1985年」が、1989年のリュブリアーナ国際ワインコンクールで大金賞を受賞。以降、国内外のコンクールで最多の金賞受賞を誇る存在となっている。

和食ブームが日本産ワインに影響

また、藤野氏は、国産ワインが戦っていくステージは2種類あるという。ひとつは「桔梗ヶ原メルロー」にみられるような、欧州系ブドウを原料にした“王道”ともいえるステージ。もう一方が、甲州やマスカット・ベーリーAといった、日本独自のブドウを使った純国産ワインのステージだ。特に後者は、ユネスコ無形文化遺産に指定された和食にピッタリの存在で、今後和食ブームが世界に広がりをみせれば、自ずとその存在感を増していくと予測できる。

だが、藤野氏は、日本のワインが国際的に存在感を示すには、王道ともいえるステージで評価されるワインが重要とする。「たとえばワイン造りを体操競技に見立てると、欧州系ブドウを使ったワイン造りは『規定演技』、日本独自のブドウを使ったワイン造りは『自由演技』といえるでしょう。自由演技を極めるためには、規定演技をキッチリこなせる技術がなくてはなりません」と、ワインの門外漢である筆者にもシックリと理解できる表現で語ってくれた。

第7次ワインブームを迎えた2015年、ワインの消費量は40万キロリットル近くにのぼるのではないかとメルシャンはみる。空前のワインブームだった1998年の消費量は30万キロリットル弱だ。このように、国内でのワイン需要は大幅かつ急速に上がっているが、ワインメーカーにとっては“イタシカユシ”な需要の伸びかもしれない。それは、需要に合わせたワイン生産ができないからだ。

需要増に即応できないワイン産業

「仮に新しい農園を拓いたとして、ワイン用ブドウ農園でブドウが実るのは3年、ワインの原料として使えるブドウになるまで5年、商品として送り出せるワインの原料に育つまで10年、納得のいくワインの原料になるブドウになるまで30年……。場合によっては100年の歳月が必要になる」と藤野氏はいう。日本のワイン産業は140年以上の歴史があるが、欧州のシャトーは数百年の歴史を誇るものがザラだ。つまり、100年単位での競争を強いられることになる。

右が甲州の香りを生かした「甲州きいろ香」。左は「長野メルロー」

だが、2000年代になってからは日本のワイン造りに光明がみえる。それは、科学的な知見からワインを分析できるようになったこと。たとえば、日本独自の甲州は1300年前から栽培されているが、長いこと“アロマ”(香り)がないといわれてきた。だが、2000年代前半に柑橘系の香り成分を含んでいることが発見され、その特徴を生かしたワインが醸造されるようになった。経験と勘、ブドウ畑の質で決まっていたワイン造りに“科学”という要素が活用できるようになったのだ。

メルシャンでは、発見したワインの科学的要素を惜しげもなく公開しているという。国内のワイン醸造技術を底上げし“オールジャパン”で、日本産ワインの地位を上げるためだ。

冒頭で述べた川島さんのワインに対する情熱により、女性愛好家が増えた。ワイン展の来館者にみられるように年配のワインファンも増えている。メルシャンの調査によれば、20代のあいだでもワインを嗜好するユーザーの増加が顕著だという。日本のワイン消費量は各国に比べればまだまだ少ないが、国産ワインの熟成とともに、グンと増大する素地がある。

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NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
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○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu