なぜ、NVIDIAが人工知能の進化を大きく左右するのか

なぜ、NVIDIAが人工知能の進化を大きく左右するのか

2016.02.22

人間の限界を超え、新たな発明や発見につながるものとして、さまざまな産業界で注目されている人工知能(AI)。近年の、人工知能開発の飛躍的な進化を支えているのが技術面での進歩だ。前回は人工知能に関わる3つの要素を紹介し、その中の1つ「GPU」において、NVIDIAが大きな役割を担っていることを紹介した。今回は人工知能の発展において、GPUが具体的にどのような役割を果たしているかを見てみよう。

ディープラーニングは莫大な演算の繰り返し

人工知能のブレイクスルーである「ディープラーニング」。単純な変換を多層に繰り返すその手法は、数学的には『(x1 x2 x3)(y1 y2 y3)…』と記述する「行列演算」をひたすら繰り返しているのに似ている(実際にはもっと複雑だが)。

人工知能の最先端モデルのディープラーニングはすでに画像認識、音声認識、自然言語処理、ウェブの商品レコメンデーション、自動運転などに使われている

こうした演算の繰り返しはまさにコンピュータが得意とするところだが、コンピュータの中央演算装置である「CPU」は、行列演算だけでなく、さまざまな演算を汎用的に行うように開発されているため、行列演算はそれほど高速ではない。コンピュータの世界では、実行する処理が限定されているのであれば、その処理を専門的に処理するようハードウェア的に実装したほうが、より高速で効率良く行える。例えば動画を再生するなら、動画再生に最適化された回路を作ったほうが、ソフトウェア的に処理するよりはるかに高速なのだ。

ディープラーニングの学習過程で膨大な量のデータが取扱われる。上記の顔認識でもトレーニングデータは1000万から1億イメージ。これを処理するためにはCPUではなく特定の演算処理を行うGPUのほうが向いている

それでは行列演算に最適化された回路を開発すれば、より高速にディープラーニングを処理できるのだろうか?

答えはイエスだ。ただし、わざわざこれから開発するまでもなく、すでにそのような処理に特化された「GPUコンピューティング」が存在している。

GPUコンピューティングとは、本来3Dを中心にグラフィック描画を専門に行う「GPU」に特定の演算処理を任せようというものだ。GPUはゲームなどが要求する超高度なグラフィックを高解像度・高速に処理するため、グラフィック処理についてはCPUを上回るほどの処理能力を与えられているのだが、これを特定の演算に応用しようというのが「GPUコンピューティング」の考え方だ。

たとえば3Dグラフィックで、3次元空間にある立方体を回転させ、それを2次元であるモニターに投影する場合、各頂点の位置がどのように見えるかは、8つある頂点の、X、Y、Z軸それぞれの座標を行列変換するのに等しい。GPUコンピューティングこそ、まさにディープラーニングに求められている資質そのものだと言えるわけだ。

こうしたGPUコンピューティングをいち早く提唱し、実践してきたのが米NVIDIA社だ。同社はゲーミングPC用の「GeForce」、あるいはグラフィックワークステーション用の「Quadro」といったGPUで知られているが、いずれも同社のGPU用開発環境「CUDA」を用いたプログラムで、3Dグラフィックではなく特定の演算処理を行わせることができる。

GPUコンピューティングの先端を走るNVIDIA

実際、GPUで処理した場合とCPUで処理した場合では、最大で10倍近くもの速度差が現れる。あたらしいアルゴリズムを組み上げ、データを処理させた結果を確認し、新たな推論を打ち立てる人工知能開発の現場において、数週間かかっていたデータ処理が数日で終わることのアドバンテージは計り知れない。

画像分類でよく使われるフレームワークCaffeでNVIDIAのGPU「TESLA M40」を利用した場合。CPUよりも高速の処理が可能

NVIDIAは同社のGPUコアと大量のメモリを搭載した「Tesla」ブランドの演算カードを開発しており、これをセットすることでPCやワークステーション、サーバーがGPUコンピューティングに対応したアプリを超高速で実行できるようになる。拡張スロットに取り付けるタイプのカードなので、1台の本体に対して数枚のカードをインストールすれば、性能向上に対する空間効率も非常に高くできる。

