【みずほフィナンシャルグループ】メガバンクが描くマイナス金利時代の経営戦略

【みずほフィナンシャルグループ】メガバンクが描くマイナス金利時代の経営戦略

2016.09.13

【みずほフィナンシャルグループ】メガバンクが描くマイナス金利時代の経営戦略

 バブル崩壊以降、相次ぐ金融機関の破綻、合併によりメガバンクは最終4グループに集約された(みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、りそなホールディングス)。りそな銀行においては国有化となったが公的資金約2兆円を2015年6月に完済した。現在みずほフィナンシャルグループを含めた3強+1という構図である。

 昨今の金融機関を取り巻く環境は厳しい。マイナス金利の導入による収益環境の悪化、フィンテックの台頭、地域金融機関の再編など課題は山積みである。メガバンクにおいても今後の経営を楽観視できない状況である。みずほフィナンシャルグループの今後取るべき経営戦略について検証したい。

メガバンクの歴史

 みずほフィナンシャルグループ<8411>は00年に富士銀行、第一勧業銀行、日本興業銀行の統合により組織された、みずほ銀行、みずほ信託銀行(旧安田信託銀行)およびみずほ証券の持ち株会社である。発足当時は総資産140兆円の世界最大の金融グループの誕生と話題になるも、実際は多額の不良債権や問題点を内包した中で「規模の利益」「経費削減による収益性強化」を目指した統合であった。ちなみに三菱東京銀行は1996年、UFJ銀行は01年、さらにその2行が05年に統合され(吸収合併)三菱東京UFJ銀行になる。さくら銀行と住友銀行の合併による三井住友銀行は01年、大和銀行とあさひ銀行が統合されたりそな銀行は02年に発足した。

みずほフィナンシャルグループの沿革 【みずほ銀行】

 ● 富士銀行:1866年に安田善次郎が開いた両替商「安田商店」が発祥。その後、中小銀行を随時吸収し1923年に安田関係11行が大合同、日本最大の新安田銀行としてスタートする。1948年に財閥解体の流れを受けて「富士銀行」に改称した。

 ● 第一勧業銀行:「日本最古の銀行」として渋沢栄一によって設立された「第一国立銀行」、官営銀行として設立された「日本勧業銀行」(1950年に普通銀行転換)が1971年に対等合併し発足。

 ● 日本興業銀行:1902年に証券・信託機能も備えた特例法に基づく金融機関として設立。戦後は長期信用銀行として再出発。

 2000年に上記3行が経営統合。

【みずほ信託銀行】

 1925年に設立された共済信託が改称を繰り返し、1952年に安田信託銀行となる。一方、1999年第一勧業富士信託銀行が発足。2000年には第一勧業富士信託銀行と興銀信託銀行が合併し(旧)みずほ信託銀行が発足。2002年には安田信託銀行がみずほアセット銀行へ改称。2003年にみずほアセット信託銀行と(旧)みずほ信託銀行が合併し「みずほ信託銀行」発足。2011年に株式交換によりみずほフィナンシャルグループの完全子会社となる。

【みずほ証券】

 1891年発足の玉塚商店を起源とする新日本証券、同じく1891年発足の福島浪蔵商店を起源とする和光証券、1905年発足の日本勧業銀行月報社を起源とする日本勧業角丸証券、第一勧業証券と興銀証券と富士証券が合併したみずほ証券がその後改称や再編を経て2013年にみずほ証券として統合された。合計で12もの組織が随時再編を繰り返したものであり、正に組織そのものがM&Aの歴史と言える。

【みずほフィナンシャルグループ】

 みずほフィナンシャルグループの発足後はグループ内の資本施策が中心である。しかし2011年以降は海外の金融機関との資本提携が増加、国内の市場がシュリンクする中、M&Aを活用したグローバル戦略がうかがえる。

■みずほフィナンシャルグループの資本施策トピックス 年月 内容 2003.1 みずほフィナンシャルグループ設立 2003.3 みずほインベスターズ証券をみずほ銀行の子会社化 2003.3 みずほ証券をみずほコーポレート銀行の子会社化 2003.3 みずほ信託銀行、みずほアセット信託銀行が合併、みずほ信託銀行となる 2003.3 みずほホールディングス、みずほ信託銀行、戦略的子会社をみずほフィナンシャルグループの直接の子会社または関連会社に 2004.3 みずほ証券、農中証券から営業のすべての譲り受けを完了 2005.10 再生専門子会社4社(みずほプロジェクト、みずほコーポレート、みずほグローバル、みずほアセット)が、各々の親会社であるみずほ銀行、みずほコーポレート銀行、みずほ信託銀行と合併 2005.10 みずほフィナンシャルストラテジー(旧みずほホールディングス)が保有するみずほ銀行・みずほコーポレート銀行の株式の全てをみずほフィナンシャルグループが取得 2009.5 みずほ証券と新光証券が合併 2010.3 みずほフィナンシャルグループがオリエントコーポレーションを持分法適用関連子会社へ 2011.3 みずほコーポレート銀行がヘッジファンド調査会社「ユーリカヘッジ」を買収 2011.9 みずほ信託銀行、みずほ証券、みずほインベスターズ証券を完全子会社化 2011.9 みずほ銀行、みずほコーポレート銀行、みずほ証券がベトナムのベトコムバンクと資本・業務提携 2011.12 みずほ銀行、インドネシアのバリモア・ファイナンスを連結子会社に 2012.6 みずほコーポレート銀行、ウェストエルビー・ブラジルの発行済株式100%取得 2013.1 みずほ証券とみずほインベスターズ証券が合併しみずほ証券となる 2013.4 みずほフィナンシャルグループがみずほ証券を直接出資子会社化 2013.7 みずほ銀行とみずほコーポレート銀行が合併しみずほ銀行となる 2014.6 みずほフィナンシャルグループが委員会設置会社に移行

(有価証券報告書より)

①業績の推移

 みずほフィナンシャルグループの2016年3月期の最終純益は前期比約10%増の6709億円、三菱UFJフィナンシャル・グループが前期比約8%減の9514億円、三井住友フィナンシャルグループが前期約14%減の6466億円と三大メガバンク共に一定の収益は確保した。みずほフィナンシャルグループは07年3月期以来9期ぶりに最終損益で三井住友フィナンシャルグループを上回った。

 マイナス金利の影響により、国内の預金貸金の利ざやは縮小傾向にある。メガバンクは今後海外における金利収入、および国内外の非金利収入の向上が重要な施策となる。みずほフィナンシャルグループにおいても中期経営計画の事業戦略の筆頭に「グローバルベースでの非金利ビジネスモデルの強化」を挙げている。もはや国内の融資業務においては、収益を確保できない状況下において、メガバンクと地域金融機関がシェアの奪い合いを行うことにより、金利競争はますます過熱化する様相を呈している。今後グローバル戦略をいかに取り組むかが鍵である。グローバル展開を得意とする三菱UFJフィナンシャル・グループはメガバンクの中でも特に収益性は高い。みずほフィナンシャルグループも海外118の拠点(2015年12月現在)を生かすとともに、国内外の非金利ビジネスをいかに強化していくかが喫緊の課題である。

■連結経常利益

■連結当期純利益

■自己資本比率

フィンテックへの対応

 インターネットの普及に伴うネットバンクの台頭により、金融機関の構成・勢力図に変化が起こっており、既存の金融機関のインターネットへの対応力強化が必要となっている。フィンテック(ITと金融の融合)におけるIT業界の金融ビジネス参入も顕著であり、海外送金の決済のスピード化に対する大手銀行の対応も進む。三菱東京UFJ銀行はシリコンバレーに社員を常駐させ、新技術やベンチャー企業のリサーチに努める。三井住友銀行はIBMの人工知能(AI)「ワトソン」をコールセンターで利用し、資産運用のアドバイスを自動で行う「ロボ・アドバイザー」への活用の可能性を探っている。

 金融機関においての課題の一つがフィンテックへの対応力であり、各銀行とも強化を急いでいる。地方銀行においても随時「フィンテック事業化推進室」のような部署の設置が始まっている。静岡銀行はネット証券大手のマネックスグループや家計簿ソフトを扱うネットベンチャー「マネーフォワード」への出資を行った。マネーフォワードの取り扱う家計簿ソフトや会計ソフトとの連携は既に各行が行っており、インターネットバンキングのシステム強化についても従前より取り組みがなされている。しかしながら、楽天銀行のような自社の販売チャネルと連携したビジネスモデルに対抗できるだけの施策が無いのが現状である。

 中国においては電子商取引最大手のアリババ集団のネット決済サービス「アリペイ」の普及に伴い、同国の既存の金融機関は「eコマース(インターネット商取引)」のプラットホームを立ち上げ応戦している状況である。このようにネットビジネス企業の金融市場への新規参入は各国で起こっており、対抗施策を講じることができるか否かが金融機関の課題である。決済機能のスピード化や利便性の向上のみでなく、消費者の購買行動を含めた囲い込み戦略が必要である。

 大手銀行についてはグループ会社や全国および海外のネットワークを駆使した対策を講じることが肝要と言える。特にECサイト運営企業の金融参入は脅威であり、対抗すべくシステムを早急に立ち上げるか、逆に連携を強化するかの判断が迫られる。

 ビットコインを主とする仮想通貨市場は「ブロックチェーン(電子上取引履歴台帳)」の技術革新により、金融機関にとって今後無視できない存在である。決済システムにおいても、クレジットカードやマネーチャージのシステムの普及により、今後は銀行口座の必要性そのものが危惧される。例えばスターバックスの「スターバックスカード」の事前チャージ型決済サービスの利用者が韓国においては200万人を突破し、チャージ総額は200億ウォン(約21億円)を超えたとの事であり(15年12月18日付日本経済新聞朝刊より)、金融機関を脅かす存在となりつつある。これらの新興勢力や新システムは当然に既存の金融機関にとって「競合」以外の何物でもない。金融機関にとって「連携支援型フィンテック」による自行商品およびインフラの充実は急務であると同時に、金融機関の機能そのものの代替機能を果たす「競合するフィンテック」に対する対応策も必要である。

総括

 低金利政策の長期化により国内における融資業務のみでは収益を確保できない現状に加えて、フィンテックの台頭による異業種競合と金融機関の課題は多い。10年後には金融機関のビジネスモデルは大変容を遂げている可能性は否めない。現在のような金融機関単体の事業ではなく、インターネット関連企業などとの資本提携も含めた連携により「非金利ビジネス」が主業務となっていることが想定される。将来的に金融機関は現在のような店舗網と人員が不要となり大量のリストラ要員が発生することは必至である。こういった状況下において、今までのようなプロトタイプ人材ではなく、あらゆる分野に対応が可能なダイバーシティを念頭に置いた人材育成の準備が必要である。

 しかしグローバル、フィンテックと新たに拡がる市場に対応できる人材育成は容易ではない。有能な人材の確保については、今後M&Aの活用による囲い込みが進むと想定される。グローバル戦略については既に海外銀行に対する投資も進めているところではあるが、安易にボリュームの拡大に走るとバブルの二の舞になる。実際16年3月期の三井住友フィナンシャルグループの最終利益減少要因は海外投資の減損であり、グローバル展開については慎重に行う必要がある。あくまで堅実に拡大路線を図ることが今後の安定的な業績につながる。

 同社が掲げる海外、非金利戦略を遂行していくためには、金融機関というカテゴリーからコングロマリットへの転換を図る必要性がある。同社をはじめとする金融機関が金融業という業種に縛られず、M&Aなどの資本政策を積極的に活用していくためには、今後抜本的な法改正を含めた国家施策も求められるところである。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部


折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

折っても切っても発火しない、ペラペラな電池「Power Leaf」の実力に迫る

2019.01.24

スマホ普及の一方で、バッテリー発火事故件数は年々増加

安全なモバイルバッテリーを実現する全固体電池に注目

ソフトバンクと吉田カバンがコラボした全個体電池バッグとは?

今や仕事でもプライベートでも欠かせないモバイルバッテリー。

安全面に何の疑いもなく使っている人は多いと思いますが、モバイルバッテリーの事故件数は年々増加しています。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、ノートパソコン、モバイルバッテリー、スマートフォンに搭載されたリチウムイオンバッテリーに関する事故は、平成24~28年度の5年間で274件(ノートパソコン110件、モバイルバッテリー108件、スマートフォン56件)あり、そのうちの約7割が火災などの拡大被害(製品および周囲が焼損などしたもの)に該当するそうです。

こういった状況を受け、2018年2月1日に経済産業省が「電気用品の範囲等の解釈について(通達)」を改正し、ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)を電気用品安全法の規制対象(PSE法)に含めると発表しました。これにより、2019年2月1日よりPSEマークがついていないモバイルバッテリーの製造・輸入および一切の販売ができなくなります

このような流れから、今後は今まで以上にモバイルバッテリーの安全面に注目が集まると予想されます。そこで、リチウムイオンバッテリーより安全性が高く「釘を刺しても、オーブンにいれても、火の中にいれても爆発しない」という次世代バッテリー「Power Leaf (パワーリーフ)」を開発しているソフトバンク コマース&サービスに話を聞きました。

全固体電池だから発火も爆発もしない

話を伺ったソフトバンク コマース&サービス コンシューマー事業本部事業本部の工藤英樹さん(写真左)と鈴木礼子さん(写真右)

―― Power Leafは次世代モバイルバッテリーと謳っています。どういったところが次世代なのでしょうか?

鈴木:Power Leafは、セラミックバッテリーを採用しています。セラミックバッテリーは、従来のリチウムイオンバッテリーに比べて、曲げや衝撃に強く、切断しても発火や液漏れが発生しない特性を持っており、その点で次世代バッテリーと呼んでいます。

―― なぜ発火や液漏れが発生しにくいのでしょうか?

鈴木:セラミックバッテリーが全固体電池だからです。そもそも、リチウムイオンバッテリーがなぜ発火をするのかというと、リチウムイオンバッテリーは、正極(プラス)と負極(マイナス)を電子が行き来することで電流を生み出します。正極と負極のあいだは液体の電解質で満たされているのですが、この電解質に可燃性があります。故障、経年劣化、強い衝撃などが原因で過充電やショートが起こり、異常発熱をして発火にいたります。

それに対してセラミックバッテリーは、電解液をセラミックで固めているため発火もしませんし爆発もしません。

工藤:こちらが、Power Leafです。名刺サイズの大きさで100mAhあります。これを、折り曲げたり、はさみで切ったり、釘を打ち込んだり、オーブンで加熱したり、火の中にいれたりしても、発火・爆発はしません。正確にいうと一瞬だけショートはするのですが、そこから発火につながることはないので、非常に安全性が高いバッテリーになっています。

―― なるほど。それにしても薄いし、触ってみるとやわらかいですね。

工藤:やわらかいですよね。湾曲した状態でも使用できるので、パイプのような円柱形のものにも組み込めます。

―― Power Leafはどれくらい前から開発に取り組まれているのでしょうか?

鈴木:4年ほど前ですね。Power Leafは、はじめて全個体電池の製品化に成功した、台湾のプロロジウム テクノロジー社と開発を続けてきた製品です。2017年7月にネームタグ型バッテリー「Tag」を発表し、同年11月にiPhone X用の手帳型バッテリーを発売しました。

吉田カバンとコラボした肩掛けタイプの「PORTER SLING SHOULDER BAG × Power Leaf」

そして、第3弾製品として、吉田カバンとコラボしたPower Leaf搭載バッグを開発しました。

苦節2年。吉田カバンとイチからつくったバッグ

―― では、吉田カバンとコラボした背景を教えてください。

鈴木:Power Leafは「常に持ち歩ける」をテーマに商品開発をおこなっています。まずはバッグにつけられるタグをつくって、次に皆さんが必ず持ち歩かれるスマートフォンのケースをつくりました。次はなにをつくろうか考えたときに、「バッテリーを常に持ち歩けるようにバッグをつくろう」と決まりました。そこで、吉田カバンさんに声をかけさせていただいたのです。

―― 吉田カバンとは付き合いが深かったのですか?

鈴木:いえ。深かったわけではないんですけど、別の部門でたまたまお付き合いがあり、そこから「一緒に面白い商品をつくりませんか?」と提案しました。吉田カバンさんは、こういったテクノロジーとのコラボをほとんどしたことがなく新鮮に感じてくれたようで、共同開発がはじまりました。

そこから約2年かけてやっと商品化にこぎつけた形になります。

―― 2年……。ということは既存製品をベースにしたとかではなくイチから?

工藤:はい。イチからつくっています。

―― イチから手がけられたなかで、どんな点に苦労しましたか?

工藤:そもそも僕らはアパレル系のアイテムをつくったことがなかったので、イチからつくることでさまざまな苦労がありました。ショルダーに設置したコントローラー部分。そもそもどの場所につけたほうが良いとか、どういう風につければバッテリーとコントローラーを繋ぐケーブルが邪魔にならないかなど、吉田カバンさんとともに試行錯誤を繰り返しました。

ショルダーバッグに関しては、肩当てのパット部分を普通のバッグより長くしています。パッドが通常の長さだとコントローラーが肩のあたりにきてしまい操作しにくいので、細かく調整してもらいました。

鈴木:リュックに関しては、右利き左利きどちらも操作しやすいように、左右どちらにもコントローラーがつけれるようになっています。これは吉田カバンさんのこだわりです。

―― Power Leafもバッグにあわせて調整をしているのでしょうか?

鈴木:ショルダーバッグもリュックも、3,550mAhの容量を搭載しているのですが、大容量にするにあたって、いかに薄くするかに焦点を絞って調整しました。その結果、世界でも最薄レベルを実現できたと自負しています。

薄く広くしているのと、面積比で考えると軽いこともあり、バッグを背負ってもバッテリーの存在感もそんなに感じないと思います。

Power Leafから話はそれますが、こだわりの部分でいうと、弊社が発売しているスマートトラッカー「tile」専用のポケットも作ってもらいました。キーホルダーみたいにつけるわけでもなく、tileを入れてることすら忘れてしまうような状態にしていただいて、例えば、酔ってバッグをどこかに忘れてしまった、というような事態でもすぐに見つけられるようにしています。

―― 今回は吉田カバンとコラボしてバッグを発売されていますが、この先も他業種とのコラボをしていくのでしょうか?

工藤:そうですね。まだ具体的にはなっていないんですけど、身につけるものだけではなく、例えばソーラーであったりEVであったり、そういった方面への進出もしていきたいと思います。

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

SNSでバズを起こせ! メルカリ流 “違和感”マーケティング

2019.01.24

フリマアプリを運営するメルカリが新聞折り込みチラシを配布

なぜリアル店舗のようなチラシ広告を出したのか

理由を聞いていくなかで同社のマーケティング戦略が見えてきた

問:次のアイテムのなかから、フリマアプリ「メルカリ」で販売されたことのあるものを選びなさい。

・ダウンジャケット
・ヒト型ロボット
・トイレットペーパーの芯
・クルマ
・イヤホンの左側

おわかりいただけただろうか。答えは「すべて」である。現時点では売り切れかもしれないが、上記はすべてメルカリで販売された実績のあるアイテムだ。

さまざまな商品が売買されているメルカリとはいえ、まさか「トイレットペーパーの芯」が売られているとは、よほどのヘビーユーザーでなければ知らないのではないだろうか。

もちろん筆者も知らなかったが、2018年12月12日に配布された1枚の新聞折り込みチラシが、その事実を教えてくれた。それは、メルカリが北海道と愛知県で計192万部配布した広告チラシだ。

紙面上では、トイレットペーパーの芯やクルマがメルカリで売られていたことを紹介していたのだが、東京在住の筆者は配られたチラシを直接見たわけではない。「メルカリが新聞折り込みチラシを配布している」という意外性がSNSで話題を呼び、仕事中Twitterをいじくりまわして遊んでいた筆者の元にも情報が届いたのである。

はたして、アプリ上でサービスを展開するメルカリが、なぜリアル店舗のような折り込みチラシを配布したのだろうか。

メルカリが配布した新聞折り込みチラシの例。まるでアパレル広告のようだ
裏面には、初心者でも使えるようにアプリのマニュアルが紹介されている

「スタンダードからいかに離れるか」が、おもしろさを生む

「端的に言えば“お茶の間の会話”を増やしたいと考えたためですね」

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏は、新聞折り込みチラシを配布した理由について、そう話す。

株式会社メルカリ 執行役員 CMOの村田雅行氏

2013年7月にサービスを開始したメルカリのアプリダウンロード数は、世界合計で1億超。また、累計流通額は1兆円を超えており、全国レベルでその名を轟かせている。

「ただ、月間のユニークユーザー数は1100万程度。ダウンロード数を考えるとまだまだ伸びしろがあるはずなのです。そのため、まだ取り切れていない、シニアを中心とするユーザーを取り込むためのアプローチを実施することに決めました」

アプリの存在は知っているが、普段からメルカリを使っているわけではない。そんな、シニアをはじめとする“お茶の間ユーザー”を取り込むべく企画されたのが「新聞折り込みチラシ」だった。さまざまなマーケティングを行っている同社ではあるが、新聞折り込みチラシの配布は今回が初めて。そのため、まずはテストマーケティングとして、限られたエリアでの配布が行われた。

だが、シニアへのアプローチは何も折り込みチラシに限らない。テレビCMはもちろん、街頭配布やポスティングなど、ほかにも宣伝手法はあったはずだ。なぜ折り込みチラシにこだわったのだろうか。

「1つのコンテンツとして完結しているところがポイントでした。新聞は、自ら購読して情報を取得する非常にポジティブな媒体。毎日目にするそのコンテンツにメルカリの折り込みチラシを入れることで、“違和感”を生み出したかったのです」

また村田氏は、チラシだからこそ違和感を生み出せたのだと話す。

「今の時代、いかにSNSで話題にしてもらえるかが大事です。そのためには普通とは違うことをやらなければなりません。違和感は、多くの人が認識する“スタンダード”がなければ作れないと考えています。いかに基準から大きな振れ幅があるか。それが驚きやおもしろさにつながるのではないでしょうか。そういう意味で、折り込みチラシには基準があります。『医薬品系だったらこんなチラシ』『スーパーのチラシはこんなもの』というイメージが、多くの人のなかで醸成されているからこそ、イメージからかけ離れたクリエイティブは一層際立つはずだと、新聞の折り込みチラシを実施したのです」

例えば街頭配布であれば、コスプレをしたり、奇抜な宣伝車で商品サンプルを配ったり、アメニティを同封したりと、工夫されているものが多く、普遍的な基準のようなものが思い浮かびにくい。あえて一般的な街頭配布の例を挙げるとすれば、ポケットティッシュと答える人が多いだろうか。だが、ポケットティッシュ以外のものを配っていたら、それだけで大きな話題を呼ぶかと言えば、おそらく難しいはずだ。

つまり、スタンダードがあるからこそ、違和感を与えて記憶に残るような手法を実施できると、数あるアプローチのなかから村田氏は折り込みチラシを選んだというわけだ。

そもそも、実店舗を持たないメルカリが折り込みチラシを配布するというだけで、1つの違和感を与えられるだろう。そして「徒歩0分! スマホの中でオープン!」といった目を引く謳い文句が、違和感をますます際立たせる。

「違和感を与えるために、コピーや商品ラインアップは工夫しましたね。今回、3タイプのチラシを作成したのですが、“メルカリだからこそできるラインアップ”をあえて出すようにしました。例えば、意外性のあるものでは、トイレットペーパーの芯やクルマ。実際にメルカリで売られていたことがあるんです」

今回作成されたチラシは「ファッション」「家電」「スーパー」の3タイプ。意外性のある商品ラインアップに加えて、北海道では日本ハムファイターズのユニフォーム、愛知県では中日ドラゴンズのユニフォームなど、地域に根付いた商品も掲載しており、そのような遊び心も、SNSで話題になるために必要なのかもしれない。

家電パターンのチラシ。「徒歩0分! ~」のコピーが目立つ
「トイレットペーパーの芯」を掲載したパターンのチラシ。2つのチラシをよく見比べると、ユニフォームで使われている写真が違う。なお、北海道と愛知県を選んだ理由は、「地場新聞の影響力が強いエリア」だからだという

結果として、違和感を覚えた消費者は、Twitterにチラシの画像を投稿。狙い通り、SNSでバズらせることに成功した。

しかし、SNSで話題になっても、ターゲットにしているシニア層にはあまり関係がないのではないだろうか。

「シニアや中高年の方々でSNSをやっている人は意外と多いんですよ。積極的に発信をしている人はあまり多くないですが、情報収集として活用している人は少なくないですね」

ちなみに、肝心の折り込みチラシの効果は、「すべての数字の集計が終わっているわけではありませんが、チラシを投下したエリアでは、いい成果が出ています」とのこと。データとしても、チラシの影響を確認できたという様子だった。

攻める姿勢が生み出したもう1つの広告

今回のようなアプローチは、SNSが普及した今だからこそ可能な新しいマーケティングだ。そして、メルカリではSNSでのバズを狙った取り組みがもう1つ。2019年1月1日からスタートした『#はじメル』だ。

はじメルは、「三日坊主でもいいから、とにかく新しいことをはじめる人を応援する」というコンセプトで展開しているキャンペーン。特設サイトを開設し、1月3日には新聞の一面広告を、1月5日からはテレビCMを放送開始した。

そのなかで、一体なにがSNSで話題になったのかというと、これまたアナログな「新聞広告」である。

「一般的に1つのクリエイティブで進める新聞広告を、あえて3タイプ制作し、首都圏・東日本・西日本で分けて配布しました。3枚の新聞広告をつなげるとメルカリの『m』が浮かび上がるというデザインなのですが、1枚だけ見ても、“つなげたら何か起きそう”なデザインにすることで、それを発見した人がTwitterに思わず投稿したくなるような仕組みを作っています」

新聞広告を3枚並べると「m」の文字が浮かび上がる

思わせぶりなデザインにするという“ヒント”を提供しておき、あとは何も言わずにユーザーの反応を待つ。離れたエリアの新聞を手に入れるのは難しいので、ほかのデザインが気になった場合は、自然とオンライン上での情報収集が開始されるだろう。そうして、SNSで活発なやり取りが発生するというわけだ。

「最初はもっと控えめのデザインだったのですが、それじゃダメだと言いましたね」

穏やかな口調ではあったが、村田氏の言葉からはクリエイティブに対してのこだわりを強く感じた。

「折り込みチラシのときもそうですが、守りに入ったら企業は終わると考えているので、常に攻め続けたいと考えています」

クリエイティブに対して攻めの姿勢を崩さない村田氏。それを象徴するエピソードとして、折り込みチラシのプロジェクトのキックオフ時には、「私をクビにする覚悟で仕事をしてほしい」とメンバーに伝えたのだという。

「もちろん、ほんとうにヤバいときは止めますよ。ただ、メンバーがリスクを考えてしまうと、どうしても“置きにいく”ようなアイデアになりがちです。責任なら私が取るので、どんどん攻めてほしいというメッセージですね」

置きにいくクリエイティブでは、SNSでバズらない。メンバーが自由にアイデアを出せる環境整備こそ、尖ったクリエイティブを生み出すのに必要なことなのだろう。

2019年はメルカリの内面を伝える年に

今回、折り込みチラシと新聞一面広告で、SNSでバズらせるマーケティングを実施したメルカリ。折り込みチラシに関していえば、まだテストマーケティングが終わった段階である。今後は全国的に折り込みチラシの配布を行うのだろうか。

「明確な方針はまだ決まっていませんが、折り込みチラシについては、読み物としてお客さまから期待されるコンテンツにしていきたいと考えています」

ただし、「今日は○○が特売」「○○が新発売」といったように、新聞チラシは日々情報が更新されるから読み物として成立する。タイムリーな情報をチラシで打ち出せないメルカリは、どのようなコンテンツにしていくのだろうか。

「今回折り込みチラシで意識したことの1つに、商品をたくさん入れるという点がありました。実際にメルカリで何が売られているかまでは知らない人が意外と多いんですね。そのような人からすると、トイレットペーパーの芯が売れることは1つの発見になるでしょうし、自分の家にある家電がいくらで売れるかということも新しい発見です。そのように、ほかにも、まだまだ知られていない情報があるので、継続的にチラシをやると決まったら、もっとメルカリの内側を知ってもらう情報を提供していきたいですね」

メルカリの内側を知ってほしいと話す村田氏。実は、はじメルにも同様の意図があったという。

「メルカリを使えば『新しい趣味を始める』ことへのハードルを下げられると伝えたかったのです。例えば、ゴルフを始めようと考えたら、ゴルフクラブのセットを購入する必要がありますよね。それが仮に10万円であれば、『ちょっとやってみようかな』程度に思っている人からすると、やはりハードルは高い。しかし、メルカリを使うことで、まずゴルフクラブを5万円で買える可能性があるのです。そのうえ、5万円で売られているのであれば、それに近い金額で売却できることも意味します」

5万円でゴルフクラブを買ってみたはいいものの「あまりおもしろくないな」と感じた場合、4万5000円で売却できれば、5000円の出費でゴルフを体験できるわけだ。

「また、メルカリにはバーコード出品と呼ばれる機能があって、バーコードを読み取るだけで商品情報を自動入力してくれるんです。値段も提案してくれるので出品が楽なのですが、最近では本を買うときにまずはバーコード出品を行う人が多いようですね。ちょうど読み終わったくらいに売却できて便利なんです。期限を決めることで、読まないといけないというプレッシャーにもなりますし、2000円の本を1500円で売却できれば、500円で本が読めるわけです」

何か買うときに、メルカリでまずいくらで売れるかをチェックする。そして、使わなかったり、一度使って満足したりすると、メルカリで売却するという消費行動が増えているのだ。その結果、購入のハードルが下がるので、二次流通が一時消費を活性化させる可能性もあるだろう。

「このような使い方の訴求は、継続してやっていきたいなと。そしてゆくゆくは、メルカリをライフインフラのようにしたいですね」

村田氏は展望を語る。

「認知はすでに獲得しました。次はメルカリの内面をもっと外に出していくフェーズです」

2018年には株式を上場し、気流に乗るメルカリ。決して“置きにいかない”同社のマーケティング戦略から、次はどんなアイデアが飛び出すのだろうか。2019年も同社の尖った広告が、SNSを騒がせるかもしれない。