フェイスブックが「WhatsApp」の収益化に本腰? 機能がダブるメッセージアプリの位置づけ

フェイスブックが「WhatsApp」の収益化に本腰? 機能がダブるメッセージアプリの位置づけ

2016.09.12

フェイスブック傘下のメッセージアプリ「WhatsApp」は、Facebookアプリとの間で、データの連携を行う規約変更を行った。2016年1月に年間1ドルの利用料を廃止しており、フェイスブック流の収益化に向けて加速することになる。一方で、WhatsAppのデータ共有は、ユーザーやプライバシー団体から早くも反対の声が上がっており、WhatsAppをフェイスブックに売却した創業者らは頭を抱えているかもしれない。

フェイスブックに買収されたワッツアップ

ワッツアップは2009年創業のインスタントメッセージプラットホームを提供する企業だ。1通ごとに料金がかかるSMSのかわりに、年間1ドルの使用料で広告なしで無制限にメッセージのやりとりができる、クロスプラットホームのスマートフォン向けアプリとしてWhatsAppは人気を博した。

フェイスブックが買収したWhatsAppアプリ

2009年を振り返ると、iPhone 4が登場し、Androidデバイスも充実し始めた頃。しかしBlackBerryやWindows Mobile(現在のWindows Phone)、Nokiaといった、複数のスマートフォンプラットホームが乱立しており、その垣根をまたぐメッセージサービスとして重要度が高かった。現在、月間ユーザー数は10億人を超えている。

フェイスブックがワッツアップを220億ドルで買収したのは2014年2月。当時の従業員は55人。ワッツアップの売上は1020万ドルに対して、1億3800万ドルの赤字企業だった。しかし、買収発表後、フェイスブックの株価は20%の上昇があった。

今回の規約変更のインパクト

フェイスブックのワッツアップ買収後、2016年1月に前述の1ドルの年間使用料の廃止し、4月にはユーザー間のエンドツーエンド暗号化を実施するなど、機能面、サービス面での変革が進んできた。そして今回、Facebookアプリとのデータ共有を含む規約変更が発表された。

FacebookとWhatsAppとのデータ共有によって、電話番号などの情報をFacebookと共有することになる。これによってユーザーは、WhatsApp上での知り合いかもしれない他のユーザーを見つけやすくなるなどのコミュニケーション上のメリットが得られるとしている。

その一方で、WhatsAppはこれまでのプライバシー方針を変えないことを買収後にも明言してきたことから、その方針が変わってしまうのではないか、という懸念が拡がっている。同社のブログでは2012年にも、広告に対して「人々の知性を冒涜する」との痛烈な批判を行ってきた。

しかし親会社となったフェイスブックは、人々のデータを使った広告の最適化を行い、収益を伸ばしてきた企業だ。前述の通りエンドツーエンド暗号化によって、WhatsAppもFacebookもメッセージの中身について知ることはできないとしている。

今後、ユーザーからの利用料収入の代わりに導入されるとみられる、企業向け有料アカウント。ユーザーと企業がWhatsApp上でつながっているかどうかというデータは、フェイスブックにとっては、非常に精度の高い行動や趣向のデータとなり得る。フェイスブックが今後、メッセージングとSNSの両面を通貫する企業向けのサービスを用意することは容易に想像できる。

買収後のFacebook中での位置づけとは

2016年4月に行われたフェイスブックの開発者向け会議F8では、ボットの利用なども可能なFacebook Messengerのプラットホーム化について、その説明に多くの時間を割いてきた。

Facebook Messengerも、個人間、そしてグループでのメッセージのやりとりが可能なアプリであり、WhatsAppとその役割が重複する。ただし、WhatsAppの方がその月間ユーザー規模が大きかったことから、フェイスブックによる買収については、特に疑問を挟む必要はないだろう。