ディープラーニングにおいては、CaffeやChainer、Theanoといったディープラーニング用ソフトがNVIDIA Teslaに対応済みであり、実際にGoogleやIBMといった巨大企業のサーバーファームから、大学の研究室レベルまで、多彩なスケールで実際にTeslaを使ったディープラーニングが行なわれている。まさにNVIDIA Teslaの処理能力が人工知能の爆発的な進化を支えているかたちだ。

NVIDIAがこれから目指すもの

GPUコンピューティングそのものは、NVIDIAのほかに米インテル社や米AMD社など、NVIDIAとGPUで競合するメーカーも開発を進めている。また、GPUの種類を問わず利用できる開発環境として「OpenCL」「DirectCompute」といった共通規格もあるのだが、インテルはCPU内蔵GPUに注力しており、単体で強力なGPUを開発していない。

AMDは単独のGPU「RADEON」シリーズを販売しているが、NVIDIAの「Tesla」に相当するGPUコンピューティング向けの演算カードは販売していない。特にTeslaのような演算カードの存在は、実際の研究機関などで採用されるにあたって大きなアドバンテージになる。開発環境の実績や充実度を見ると、実質NVIDIAの一強という状況だ。

また、NVIDIAはTeslaの高い処理能力を活用する場として、自動車業界をターゲットに挙げている。現代の自動車は随所にセンサーを設けており、それらから走行中に毎秒入力されるデータは非常に莫大な量になる。

自動運転には車に搭載されたセンサーを利用して周囲の状況を確認しながら運転の制御をすることが求められる。画像からは画像認識により、歩行者や駐車車両、標識などを認識していることがわかる

さらに、これが自動運転車となると、カメラの映像や音波など、センサーの数も入力されるデータの量も格段に跳ね上がる。こうした大量のデータを瞬時に処理し、事故を起こさずに走行するよう、自動運転車には人工知能的なアプローチが行なわれているのだが、ここにTeslaの強力な処理能力を生かそうというわけだ。

このように、人工知能や自動運転といった次世代の重要な技術においては、GPUコンピューティングが非常に大きな役割を持つ。そして、GPUコンピューティングの進化を最前列で支えるNVIDIAの存在は、これからのIT分野や産業界において、その進化の速度を左右する、非常に重要なポジションを得ていくことは間違いない。

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ビジネスホテルが大人気

ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、カプセルホテルにラブホテルと横断的な評論が筆者の生業であるが、ことビジネスホテルは昨今勢いのある注目度の高いカテゴリーだ。

旅行や出張で、ビジネスホテルを利用した経験のある人は多いだろう

筆者は、TBSテレビの人気番組「マツコの知らない世界」へ過去3回出演の機会を得たが、第2回で紹介した「ビジネスホテルの世界」は特に反響が大きく、TBS瞬間最高視聴率ランキングで1位をいただいた。視聴者の方々にとってビジネスホテルは身近な存在なのだと改めて認識した。

ということで、連載の第1回となる本稿では、「多様化が進むビジネスホテルの今」をお伝えしよう。

「ビジネスホテル」と「ホテル」の違い

そもそもビジネスホテルとは何なのか。業界ではビジネスホテルは“宿泊特化型ホテル”ともいわれるが、その名の通り宿泊に特化したホテルと定義づけられる。

ホテルとはフルサービスであることが特徴で、宿泊の他に料理・飲食、バンケット(宴会、または婚礼や大規模な会議)など多彩なサービスを提供する。一方のビジネスホテルは、朝食スペースなどが設けられてはいるものの(法令上の要請)、フロントサービスを中心に宿泊機能を提供するというリミテッドサービスであることが特徴だ。“イン”とも称される。

前述の番組で、豪華なスイートルームまであるホテルとして“これ以上のビジネスホテルは見たことがない”と「ホテル ココ・グラン高崎」(群馬県高崎市)を紹介したところ、「スイートルームなんてあるのにビジネスホテルといえるの?」と疑問の声をいただいた。

