【みずほフィナンシャルグループ】メガバンクが描くマイナス金利時代の経営戦略

【みずほフィナンシャルグループ】メガバンクが描くマイナス金利時代の経営戦略

2016.09.13

【みずほフィナンシャルグループ】メガバンクが描くマイナス金利時代の経営戦略

 バブル崩壊以降、相次ぐ金融機関の破綻、合併によりメガバンクは最終4グループに集約された(みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、りそなホールディングス)。りそな銀行においては国有化となったが公的資金約2兆円を2015年6月に完済した。現在みずほフィナンシャルグループを含めた3強+1という構図である。

 昨今の金融機関を取り巻く環境は厳しい。マイナス金利の導入による収益環境の悪化、フィンテックの台頭、地域金融機関の再編など課題は山積みである。メガバンクにおいても今後の経営を楽観視できない状況である。みずほフィナンシャルグループの今後取るべき経営戦略について検証したい。

メガバンクの歴史

 みずほフィナンシャルグループ<8411>は00年に富士銀行、第一勧業銀行、日本興業銀行の統合により組織された、みずほ銀行、みずほ信託銀行(旧安田信託銀行)およびみずほ証券の持ち株会社である。発足当時は総資産140兆円の世界最大の金融グループの誕生と話題になるも、実際は多額の不良債権や問題点を内包した中で「規模の利益」「経費削減による収益性強化」を目指した統合であった。ちなみに三菱東京銀行は1996年、UFJ銀行は01年、さらにその2行が05年に統合され(吸収合併)三菱東京UFJ銀行になる。さくら銀行と住友銀行の合併による三井住友銀行は01年、大和銀行とあさひ銀行が統合されたりそな銀行は02年に発足した。

みずほフィナンシャルグループの沿革 【みずほ銀行】

 ● 富士銀行:1866年に安田善次郎が開いた両替商「安田商店」が発祥。その後、中小銀行を随時吸収し1923年に安田関係11行が大合同、日本最大の新安田銀行としてスタートする。1948年に財閥解体の流れを受けて「富士銀行」に改称した。

 ● 第一勧業銀行:「日本最古の銀行」として渋沢栄一によって設立された「第一国立銀行」、官営銀行として設立された「日本勧業銀行」(1950年に普通銀行転換)が1971年に対等合併し発足。

 ● 日本興業銀行:1902年に証券・信託機能も備えた特例法に基づく金融機関として設立。戦後は長期信用銀行として再出発。

 2000年に上記3行が経営統合。

【みずほ信託銀行】

 1925年に設立された共済信託が改称を繰り返し、1952年に安田信託銀行となる。一方、1999年第一勧業富士信託銀行が発足。2000年には第一勧業富士信託銀行と興銀信託銀行が合併し(旧)みずほ信託銀行が発足。2002年には安田信託銀行がみずほアセット銀行へ改称。2003年にみずほアセット信託銀行と(旧)みずほ信託銀行が合併し「みずほ信託銀行」発足。2011年に株式交換によりみずほフィナンシャルグループの完全子会社となる。

【みずほ証券】

 1891年発足の玉塚商店を起源とする新日本証券、同じく1891年発足の福島浪蔵商店を起源とする和光証券、1905年発足の日本勧業銀行月報社を起源とする日本勧業角丸証券、第一勧業証券と興銀証券と富士証券が合併したみずほ証券がその後改称や再編を経て2013年にみずほ証券として統合された。合計で12もの組織が随時再編を繰り返したものであり、正に組織そのものがM&Aの歴史と言える。

【みずほフィナンシャルグループ】

 みずほフィナンシャルグループの発足後はグループ内の資本施策が中心である。しかし2011年以降は海外の金融機関との資本提携が増加、国内の市場がシュリンクする中、M&Aを活用したグローバル戦略がうかがえる。

