iPhone 7で日本にも上陸、アップルがApple Payの世界展開を急ぐ理由

iPhone 7で日本にも上陸、アップルがApple Payの世界展開を急ぐ理由

2016.09.20

アップルのiPhoneの新機種「iPhone 7」「iPhone 7 Plus」にFeliCaが搭載され、日本でもApple Payが利用できることが話題となっている。しかしなぜ、ハードウェアメーカーであるアップルが決済サービスに力を入れ、なおかつその世界展開を急いでいるのだろうか。その理由を考えてみたい。

iPhone 7/7 PlusのFeliCa対応に注目

去る9月7日(現地時間)、米国で新しいiPhone「iPhone 7」と「iPhone 7 Plus」が発表された。今回の新iPhoneは、光沢のある新色「ジェットブラック」が新たに提供されたほか、IP67の耐水・防塵性能に対応。さらにイヤホンジャックを廃し、完全ワイヤレスを実現したBluetoothヘッドフォン「AirPods」を提供するなど、デザインや機能面で注目すべき要素は多かったといえるが、中でも日本でひときわ注目を集めたのが、FeliCaへの対応と、それによるApple Payの日本上陸である。

Apple Payは、iPhoneに搭載された非接触通信の「NFC」と、指紋で生体認証をする「Touch ID」を用いることにより、iPhoneのみで決済ができるサービス。Apple Payでの支払いに対応したお店に行き、対応するリーダーにiPhoneをかざしてから、Touch IDに指を当てることで、あらかじめ登録しておいたクレジットカードを用いて簡単に決済ができるというのが大きな特徴となる。

アップルがApple Payを開始したのは、NFCとTouch IDの双方に対応したiPhone 6/6 Plusを発売した2014年から。だが従来のiPhoneには、NFCの通信方式のうち、主に海外で利用されているNFC-A/B方式のみが搭載されており、NFC-A/B方式に対応したリーダーがないと利用できなかった。

日本向けのiPhone 7/7 PlusはNFC-A/B方式だけでなく、FeliCaを搭載したことでApple Payの利用が可能に。Suicaなどによる決済が可能となった

だが日本で普及している非接触決済手段は、通信にNFC-A/Bではなく、FeliCaを用いたものがほとんどであり、店舗に用意されているリーダーもFeliCa対応のものが大半を占めている。実はFeliCaも「NFC-F」として、NFCの通信方式の1つとして定義されているのだが、日本以外であまり利用されていないことから、これまで日本以外のメーカーが開発したスマートフォンに搭載されるケースはほとんどなかった。

しかし今回アップルは、iPhone 7/7 Plusの日本独自モデルに、NFC-A/BだけでなくFeliCaも採用。SuicaやiD、QUICPayなどFeliCaベースの非接触決済基盤を用いることにより、日本でもApple Payを提供することとなったのである。

FeliCaの採用はグローバル化があってこそ

しかしなぜ、アップルはFeliCaを搭載してまで、Apple Payの日本進出を図ろうとしたのだろうか。大きな理由はNFC自体の動向にあると見られている。

先にも触れた通り、従来日本以外では、スマートフォンにNFC-A/Bのみを採用していた。しかしながらJR東日本がNFCの国際団体であるNFC Forumに対し、モバイルによる公共交通系決済の対応でFeliCaも採用するよう粘り強く説得したことから、来年以降公共交通の決済に対応するスマートフォンには、NFC-A/BだけでなくFeliCaも搭載されるようになった。

iPhone 7/7 PlusにFeliCaが搭載されたのは、Suicaを有するJR東日本による、標準化団体などへの働きかけが大きく影響しているようだ

今回のiPhoneのFeliCa対応も、そうしたNFCの動向の変化が大きく影響しているものと考えられる。なぜならアップルは、世界で単一のモデルを大量に販売することで、高い収益を確保していることから、ローカル市場への対応によるコスト増加は可能な限り避けたいからだ。

とはいえ、今回FeliCaに対応するのは日本市場専用モデルのみとなっている。だが先の理由から、低コストでFeliCaを搭載できる道筋は既についており、将来的なコスト削減も明確にされている。それゆえ搭載を1年待つよりも、現在のタイミングで導入を図るのが最適とと判断したといえそうだ。

実はアップルは、こうした技術の普及タイミングの見極めが上手い会社でもある。先に触れた通り、Apple Payはサービスを開始したのは2014年だが、なぜこのタイミングでサービスを開始したのかといえば、それ以前よりクレジットカード会社がNFCによる非接触決済の導入を進めており、特に米国で、POSの入れ替えなどによってNFC対応のリーダーがある程度普及したタイミングであったからだとも言われている。

なぜアップルは決済にこだわるのか

では、そこまでしてアップルが決済サービスにこだわり、Apple Payの導入を急ぐ理由はどこにあるのだろうか。アップルらしい理由として挙げられるのは、やはりキャッシュレス、カードレスを実現したいという狙いであろう。

もっとも、現金やプラスティックのカードを使った物理的に手間のかかる決済手段から、より手軽で簡単な決済手段へと移行するための取り組みは、アップルだけでなく、これまでさまざまな企業が打ち出してきたものではある。NTTドコモが推進してきた「おサイフケータイ」も、同様の理念を実現するべくスタートしているものだ。

だがアップルはその理想を、すでに普及しているiPhoneとNFC、そしてTouch IDという現実的な技術によって実現。さらに各社の思惑が絡み合うアライアンスではなく、自社単独でサービス展開することによって、加入店の獲得などをスピーディーに進めることができたといえよう。

一方、「そうではない」理由としてもう1つ、モバイルペイメントの分野における他の大手IT企業との主導権争いも、少なからず影響していると考えられる。Apple Payをはじめとしたモバイルペイメントの分野は、これまでさまざまな企業がチャレンジを続けている。最近ではApple Payの後を追ってサムスン電子が「Samsung Pay」を米国や韓国での展開を加速しているし、Androidを有するグーグルも、同様のサービス「Android Pay」の展開に力を入れつつあるようだ。

そうしたライバル企業にモバイルペイメントの主導権を握られないためにも、アップルはApple Payの世界展開を急ぐ必要があったといえるだろう。実際日本だけでなく、中国では地元の中国銀聯と提携し、中国銀聯のデビットカードでApple Payが利用できる仕組みを構築している。タイミングを見計らいつつも、ローカル市場への対応を積極的に進めるというのは、アップルが理想を貫くより、スピードを重視しているが故といえそうだ。

こうした展開はある意味アップルらしくないとも言えるのだが、モバイルにおける決済の分野を押さえ、財布に置き換わる存在となることができれば、ユーザーの生活におけるiPhoneの存在は一層大きなものとなる。またそのことによって得られる果実は、ハードウェアの継続的な買い替えから、決済に関する手数料収入の獲得、さらにはモバイルペイメントに関連する業界、例えばクレジットカード業界などに対する影響力拡大など、多岐にわたる上に決して小さくないものだ。

それだけにアップルは、今後もさまざまな手法を使ってApple Payの拡大にまい進していくと考えられそうだ。

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

「音声」巡り覇権争うアマゾンとグーグル、立ち止まるアップル

2019.01.21

CESで存在感を放つアマゾンとグーグル、各社の最新動向は?

レノボはGoogleアシスタント、Alexaに対応した新製品を発表

アップルは各社にプライバシー問題を警告、独自路線を貫くか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」で、別格の存在感を放っていたのがアマゾンやグーグルだ。2018年はグーグルがCESに初めて本格出展したことで話題となったが、2019年も大がかりなブースを設置して来場者の注目を浴びた。

ラスベガスのCES会場前に設置されたグーグルのブース

アマゾンやグーグルは音声アシスタントで競争しており、家電製品への組み込みを進めている。2019年のCESではどうだったのか、両社の最新動向をレポートする。

グーグル対アマゾンの音声争いが加速

グーグルは今年もCES会場に「Googleアシスタント」を目玉にした大型ブースを設置。巨大な壁面広告やモノレールのラッピング広告で存在を示し、家電メーカーのブースには白い帽子のスタッフを派遣するなど、CESを乗っ取る勢いだった。

「Googleアシスタント」に対応した家電製品が並ぶグーグルブース

一方、Alexaで先行するアマゾンも展示エリアを拡大。業界やメーカーの枠を越えた「Alexa対応製品」を一挙展示することで、エコシステムの強大さを示した。家庭向けのスマートホーム用途だけでなく、オフィスで使う事例も示すなど、応用範囲を広げている。

アマゾンは「Amazon Alexa」対応製品をブースに集めた

具体的な対応製品として、音声で操作できるスマートスピーカーやスマート電球はもちろんだが、これまでにないジャンルの製品も増えている。たとえばレノボは「目覚まし時計」と「タブレット」の2機種を発表した。

レノボの目覚まし時計「Smart Clock」(左)とタブレット「Smart Tab」(右)

Googleアシスタントに対応した「Smart Clock」は、目覚まし時計の置き換えを狙った製品だ。音声だけでなく画面のタッチ操作にも対応しており、カレンダーの予定や寝覚めのいい音楽、室内の照明と連動した目覚まし機能を提供する。

一方、Amazon Alexaに対応した「Smart Tab」は、一般的なAndroidタブレットとして使えるほか、ドックに置くと音声とタッチで操作するスマートディスプレイに早変わりする。自宅でも外出先でも1台2役で使えるお得さが特徴だ。

アップルが投げかける「プライバシー」問題

CESに両社が注力する背景には、音声アシスタント市場におけるシェア争いがある。「Amazon Echo」や「Google Home」といったスマートスピーカーの売上ではグーグルがアマゾンを猛追しており、2018年第1四半期には逆転劇を果たした(英Canalys調べ)。しかし第3四半期にはアマゾンが再び首位に立つなど、接戦が続いている。

その勢力はスマートスピーカーを越えて、家電全体に広がりつつある。家電の操作といえばスイッチやリモコン、タッチ操作が一般的だが、音声に対応する製品は増えている。これまで独自の音声アシスタント「Bixby」を展開してきたサムスンも2019年にはグーグルとアマゾンとの連携を発表した。

サムスンはスマートTVでグーグル、アマゾンと連携

このまま音声が普及していけば、世界中の人々がインターネットのサービスやコンテンツにアクセスする手段になる可能性がある。音声アシスタントのシェア争いは、スマホOSのシェア争いと同じくらい重要というわけだ。

ただ、音声操作はプライバシーに関する懸念もある。音声操作を受け付けるには、マイクが常時オンになっている必要があるからだ。マイクをオフにする機能はあるとはいえ、家庭内のプライベートな会話を常にマイクに拾われるのは心地よいものではない。

この問題に一石を投じたのがアップルだ。CES会場からよく見えるホテルの壁に意見広告を掲載。ラスベガスの有名なコピーをもじって「iPhoneで起きることはiPhoneの中にとどまる」と訴え、サードパーティと広く連携するアマゾンやグーグルを牽制した。

アップルはCESでプライバシー重視をアピール。元々の言葉は、「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」というもの

アップルも独自の「Siri」をiPhoneに搭載し、スマートスピーカー「HomePod」も販売している。だがサードパーティとは積極的に連携していないため、音声のシェア争いでは不利な立場に追い込まれている。アップルがこのまま「プライバシー重視」路線を貫くかどうかも、音声アシスタント市場の行方を左右しそうだ。

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第30回

一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由

2019.01.21

いまや当たり前の「ワイヤレス充電」スマホ

開発も販売も、実は日本が世界初だった

過去にナゼ廃れたのか、今はナゼ流行っているのか

最近、ケーブルに接続する必要なく充電ができる、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンが増えてきている。一時は姿を消していたワイヤレス充電が、ここにきて再び脚光を浴びるようになったのはなぜだろうか。

世界初のワイヤレス充電対応スマホは日本製

スマートフォンを充電する際、多くの人は充電用の電源ケーブルに接続して充電していることだろう。だがここ最近、スマートフォンをケーブルに接続することなく、専用の充電台に置くだけで充電ができる「ワイヤレス充電」に対応したスマートフォンが増えているのだ。

例えばアップルのiPhoneシリーズであれば、2017年発売の「iPhone 8」シリーズ以降からワイヤレス充電に対応している。他にもグーグルの「Pixel 3」やサムスン電子の「Galaxy Note 9」、そしてファーウェイの「HUAWEI Mate20 Pro」など、海外製のハイエンドスマートフォンを中心として、ワイヤレス充電に対応したスマートフォンは着実に増えている。対応スマートフォンの広まりとともに、ワイヤレス充電をするための充電器も数が増え、家電量販店などで目にする機会も増えている。

ワイヤレス充電対応機種は急増しており、「iPhone XS」など最新のiPhoneもワイヤレス充電に対応している

充電をするためにケーブルに接続するというのは手間がかかるし、何よりケーブルは絡まりやすく取り回しが面倒なもの。それだけに、スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電は消費者にとって非常に便利だ。したがってスマートフォンに搭載するという動きも比較的古くから進められていたのだが、現在のように広く普及するまでにはかなりの時間を要している。

実は、スマートフォン単体でワイヤレス充電ができる機種が最初に投入されたのは日本で、開発したのも日本企業である。2011年にNTTドコモから発売された、シャープ製の「AQUOS PHONE f SH-13C」がそれに当たり、Wireless Power Consortium(WCP)が策定したワイヤレス給電規格の1つ「Qi」に対応。Qi対応の充電器に置くだけで、スマートフォンを充電できる仕組みを備えていたのである。

世界初のワイヤレス充電対応スマートフォン「AQUOS PHONE f SH-13C」は、2011年にNTTドコモが提供。専用の充電器も提供していた

しかも当時、NTTドコモはQi対応のワイヤレス充電ができるスマートフォンの開発に力を入れており、「おくだけ充電」という名称まで付けて積極的なアピールを進めていた。さらにシャープだけでなく、NTTドコモと関係の深い他の国内スマートフォンメーカーともQi対応のスマートフォン開発を進め、市場に多くのワイヤレス充電対応スマートフォンが存在した時期があったのだ。

規格や充電性能の問題が解決し採用機種が増加

だが2013年を境に、NTTドコモのラインアップからワイヤレス充電対応のスマートフォンが一時期姿を消し、ワイヤレス充電は急速に存在感を失うこととなる。当時ワイヤレス充電に力を入れていたパナソニックモバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなどが、iPhoneなどに押されてスマートフォン市場から撤退した影響も大きいが、より本質的な要因は2つあると考えられる。

1つは、急速充電に対する消費者のニーズが高まっていたためだ。当時はバッテリーの性能が現在より低かったため、スマートフォンを使っているとあっという間にバッテリーを消費してしまい、不満の声が多かったため、何よりも素早く充電できることが強く求められていたのだ。しかしながら当時のQiは電力の出力が弱く、充電速度が遅かったことから、消費者のニーズとマッチせず姿を消してしまったのである。

そしてもう1つの理由は、ワイヤレス給電規格が複数存在し、業界全体で、どの方式を採用するか方向性が定まっていなかったため、後続するスマートフォンがなかなか出てこなかったことだ。実際、2015年に日本でも発売されたサムスン電子の「Galaxy S6」「Galaxy S6 edge」はQi規格だけでなく、Power Matters Alliance(PMA、現在はAirFuel Alliance)が策定したワイヤレス給電規格も採用することで、ワイヤレス充電に対応させている。

2015年発売の「Galaxy S6 edge」は、当時まだ事実上の標準規格が定まっていなかったこともあり、複数のワイヤレス給電規格に対応していた

そして最近になってワイヤレス充電が再び日の目を見ることができたのは、それらの課題が解決したことが大きく影響している。急速充電に関しては、当初Qiのモバイル機器に向けた「Volume I」という規格では、送信できる電力が5W以下とされていたため充電速度が遅かったのだが、その後10W、15Wといったより大容量の送信ができる規格の策定が進んだことで、より速く充電できるようになったのである。

また規格の統一に関しては、アップルなど影響力の大きな主要スマートフォンメーカーがQiの採用に傾いたことで、Qiがスマートフォン向けの事実上標準規格となった。そのため多くのスマートフォンメーカーがQiを採用しやすくなり、急速に数が増えたといえる。

さらにもう1つ、高いデザイン性や防水性能など、スマートフォンに求められる要素が年々増えていることも、ワイヤレス充電が復活した大きな要因として挙げられるだろう。一方で、かつて必要だったPCへの接続など、スマートフォンに何らかのケーブルを接続する必要性は年々薄くなっている。将来的にはスマートフォンのワイヤレス充電対応が当たり前となり、充電用のUSB端子やLightning端子がなくなることも十分あり得るだろう。