「ホテル ココ・グラン高崎」プレミアムココスイート

スイートルームがあろうが、基本的に宿泊に特化していればそれはビジネスホテルといえる。ただし、宿泊特化型のコンセプトは多様化しており、単にビジネスホテルとカテゴライズされることを良しとしないホテルもある。

話は逸れたが、ビジネスホテルといえば、伝統的には出張族御用達として人気を博してきた。今では旅のスタイルが多様化したことで、観光にも重宝されており、リーズナブルな旅を求める訪日外国人旅行者にも人気が高い。

「料金変動させるホテル」と「あえてさせないホテル」

しかし、「ビジネスホテル=リーズナブル」というイメージは徐々に崩れつつある。確かに高級ホテルよりは安いといえそうだが、繁忙日と閑散日の料金変動幅がかなり大きなホテルもみられる。

筆者は職業柄日々のホテル料金レートをチェックしている。「ビジネスホテルは高級ホテルより安いといえそう」と書いたが、とある繁忙日の新宿エリアを見たところ、ハイアットよりもアパホテルが高かったことがあり驚いた。料金を客室面積の㎡単位で換算したところ、ハイアットが約1,200円、アパホテルが約2,800円だった。

料金変動の大きさもクローズアップされたアパホテル

極端な例を挙げたが、ビジネスホテルに限らずホテルの料金は変動するのが一般的だ。これは業界では「レベニューマネジメント」などといわれる。ホテルの客室に限らず在庫の繰り越しができない商品を、売れ残りを少なくするためさまざまな価格設定をして販売を管理することは、需要予測のもとに収益を最大化する手法といえる。

需要が高くなると料金が上がるのはホテルに限ったことではないが、とはいえホテル料金変動幅のあまりの大きさに面食らった経験のある人もいるのではないだろうか。季節変動(季節や時期によって需要に増減が起きる変化)の大きなリゾートホテルなどではその傾向はさらに強いし、料金が高額なラグジュアリーホテルでも変動はする。しかし、より日常感のあるリーズナブルなイメージのビジネスホテルほど、ゲストは料金変動にシビアだといえそうだ。

他方、基本的に料金変動させないことをポリシーとするホテルもある。たとえば「東横イン」だ。全国最大規模のビジネスホテルチェーンであるが、宿泊需要の急増する時期でも大きく料金を変動させないことを公式サイトでうたっている

プライスポリシーとして「市場動向にいわば便乗するかのような料金設定は(中略)ビジネスパーソンをはじめとするお客様の信頼を裏切ることになる」と明記。料金の変動が少ないことはゲストの安心感につながるというのが同社の考えだ。

「東横イン」客室イメージ

前述のホテル ココ・グラン高崎も、基本的に料金変動させないことをポリシーにしているが、かようなポリシーのホテルを時々見かけることがある。このように、「料金変動をさせるホテル」と「あえてさせないホテル」があるのだ。

「本当はいくら? 」で部屋の価値を聞いてみた

料金変動でよく見られるのは、最初は高い設定なのに日が迫ると安くなり、当日の夜などに投げ売りされるパターン。レベニューマネジメントで適切な在庫管理ができれば緩和される側面はあるのかもしれないが、早く予約してキチンと泊まってくれる「ホテルにとって有り難いゲスト」が割を食うケースともいえる。そもそも定価で料金変動させないのであれば起こらない問題かもしれない。

ところで筆者は、ホテルの支配人や経営者への取材に際し「こちらの客室はいくらですか?」と質問することがある。「え~と今日は6,000円ですが明日は1万円で……」といった回答を得ることは多い。そこで「いえ、本当はいくらなんですか? 」と聞き返す。すると回答に窮する様子のケースが多く見られる。

ところが、過去の取材(4年ほど前の取材と記憶している)で「うちは5千円です」と即答したホテル経営者がいた。中国地方や福岡で大人気ビジネスホテルチェーン「ホテルアクティブ! 」を運営する、株式会社石田屋ホテルズ代表取締役社長の石田光一郎氏である。