ちなみに、フェイスブックは、ユーザーの平均年齢が圧倒的に低いSnapchatアプリについても、およそ3000億ドルで買収提案を行っていたことから、メッセージングプラットホームを全方位で押さえようとしていたことが分かる。現在、Snapchatの月間ユーザー数は既にTwitterより大きい、1億5000万人を超え、企業向けアカウントによる独自の収益化にも着手している。

F8 2016では、WhatsAppとFacebook Messengerが1つのスライドで紹介される場面があった。プレゼンテーションに立ったフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、WhatsAppについては「One-to-One」(1対1)、Messengerを「Small Group」(小グループ)とし、その位置づけの違いを強調した。

WhatsAppについては「One-to-One」(1対1)、Messengerを「Small Group」(小グループ)とし、その位置づけの違いを強調
WhatsAppとFacebook Messengerの送信メッセージ数の違いなどを説明するも機能面ではあまり違いはない

ただし、WhatsAppもグループメッセージが可能だし、Messengerでも1対1のメッセージが主流であり、機能面の差はなくなりつつある。Messengerだけで企業とのコミュニケーションを取ることも可能になった。

WhatsAppがMessengerのように、企業向けにアカウントを解放する際、どのように差別化するのか注目すべきだ。あるいは、複数のチャネルを生かしながら、双方でサービスが提供できるようにするだけかもしれない。

メッセージングビジネスの競争はどうなるか?

メッセージング市場は、2016年以降、さらに競争が激化することになる。2016年夏に、日本発のLINEが日米市場で株式公開をした。センスの良いコミュニケーションとビジネスが世界でいかに受け入れられるかに注目が集まる。またグーグルは、新しいメッセージングアプリAlloをリリースする予定だ。人工知能Googleアシスタントを搭載している点が売りで、新たな賢いメッセージング体験に期待が集まる。

グーグルは新メッセージングアプリAlloを近々リリース予定。画像認識を行い即座に返信可能なスマートリプライ機能を備える

アップルは、iPhone・iPad・Macでやりとりができる独自のメッセージサービスiMessageで、開発者やクリエイターがiMessage向けにアプリの機能やスタンプを販売することができるようにした。

iPhoneに新たなアプリを入れなくても、電話番号だけで利用できるサービスのプラットホーム化は、Androidユーザーを全て無視したとしても、手強い相手となる。特にアップルは、2016年初頭、テロ犯のiPhoneのロック解除でFBIと論争を巻き起こし、個人のプライバシーを重視する方針を強調した経緯がある。

LINEの乗っ取りや、グーグル、フェイスブックによる個人利用活用を前提とした広告モデルの存在と一線を画す「iMessageならではの特徴」として、アップルは今後もプライバシーを争点にしていきたい考えだ。

乱立状態のメッセージング競争だが、あまり「一つのサービスに集約されていく」という考えを持たなくても良いかもしれない。例えば、若者がInstagramやFacebookよりも、Snapchatを好んで使っている理由は、ネットワーク上に「親がいないから」。

米国では世代ごとにサービスを使い分ける様子が顕著であり、フェイスブックが「自社のMessengerもWhatsAppも保持したい、Snapchatも欲しい」と考える理由でもある。そのため、WhatsAppもMessengerも、並列したメッセージングチャネルとして、同じビジネスモデル、すなわち企業ユーザーへの課金を行っても驚きはない。

日立があえて行った、縦型洗濯機の「控えめ」なリデザイン(前編)

モノのデザイン 第48回

日立があえて行った、縦型洗濯機の「控えめ」なリデザイン(前編)

2018.12.19

日立の縦型洗濯乾燥機「ビートウォッシュ」が進化

AI搭載、洗剤自動投入など機能面が充実

製品の外観は「控えめ」な変更に見えるが、実は…?

