【みずほフィナンシャルグループ】メガバンクが描くマイナス金利時代の経営戦略

【みずほフィナンシャルグループ】メガバンクが描くマイナス金利時代の経営戦略

2016.09.13

【みずほフィナンシャルグループ】メガバンクが描くマイナス金利時代の経営戦略

 バブル崩壊以降、相次ぐ金融機関の破綻、合併によりメガバンクは最終4グループに集約された(みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、りそなホールディングス)。りそな銀行においては国有化となったが公的資金約2兆円を2015年6月に完済した。現在みずほフィナンシャルグループを含めた3強+1という構図である。

 昨今の金融機関を取り巻く環境は厳しい。マイナス金利の導入による収益環境の悪化、フィンテックの台頭、地域金融機関の再編など課題は山積みである。メガバンクにおいても今後の経営を楽観視できない状況である。みずほフィナンシャルグループの今後取るべき経営戦略について検証したい。

メガバンクの歴史

 みずほフィナンシャルグループ<8411>は00年に富士銀行、第一勧業銀行、日本興業銀行の統合により組織された、みずほ銀行、みずほ信託銀行(旧安田信託銀行)およびみずほ証券の持ち株会社である。発足当時は総資産140兆円の世界最大の金融グループの誕生と話題になるも、実際は多額の不良債権や問題点を内包した中で「規模の利益」「経費削減による収益性強化」を目指した統合であった。ちなみに三菱東京銀行は1996年、UFJ銀行は01年、さらにその2行が05年に統合され(吸収合併)三菱東京UFJ銀行になる。さくら銀行と住友銀行の合併による三井住友銀行は01年、大和銀行とあさひ銀行が統合されたりそな銀行は02年に発足した。

みずほフィナンシャルグループの沿革 【みずほ銀行】

 ● 富士銀行:1866年に安田善次郎が開いた両替商「安田商店」が発祥。その後、中小銀行を随時吸収し1923年に安田関係11行が大合同、日本最大の新安田銀行としてスタートする。1948年に財閥解体の流れを受けて「富士銀行」に改称した。

 ● 第一勧業銀行:「日本最古の銀行」として渋沢栄一によって設立された「第一国立銀行」、官営銀行として設立された「日本勧業銀行」(1950年に普通銀行転換)が1971年に対等合併し発足。

 ● 日本興業銀行:1902年に証券・信託機能も備えた特例法に基づく金融機関として設立。戦後は長期信用銀行として再出発。

 2000年に上記3行が経営統合。

【みずほ信託銀行】

 1925年に設立された共済信託が改称を繰り返し、1952年に安田信託銀行となる。一方、1999年第一勧業富士信託銀行が発足。2000年には第一勧業富士信託銀行と興銀信託銀行が合併し(旧)みずほ信託銀行が発足。2002年には安田信託銀行がみずほアセット銀行へ改称。2003年にみずほアセット信託銀行と(旧)みずほ信託銀行が合併し「みずほ信託銀行」発足。2011年に株式交換によりみずほフィナンシャルグループの完全子会社となる。

【みずほ証券】

 1891年発足の玉塚商店を起源とする新日本証券、同じく1891年発足の福島浪蔵商店を起源とする和光証券、1905年発足の日本勧業銀行月報社を起源とする日本勧業角丸証券、第一勧業証券と興銀証券と富士証券が合併したみずほ証券がその後改称や再編を経て2013年にみずほ証券として統合された。合計で12もの組織が随時再編を繰り返したものであり、正に組織そのものがM&Aの歴史と言える。

【みずほフィナンシャルグループ】

 みずほフィナンシャルグループの発足後はグループ内の資本施策が中心である。しかし2011年以降は海外の金融機関との資本提携が増加、国内の市場がシュリンクする中、M&Aを活用したグローバル戦略がうかがえる。

