【現場の声】ナチュラルチーズメーカーのパイオニア、アトリエ・ド・フロマージュトップが語る。業績好調の中大手食品メーカーに譲渡された経緯とは?

【現場の声】ナチュラルチーズメーカーのパイオニア、アトリエ・ド・フロマージュトップが語る。業績好調の中大手食品メーカーに譲渡された経緯とは?

2016.09.11

【現場の声】ナチュラルチーズメーカーのパイオニア、アトリエ・ド・フロマージュトップが語る。業績好調の中大手食品メーカーに譲渡された経緯とは?

日本で初めてフロマージュ・フレやブリーチーズを製造したナチュラルチーズメーカーのパイオニアであり、軽井沢や東京などで大人気のレストランも展開するアトリエ・ド・フロマージュ(以下アトリエ)。その本格的なチーズの味は多くのメディアでも取り上げられている。同社のチーズは世界的にも評価が高く、『JAPAN CHEESE AWARD 2014』でグランプリを受賞。さらに、フランスのトゥールで開催された国際ナチュラルチーズコンテスト『モンディアル・デュ・フロマージュ』では最高賞であるスーパーゴールドを受賞した。業績好調の中、2014年に大手食品メーカーへ会社を譲渡された経緯など、お話を伺った。

今後の設備投資や危機対応能力を考え、
経営からの引退とM&Aを決断 創業の経緯を教えてください。

 主人と私は出版社に勤めていましたが、チーズづくりをしたくてそれぞれが退社しました。大学に通ったりフランスに留学したりしてチーズづくりを学んだ後、長野県東御市に小さな工房を建てました。名づけた「アトリエ・ド・フロマージュ」という社名は、フランス語で直訳すると「チーズ工房」という意味です。

 工房は駅から遠く、創業後しばらくは非常に厳しかったです。ただ、本物の味をつくり続けていたおかげで、だんだん口コミでお客様が増えていき、6年目でやっと軌道に乗りました。今もさまざまなメディアで取り上げていただいていますが、実は私たちは広告宣伝を全然行っていないのです。

 今になって振り返ると、こだわりを持ってつくり続けてきた商品や店舗が、自分たちの文化にまでなったのだと思っています。有名な企業経営者にも「アトリエには文化がある」と言われました。フランス大使館やイギリス大使館の方もいらっしゃるし、初めて会う方にも「昔お店に行ったことがある」と言われる。感性の豊かな方々に認められ、広めてもらえる何か……パッと見ても気づかない、こだわりを持って築いてきた文化や本物感があって、今があるのだと思います。

譲渡を検討されるきっかけや経緯は?

 自分が新しい投資にちゅうちょしたときに、「あ、自分は経営者としてふさわしくないな」と思ったタイミングがありました。そこでスパッと経営からの引退を考えたのです。私はそれまで、設備投資や新商品開発に迷ってこなかったんですね。資金を借りて設備投資しても5年で返してきました。でも、私が60歳になって、借入をしたら回収までにまた5年かかりますから、どうしようかとためらってしまったのですね。いろいろな社長がいると思いますが、私自身が投資に逡巡する経営者は失格だと思っていたので、それが大きなきっかけになりました。

 もう一つ、危機対応能力への不安がありました。最近は震災などの災害が増えてきて、万が一以上のリスクを考えなければなりません。病気の主人(前社長)の面倒も見なければなりませんし、従業員も守らなければならない。5年後の自分は、危機に対してベストな対応ができるだろうか、と。ふとそう思ってしまったときに、自分は社長から退くべきだと判断しました。

 ただ、自分たちには子どもがいませんから、後継者はどうしようかと……。経営者は商品開発もして経理も見なければなりません。残念ながら、社内にはそのような人材がいませんでした。

 そんな折にビジネス誌を読んでいて、近所に引っ越してきた方がM&Aで会社を譲渡されて移住されたということを知りました。うちの店にもよく来る方で、「え、あの人が?」というのが率直な感想です。まだM&Aをするか決めていないときに、その方に声をかけさせていただき、いろいろとお話を伺いました。

M&Aはかなりのスピード成約となりました。

 私は何でもやることが早くて、4カ月で決めましょう、年内に決めましょうと、M&Aの専門家の方に伝えました。M&Aの交渉途中は非常にストレスがかかりましたけどね。

 ただ、服部さんもすぐに対応してくれて、かなり早いタイミングで6社から買収意向表明を頂戴しました。その後も意向が出てきましたし、希望通りのスピード感で対応してくれました。M&Aはやると決めたら、早く決められると思います。

M&A後は大手企業の下で複数の企画を実行
6月には軽井沢に新店舗がオープン お相手の決め手、ポイントは何だったのでしょうか?