「ホテルアクティブ!広島」外観

石田氏は「確かに今日は7,000円ですし明日は9,000円ですが、この部屋本当は5,000円なんです」と断言した。商売なので繁忙日は料金を上げることもするが、多くいただいた分は新しいホテル建設や事業拡大などには回さず、あくまでもそのホテル・客室の快適性向上に投資するという。確かに、前に一度宿泊した際に「もう充分快適」と記憶していたが、その後何度か再訪した際にも、さらに工夫が施されたリニューアルがなされていた経験があり、納得した。

***

今回は、ビジネスホテルについて「料金変動」の面からみてきた。料金変動の有無については、ホテルの特性やさまざまな条件などを鑑みれば決して一面からでは結論づけられない問題であるといえよう。昨今、インバウンド需要も後押しとなり、ビジネスホテルが多く誕生し、さまざまな経営・運営会社の手により多彩な施設が林立。同時にその「スタンス」も多様化している。

客室の快適性や利便性などと共に、そうしたホテルのスタンスを知ることも、賢い消費者として気に留めておくべき「ホテル利用術」のひとつだといえそうだ。

次回も引き続き「多様化が進むビジネスホテル」について取り上げます。ビジネスホテル市場に押し寄せる“差別化”と“コモディティ化”の流れ、そこから見えてくるものとは?

「選択と集中」が進みすぎた、日本の科学技術への投資

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2018.11.15

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第1回は、「日本の科学技術投資」について

バイオベンチャー企業群「ちとせグループ」のCEOを務める藤田朋宏氏による新連載。“手段と目的の違い”によって生じた「ヘンな出来事」の問題点を、独自の視点で語ります。第1回は、「日本の科学技術投資」について。日本の科学技術への投資の問題点とはいったい何なのでしょう?

才能と“伸びしろ”に投資する、日本サッカー協会

先日、クアラルンプールに出張したときのこと。宿泊先のホテルが偶然にもサッカーの日本代表と同じだった。「日本代表」と言っても、同じホテルに泊まっていたのは本田や長友ではなく、U-16アジア選手権に参加している若い選手たち。

そこで彼らを見ていて、ふと考えた。日本サッカー協会の「選手への投資」は、実は凄く効率がいいのではないか。どうしてそう思ったのか、順を追って説明したい。

ホテルに置いてあったU-16アジア選手権のバナー

チェックインを済ませ、「部屋の準備があるから、ちょっとだけそこで待っていて」と指示するホテルマンに従い、ひとりロビーに放置されている間、何となしに選手の情報を調べてみた。それから一時間半。23名の選手一人ひとりの顔だけでなく、利き足まで覚えるくらいの時間が経っても、僕はまだロビーで放っておかれたままだった。まぁ、東南アジアではよくあることなので、腹は立たなかった。

ところで、「過去のU-16日本代表がその後、何度も日本代表に選ばれる割合はどれほどだろうか」と疑問に感じ、調べてみたところ、各年20数名の代表選手のうち、現役で活躍している選手は約1人であることが分かった。確かに16歳の段階では身体の発達に差があるし、試合で活躍できるかは運の要素も絡む。コーチとの相性やケガの問題もあるだろう。

そうは言っても、16歳の時点で日本代表に選ばれるだけのポテンシャルを持つ選手のうち、その数%しか将来も活躍できる選手がいない、という事実には驚いた。実際、長谷部、本田、岡崎、長友……など、この10年で活躍している選手たちの多くは、16歳時点ではそこまで期待されていなかった選手ばかりだ。

ではなぜ、そういった選手が後に日の目を浴びられたかというと、それは彼らにも「チャンス」を与えられていたからだろう。日本サッカー協会は、16歳時点で選抜したトップ選手だけに集中投資するだけではなく、同年代の他の有望選手にもしっかりとチャンスを与え続けられるような仕組みをつくれたのだと思う。

際立って目立つ選手だけではなく、将来の伸びしろがありえる選手にも、最低限のチャンスは回ってくることで、未来のトップ選手の育成が図れる。そうやって日本サッカー協会はこれまで、世界に通用するような選手を輩出してきた。

「科学技術に投資せよ」ではなく、予算配分の再考を

前置きが長くなってしまったが、ここから本題に入りたい。

先日、京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル賞を受賞したというニュースが流れた。「自分がバイオテクノロジー業界で働く人間だから」というのは関係なく、本庶先生と周りのチームの方々の長年にわたる科学に対する貢献が認められたこと、その事実に接した関係者の気持ちを想像すると、とても嬉しい気持ちになった。