■みずほフィナンシャルグループの資本施策トピックス 年月 内容 2003.1 みずほフィナンシャルグループ設立 2003.3 みずほインベスターズ証券をみずほ銀行の子会社化 2003.3 みずほ証券をみずほコーポレート銀行の子会社化 2003.3 みずほ信託銀行、みずほアセット信託銀行が合併、みずほ信託銀行となる 2003.3 みずほホールディングス、みずほ信託銀行、戦略的子会社をみずほフィナンシャルグループの直接の子会社または関連会社に 2004.3 みずほ証券、農中証券から営業のすべての譲り受けを完了 2005.10 再生専門子会社4社(みずほプロジェクト、みずほコーポレート、みずほグローバル、みずほアセット)が、各々の親会社であるみずほ銀行、みずほコーポレート銀行、みずほ信託銀行と合併 2005.10 みずほフィナンシャルストラテジー(旧みずほホールディングス)が保有するみずほ銀行・みずほコーポレート銀行の株式の全てをみずほフィナンシャルグループが取得 2009.5 みずほ証券と新光証券が合併 2010.3 みずほフィナンシャルグループがオリエントコーポレーションを持分法適用関連子会社へ 2011.3 みずほコーポレート銀行がヘッジファンド調査会社「ユーリカヘッジ」を買収 2011.9 みずほ信託銀行、みずほ証券、みずほインベスターズ証券を完全子会社化 2011.9 みずほ銀行、みずほコーポレート銀行、みずほ証券がベトナムのベトコムバンクと資本・業務提携 2011.12 みずほ銀行、インドネシアのバリモア・ファイナンスを連結子会社に 2012.6 みずほコーポレート銀行、ウェストエルビー・ブラジルの発行済株式100%取得 2013.1 みずほ証券とみずほインベスターズ証券が合併しみずほ証券となる 2013.4 みずほフィナンシャルグループがみずほ証券を直接出資子会社化 2013.7 みずほ銀行とみずほコーポレート銀行が合併しみずほ銀行となる 2014.6 みずほフィナンシャルグループが委員会設置会社に移行

(有価証券報告書より)

①業績の推移

 みずほフィナンシャルグループの2016年3月期の最終純益は前期比約10%増の6709億円、三菱UFJフィナンシャル・グループが前期比約8%減の9514億円、三井住友フィナンシャルグループが前期約14%減の6466億円と三大メガバンク共に一定の収益は確保した。みずほフィナンシャルグループは07年3月期以来9期ぶりに最終損益で三井住友フィナンシャルグループを上回った。

 マイナス金利の影響により、国内の預金貸金の利ざやは縮小傾向にある。メガバンクは今後海外における金利収入、および国内外の非金利収入の向上が重要な施策となる。みずほフィナンシャルグループにおいても中期経営計画の事業戦略の筆頭に「グローバルベースでの非金利ビジネスモデルの強化」を挙げている。もはや国内の融資業務においては、収益を確保できない状況下において、メガバンクと地域金融機関がシェアの奪い合いを行うことにより、金利競争はますます過熱化する様相を呈している。今後グローバル戦略をいかに取り組むかが鍵である。グローバル展開を得意とする三菱UFJフィナンシャル・グループはメガバンクの中でも特に収益性は高い。みずほフィナンシャルグループも海外118の拠点(2015年12月現在)を生かすとともに、国内外の非金利ビジネスをいかに強化していくかが喫緊の課題である。

■連結経常利益

■連結当期純利益

■自己資本比率

フィンテックへの対応

 インターネットの普及に伴うネットバンクの台頭により、金融機関の構成・勢力図に変化が起こっており、既存の金融機関のインターネットへの対応力強化が必要となっている。フィンテック(ITと金融の融合)におけるIT業界の金融ビジネス参入も顕著であり、海外送金の決済のスピード化に対する大手銀行の対応も進む。三菱東京UFJ銀行はシリコンバレーに社員を常駐させ、新技術やベンチャー企業のリサーチに努める。三井住友銀行はIBMの人工知能(AI)「ワトソン」をコールセンターで利用し、資産運用のアドバイスを自動で行う「ロボ・アドバイザー」への活用の可能性を探っている。

 金融機関においての課題の一つがフィンテックへの対応力であり、各銀行とも強化を急いでいる。地方銀行においても随時「フィンテック事業化推進室」のような部署の設置が始まっている。静岡銀行はネット証券大手のマネックスグループや家計簿ソフトを扱うネットベンチャー「マネーフォワード」への出資を行った。マネーフォワードの取り扱う家計簿ソフトや会計ソフトとの連携は既に各行が行っており、インターネットバンキングのシステム強化についても従前より取り組みがなされている。しかしながら、楽天銀行のような自社の販売チャネルと連携したビジネスモデルに対抗できるだけの施策が無いのが現状である。

 中国においては電子商取引最大手のアリババ集団のネット決済サービス「アリペイ」の普及に伴い、同国の既存の金融機関は「eコマース(インターネット商取引)」のプラットホームを立ち上げ応戦している状況である。このようにネットビジネス企業の金融市場への新規参入は各国で起こっており、対抗施策を講じることができるか否かが金融機関の課題である。決済機能のスピード化や利便性の向上のみでなく、消費者の購買行動を含めた囲い込み戦略が必要である。