 いくつかの要素がありますが、1つ目は経済的な条件です。2つ目は、うちの会社を認めてくれたこと。アトリエの特性や、私たちが一生懸命に考え取り組んできたことをくみ取ってくれまして、それは社長として涙が出るほどうれしかったですね。3つ目は会社の性質が似ていること。アトリエはテレビや雑誌で取り上げられますが、水面下はとても地味です。買収してくれた大手食品メーカーもすごく堅実で地味な印象があって、私はそういう体質がとても好きだったので、そこも共感しました。ただ、買収企業はその堅実すぎる部分を変えたくて、アトリエには自分たちにない文化や本物がある、と高評価を下さったのだと思います。

 今は買収企業が5年計画、10年計画というスパンで考え、東京・南青山の店を改築し、軽井沢に新店舗(軽井沢発地市庭店、2016 年6月オープン)をつくり、1億円を超える新工房を現在の工房横に建築中です。やはり大手企業は、資金だけではなく人材面もそろっているので、新しい企画を3つ一緒にできるのですね。これまでだったら全部自分でやらなければなりませんから、やりたいことの取捨選択をしなければならなかった。大手企業の下だと中小企業の限界を解決できると感じています。

今後の過ごし方について教えてください。

 私もそうですが、病気で先に引退した主人も、会社の不安がないので肩の荷が下りたせいか、「若返ったね」と言われます。今は1年を過ぎて取締役は辞退致しましたが、会長として、創業者としてアトリエをずっと応援していきたいという気持ちでいます。地域の活動にもかかわっていき、NPO法人化を考えています。

本日はありがとうございました。

お話:アトリエ・ド・フロマージュ 会長 松岡 容子 氏
M&A情報誌「SMART」より、2016年7月号の記事を基に再構成
まとめ:M&A Online編集部

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

根付き始めた「必ず座れる」通勤、 鉄道に続いてバス業界も熱視線

2018.11.19

座席指定の通勤電車から”通勤の高級化”の流れ?

ハイエンド通勤バスの実証実験を東急電鉄が実施

たまプラーザを舞台にした、日本初の郊外型MaaS

全席指定の通勤電車が首都圏の私鉄で運行され始めている。西武鉄道を主体に東急電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)、横浜高速鉄道の各路線を乗り入れる「S-TRAIN」や、京王電鉄の「京王ライナー」などだ。座席指定ではなく、着席整理券による着席定員制の東武東上線の「TJライナー」もある。

帰宅時間に運行される京王ライナー

なぜ、私鉄各社がこうした通勤電車を運行し始めたのか。ラッシュを避けゆったり座ってオフィス街に移動できる利便性を提供するためだ。京王ライナーの場合、帰宅時間に下り方面に運行されるだけだが、これも「仕事で疲れているのに立って帰りたくない」という通勤需要に応えている。

S-TRAINやTJライナーの場合、休日には観光列車としての役割も果たす。S-TRAINはデートスポットとして注目される豊洲や、“食の街”として名をはせる横浜中華街を結んでいる。TJライナーは“小江戸”と呼ばれる川越や森林の多い憩いの場「森林公園」にアクセスできる。森林公園は今の時期、紅葉をライトアップするイベントが行われており、相当の集客がある。

ただ、どちらも平日はビジネスパーソンの脚となるという特徴を考えると、観光色の強い西武鉄道の「レッドアロー」や東武鉄道の「スペーシア」とは性格を異にする。

ハイグレード通勤バスでゆったりと

こうした“通勤の高級化”が、バスにも波及しそうだ。

東急電鉄は「ハイグレード通勤バス」の実証実験を2019年1~2月に行うと発表した。

ハイグレード通勤バスの外観(写真提供:東急電鉄)

ハイグレード通勤バスは客席が24席と広々としており、しかもかなり深めにリクライニング可能。Wi-Fi対応、USB、ACアダプタも装備し、パソコンなどが置けるテーブルも用意されている。そして、長距離バスのようにトイレまで備えているのだ。