ノーベル賞メダル(レプリカ)

 

近年、日本人のノーベル賞受賞が続いている。彼らのような日本の科学業界の仕組みをよくわかった方々は、これまで数多くのご苦労をされてきたことだろう。しかし、1つ残念なこともある。能力はもちろん、人格的にも優れたそういった先生方が、ノーベル賞受賞のタイミングでマスコミに発表する一世一代のコメントが「日本国の科学技術投資、科学技術教育のあり方についての憂い」であることだ。

僭越ながら、先生たちのコメントを解釈すると、よくニュースで取り上げられるような「科学技術にもっとお金を使え」ということではなく、その先にある「国家予算の配分」についての指摘をしていると認識している。

誰がなんと言おうと、日本の科学技術投資の選択と集中は年々進んでしまっているのが現状だ。しかし、先生方のいうような「選択と集中が進みすぎている」という指摘に対して、「日本にはもうお金がないのだから科学技術にばかり投資できない」と答えがずれてしまっている。

これこそが、日本の科学技術投資における問題ではないだろうか。

日本にはびこる「選択と集中こそが正解だよ病」

随分前からずっと不思議なのだが、そもそも「選択と集中こそが正解である」なんて、誰がいい出したのだろう。「選択と集中」の戦略で物事をうまく切り抜けられるようなことは、本当に生きるか死ぬか、背水の陣を敷いている時くらいだと思うのだ。

今の日本の「選択と集中こそが正解だよ病」はなかなか根深く、そもそもの目的を実現することよりも「選択と集中」を行うことそのものが目的になっているんじゃないかと感じることが多い。

今の日本で行われている多くの意思決定の場面で、サッカーの例で例えると、U-16日本代表を選んだ人のメンツを潰さないということが、強い日本代表をつくることよりも優先されてしまっているように思う。

そのため、16歳の時点で選んだ選手だけに集中投資し、16歳の段階で選ばれなかった他の選手のポテンシャルに賭けることもしないというような「選択と集中が正解である」という間違えた進め方で意思決定が行われているようなことが多いように感じる。

サッカー選手の育成でも、科学技術の投資でも初期の段階で選抜してそこだけに集中投資するという戦略を繰り返せば繰り返すほど、全体としての力は落ちる一方になるのではないか。歴代のノーベル賞受賞者の先生方も、そういうことを言いたかったのではないかと思う。

手段であるはずの「選択と集中」が、目的となっている?

私は、「16歳の段階で、将来素晴らしいサッカー選手になる人物を見分けられる」なんて言葉は、伸びしろのある選手に対しておこがましいと感じる。これは科学技術の研究にも同じことが言える。「その研究が将来素晴らしい成果を残すかどうか見分けられる」なんて言葉は、科学者に対しておこがましい。

もっと言ってしまえば、どの研究が将来化けるかの判断は、16歳のサッカー選手の成長を言い当てることより遥かに難しいだろう。なぜならば、サッカーという競技のルール自体は変わらないが、科学と言う競技はルール自体を決めているので、科学研究の将来性をあらかじめ予測するのは16歳のサッカー選手の将来性を予測するより難しいためだ。

そんな中、日本サッカー協会が幅広い底上げに力を入れ、紆余曲折も有りながらも右肩上がりの成長を維持できているにも関わらず、日本の科学技術投資は過剰な「選択と集中」を強めるが故に、科学技術力の相対的な低下を招いているように感じる。

その差はいったい何か? これは1つの仮説でしかないが、日本サッカー協会の強さの秘訣は、会長の独断で物事を決められる側面が強い組織であるために「目的」がハッキリしている点にあるのではないだろうか。

その一方で、日本の科学技術投資のような“数多くの人の善意の組み合わせの上になり立っている意思決定機構”では「選択と集中を進めることが正解である」という、本来手段の一つである価値観が「目的」となってしまっているように感じる。

本来考えるべきは、「日本の科学技術をどうするべきか」ということであるにも関わらず、その手段と目的が逆転しまっているのではないだろうか、と思うのだ。