 大手銀行についてはグループ会社や全国および海外のネットワークを駆使した対策を講じることが肝要と言える。特にECサイト運営企業の金融参入は脅威であり、対抗すべくシステムを早急に立ち上げるか、逆に連携を強化するかの判断が迫られる。

 ビットコインを主とする仮想通貨市場は「ブロックチェーン(電子上取引履歴台帳)」の技術革新により、金融機関にとって今後無視できない存在である。決済システムにおいても、クレジットカードやマネーチャージのシステムの普及により、今後は銀行口座の必要性そのものが危惧される。例えばスターバックスの「スターバックスカード」の事前チャージ型決済サービスの利用者が韓国においては200万人を突破し、チャージ総額は200億ウォン(約21億円)を超えたとの事であり(15年12月18日付日本経済新聞朝刊より)、金融機関を脅かす存在となりつつある。これらの新興勢力や新システムは当然に既存の金融機関にとって「競合」以外の何物でもない。金融機関にとって「連携支援型フィンテック」による自行商品およびインフラの充実は急務であると同時に、金融機関の機能そのものの代替機能を果たす「競合するフィンテック」に対する対応策も必要である。

総括

 低金利政策の長期化により国内における融資業務のみでは収益を確保できない現状に加えて、フィンテックの台頭による異業種競合と金融機関の課題は多い。10年後には金融機関のビジネスモデルは大変容を遂げている可能性は否めない。現在のような金融機関単体の事業ではなく、インターネット関連企業などとの資本提携も含めた連携により「非金利ビジネス」が主業務となっていることが想定される。将来的に金融機関は現在のような店舗網と人員が不要となり大量のリストラ要員が発生することは必至である。こういった状況下において、今までのようなプロトタイプ人材ではなく、あらゆる分野に対応が可能なダイバーシティを念頭に置いた人材育成の準備が必要である。

 しかしグローバル、フィンテックと新たに拡がる市場に対応できる人材育成は容易ではない。有能な人材の確保については、今後M&Aの活用による囲い込みが進むと想定される。グローバル戦略については既に海外銀行に対する投資も進めているところではあるが、安易にボリュームの拡大に走るとバブルの二の舞になる。実際16年3月期の三井住友フィナンシャルグループの最終利益減少要因は海外投資の減損であり、グローバル展開については慎重に行う必要がある。あくまで堅実に拡大路線を図ることが今後の安定的な業績につながる。

 同社が掲げる海外、非金利戦略を遂行していくためには、金融機関というカテゴリーからコングロマリットへの転換を図る必要性がある。同社をはじめとする金融機関が金融業という業種に縛られず、M&Aなどの資本政策を積極的に活用していくためには、今後抜本的な法改正を含めた国家施策も求められるところである。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部


なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

瀧澤信秋のいろはにホテル 第1回

なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今

2018.11.16

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏による新連載!

第1回は、「多様化するビジネスホテルの今」について

料金変動「するホテル」と「しないホテル」 それぞれの狙いは?

「ホテル評論家」瀧澤信秋氏が、意外と知らないホテルビジネスを語る新連載。第1回は、瀧澤氏が“注目度の高いカテゴリー”と説明する「ビジネスホテル」について。ここ数年で急速に「多様化」が進んでいるビジネスホテルのこと、どれだけ知っていますか?

ビジネスホテルが大人気

ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、カプセルホテルにラブホテルと横断的な評論が筆者の生業であるが、ことビジネスホテルは昨今勢いのある注目度の高いカテゴリーだ。

旅行や出張で、ビジネスホテルを利用した経験のある人は多いだろう

筆者は、TBSテレビの人気番組「マツコの知らない世界」へ過去3回出演の機会を得たが、第2回で紹介した「ビジネスホテルの世界」は特に反響が大きく、TBS瞬間最高視聴率ランキングで1位をいただいた。視聴者の方々にとってビジネスホテルは身近な存在なのだと改めて認識した。