■みずほフィナンシャルグループの資本施策トピックス 年月 内容 2003.1 みずほフィナンシャルグループ設立 2003.3 みずほインベスターズ証券をみずほ銀行の子会社化 2003.3 みずほ証券をみずほコーポレート銀行の子会社化 2003.3 みずほ信託銀行、みずほアセット信託銀行が合併、みずほ信託銀行となる 2003.3 みずほホールディングス、みずほ信託銀行、戦略的子会社をみずほフィナンシャルグループの直接の子会社または関連会社に 2004.3 みずほ証券、農中証券から営業のすべての譲り受けを完了 2005.10 再生専門子会社4社(みずほプロジェクト、みずほコーポレート、みずほグローバル、みずほアセット)が、各々の親会社であるみずほ銀行、みずほコーポレート銀行、みずほ信託銀行と合併 2005.10 みずほフィナンシャルストラテジー(旧みずほホールディングス)が保有するみずほ銀行・みずほコーポレート銀行の株式の全てをみずほフィナンシャルグループが取得 2009.5 みずほ証券と新光証券が合併 2010.3 みずほフィナンシャルグループがオリエントコーポレーションを持分法適用関連子会社へ 2011.3 みずほコーポレート銀行がヘッジファンド調査会社「ユーリカヘッジ」を買収 2011.9 みずほ信託銀行、みずほ証券、みずほインベスターズ証券を完全子会社化 2011.9 みずほ銀行、みずほコーポレート銀行、みずほ証券がベトナムのベトコムバンクと資本・業務提携 2011.12 みずほ銀行、インドネシアのバリモア・ファイナンスを連結子会社に 2012.6 みずほコーポレート銀行、ウェストエルビー・ブラジルの発行済株式100%取得 2013.1 みずほ証券とみずほインベスターズ証券が合併しみずほ証券となる 2013.4 みずほフィナンシャルグループがみずほ証券を直接出資子会社化 2013.7 みずほ銀行とみずほコーポレート銀行が合併しみずほ銀行となる 2014.6 みずほフィナンシャルグループが委員会設置会社に移行

(有価証券報告書より)

①業績の推移

 みずほフィナンシャルグループの2016年3月期の最終純益は前期比約10%増の6709億円、三菱UFJフィナンシャル・グループが前期比約8%減の9514億円、三井住友フィナンシャルグループが前期約14%減の6466億円と三大メガバンク共に一定の収益は確保した。みずほフィナンシャルグループは07年3月期以来9期ぶりに最終損益で三井住友フィナンシャルグループを上回った。

 マイナス金利の影響により、国内の預金貸金の利ざやは縮小傾向にある。メガバンクは今後海外における金利収入、および国内外の非金利収入の向上が重要な施策となる。みずほフィナンシャルグループにおいても中期経営計画の事業戦略の筆頭に「グローバルベースでの非金利ビジネスモデルの強化」を挙げている。もはや国内の融資業務においては、収益を確保できない状況下において、メガバンクと地域金融機関がシェアの奪い合いを行うことにより、金利競争はますます過熱化する様相を呈している。今後グローバル戦略をいかに取り組むかが鍵である。グローバル展開を得意とする三菱UFJフィナンシャル・グループはメガバンクの中でも特に収益性は高い。みずほフィナンシャルグループも海外118の拠点(2015年12月現在)を生かすとともに、国内外の非金利ビジネスをいかに強化していくかが喫緊の課題である。

■連結経常利益

■連結当期純利益

■自己資本比率

フィンテックへの対応

 インターネットの普及に伴うネットバンクの台頭により、金融機関の構成・勢力図に変化が起こっており、既存の金融機関のインターネットへの対応力強化が必要となっている。フィンテック(ITと金融の融合)におけるIT業界の金融ビジネス参入も顕著であり、海外送金の決済のスピード化に対する大手銀行の対応も進む。三菱東京UFJ銀行はシリコンバレーに社員を常駐させ、新技術やベンチャー企業のリサーチに努める。三井住友銀行はIBMの人工知能(AI)「ワトソン」をコールセンターで利用し、資産運用のアドバイスを自動で行う「ロボ・アドバイザー」への活用の可能性を探っている。

 金融機関においての課題の一つがフィンテックへの対応力であり、各銀行とも強化を急いでいる。地方銀行においても随時「フィンテック事業化推進室」のような部署の設置が始まっている。静岡銀行はネット証券大手のマネックスグループや家計簿ソフトを扱うネットベンチャー「マネーフォワード」への出資を行った。マネーフォワードの取り扱う家計簿ソフトや会計ソフトとの連携は既に各行が行っており、インターネットバンキングのシステム強化についても従前より取り組みがなされている。しかしながら、楽天銀行のような自社の販売チャネルと連携したビジネスモデルに対抗できるだけの施策が無いのが現状である。

 中国においては電子商取引最大手のアリババ集団のネット決済サービス「アリペイ」の普及に伴い、同国の既存の金融機関は「eコマース(インターネット商取引)」のプラットホームを立ち上げ応戦している状況である。このようにネットビジネス企業の金融市場への新規参入は各国で起こっており、対抗施策を講じることができるか否かが金融機関の課題である。決済機能のスピード化や利便性の向上のみでなく、消費者の購買行動を含めた囲い込み戦略が必要である。

 大手銀行についてはグループ会社や全国および海外のネットワークを駆使した対策を講じることが肝要と言える。特にECサイト運営企業の金融参入は脅威であり、対抗すべくシステムを早急に立ち上げるか、逆に連携を強化するかの判断が迫られる。

 ビットコインを主とする仮想通貨市場は「ブロックチェーン(電子上取引履歴台帳)」の技術革新により、金融機関にとって今後無視できない存在である。決済システムにおいても、クレジットカードやマネーチャージのシステムの普及により、今後は銀行口座の必要性そのものが危惧される。例えばスターバックスの「スターバックスカード」の事前チャージ型決済サービスの利用者が韓国においては200万人を突破し、チャージ総額は200億ウォン(約21億円)を超えたとの事であり(15年12月18日付日本経済新聞朝刊より)、金融機関を脅かす存在となりつつある。これらの新興勢力や新システムは当然に既存の金融機関にとって「競合」以外の何物でもない。金融機関にとって「連携支援型フィンテック」による自行商品およびインフラの充実は急務であると同時に、金融機関の機能そのものの代替機能を果たす「競合するフィンテック」に対する対応策も必要である。

総括

 低金利政策の長期化により国内における融資業務のみでは収益を確保できない現状に加えて、フィンテックの台頭による異業種競合と金融機関の課題は多い。10年後には金融機関のビジネスモデルは大変容を遂げている可能性は否めない。現在のような金融機関単体の事業ではなく、インターネット関連企業などとの資本提携も含めた連携により「非金利ビジネス」が主業務となっていることが想定される。将来的に金融機関は現在のような店舗網と人員が不要となり大量のリストラ要員が発生することは必至である。こういった状況下において、今までのようなプロトタイプ人材ではなく、あらゆる分野に対応が可能なダイバーシティを念頭に置いた人材育成の準備が必要である。

 しかしグローバル、フィンテックと新たに拡がる市場に対応できる人材育成は容易ではない。有能な人材の確保については、今後M&Aの活用による囲い込みが進むと想定される。グローバル戦略については既に海外銀行に対する投資も進めているところではあるが、安易にボリュームの拡大に走るとバブルの二の舞になる。実際16年3月期の三井住友フィナンシャルグループの最終利益減少要因は海外投資の減損であり、グローバル展開については慎重に行う必要がある。あくまで堅実に拡大路線を図ることが今後の安定的な業績につながる。

 同社が掲げる海外、非金利戦略を遂行していくためには、金融機関というカテゴリーからコングロマリットへの転換を図る必要性がある。同社をはじめとする金融機関が金融業という業種に縛られず、M&Aなどの資本政策を積極的に活用していくためには、今後抜本的な法改正を含めた国家施策も求められるところである。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部


78万人のIT人材不足に一石、新たな人材育成に挑む「メイカーズチャレンジ」とは?

78万人のIT人材不足に一石、新たな人材育成に挑む「メイカーズチャレンジ」とは?

2019.03.19

2030年までに日本国内でIT人材が78万人も不足する危機的状況

学生や若手のIT育成に挑む新機軸の試み、その中身をレポート

企業内実施では難しい基礎育成や異能コラボを補完する可能性も

世界で500億台ものIoT機器が普及することが見込まれている2020年台がいよいよ目前に迫っている。

少し古い調査結果だが、2016年6月の経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、IT人材は2019年をピークに減少傾向へ転じ、2030年には(高位想定で)約78万人不足すると予測する。IT人材に限らず、日本では少子高齢化が進み、多くの業種で人手不足が発生するといわれている。

その対策の柱となるのが、人材育成だ。これまでの20世紀型のビジネスでの価値創造の要素が「ヒト・モノ・カネ」だったのに対し、今後は「データ・ソフト・サービス」に要素が大きくシフトするといわれている。すなわち、必要となる人材も大きく変わっていくことになる。それは、従来のICT企業に限ったことではなく、ユーザ企業においても然りだ。

そこで今回紹介したいのは、総務省が学生や若手エンジニアを対象にIoT人材育成を目的として実施している「Web×IoT メイカーズチャレンジ」である。2018年度は国内9か所でイベントが開催され、2019年2月から3月にかけては、東京でも開催された。この取り組みが何を変えようとして、どのような一石を投じているのか、イベントで実際に実施された内容を下敷きに紐解いてみたい。

Web×IoT メイカーズチャレンジ 2018-19

Web×IoT メイカーズチャレンジ開催の経緯

総務省の情報通信審議会の技術戦略委員会では、かねてよりIoT・ビッグデータ・AI時代の人材育成方策についての議論が続けられており、去る2016年には、中間答申というかたちで以下のような旨の提言も出されている。

「IoTを総合的に理解し、使いこなせる人材・アイデアを発想できる人材が求められており、若者やスタートアップを対象とした開発キットやオープンソースなどを使ったモノづくりを通じた体験型教育やアイデア・ソリューションを競うハッカソンの取り組みを推進することが重要である」

こうしたことを受け、日本最大規模の産官学のIoT推進組織「IoT推進コンソーシアム」の技術開発ワーキンググループ「スマートIoT推進フォーラム」に、「IoT人材育成分科会」が設置されることとなり、そこでの議論を踏まえてこの人材育成事業、Web×IoT メイカーズチャレンジがスタートすることになった。

IoT推進コンソーシアムとスマートIoT推進フォーラムの体制

では、具体的にはどのような人材が今後必要とされるのか? また、未来に向けて、どういった手法でそのような人材を育成していくのだろうか?

Web×IoT メイカーズチャレンジの基本方針などを策定する実行委員会の主査で、上述のIoT人材育成分科会の構成員でもある株式会社KDDIの高木悟氏と、同実行委員会で副査を務める一般社団法人WebDINO Japanの瀧田佐登子氏の両氏に、その点についての話を伺った。

高木氏は、IoTを活用し社会を変革する創造性豊かなエンジニアリング・イノベータ力を備えた若手人材の育成には、

(1)無線装置やセンサ・アクチュエータなどのハードウェアとコンピューティングロジックを中心としたソフトウェア双方を扱えるスキル
(2)情報システムの共通基盤技術となっているWeb技術に基づくIoTシステム構築スキル
(3)企業の製品開発やサービス企画の現場でも、新技術の迅速な導入にもスピード感を持って対応できるアジャイル開発に対応できるエンジニア力
(4)実際にアイデアを試作し、改良を繰り返して実現するプロトタイプ創出力といったスキル

が求められており、Web×IoT メイカーズチャレンジでは、特にそのあたりを意識したイベント設計を行っていると話す。

KDDI株式会社技術開発戦略部マネージャー:高木悟氏

ポイントになるのは、このイベントに参加する学生や若手エンジニアが、座学の講習だけでなく、ハンズオン形式の講習会で実際にボードコンピュータやセンサーやアクチュエータの扱いを体験し、一定の準備期間を設けたうえで、ハッカソンで実際にプロトタイピングを行うという一連のものづくりプロセスを実体験することにある。

Web×IoT メイカーズチャレンジでは、UIやクラウドを含む情報システム全体をひとつの標準化された中立的な技術体系のもとで「ハードウェアを制御できるスキル」を獲得する機会を提供しているが、Webを介することによって、OS、デバイスといったレイヤーごとの違いを吸収し、普遍性の高い共通な技術を学ぶことができる。さまざまなデータをやりとりするには、「Webがもっともやりやすい」と副査の瀧田氏も指摘する。そういった観点からイベント名にもWeb×IoTの文字が冠された。