座席は3列で、シート数は24席とゆったりしている(写真提供:東急電鉄)
かなり倒れるリクライニングシート(写真提供:東急電鉄)
テーブルにPCを置いて作業可能。写真左隅にACコンセントも確認できる(写真:東急電鉄)
通勤用バスながら、トイレ洗面台を完備(写真提供:東急電鉄)

 以前、両備グループの中国バスが運用する「ドリームスリーパー」という、超高級バスを拝見したことがある。しかもこちらは、さらに座席数が少ない14席で、個室タイプだ。とはいえ、ドリームスリーパーは東京~大阪や東京~広島を結ぶ長距離高速路線バス。睡眠を取ることが必須になると思うので、個室という選択肢になったのだろう。

一方、ハイグレード通勤バスは、読んで字のごとく“通勤”という言葉が入っている。つまり、長距離高速路線バスであるドリームスリーパーとは、まったく性格が異なる。

さて、今回の実証実験では、実験区間にたまプラーザから渋谷が選択された。このたまプラーザ駅がある東急田園都市線は、首都圏屈指の混雑路線だ。二子玉川や三軒茶屋からも乗客があり、朝の通勤ラッシュはすさまじいと聞く。国土交通省によると、ラッシュ時は185%の乗車率であるらしい。この田園都市線の混雑を少しでも緩和しようと、ハイグレード通勤バスの実証実験を開始する意図がみえる。

ただ、田園都市線の混雑は、東急電鉄そのものにも原因がある。というのも、東急の本拠である渋谷の再開発を急激に推し進めたからだ。セルリアンタワーや渋谷ヒカリエ、そして渋谷ストリームも開業した。どれもオフィス、商業施設、ホテルといった施設からなる複合ビル。オフィスが増えれば通勤客が増えるし、商業施設も朝の仕込みなどでラッシュ時に通う場合も十分に考えられる。そうした混雑を緩和するために、今回ハイグレード通勤バスを実験し、本サービスにつなげたいのだろう。

一方、東急電鉄はハイグレード通勤バスだけでなく、あわせてたまプラーザでオンデマンドバスやパーソナルモビリティ、マンション内カーシェアリングの実証実験も行う。オンデマンドバスはスマートフォンで乗車予約を行い、病院や公共施設への移動手段になる。パーソナルモビリティは、坂道や細い道路を移動しやすく買い物などに向く。マンション内カーシェアリングは、余っているクルマのリソースを同じマンション内で共有しようというものだ。

東急電鉄これらを日本初の「郊外型 MaaS」(Mobility as a Service:利用者の目的や嗜好に応じて最適な移動手段を提供すること)の実験だとしている。

このMaaSという考え方には、あのトヨタ自動車も積極的だ。トヨタは東京2020オリンピック・パラリンピックを舞台に「Mobility for All」を実現したい考え。パーソナルモビリティもこの施策に組み込まれる。

トヨタが実用化を進める「i-ROAD」(写真提供:トヨタ自動車)

 東急電鉄は実証実験でどのような結果を得るのか。“地獄”とも表現される通勤ラッシュの課題や少子高齢化への対応、高齢者の移動手段確保など、MaaSが貢献できる問題解決はさまざまだ。たまプラーザ~渋谷という、屈指の住宅街と屈指のオフィス街を結ぶこの取り組みが、“住みよい街づくり”にどのように関わっていくのか、楽しみだ。

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

カレー沢薫の時流漂流 第16回

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

2018.11.19

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第16回は、Apple製品ユーザーを襲う「AirDrop痴漢」について

我々の生活はありとあらゆるものが電子化し、飛躍的に便利になった。

しかし、あらゆるものの中には当然「犯罪」も含まれ、さらに「痴漢」まで含まれるようになってしまったのだ。

皆さんはiPhone、iPad、Macなどを使っているだろうか。そして満員電車など人が密集する場所へ行く機会が多かったりするだろうか?