ということで、連載の第1回となる本稿では、「多様化が進むビジネスホテルの今」をお伝えしよう。

「ビジネスホテル」と「ホテル」の違い

そもそもビジネスホテルとは何なのか。業界ではビジネスホテルは“宿泊特化型ホテル”ともいわれるが、その名の通り宿泊に特化したホテルと定義づけられる。

ホテルとはフルサービスであることが特徴で、宿泊の他に料理・飲食、バンケット(宴会、または婚礼や大規模な会議)など多彩なサービスを提供する。一方のビジネスホテルは、朝食スペースなどが設けられてはいるものの(法令上の要請)、フロントサービスを中心に宿泊機能を提供するというリミテッドサービスであることが特徴だ。“イン”とも称される。

前述の番組で、豪華なスイートルームまであるホテルとして“これ以上のビジネスホテルは見たことがない”と「ホテル ココ・グラン高崎」(群馬県高崎市)を紹介したところ、「スイートルームなんてあるのにビジネスホテルといえるの?」と疑問の声をいただいた。

「ホテル ココ・グラン高崎」プレミアムココスイート

スイートルームがあろうが、基本的に宿泊に特化していればそれはビジネスホテルといえる。ただし、宿泊特化型のコンセプトは多様化しており、単にビジネスホテルとカテゴライズされることを良しとしないホテルもある。

話は逸れたが、ビジネスホテルといえば、伝統的には出張族御用達として人気を博してきた。今では旅のスタイルが多様化したことで、観光にも重宝されており、リーズナブルな旅を求める訪日外国人旅行者にも人気が高い。

「料金変動させるホテル」と「あえてさせないホテル」

しかし、「ビジネスホテル=リーズナブル」というイメージは徐々に崩れつつある。確かに高級ホテルよりは安いといえそうだが、繁忙日と閑散日の料金変動幅がかなり大きなホテルもみられる。

筆者は職業柄日々のホテル料金レートをチェックしている。「ビジネスホテルは高級ホテルより安いといえそう」と書いたが、とある繁忙日の新宿エリアを見たところ、ハイアットよりもアパホテルが高かったことがあり驚いた。料金を客室面積の㎡単位で換算したところ、ハイアットが約1,200円、アパホテルが約2,800円だった。

料金変動の大きさもクローズアップされたアパホテル

極端な例を挙げたが、ビジネスホテルに限らずホテルの料金は変動するのが一般的だ。これは業界では「レベニューマネジメント」などといわれる。ホテルの客室に限らず在庫の繰り越しができない商品を、売れ残りを少なくするためさまざまな価格設定をして販売を管理することは、需要予測のもとに収益を最大化する手法といえる。

需要が高くなると料金が上がるのはホテルに限ったことではないが、とはいえホテル料金変動幅のあまりの大きさに面食らった経験のある人もいるのではないだろうか。季節変動(季節や時期によって需要に増減が起きる変化)の大きなリゾートホテルなどではその傾向はさらに強いし、料金が高額なラグジュアリーホテルでも変動はする。しかし、より日常感のあるリーズナブルなイメージのビジネスホテルほど、ゲストは料金変動にシビアだといえそうだ。

他方、基本的に料金変動させないことをポリシーとするホテルもある。たとえば「東横イン」だ。全国最大規模のビジネスホテルチェーンであるが、宿泊需要の急増する時期でも大きく料金を変動させないことを公式サイトでうたっている

プライスポリシーとして「市場動向にいわば便乗するかのような料金設定は(中略)ビジネスパーソンをはじめとするお客様の信頼を裏切ることになる」と明記。料金の変動が少ないことはゲストの安心感につながるというのが同社の考えだ。

「東横イン」客室イメージ

前述のホテル ココ・グラン高崎も、基本的に料金変動させないことをポリシーにしているが、かようなポリシーのホテルを時々見かけることがある。このように、「料金変動をさせるホテル」と「あえてさせないホテル」があるのだ。

「本当はいくら? 」で部屋の価値を聞いてみた

料金変動でよく見られるのは、最初は高い設定なのに日が迫ると安くなり、当日の夜などに投げ売りされるパターン。レベニューマネジメントで適切な在庫管理ができれば緩和される側面はあるのかもしれないが、早く予約してキチンと泊まってくれる「ホテルにとって有り難いゲスト」が割を食うケースともいえる。そもそも定価で料金変動させないのであれば起こらない問題かもしれない。

ところで筆者は、ホテルの支配人や経営者への取材に際し「こちらの客室はいくらですか?」と質問することがある。「え~と今日は6,000円ですが明日は1万円で……」といった回答を得ることは多い。そこで「いえ、本当はいくらなんですか? 」と聞き返す。すると回答に窮する様子のケースが多く見られる。