日立アプライアンスから11月に発売された、縦型洗濯乾燥機の「ビートウォッシュ BW-DX120C」。独自のパルセーターと大流量のシャワーで、節水性を担保しながら繊維の奥に潜む頑固な汚れまで洗い上げる、"ナイアガラ ビート洗浄"による洗浄力の高さで定評のあるシリーズだ。

2018年の新モデルでは、今年の洗濯機市場全体におけるトレンドにもなった、人工知能(AI)機能を搭載。最適な洗い方や時間をAIが自動で判断するという最先端の機能に加えて、洗剤や柔軟剤を自動で計量して投入してくれる機能を搭載するなど、大幅な進化を遂げた。

11月発売の日立アプライアンスの縦型洗濯乾燥機「ビートウォッシュ BW-DX120C」。機能はもちろんのこと、外観上も大幅な進化を遂げた。これまでのデザインの流れを継承し、パッと見ではわからないかもしれないが、機能美を積み上げた

そして、外観もパッと見はシリーズの意匠をしっかりと継承しつつ、実は大きく変化し、2018年の「グッドデザイン賞」に選ばれている。今回はビートウォッシュの新モデルのデザイン、および設計・機構に携わった2名の関係者に、新製品の開発経緯をはじめ、デザイン・設計上のこだわりのポイントや、製品化までの道のりとその過程における知られざる裏話やエピソードについて語っていただいた。

外観、それにつながるおよび機構・設計部分を担当した、日立製作所研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部のデザイナー・二宮正人氏(左)と、設計・機構を担当した、日立アプライアンス 家電・環境機器事業統括本部 多賀家電本部第一設計部技師の宗野義徳氏(右)

使い勝手向上のため、設計上の課題を解決

新しくなったビートウォッシュのデザインは、過去のモデルに比べて、よりシンプルかつスッキリとした印象だ。例えばその1つとして具体的に挙げられるのが操作部。従来製品では、操作部は本体の最も手前部分にあり、その後ろに衣類を出し入れする投入口が配置されていたのに対して、新製品では天面のフタの部分にあたるガラスパネル上に移動している。

コース名や残り時間など表示部分は、LEDでガラスパネル上に必要なもののみ現れる仕組みで、もちろんそれを直接触れて操作が行える。これまでの洗濯機では操作ボタンが並んでいたはずの手前部分にはスタートボタン程度しかなく、かなり思い切った仕様の変更とも言えるが、その理由には、実は前述の"洗剤・柔軟剤の自動投入"機能を実現したことによる、必然的な流れでもあったそうだ。

最もわかりやすいところで変化したのは、天面のガラスパネルに搭載された操作部。従来は、本体側の手前部分にあった

というのも、自動洗剤投入機能が追加されたことにより、まずは洗剤や柔軟剤をセットしておくタンクが増設されることになった。これをどの位置に配置するかを考えた際に、ユーザーの操作動線から言っても、最も手前側にあるのが理想的だ。しかし、設計・機構の面から考えると、ベストなのは本体下部、あるいは後方だったという。日立アプライアンス 家電・環境機器事業統括本部 多賀家電本部第一設計部技師の宗野義徳氏は次のように話す。

「給水経路を上から下へ通す関係で、設計側としては、本当はタンクは本体の下側か背面側に設置するのが一番です。それを手前側にすることで、経路をわざわざ後ろから手前側に伸ばさなければならなくなり、決まった外形寸法内にそれらを収めなけばならず、一筋縄ではいきません。タンクを下に配置したほうが省スペースになって設計上は容易なのですが、お客様の使い勝手を考えると、必然的に一番上の手前側がベストだということで、使い勝手と構造上の課題解決の両立に挑戦しました」

従来は操作部が配置されていた場所に、洗剤用のタンクを備えたことで、次に検討しなければならないのが操作部の位置だ。全体を考慮した結果、操作部は天面のフタ部分に配置する以外の方法がなかったわけだが、宗野氏によると実はこの仕様は以前から検討はしていたものの、ある理由から見合わせていたのだという。

