川を臨むテラス席!東京版“川床”成功のカギは

川を臨むテラス席!東京版“川床”成功のカギは

2016.09.13

東京の水辺ににぎわいを創出すべく東京都建設局が進めている社会実験“かわてらす”。京都の“川床(かわどこ)”の東京版だ。前回は“かわてらす”について東京都に話を聞いたが、今回は実際に“かわてらす”に参加した2店舗のリアルな声を取材した。

1:日本橋 老舗の味で真の地域貢献を実践

日本橋川沿いにある、日本の食をテーマにした文化情報発信型飲食店「豊年萬福(ほうねんまんぷく)」。都内で初めて“かわてらす”をオープンした店としてニュースにもなった。

豊年萬福(ほうねんまんぷく)」東京・中央区

場所は、麒麟の像でおなじみの日本橋すぐ近く。川向こうには日本橋~神田川~隅田川を通る遊覧船の発着所があり、乗船客へのPRには抜群の立地ともいえる。目の前を走る巨大な首都高を、下から眺めることができるのもこの場所ならでは。取材した日は、外国人観光客も多く、テラス席で記念撮影をする人の姿もみられた。

同店のテラス席からは遊覧船の発着所が見える

取材に応じてくれたのは、同店店長の星野太助さん。「うちは2013年のオープン時から、テラス席を設けていました。それを今回の“かわてらす”参加によって拡張したのです」。開店当初は、同店の敷地内に収まる範囲で野外の席も設けていたが、東京都からの声かけもあり、河川敷地にまでテラス席を拡張した。

「豊年萬福」の星野太助店長

“かわてらす”とは、このように事業者の敷地を越えて、河川敷地にまで突き出した施設を設けている。

同店にとっては新たな工事費用も必要となるが、どのようなメリットがあるのだろうか。 元々あったテラス席だとスペースもあまりなく、拡張という話が渡りに船だったこと。さらに都内初ということで同店が注目を集めると、日本橋の地域全体の活性化に貢献できるのではないかと考えたためだという。実際、社会実験をスタートさせる際には多数のメディアの取材が入り、日本橋エリアに目が向くひとつのきっかけにもなったという。

“地域のために”と言葉を重ねる星野さん。実は「豊年萬福」は“かわてらす”参加以前から地元に受け入れてもらうことに力を注いでいたという。

「日本橋の一帯は昔から地元に根付いた人たちが多いのです。だから“新参者”の私たちは、商店街の集まりに何度も顔を出し、地域に溶け込む努力を重ね、出店の折り合いをつけるのに、3年かかりました。社会実験参加の際にも話をしましたし、“かわてらす”の実験期間が終わってからも、地元の了解を得てから契約更新をしました。そこはやはり筋を通さないと」(星野さん)。

豊年萬福(ほうねんまんぷく)」のテラス席

現在星野さんは、町内会の青年部に入り、地域の祭りにも積極的に参加している。午後10時以降はテラス席のBGMを止めるなど、近隣への配慮も忘れない。多大な努力と些細な気遣いの積み重ねにより、売上げは“かわてらす”参加前に比べ増加したという。

「客層はガラッと変わりました。これまでランチタイムはビジネスマンが多かったのですが、“かわてらす”参加後は観光客が目に見えて増加しました。特に、世界的な旅行ガイドブック『ロンリープラネット』に載ったこともあり、外国のお客様が目立ちます」と星野さん。

「豊年萬福」のHPより

同店はさらに、日本橋の老舗の味を提供する“地産地消”にもこだわる。にんべんの鰹節や山本海苔店の海苔といった名店が立ち並ぶ日本橋。お品書きを見ると、「日本橋神茂さん」「日本橋鮒佐さん」……と店名が目立つように書かれ、隣に各店舗の食材を使ったメニューが並んでいる。品名よりもお店の名前が前面に出ているお品書きも珍しい。

「食材の一部は店内で買えるようにしています。あるようでなかった取り組みだと自負していますし、お客様に日本橋ブランドを知ってもらうことで、真の地域貢献ができていると思っています」(星野さん)と文化情報発信型飲食店と名乗る理由がこれでわかる。

地産地消というコンセプト。そして“かわてらす”参加で日本橋界隈における異端の存在となった「豊年萬福」。地域活性化に貢献し、客も増加。問題はないように思えるが、クリアしたい課題も残っていると星野さんは言う。

日本橋川の上にかぶさる首都高

「気になるのはやはり首都高の圧迫感。現在 “日本橋再生計画”という再開発が進行中で、首都高の橋桁を地下に移すかどうかが話し合われています。それと、日本橋川は他の河川に比べ流れが遅い。そのため、川の透明度も悪いのです。もう少し綺麗になるといいかなと」(星野さん)。

今後、日本橋川が“かわてらす”で埋め尽くされるには、日本橋エリアの再開発の行方にかかっている。

2:若者増加の蔵前 課題は冬季の運営

初めての社会実験となった「豊年萬福」から2年。2016年7月から“かわてらす”に参加したのが、バルニバービが運営する食堂&呑み「ボン花火」。

「ボン花火」東京・台東区

最寄り駅は蔵前駅で、少し歩けば観光地・浅草という好立地。2階のテラス席に通されると、目の前に川幅の広い隅田川が広がる。遊歩道も整備され、川向こうにはスカイツリーが一望できるなど、ロケーションは最高だ。

テラス席からはスカイツリーがよくみえる!