ところが、過去の取材(4年ほど前の取材と記憶している)で「うちは5千円です」と即答したホテル経営者がいた。中国地方や福岡で大人気ビジネスホテルチェーン「ホテルアクティブ! 」を運営する、株式会社石田屋ホテルズ代表取締役社長の石田光一郎氏である。

「ホテルアクティブ!広島」外観

石田氏は「確かに今日は7,000円ですし明日は9,000円ですが、この部屋本当は5,000円なんです」と断言した。商売なので繁忙日は料金を上げることもするが、多くいただいた分は新しいホテル建設や事業拡大などには回さず、あくまでもそのホテル・客室の快適性向上に投資するという。確かに、前に一度宿泊した際に「もう充分快適」と記憶していたが、その後何度か再訪した際にも、さらに工夫が施されたリニューアルがなされていた経験があり、納得した。

***

今回は、ビジネスホテルについて「料金変動」の面からみてきた。料金変動の有無については、ホテルの特性やさまざまな条件などを鑑みれば決して一面からでは結論づけられない問題であるといえよう。昨今、インバウンド需要も後押しとなり、ビジネスホテルが多く誕生し、さまざまな経営・運営会社の手により多彩な施設が林立。同時にその「スタンス」も多様化している。

客室の快適性や利便性などと共に、そうしたホテルのスタンスを知ることも、賢い消費者として気に留めておくべき「ホテル利用術」のひとつだといえそうだ。

次回も引き続き「多様化が進むビジネスホテル」について取り上げます。ビジネスホテル市場に押し寄せる“差別化”と“コモディティ化”の流れ、そこから見えてくるものとは?

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

藤田朋宏の必殺仕分け人 第1回

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

2018.11.15

ちとせグループCEOの藤田朋宏氏による新連載

巷を賑わす”ヘンな出来事”の問題点を、独自の解釈で洗い出す!

第1回は、「日本の科学技術投資」について

バイオベンチャー企業群「ちとせグループ」のCEOを務める藤田朋宏氏による新連載。“手段と目的の違い”によって生じた「ヘンな出来事」の問題点を、独自の視点で語ります。第1回は、「日本の科学技術投資」について。日本の科学技術への投資の問題点とはいったい何なのでしょう?

才能と“伸びしろ”に投資する、日本サッカー協会

先日、クアラルンプールに出張したときのこと。宿泊先のホテルが偶然にもサッカーの日本代表と同じだった。「日本代表」と言っても、同じホテルに泊まっていたのは本田や長友ではなく、U-16アジア選手権に参加している若い選手たち。

そこで彼らを見ていて、ふと考えた。日本サッカー協会の「選手への投資」は、実は凄く効率がいいのではないか。どうしてそう思ったのか、順を追って説明したい。

ホテルに置いてあったU-16アジア選手権のバナー

チェックインを済ませ、「部屋の準備があるから、ちょっとだけそこで待っていて」と指示するホテルマンに従い、ひとりロビーに放置されている間、何となしに選手の情報を調べてみた。それから一時間半。23名の選手一人ひとりの顔だけでなく、利き足まで覚えるくらいの時間が経っても、僕はまだロビーで放っておかれたままだった。まぁ、東南アジアではよくあることなので、腹は立たなかった。

ところで、「過去のU-16日本代表がその後、何度も日本代表に選ばれる割合はどれほどだろうか」と疑問に感じ、調べてみたところ、各年20数名の代表選手のうち、現役で活躍している選手は約1人であることが分かった。確かに16歳の段階では身体の発達に差があるし、試合で活躍できるかは運の要素も絡む。コーチとの相性やケガの問題もあるだろう。

そうは言っても、16歳の時点で日本代表に選ばれるだけのポテンシャルを持つ選手のうち、その数%しか将来も活躍できる選手がいない、という事実には驚いた。実際、長谷部、本田、岡崎、長友……など、この10年で活躍している選手たちの多くは、16歳時点ではそこまで期待されていなかった選手ばかりだ。

ではなぜ、そういった選手が後に日の目を浴びられたかというと、それは彼らにも「チャンス」を与えられていたからだろう。日本サッカー協会は、16歳時点で選抜したトップ選手だけに集中投資するだけではなく、同年代の他の有望選手にもしっかりとチャンスを与え続けられるような仕組みをつくれたのだと思う。

際立って目立つ選手だけではなく、将来の伸びしろがありえる選手にも、最低限のチャンスは回ってくることで、未来のトップ選手の育成が図れる。そうやって日本サッカー協会はこれまで、世界に通用するような選手を輩出してきた。