「実は以前から、もう少し大きな操作パネルにしてほしいという要望もありました。ただ、天面のフタに操作部を配置する場合には、操作は一度フタを閉めなければできません。そして、その後に洗濯物の量が操作パネルに表示されてから改めてフタを開けて既定の量の洗剤を投入するわけですが、操作動線としては一行程が増えてしまうため、採用を躊躇していたんです。それが、今回のように自動投入ができるのであれば、洗濯物を中に入れた後は1度スタートボタンを押すだけ。そういう意味では、天面のフタに操作部を設けることができたのは、自動投入機能が追加されたからこそ実現できた仕様でもあるのです」と宗野氏。

右側が従来モデル。左の新製品と並べると、一見すると同じように見えるが、手前の操作部が大きく異なる

仕様変更がもたらした「改善」と「挑戦」

操作部が手前側でなくなったことで、衣類の投入口の位置や大きさの改善につながった。新製品では、衣類投入口が従来よりも手前側に移動し、高さもより低い位置となり、出し入れがしやすくなった。さらに、物理的な変更だけでなく、デザイン上もその機能を際立たせる工夫が凝らされている。日立製作所研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部でデザイナーを務める二宮正人氏は、「入れやすそうなデザインというのをかなり意識しました。投入口の段差も一切なくしてなだらかな形状にし、衣類が滑るように中に入るようなイメージです」と語る。

操作部が手前側からなくなったことで、衣類の投入口が手前側へ移動し、高さも低い位置となった。デザイン上も、衣類を出し入れやすいよう、上方向になだらかに広がっていく形状が意識されたという
上側の部分は、横から見ると斜めにカットしたような形状で、衣類の投入口が前方に寄ったことで中を見やすく出し入れがしやすい高さにもなったことがわかる
3D CADで検討された、本体や衣類投入部などのデザイン案の一例

一方、操作部が天面のガラスパネルに移動したことで、新たな課題にも直面した。中でも最も大きかったのは"視認性"。二宮氏が"想定外"と語ったのは次のような点だ。

「ガラスパネルの透過性を高くするために、ベースの白色をちょっと暗くしたり、メタリックの粒子を弱めたりとかなり調整をしています。やるならとことんやろうということで、実は前のモデルと比べてさらに白く、メタリックの量も多くすることで、より美しいガラスの質感を演出しました。しかし、それでいてLEDの視認性はよくする必要があります。ある程度までは実現できたものの、今度はLEDが強すぎて、文字のインクがぼやけて見づらくなってしまうというジレンマに陥ってしまいました」

そこで取られた方策は、印刷の工程を複数の層に分け、それぞれを薄くして、透け感を調整していったとのこと。「2日間で全部で45種類ぐらいのサンプルを作りました。試行錯誤を繰り返してとことんやりましたが、だんだん感覚が麻痺してきてしまって、見極めるのも大変でした」と、宗野氏は笑いながら振り返った。

"自動洗剤投入機能"という新機能。前編となる今回は、それがもたらした、思わぬ偶然とも必然とも言えるデザインへの影響について語っていただいた。後編の次回は、洗濯機に限らず、日立が家電製品全体において意識するデザインのコンセプトや、それを目指す上で今回の新製品が特にこだわったポイントを中心に、掘り下げてみたい。

バイク市場は退潮していなかった? 日本で存在感を高めるトライアンフに聞く

バイク市場は退潮していなかった? 日本で存在感を高めるトライアンフに聞く

2018.12.19

スタンダードモデルとして登場した2台の2019年モデル

トライアンフを躍進に導く3つの成長戦略

野田社長を直撃! 日本でシェアを拡大できる理由とは

国内4大メーカーが圧倒的なシェアを握る日本の二輪車市場。海外メーカーはいわば“オマケ”的な存在で、一部の根強い愛好家の乗り物とか、ファッションでいうところのハイブランドといったようなイメージが一般的なのではないだろうか。そんな中、日本で勢力を伸ばしているのがトライアンフだ。