WebDINO Japan代表理事:瀧田佐登子氏

東京大会の概要をレポート

では、東京大会の様子を交えつつ、本取り組みの具体的な流れを少しレポートしたい。2月9、10日の2日間にわたりハンズオンを含む講習会が開催された。IoTの基礎知識やWiFiやLTEなど、IoT開発には欠かせない通信技術やその根源となる電波の特性について講義を受けたうえで、実際に「Raspberry Pi 3」と各種センサーやデバイスなどの接続・動作を行うハンズオンを約1日半じっくりと行う。受講者は個人単位で参加申し込みを行うが、講習会の2日目にはチーム単位に分けられ、準備期間を置いた後日に開催するハッカソンに向けた準備をスタートする。

東京会場にて。チームでのアイデアソンの風景

チーム分け後は、まずはアイデアソンを実施し、「身近な人をハッピーにするIoTデバイスを作ろう」などといったテーマをもとに議論を進める。初めて会ったメンバー同士で、いかに議論を深めていくか、これが最初の試練といえるだろう。また、各チームには上限額25,000円の予算が与えられ、その中でハッカソンに提出する作品で使うセンサーなどの部品を用意する。ここでは準備期間中の材料調達を含むマネージメント力が求められる。

そして、ハッカソンに向けて作成する作品では、以下の要件が求められる。

・ネットワークサービスの連携、もしくはネットワークからのコントロールが可能なこと
・Raspberry Pi 3を使って、Web GPIO APIあるいはWebI2C APIのいずれかを利用すること

ちなみにハッカソンの審査基準は、以下の通り。

・ソフトウェア・ハードウェアの実装力
・アイデアの独創性・ユースケースの有用性
・無線の活用度

そして、今回の東京大会のハッカソンには、計35名8チームが参加した。

ハッカソンの各チームの様子。今回は計35名8チームが参加した

ハッカソンというと、賞金目当てのツワモノが集まるというイメージがある。しかし、メイカーズチャレンジは、そもそもが「学びの場」として開催しているため、ハッカソン初心者やスキルレベルが不安な学生であっても参加しやすい枠組みを用意している。とにかく、わからないことがあれば積極的にチューターやメンターに聞き、解決していく。終始なごやかな雰囲気で進んでいくことも印象的だ。

こちらはハッカソン2日目の様子。初日のなごやかさからは打って変わり、開発完了に向け緊張感も漂う

それでもハッカソンが2日目にもなると緊張感が漂う。決められた開発締め切りに向かって、時間との戦いである。その日のうちに審査が始まり、今回は、最優秀賞が1チーム、優秀賞が3チーム選出された。

最優秀賞受賞チームの皆さん。後ろに立つ3人は審査員

順序が逆になってしまったが、審査員は以下の通りである。

・村井純氏(慶應義塾大学 環境情報学部教授 大学院政策・メディア研究科委員長)
・小林茂氏(情報科学芸術大院(IAMAS) 産業文化研究センター教授)
・瀧田佐登子氏(一般社団法人WebDINO Japan代表理事、実行委員会副査)

各チームの作品やその他の情報については、Web×IoT メイカーズチャレンジの公式サイトで情報が提供されるので、参照してほしい。

Web×IoT メイカーズチャレンジの成果と今後

今回、2年目を迎えたメイカーズチャレンジの取り組みであるが、その成果はどうだろうか。高木氏は、ほぼ目的は達成されていると判断しているという。実践的な講習会とハッカソンの組み合わせに参加者の多くが満足しており、チューターのサポートやチームでの開発体験を貴重な機会だと感じてもらえたと、手ごたえを語る。

人材育成というと、とかく受講者が受け身の講習が行われがちだが、この施策は講習会からハッカソンまで、参加者が自ら試行錯誤しながら様々なスキルを身につけるアクティブ・ラーニングの機会となっている。瀧田氏は、プログラミングやハードウェアのスキルに限らず、少ないとはいえ制作予算の配分管理や、材料の調達、さらに時間配分やチーム内のコミュニケーションなど、プロジェクトのマネジメントを体験する貴重な機会にもなっていると説明する。