「科学技術に投資せよ」ではなく、予算配分の再考を

前置きが長くなってしまったが、ここから本題に入りたい。

先日、京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル賞を受賞したというニュースが流れた。「自分がバイオテクノロジー業界で働く人間だから」というのは関係なく、本庶先生と周りのチームの方々の長年にわたる科学に対する貢献が認められたこと、その事実に接した関係者の気持ちを想像すると、とても嬉しい気持ちになった。

ノーベル賞メダル(レプリカ)

 

近年、日本人のノーベル賞受賞が続いている。彼らのような日本の科学業界の仕組みをよくわかった方々は、これまで数多くのご苦労をされてきたことだろう。しかし、1つ残念なこともある。能力はもちろん、人格的にも優れたそういった先生方が、ノーベル賞受賞のタイミングでマスコミに発表する一世一代のコメントが「日本国の科学技術投資、科学技術教育のあり方についての憂い」であることだ。

僭越ながら、先生たちのコメントを解釈すると、よくニュースで取り上げられるような「科学技術にもっとお金を使え」ということではなく、その先にある「国家予算の配分」についての指摘をしていると認識している。

誰がなんと言おうと、日本の科学技術投資の選択と集中は年々進んでしまっているのが現状だ。しかし、先生方のいうような「選択と集中が進みすぎている」という指摘に対して、「日本にはもうお金がないのだから科学技術にばかり投資できない」と答えがずれてしまっている。

これこそが、日本の科学技術投資における問題ではないだろうか。

日本にはびこる「選択と集中こそが正解だよ病」

随分前からずっと不思議なのだが、そもそも「選択と集中こそが正解である」なんて、誰がいい出したのだろう。「選択と集中」の戦略で物事をうまく切り抜けられるようなことは、本当に生きるか死ぬか、背水の陣を敷いている時くらいだと思うのだ。

今の日本の「選択と集中こそが正解だよ病」はなかなか根深く、そもそもの目的を実現することよりも「選択と集中」を行うことそのものが目的になっているんじゃないかと感じることが多い。

今の日本で行われている多くの意思決定の場面で、サッカーの例で例えると、U-16日本代表を選んだ人のメンツを潰さないということが、強い日本代表をつくることよりも優先されてしまっているように思う。

そのため、16歳の時点で選んだ選手だけに集中投資し、16歳の段階で選ばれなかった他の選手のポテンシャルに賭けることもしないというような「選択と集中が正解である」という間違えた進め方で意思決定が行われているようなことが多いように感じる。

サッカー選手の育成でも、科学技術の投資でも初期の段階で選抜してそこだけに集中投資するという戦略を繰り返せば繰り返すほど、全体としての力は落ちる一方になるのではないか。歴代のノーベル賞受賞者の先生方も、そういうことを言いたかったのではないかと思う。

手段であるはずの「選択と集中」が、目的となっている?

私は、「16歳の段階で、将来素晴らしいサッカー選手になる人物を見分けられる」なんて言葉は、伸びしろのある選手に対しておこがましいと感じる。これは科学技術の研究にも同じことが言える。「その研究が将来素晴らしい成果を残すかどうか見分けられる」なんて言葉は、科学者に対しておこがましい。

もっと言ってしまえば、どの研究が将来化けるかの判断は、16歳のサッカー選手の成長を言い当てることより遥かに難しいだろう。なぜならば、サッカーという競技のルール自体は変わらないが、科学と言う競技はルール自体を決めているので、科学研究の将来性をあらかじめ予測するのは16歳のサッカー選手の将来性を予測するより難しいためだ。

そんな中、日本サッカー協会が幅広い底上げに力を入れ、紆余曲折も有りながらも右肩上がりの成長を維持できているにも関わらず、日本の科学技術投資は過剰な「選択と集中」を強めるが故に、科学技術力の相対的な低下を招いているように感じる。

その差はいったい何か? これは1つの仮説でしかないが、日本サッカー協会の強さの秘訣は、会長の独断で物事を決められる側面が強い組織であるために「目的」がハッキリしている点にあるのではないだろうか。

その一方で、日本の科学技術投資のような“数多くの人の善意の組み合わせの上になり立っている意思決定機構”では「選択と集中を進めることが正解である」という、本来手段の一つである価値観が「目的」となってしまっているように感じる。

本来考えるべきは、「日本の科学技術をどうするべきか」ということであるにも関わらず、その手段と目的が逆転しまっているのではないだろうか、と思うのだ。