上記に当てはまる人、特に女性は注意が必要である。私はと言えば、スマホはアソドロイド、パソコンはウィソドウズ、人ゴミどころか人がいるところにさえ滅多にいかないので鉄壁と言える。

「IT露出狂」の出現

最近、Apple製品を使用した「AirDrop痴漢」なるものが現れているらしい。「痴漢も電子化の時代、わざわざ相手の前に立って局部を見せるような奴は時代遅れですよ」と「AirDrop痴漢」がろくろを回すポーズで語っているかは知らないが、当然褒められたことではない。

「AirDrop」とは、Apple製品間でデータをワイヤレスで送り合うことができる機能である。自分のMacからiPhoneにデータを送ったり、iPhone同士で友人と写真を共有したりできて便利なものだ。しかし、「AirDrop」は登録いらずで簡単な一方、半径9メートル以内にいる「AirDrop」をonにしている相手になら、誰にでもデータを送れてしまうのである。

これを使って画像を共有しようとすると、「Petagine's_iPhone」など、近くにあるApple製品の端末名が表示される。ペタジーニのiPhoneなら止めておこうと思うかもしれないが、ここで「Danmitsu's_iPhone」とか、明らかに女性と思われ、しかも何かエロスを感じる(※個人の感想です)名前を見つけた場合、その端末にわいせつ画像などを送り付ける、というのが「AirDrop痴漢」の概要である。

相手に直接手を触れるわけではないので、人が多い場所だと送ってきた相手の特定はかなり難しい。被害者はわいせつ画像を見せられた不快感と、周りにそういう人間がいるという恐怖感を味わうことになり、加害者はそれを見て楽しむという、いわば「IT露出狂」だ。

便利な機能が出来るたびに、それを使った犯罪が現れるのが世の中というものだが、これも「AirDrop」の機能を悪い意味で上手く使った犯罪である。その知恵を他の事に生かせなかった上に、そういった行為を「楽しい」と思うセンスに生まれて来てしまったことは二重に不幸なことだ。

被害者は女性が多いが、男性でも被害を受けることがあり、グロ画像を送られてきたという被害もある。

また、俳優の加藤諒さんは新幹線に乗っていたところ、車内で携帯をいじっている自分の後ろ姿の写真が「AirDrop」に送られてきたと言う。わいせつ画像でなくても、「お前のことを見ているぞ」というストーカー的恐怖感を相手に与えることも可能なのだ。

被害と「誤爆」を防ぐシンプルな解決法

「AirDrop痴漢」を防ぐ手立てはないのか、というと意外と簡単で、平素は「AirDrop」の設定を「受信しない」にしておき、使う時だけonにすれば良い。

そのほか、名前や性別を特定されないように、「Gorira's_iPhone」など、ユーザーネームを変更しておくのも効果的だ。

画像を共有する相手などいないという人間は、Apple製品を買ったらまず「AirDrop」機能を切るぐらいでもいいかもしれない。何故なら、この「AirDrop痴漢」は知らず知らずのうちに加害者になる可能性もあるからだ。

恋人に送るはずだった語尾が「ぞえ♪」のLINEを上司に送ってしまったり、ツイッターのアカウント切り替えを忘れて美容垢に推しカプがどれだけ尊いか語ってしまったりするような「誤爆」が「AirDrop」でも起こるのである。

しかも、LINEなら登録してある相手にしか送らないだろうし、SNSならある程度他人が読むことを想定して投稿するだろうが、「AirDrop」の場合、半径9メートル以内にいる赤の他人に、1人で楽しむためだけのお宝画像を送ってしまうという事態になりかねないのだ。受信してしまった方も不幸だが、送った方もある意味それ以上不幸である。

このように、「AirDrop」は便利だが、意図せず自分の性癖を含む個人情報を流出させてしまう恐れもあるため、使う時だけonにするのが今のところ一番良いかと思われる。

ちなみに、この「AirDrop痴漢」は犯罪にならないかというと、もちろんそんなことはない。わいせつ画像を送るのは「猥褻物頒布罪」になり得るし、わいせつでなくても相手が不快に思う画像を送り付けるのは「迷惑行為防止条例」違反になる場合がある。

実際、電車内で「AirDrop痴漢」を80件以上繰り返したという男が書類送検されたという。送信者が特定しづらいと言っても「本気を出せば特定できるしバッチリ逮捕もされる」ということはすでに実証されているので、もしイタズラ感覚でやっている人間がいるなら、逮捕されない内に今すぐやめた方がいい。

このような使い方は、Appleが想定していなかったことだろう。つまり、最初に考え着いた人間は、アイディア力にすぐれている。

その力を犯罪以外に使えなかったのは、重ね重ね残念である。