学生から社会人まで、参加者は様々

企業が社員に向けて行う人材育成は、成果の前に、そのコスト・手間暇が大きなハードルとなる。Web×IoT メイカーズチャレンジは、その課題を補完する答えの1つともいえるだろう。今回の東京開催の会場を見ると、30才未満の若手社会人も多く参加しており、大学生や高専生、高校生と混じってチームを組み、真剣にものづくりに向き合う姿が見られた。

Web×IoT メイカーズチャレンジは2019年度も各地で開催される予定だ。立場を問わず関心を持った読者の方がおられれば、将来に立ち向かう可能性のひとつとして、参加や見学を検討してみていただきたい。

関連記事
その面倒な組織カルチャー、印鑑が原因ですよ

藤田朋宏の必殺仕分け人 第4回

その面倒な組織カルチャー、印鑑が原因ですよ

2019.03.18

印鑑業界による印鑑文化の優位性アピールが話題

会社経営者として感じる、捺印作業の面倒さ

「サイン文化」と「印鑑文化」で変わる組織カルチャー

行政手続きのオンライン化を目指す「デジタル手続き法案」をめぐり、全日本印章業協会がアピールした「印鑑のメリット」が話題になっている

「代理決済できるという印章の特長が、迅速な意思決定や決済に繋がり、戦後の日本経済の急速な発展にも寄与してきた」(原文ママ)というものだ。

「ハンコならこっそり代理決済ができる」などと、身も蓋もなく自ら印鑑廃止を後押ししてしまいかねない意見が出てしまったことは興味深い。
でも僕は、ただのバイオテクノロジー屋なので、ITを活用した効率化しますよ業界の回し者でもなければ、印鑑業界の人を敵に回すメリットだってないので、特にこの点について深く言及しないし、「日本における今後のハンコをどうするべきか」なんてことを掘り下げて云々するつもりもない。

ただ、日本を含む4カ国でスタートアップを立ち上げた経験から、企業の組織カルチャー形成に、承認方法としての「印鑑」と「サイン」の違いが、とても大きな影響を与えているのではと実感した話を書いておきたい。

日々、何かと多すぎるハンコ作業

まず共有しておきたい事実は、日本で会社を経営すると、毎日ものすごい数の代表印や銀行印や社印を押さなければいけないということだ。(会社の印鑑って3種類あるの知ってました?)

お客さんと契約してお金をいただくときに契約書に捺印するのはイメージできると思うが、その後もお金が銀行口座に無事入るまで、受領やらなにやら契約書だけでなく、さまざまな書類にとにかく捺印をしまくる必要がある。

また、家賃を払う、プリンターのトナーが切れる、実験試薬を買うなどなど、とにかく会社を運営する活動の一つ一つに対して、それぞれ細かくおびただしい数の印鑑を押す。法人が国や地方自治体に税金を払う時はもちろん、社員のあれこれも、例えば社員の誰かが結婚したり引っ越したりするだけでも印鑑を押しまくる。自分で会社をやってみてつくづくわかったが、とにかく捺印の数が膨大だ。

しかも、びっくりすることに、民間企業も市町村も、同じことをするために、それぞれがまったく違うフォーマットの書類に捺印を求めてくる。

こうして、大量な上にフォーマットがまったく違う書類を毎日渡されて、決められた位置に決められた種類の捺印をすることは、仮に契約書や書類の中身をまったくチェックしないで無責任に捺印したとしても、結構な時間を必要とする作業だ。

捺印にかける時間が惜しい

しかもうわの空で押していると、銀行印を押すべきところに代表印を押し間違えてしまったり、インクが簡単にかすれてしまったりするのが印鑑だ。人生において、こんな捺印ミスなどという程度のことで書類を作り直してもらう羽目になった回数を考えただけで、こんな単純な作業に失敗する情けなさとと、書類を作ってくれる従業員への申し訳なさで、どこかに隠れてしまいたい気持ちになる。