バルニバービは、レストラン企画や運営を手がける会社で、地域の特性にあわせ、1店舗1店舗それぞれ違った個性を持つ店作りを得意としている。

どの場所に出店するかは、同社の佐藤裕久社長の「この場所に人が集まる様子が想像できる」という直感からはじまるのだという。“地域に溶け込む”店作りを自負している同社とあって、地域との境目となるテラスを活用した店舗が多いそうだが、それも佐藤社長がフランス・パリのセーヌ河沿いのカフェで水面の魅力に目覚めたからなのだという。

「隣のマンションに住むおじさんが、店のオープン前に入ってくるのですよ。こちらも『どうぞ』ってお迎えします。下町ならではの光景ですよね」。そう笑うのは、バルニバービ営業開発部の藤井菜央さんだ。

バルニバービの藤井菜央さん

ただ、この地元密着の光景が日常となるには、「豊年萬福」同様、長い道のりを要した。 「『ボン花火』の近くにMIRRORビルという複合商業施設を5年前にオープンしました。当時の蔵前は、個人経営のレストランなどはあるものの、大きめの商業施設がなく、騒音や匂いの問題もあり、近所からご指摘を受けることもありました。でもスタッフ自ら地元の方に挨拶に行ったり、周辺の掃除をしたり。そういう地道にコミュニケーションを続けた結果、祭りの神輿を担ぐまでの関係になりました」(藤井さん)。

MIRRORビルでのノウハウを参考に、2015年「ボン花火」をオープン。その翌年、元々12席あったテラス席を広げ“かわてらす”の社会実験を段階的に展開してきた。

最初のハードルとなったのは、河川敷地占用許可の申請書類の作成。

「何十種類もの書類を提出しましたね。加えて近隣の約30世帯と企業を一軒一軒まわり、署名をもらいました」(藤井さん)。

店の周りにはマンション、企業なども

住民の賛同を得るためのルールとして、「夜午後7時以降の予約は4人以上で取らない」「ビル側から見ても河川側から見ても景観を損なわないよう、植栽をたくさん置く」といった取り組みを実践する同店。

植栽をおいて、周辺住民の生活に配慮

その後、テレビや雑誌などに取り上げられたことによりテラス席を希望する客が増え、かわてらす開始から1カ月ほどしか経過していないが、すでにランチタイムの売上げは2倍になった。

そんな同店だが、課題は「冬のテラス運営」だという。

「屋根もなく吹きさらしなので当然寒くなりますよね。だからといって、テラス席を使わないと風化してしまう。なので、冬の間はこたつ席に変えることも検討しています。実際、当社が経営する両国テラスでは、秋冬の間は“こたつガーデン”となり、『鍋プラン』を用意しています。これも店舗デザインすべてを社内で手がけている強み。一年を通してテラスの楽しみ方を提案していければ」(藤井さん)。

冬のテラス席活用は、実験期間2年の間で減価償却できるかどうかにも大きく関わってくる。

「現時点で減価償却できるかは正直分かりません。ただ水辺の賑わいはお金にかえられないもの。冬のテラス運営は近々の課題ですが、今後は屋形船をおりた後に『ボン花火』で食事をしてもらうなど、“かわてらす”を使った様々な施策を考えていきたいです」(藤井さん)。

ここ数年、御徒町、浅草橋と合わせて若いクリエイターが集まる“モノマチ”として注目を集める蔵前。“かわてらす”の盛り上がりは、若者の下町人気をさらに加速させる一助となるか。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

ご愛顧いただいた読者の皆様、また関係者の皆様に、編集部一同、誠に感謝いたします。

なお、NewsInsightに掲載中の記事につきましては、引き続きマイナビニュース(https://news.mynavi.jp)へと掲載場所を移管いたします。

掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

○安東弘樹のクルマ向上委員会!
https://news.mynavi.jp/series/andy

○森口将之のカーデザイン解体新書
https://news.mynavi.jp/series/cardesign

○清水和夫の自動運転ソシオロジー
https://news.mynavi.jp/series/autonomous_car

○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
https://news.mynavi.jp/series/game_heisei

○岡安学の「eスポーツ観戦記」
https://news.mynavi.jp/series/e-Sports_review

○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

○藤田朋宏の必殺仕分け人
https://news.mynavi.jp/series/shiwakenin

○「食べる」をつくる科学と心理
https://news.mynavi.jp/series/food_science

○阿久津良和のITビジネス超前線
https://news.mynavi.jp/series/itbiz

○山下洋一のfilm@11
https://news.mynavi.jp/series/filmat11

○モノのデザイン
https://news.mynavi.jp/series/designofthings

○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu