【伊藤忠商事】「三方よし」近江商人のルーツに基づく伊藤忠商事の「非資源」戦略

【伊藤忠商事】「三方よし」近江商人のルーツに基づく伊藤忠商事の「非資源」戦略

2016.09.24

【伊藤忠商事】「三方よし」近江商人のルーツに基づく伊藤忠商事の「非資源」戦略

 日本有数の総合商社である伊藤忠商事<8001>。滋賀県豊郷町を発祥とする近江商人をルーツとした総合商社である。同社においては早くから「非資源」を掲げ、資源関連に頼らず事業ドメインを拡充してきた戦略が功を奏し、大手商社が資源価格の下落などを受け軒並み業績悪化に陥る中、順調に利益計上、2016年3月期、国内の商社で三菱商事、三井物産を抑え最終利益で業界No.1の地位を獲得するに至った。今回は財閥系商社に打ち勝ち国内ナンバーワン商社となった伊藤忠商事の戦略に迫る。

「非資源」戦略は「ルーツの違い」

 三菱商事、三井物産が資源関連に傾注する中、伊藤忠商事が消費生活関連事業いわゆる「非資源」のシェアを高めてきたのには理由がある。財閥系の商社が国策に準じたビジネスに取り組んできたのに対し、非財閥系である伊藤忠商事は「繊維ビジネス」が発祥である。伊藤忠商事は商社の中でも「近江商人」として消費者ニーズに合わせたビジネスに取り組んできた経緯がある。

 現在の社長である岡藤正広氏は同社のルーツを重んじ、昨今において消費生活関連企業の資本提携を多数行い、ラインナップを充実してきた。多くの事業ドメインを有することで事業シナジーも創出し、財閥系商社との差別化戦略を図ってきた中、16年3月期で三菱商事は1493億円の赤字、三井物産は834億円の赤字計上に対し、伊藤忠商事は2403億円の黒字計上となった。

 資源価格の明暗が勝敗を分けた形となったが、これは伊藤忠商事の資源事業の見切りが迅速であったことに起因する。米シェールガス事業やコロンビアの石炭事業からいち早く撤退、非資源事業へ注力した。事業ポートフォリオ戦略を大胆かつ迅速に実践した岡藤正広社長の采配のたまものといえよう。

【伊藤忠商事の非資源事業収益】

(転載:伊藤忠商事HP、2015年決算説明資料 非資源・資源利益より)

【伊藤忠商事の非資源事業】

(転載:伊藤忠商事HPより)

伊藤忠商事のM&A戦略

 伊藤忠商事のM&A、資本提携においては「非資源」分野への投資が目立つ。Doleやエドウインの買収をはじめとした「非資源」事業へのシフトがうかがえる。既存のネットワークと新たな販売チャンネルの融合により事業シナジーを創出するのが狙いである。

 そんな中、社運を賭けた一大プロジェクトが始動、中国最大の国有企業CITIC、アジア最大の複合企業タイCPグループとの戦略的業務・資本提携である。中国最大の国有企業であり、総資産92兆円のCITICと、タイの国家予算の50%の5兆円の売り上げと30万人の従業員を有するCPグループと業務提携を行うことにより、アジア40億人の市場に対し勝負を賭ける。アジアの中でも中国の市場動向が懸念されるところではあるが、伊藤忠商事は中国を「成長市場」と位置付け、この事業提携により年間700億円の連結純利益を目指す。本件においては中国、タイの両雄が「アジア経済の発展」という目的に賛同したものである。

 伊藤忠商事のルーツともいえる「三方よし」の精神がグローバル戦略にも生かされている。そして岡藤正広社長ははっきりこう述べる「目標はひとつ、トップになること」。

■伊藤忠商事の近年のM&A・資本提携 年月 内容 2012.4 フィンランドの針葉樹パルプメーカー、METSA FIBREの発行済株式24.9%を約500億円で買収 2012.12 青果物事業及びフルーツなど食品加工業を営むDoleを総額約1350億円で買収 2014.3 国内最大手のジーンズメーカー、エドウインHDを買収。事業再生ADR、500億損失の内300億を伊藤忠商事が負担 2014.10 国内最大手コンタクトセンター運営事業者ベルシステム24の株式49・9%をベインキャピタルから譲り受け。15年11月筆頭株主になる 2014.7 タイ大手コングロマリットのCP(チャロン・ポカパン)グループと業務提携。第三者割当 発行新株7800万株、調達資金1024億円 2015.1 中国最大のコングロマリットCITICと、CPとの戦略的業務・資本提携。CPと共同出資企業にてCITICの普通・優先株式を約1兆2040億円で取得 2016.2 ファミリーマートとユニーグループHDの経営統合を踏まえ、株式買い増しを決定。統合後最終的に議決権割合は約33.4% 2016.5 魚力の米国子会社「ウオリキフレッシュインク」を第三者割当増資にて子会社化 (出資比率51%、払込総額2億円)

③業績推移

(転載:伊藤忠商事HPより)

 伊藤忠商事の業績は安定的に推移している。これは、過去から積極的に買収、資本提携を行ってきた結果といえる。「脱資源」を掲げ、ポートフォリオの再構築を積極的に行ってきたことにより、競合他社との差別化に成功した。今後他社との競合に打ち勝っていくためにはさらなる大胆な意思決定によるグローバル戦略の強化が必要となる。正に同社のオーナーの手腕が問われているといえよう。

次項では同社のオーナーシップについて分析する。

④伊藤忠商事のオーナーシップ

 伊藤忠商事のリーダー選定は同社の経営理念の承継において重要である。同社は「スキップ・ワン・ジェネレーション」で次期社長を任命する。当然に人物重視であり、歴代社長の出身大学はさまざまである。創業時はファミリービジネスであった伊藤忠商事が今日まで成長を続けることができたのは、時代に合った経営トップを選任することを継続できたからであろう。

 伊藤忠商事の社長の任期は原則6年であるが、岡藤社長については現在大プロジェクトを抱えているため続投となった。これは「日本の商社でナンバーワンになる」ことに対する執念である。同社における中期経営計画に対する数字的根拠はM&Aの予算を組んでからとりあえず実行に移していくといった「絵に描いた餅」ではない。既に大型の業務提携も行い、また事業セグメントも資源に偏ること無く分散化が図れていることからも4000億円の収益基盤構築は決して非現実的ではない。

 伊藤忠商事の岡藤社長は、「他社に勝つ」という明確な目標のもと、将来ビジョンを確立し、その実践に向けた具体的な戦略を確実に意思決定していくという「オーナーシップ」を持っている。これは伊藤忠商事が創業当時から「ブレない」経営理念を踏襲しているといえよう。

⑤伊藤忠商事の人材育成

 伊藤忠商事の強さの秘訣として「人材育成」が挙げられる。同社の企業理念である「先見性・誠実・多様性・情熱・挑戦」をベースとしたカリキュラムが組まれており、グローバル人材の育成も含めた「人材多様化推進計画」に03年から取り組んでいる。また10年度に伊藤忠のリーダーが備えるべき行動要件を整備し、全世界の組織長人材をデータベース化、各ディビジョンカンパニーや海外ブロックとの連携を通じて、全世界で海外収益拡大を担う優秀な人材の採用・育成・活用・登用を行う「タレントマネジメントプロセス」の仕組みを構築している。

 人材育成に戦略的に取り組むことにより「ヒト・モノ・カネ・情報」という経営資源を有効に活用することが可能である。今や一般的になっている「ダイバーシティ」「グローバル人材」の育成に早くから着手している点が現在の事業ポートフォリオ戦略の成功にも結実しているといえよう。


⑥総合商社のリーディングカンパニーを目指して

 16年3月期において三菱商事、三井物産が資源価格の低下の影響もあり赤字決算の中、伊藤忠商事は2403億円もの黒字であった。しかし、各社が「脱資源」を掲げ事業戦略を立てており、17年には三菱商事が2500億円、三井物産が2000億円の黒字転換を図る予定である。営業活動によるキャッシュフローにおいても16年3月期で三菱商事7001億円、三井物産5869億円に対し、伊藤忠商事は4194億円であり、またCITICとCPとの業務提携についても資金調達は借入で行っているためネットデットで前年度対比1751億円増加している。競合に打ち勝つためには、各事業の収益性強化は喫緊の課題である。

 中国経済が成長するという賭けに出た以上、中国を中心としたアジア経済の発展を前提に引き続き「非資源」の投資を行っていくしかすべはない。しかし海外企業との連携はそう簡単には進まないと予測される。日本企業がグローバル戦略で大抵苦戦するのが「協働」における人材マネジメントである。ダイキン工業、コマツなども海外におけるマネジメントに成功し今日がある。伊藤忠商事の勝負は正にCITIC、CPとの協働を速やかに行うべくマネジメント体制を整え「三方よし」の環境をつくり出せるかどうかにかかっている。課題は多いが、将来ビジョンの確立とその達成に向けたたゆまぬ努力により、首位の座を不動にすることは決して不可能ではない。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

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ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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