トライアンフは1902年にイギリスで誕生したブランドで、現存する世界最古の二輪メーカーに数えられる。同社が日本で成長を続けられる理由について、新製品発表会に登場したトライアンフモーターサイクルズジャパンの野田一夫代表取締役社長に聞いてきた。

トライアンフの「ボンネビル」シリーズで最もモダンな「Street Twin」の新型モデルが登場

エンジン性能が大型アップデートされた2019年の新モデル

トライアンフモーターサイクルズジャパンは、12月15日に2台の2019年モデルを発売した。同社で最も成功を収めたモダンクラシックバイクであり、販売戦略上も重要なモデルという位置付けの「New Street Twin」と、先代モデルに比べオフロード性能が向上した「New Street Scrambler」だ。

右側高めを取り回す2本のエキゾーストパイプが印象的な「New Street Scrambler」

大幅な改良を経て登場した新型モデルだが、中でも両車に共通するエンジンの進化には目を見張るものがある。搭載するのは900ccの高トルク「Bonnevileエンジン」で、最高出力は先代モデルの55PSから65PSへと大幅に向上。特に3,500~5,500回転での出力が高まっているため、その違いは乗った瞬間に感じられるという。さらに、回転数は従来型に比べプラス500回転の7,500rpmに増加している。

先代モデルと比べて18%の出力アップを実現した水冷SOHC並列2気筒8バルブ270°クランクエンジン

同様のアップデートが施された両車だが、吸排気システムの違いからそれぞれ異なる特徴が表れているのも面白い。「New Street Twin」はトライアンフ伝統のブリティッシュパラレルツインのフィーリングが向上。回せば回すほどに、フレキシブルで伸びのある爽快な走りが楽しめる。一方の「New Street Scrambler」は、大音量のスクランブラーサウンドが体に響きわたるような迫力ある走りが特徴だそうだ。

エンジンの出力強化に伴い各パーツも見直した。フロントブレーキには新たにブレンボ製の4ポットキャリパーを採用。フロントフォークはカートリッジ式フロントフォークに変更するなど足回りを強化してある

価格は「NEW Street Twin」が105万600円(税込)からで、「New Street Scrambler」が128万100円(税込)からとなっている。価格の上昇が最低限に抑えられているのは、同社がこの2モデルをエントリーモデルと位置付けているため。トライアンフ入門車として幅広いユーザーに訴求し、いずれは1,200ccなどの他モデルに移行する足がかりとしてもらう戦略だ。

トライアンフの躍進を支える3本の柱

グローバルで見たトライアンフの販売台数は、2007年から2017年までの10年間で160%も伸びている。日本での登録実績は2017年に初めて1,800台を超え、最終的には1,876台を達成した。近年最も成長したブランドの1つといえる。

リーマンショックなどの世界的な大不況の中でもトライアンフの販売台数は堅調に推移してきた

新製品発表会に登壇したトライアンフモーターサイクルズジャパンの野田社長は、同社が日本で成功している秘訣について「ブランドの浸透」「販売店舗の改変」「新商品攻勢」という3つのポイントをあげた。

まず、ブランドの浸透に大きく関係したのがハリウッド映画への登場だ。トライアンフのバイクといえば、古くはスティーブ・マックイーンの代表作の1つ『大脱走』のイメージが強いが、近年も『アントマン』『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』『オーシャンズ8』といった作品で活躍している。いずれも話題作であったため、知らないうちにその姿を目にしていた人も多いはずだ。

販売店舗の改変については、「せっかく良いものを買っても、店舗が汚ければ満足度は決して高くはならない」との信念に基づき、かなり力を入れて推し進めているという。2017年に東京都・吉祥寺にオープンした「トライアンフ東京」を例に取れば、1階は黒と白を基調にしたお洒落なデザインで、240㎡を超えるゆったりとした店内にバイクが展示してある。2階は木のぬくもりを感じながらリラックスできるスペースとなっている。