そう、僕は毎日、隠れてしまいたい気持ちになっているのだ。

なぜ、日本から印鑑はなくならないのか

我々の会社のように、たとえ社長だろうがあっちこっちに、営業に謝罪にと、せわしなく飛び回わることで、なんとか会社の体を保っているような規模の企業の方が世の中には多いと思う。そんな"貧乏暇なし社長”がこの捺印という物理的作業に忙殺される時間というのは、正直いって無駄以外の何物でもない。

にもかかわらず印鑑を押すという文化が日本に残っているのは「捺印するという作業」は、誰かに頼めてしまうからなのだと思う。多くの会社において「捺印をし続けるという作業」を自分でやっている社長はあまり居ないのかもしれず、ここが、すべて自ら書かなければいけないサインとの最大の違いなのだろう。

ちなみに、僕の場合は「捺印をし続けるという作業」だけを人に頼むような仕事の依頼の仕方は好みではないので、あちこちに会社を立ち上げては、担当者に「代表取締役」の役職ごと譲るようにしている。

海外の「サイン文化」は印鑑以上に面倒?

冒頭にも書いたが、僕は日本以外の3カ国でも会社を経営している。言うまでもなく日本以外の国は、承認の証としては「サイン」が一般的だ。

日本の会社同士の契約書の場合は、代表者の名前の脇に代表印と社印を、契約書を閉じた裏面に割印を一カ所押す形式であることが多い。つまり、二者間の契約であれば、先方用の契約書と当方用の契約書をあわせて、計4カ所の代表印と計2カ所の社印を押せばよい。

ところが、海外の契約書は、すべてのページにサインをしなければならない。海外の契約書は「実際にそんなことは起きないって」ってくらい、ありとあらゆる場面を想定した契約書になっていることが多く、とにかく契約書が長い。

感覚として、同じような内容の契約をするのに、日本の会社同士の契約の5倍~10倍のページ数になっても驚かない。

つまり、ちょっとした契約書でも軽く100ページを超えてくるわけだが、このすべてのページに手書きでサインをすることを想像して欲しい。契約書の中身を読んでただただサインを書き続けていると、「こんな作業に時間を使い続けてていいのだろうか」という自問の気持ちが芽生えてくる。

その組織カルチャーの差、ハンコとサインの差が原因ですよ

言うまでもなく、サインは誰かに代わりに書いてもらうことはできない。では、サインを書く物理的な時間を減らすために、何が起こるのかというと、「権限委譲」が進むのである。

日本の会社だと当たり前のように社長の名前で締結する規模の契約でも、海外の会社だと担当部長あたりの名前で契約を締結してくる。

もしかしたら、日本の会社のカルチャーだとそれは失礼なことに当たるのかもしれないが、サインを前提とした会社において、会社のすべての契約を社長名義で契約していたら、社長の一日は「サインを書く」という作業だけで終わってしまう。だから、どんどん権限委譲をしていくしかない。

日本の大企業の合意形成や意思決定のあり方を分析する文脈において、「日本の会社は権限委譲が進んでいない」とか、「プロジェクトごとの意思決定者の所在がよくわからないから、スピード感が遅くなってグローバル競争に負けてしまう」などという指摘を頻繁に見る。

特に近年流行りの「日本企業のホワイトカラーの生産性を高めましょう」という議論の多くでは、日本企業のこういった特殊性の原因を、日本人の歴史的・文化的背景や、国民性が理由であると結論づけている。

だからもっぱら、風通しがよく責任範囲が明確で、意思決定の早い会社にするために、せっせと組織構造をいじったり、管理職に研修をしたりと、コンサル屋さんが儲かるだけの努力に大きなお金を払うことになっているのだが、大きな効果が得られているようにみえない。

僕の考えは、特殊性の理由がちょっと違っていて、「その組織カルチャーの差って、捺印とサインの差が本質的な原因ですよ」と、わりと確信に近い自信を持っている。

捺印の作業だけを誰かに頼むのではなく、捺印をする権限ごとどんどん頼んでしまえばいい。ハンコにウンザリしている世の中の社長さん、そう思いません?

(藤田朋宏:ちとせグループ 創業者 兼 最高経営責任者)

連載バックナンバーはコチラ

関連記事