【ツルハホールディングス】ダイナミックなM&Aで2000店舗・売り上げ7000億円を目指す

【ツルハホールディングス】ダイナミックなM&Aで2000店舗・売り上げ7000億円を目指す

2016.09.21

【ツルハホールディングス】ダイナミックなM&Aで2000店舗・売り上げ7000億円を目指す

 ドラッグストア業界は非常に業界再編が激しい業界の一つで、主としてマツモトキヨシグループとイオン系列グループの2グループが業界を席巻している。資本業務提携をはじめとしたM&Aが盛んに行われており、地場の優良企業を自社グループ傘下に収め、グループの流通網・自社グループのブランド店舗に加えていく傾向がある。

 その中、イオングループ傘下でグループをけん引しつつ、独自路線・独自ブランドを崩さない企業がある。北海道を中心に全国で店舗運営している、ツルハホールディングス<3391>だ。同社は、赤を基調とした看板のツルハドラッグ、クスリのツルハなどの商号を持つドラッグストア大手で、創業は1929年、北海道旭川市で「鶴羽薬師堂」という店舗名で運営していた。

 75年9月に札幌に進出。ここから本格的なチェーン展開を始め、85年3月には50店舗、87年に東京都大田区六郷に店舗を開店し関東へ進出、89年7月には100店舗達成と爆発的に店舗網の拡充をしていった。

 95年に先述のとおり、イオングループ(※当時ジャスコ)の資本を受け入れ資本業務提携し傘下入りするも、現在に至るまでイオングループの中で独自路線を貫いている。これはひとえに、ツルハの持つブランド力がイオングループのブランドと比べても遜色がなく、かつ業績的に見ても優れているためだと推測できる。

 ツルハは現在、全国1660店舗を運営している。ブランド力の向上、店舗網の拡充については、かなり早い段階からのM&Aの活用が成長剤になっているのは間違いなく、その歴史をひもといてみたい。

以下の沿革表を基に解説していく。

■ツルハホールディングスの主なM&A 年月 概要 1929.5 北海道旭川市に鶴羽薬師堂創業 1956.8 ツルハ薬局に屋号変更 1963.6 北海道旭川市にツルハ薬局(現ツルハホールディングス)を設立 1975.5 クスリのツルハコントロールセンター(現ツルハ)を北海道旭川市に設立 1985.3 店舗数50店舗となる 1989.7 店舗数100店舗となる 1991.8 クスリのツルハコントロールセンターからツルハに商号変更。ツルハが本社を札幌市東区に移転 1993.2 ツルハ薬局をクレーン商事(現ツルハホールディングス)に商号変更 1995.1 ジャスコ(現イオン)と業務・資本提携契約を締結 1997.12 クスリのアオキと業務・資本提携契約(持株比率10%)を締結 1999.4 店舗数200店舗となる 2000.11 ツルハがドラッグトマト(岩手県)の全株式を取得し子会社化 年月 概要 2001.2 ツルハが東京証券取引所市場第二部に上場 2001.11 ツルハがリバース(神奈川県)を株式交換により子会社化 2001.11 店舗数300店舗となる 2002.5 ツルハが東京証券取引所市場第一部銘柄に指定 2002.5 グループ売上高1000億円突破 2002.6 ツルハがポテトカンパニー (山形県)の全株式を取得、子会社化 2003.5 ツルハが子会社ドラッグトマトを吸収合併 2003.10 ツルハがくすりの寺田(山梨県)から調剤薬局事業5店舗を事業譲渡(価額非開示) 2004.2 クレーン商事が札幌市東区に本店を移転 2004.3 ツルハが子会社ポテトカンパニーを吸収合併 2004.4 店舗数400店舗となる 2004.10 リバースがエバラドラッグ(神奈川県)から調剤薬局事業5店舗を事業譲渡(価額非開示) 2005.3 ツルハが三光グループ(青森県)から調剤薬局事業8店舗を事業譲渡(価額非開示) 2005.8 クレーン商事をツルハホールディングスに商号変更 2005.11 株式交換によりツルハをツルハホールディングスの完全子会社とする 2005.11 ツルハグループの持株会社として東京証券取引所市場第一部へ上場 2006.8 店舗数500店舗となる 2006.11 くすりの福太郎(千葉県)と業務・資本提携契約(持株比率36.5%)を締結 2007.4 ツルハが信陽堂薬局(千葉県)からドラッグストア事業11店舗を事業譲渡(価額非開示) 2007.5 くすりの福太郎(千葉県)を株式交換(36.5%→100%、約75億円相当)により子会社化 2008.4 PB商品開発のウイング(北海道)の株式を取得(14%→51%、700万円)子会社化 2008.5 グループ売上高2000億円突破 2008.7 スパーク(愛知県/滋賀、7店舗運営)の全株式を取得(0%→100%、約8500万円)、子会社化 年月 概要 2009.1 店舗数800店舗となる
2009.2 ウェルネス湖北(島根県、28店舗運営)の全株式を取得(0%→100%、約33億円)、子会社化 2009.6 リバースが仁天堂(神奈川県、5店舗運営)の全株式を取得(0%→100%、約6700万円)、子会社化 2009.8 クラフトのドラッグストア事業の新設会社(首都圏、19店舗)の全株式を取得(0%→100%、約13億円)、子会社化 2009.11 くすりの福太郎がセベラル(東京都)からドラッグストア事業5店舗の事業譲渡(価額非開示) 2010.4 店舗数900店舗となる 2010.5 リバースが仁天堂(神奈川県)を吸収合併 2011.4 ウイング(北海道)の株式を取得(51%→100%、4400万円)、子会社化
2012.4 店舗数1000店舗となる 2013.7 くすりの福太郎がかねまん薬局総本店マルモ薬品(東京都)からドラッグストア・調剤薬局事業3店舗を事業譲渡(価額非開示) 2013.8 ウエダ薬局(和歌山県、14店舗)の全株式を取得(0%→100%)、子会社化(価額非開示) 2013.10 ツルハがかもめ(高知県)からドラッグストア・調剤薬局事業14店舗を事業譲渡(価額非開示) 2013.12 ハーティウォンツ(広島県、140店舗)の株式を取得(0%→56%、約101億円)、子会社化 2015.3 ハーティウォンツが共栄ファーマシー(大阪府)から広島県内のドラッグストア・調剤薬局事業5店舗を事業譲渡(価額非開示) 2015.4 ツルハが、フジ(愛媛)とともにレデイ薬局(愛媛、200店舗超)の株式を公開買付(34.32%→63.58%、約25億円) 2015.7 ツルハが、フジとともにレデイ薬局の株式を2回目の公開買付(63.58%→97.42%、約35億円)

 ツルハのM&Aは、大きく分けて2種類の目的がある。「ドミナント形成」と「ブランド力の強化(仕入れ流通網の強化)」だ。ツルハホールディングスがバイサイドとなるM&Aは、1997年、くすりのアオキとの資本業務提携から始まる。くすりのアオキとは、商品の共同仕入れや店舗開発の相互協力を目的としたもので、ツルハがくすりのアオキに10%の資本参加をした。

 その後も2000年、岩手県のドラッグトマトを買収、01年関東圏のドミナント強化のため、神奈川県のリバースを買収、02年、山形県のポテトカンパニーを買収と、たて続けに地場の企業に対しM&A、店舗譲渡を仕掛けている。

 非常に意義の大きなM&Aとして、06年11月、当時売り上げが300億円を超えていたくすりの福太郎に対する資本業務提携、翌年07年5月の株式交換による完全子会社化がある。このM&Aは関東圏の店舗網の拡充を目的としたもので、くすりの福太郎の出店は、東東京・埼玉・千葉が中心であり、自社出店では神奈川に強く出ていたツルハとはよい相互補完となった。01年のリバースに続く、関東圏の強化のためのM&Aである。この案件では07年の株式交換において、売上高330億円、純資産12億円、経常利益4.7億円に対し、当時時価において約75億円相当の株式を割り当てており、これまでにないビッグディール案件となった。

 その後10年7月には、主として中国地方を基盤とし関東以南の本州および九州地域でコンビニエンスストアを運営しているポプラとの業務提携を発表した。ツルハとしてはポプラの持つ店舗開発網、商品開発力の提供を企図しており、ポプラとしては自身の運営するコンビニ、並びにポプラの子会社であるキリン堂薬局にツルハから商品流通を行うという相互補完を伴う業務提携であった。2011年9月にはシナジー効果を出すには相当の時間がかかるとのことから撤退、同業務提携を双方合意の上破棄している。

 13年8月には、大阪府、和歌山県内に5店舗のツルハ薬局のフランチャイズ展開をしていたウエダ薬局の株式を取得し子会社化。これにより、同地区でのドミナント形成を加速させていく。

 続いての大きなM&A案件として、13年11月21日、ハーティウォンツ株式の56%をリサ・パートナーズの運営する子会社投資ファンドより取得、子会社化した。ハーティウォンツ(売り上げ511億円、純資産100億円、営業利益35億円、13年3月期実績)は広島県を中心とした中国地方で計ドラッグストア「Wants」と調剤薬局「ウォンツ薬局」を140店舗展開し、中国地方では業界トップクラスの規模と知名度を誇っている。

 店舗展開は広島県や山口県を中心に圧倒的なドミナント化を実現しており、中国地方では鳥取県や島根県を中心基盤とするツルハとは非常によい補完性を持っていた。前述の財務体質の会社の56%株式を、約45億円ののれん代をつけた101億円で買収した。

 さらに、15年5月、かねてより協力関係のあった愛媛県を中心にスーパーのチェーン展開をしているフジとともに、フジの持分法適用会社で、四国最大のチェーンドラッグストアでJASDAQ上場のレデイ薬局の株式をTOBすることを発表した。2度のTOBを経て、ツルハが51%、フジが49%の株式を取得し、レデイ薬局を子会社化した。投下した資本は2つ合わせ計61億円となった。

 実はこの株式の持ち合いについては、ツルハとしてのメリットも多くある。フジは地場の大手チェーン店で知名度が高く、地場で苦戦しているツルハとしては、フジと協業状態にあるということそのものに付加価値があり、ノウハウの吸収、客層の獲得というメリットが付随してくる。

 ここでツルハの財務内容を見てみたい。(数値は15年5月期)

■業績と財務状況の推移

 ツルハは自己資本比率が51.6%と非常に高く、383億近い潤沢なキャッシュに対し借入金は53億と実質無借金といえる。また、この53億円は2016年度に新規に借り入れを起こしたものであり、これまでのほとんどのM&Aは手許資金で行われているものと推察される。

 ここ数年、ハートウォンツ・レデイ薬局は共に中国・四国エリアを中心としたチェーン展開をしており、これまで本拠地から遠く、伸び悩んでいた南下の足掛かりとなる。また、国外(タイ)での自社出店にも力を入れており、去年は13店舗を新規開店した。

 現在のツルハの掲げている中期目標として、「19年5月期、2000店舗・売り上げ7000億円」というものがある。16年5月時の決算説明では、国内の運営店舗1667店舗、売上5275億円となっている。レデイ薬局を傘下に迎え、前期から売り上げを飛躍的に伸ばしたが、あと3年で1800億円近く売り上げを伸ばすことを要する。今後ともダイナミックなM&Aを行っていくものと期待したい。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。