最後に、野田社長が最も強調していたのが新商品攻勢だ。トライアンフは2016年にスタートした「第1弾商品大攻勢」で27モデルを市場に投入。大幅に商品を増やした背景としては、競合ブランドに比べ同社のモデル数が少なかったという事実も指摘できるが、闇雲にリリースしたわけでもないことは、その商品構成を見れば分かる。

以前は長距離走行に適したツアラーなども展開していたトライアンフだが、自社のキャラクターには合わないと判断し、第1弾新商品攻勢では強みとするクラシックモデル路線へと大きく舵を切った。当初は900ccだけだったラインアップも、現在は1,200ccを生産するなど選択肢の幅を広げている。

また、野田氏は今回の2モデルを皮切りに、2019年にかけて「第2弾商品大攻勢」をかけることを発表した。月間1台以上という他メーカーには真似できないペースで新モデルを投入し、さらなる躍進を期する考えだ。

2019年6月頃には“一目見てすごい”と思わせる隠し玉を用意しているとのこと。今後の動向から目が離せない

支払われた対価に対して最大限のリターンを提供

現在、日本の二輪業界では、若者のバイク離れによりユーザーが減少していて、バイク乗りの高齢化も進んでいる。それに伴い、国内販売数も全体的に右肩下がりという厳しい状況だ。こうした現状をどう捉えているか野田社長に聞いてみると、その認識は「ある意味で正しく、ある意味では間違っている」との答えが返ってきた。

「全体でいえば確かに減少傾向にありますが、そのメインはスクーターなどの実用の部分なんです。趣味性の高い大型バイク自体はそんなに販売台数が減っていなくて、年によっては増加しています。トライアンフは『移動体』という部分よりも、趣味性に特化しているというところが、まず1つの大きな成功要因ですね」

発表会場には同社がインスピレーションパッケージと呼ぶカスタム心をくすぐるイメージを展示。こちらはトライアンフのデザイナーによるセレクトだ

確かに、ほぼ日本専用のガラパゴスアイテムといえる50ccバイク(原付一種)は、風前の灯とも思えるほど厳しい状況にある。2020年から始まる次期排ガス規制に対応するためのコスト増や、世界基準の最低排気量125cc以下(原付二種)への移行、軽四輪や電動アシスト自転車へのシフトなどが背景だ。

それに対し、250ccを超える趣味性の高いバイクの需要については、ある程度維持できているというのが野田社長の考えだ。とはいえ、こうした傾向はすべての二輪メーカーに対していえること。その中で、特にトライアンフが成長を続けている理由はどのあたりにあるのだろうか。

「トライアンフが販売台数を伸ばしている理由は、一貫性があって良いものを作り続けているからだと思います。これはオーナー企業だからできることですが、“バカ真面目”というか、ちゃんと良いものをしっかりと作ろうという思いが大きい。時には、ちょっとやりすぎなんじゃないかと思うこともあるほどです」

“For the RIDE”をブランドテーマに掲げるトライアンフのバイク開発は、細かな部分に至るまで一切の妥協がない。そんな同社が月1台以上のペースで新モデルを投入することについて、野田社長は「他メーカーにはできない」と胸を張った

ホンダ、カサワキ、ヤマハ、スズキという世界の4大バイクメーカーを有する日本には、カタログスペックで優れた多くのバイクが乗り継がれてきた歴史があり、日本人のバイクに対する目も肥えている。そんな日本で、厚めに設計したハンドル径や手塗りしたピンストライプの塗装など、細部にまで凝ったトライアンフのバイクづくりが“本物を求める欲求”にマッチした。これが、同社が日本で成功している要因なのではないだろうか。

趣味性の高い大型バイクであるがゆえに、ユーザーは出した対価に対して相応の意味や価値を見出したいと考える。それらを最大化していくことこそ、トライアンフの差別化戦略なのだろう。