携帯キャリアのVR参入は何をもたらすか - KDDIが描く“電話”の未来

携帯キャリアのVR参入は何をもたらすか - KDDIが描く“電話”の未来

2016.09.26

今年はVR元年といわれ、様々なVR HMDやそのコンテンツが登場している。そんな中、通信インフラであるKDDIがVRを使ったコミュニケーションコンテンツを公開した。いまだ共通規格も定まらないVRだが、通信インフラが参入する意味はどこにあるのだろうか。

VRを使った新たなコミュニケーションとは

KDDIが「次世代VRマルチコミュニケーション」と銘打って開発している「linked-door」。HTCの「VIVE」を使ったVRコンテンツで、今年3月に米国のクリエーターイベント「South by Southwest 2016」で初公開となった。その改良版が今回、東京ゲームショウ2016のHTCブースで公開された。

HTC VIVEは高解像度のVR HMDに加え、両手に持つコントローラーで、実際に手を動かしてVR空間のものを操作できるのが特徴だ。また、部屋に設置する赤外線センサーにより、人の移動や、立ったり座ったりといった高さの変化も高精度で認識できる。linked-doorのプレイヤーはVR空間内を自由に移動したり、VR空間内のオブジェクトに干渉したりできる。

HTC VIVEではHMDをPCに接続するほか、両手に持つコントローラーとヘッドフォンが必要。さらに部屋の隅に赤外線センサーを設置するなどかなりの重装備だ

VR空間で体験を共有

linked-door自体は、VR空間内に作られた南国のリゾートビーチやダーツバーといったシチュエーションを体験するデモンストレーションコンテンツだ。異なるシチュエーション内の移動は、VR空間に現れる「ドア」やワープゾーンのようなポータルを使って行う。ドアを開けるには、ちゃんとVR空間上のドアノブにタッチし、コントローラーのトリガーボタンを引きながら手を回転させて開けるなど、現実世界さながらの動作が必要だ。

通信会社ならではともいうべきlinked-doorの特徴は、別の部屋にいるプレーヤーやデモの司会者と同時にVR空間内を移動したり、コミュニケーションを図ったりできるということ。VR空間で他の参加者はアバター(VR空間内で自分の身代わりとして表示されるキャラクター)となって表示され、音声で会話ができる。VR空間を共有する相手とは、グラスを持って乾杯したり、ダーツで遊んだりすることも可能だ。

乾杯している相手の「ガイド」はデモステージの司会。右にいる女性のアバターは隣室でVIVEを装着している別のプレーヤーだ

筆者もブースで体験させていただいたが、まずHTC VIVEの「VR空間を自由に動ける」、「オブジェクトに干渉できる」という体験は、ほかのVR HMDと比べてもかなり没入感がある。また、同席した別のプレーヤーとの挨拶も、ただ文字や声で挨拶するだけでなく、乾杯などの行為が加わることで、直接顔を合わせるよりも緊張せず、しかも従来のコミュニケーションよりも生身に近い感覚があるという、面白い体験に仕上がっていた。

KDDIがlinked-door開発に取り組む狙いは何か。同プロジェクトを担当している上月勝博氏にお話を伺った。

linked-doorの開発を担当しているKDDI商品企画部 商品戦略3グループリーダーの上月氏

電話を進化させるVR

まず、どうして通信会社であるKDDIが、コンテンツ業界の分野と考えられてきたVRを推進しているかについては、KDDIではlinked-doorを、スマートフォンの次にくる「新たなコミュニケーション」として提案していきたいという回答だった。電話の延長線上にある技術としてVRを捉えているわけだ。KDDIはVRを使って、その場にいながら、実際に会っていなくても「同じ空間で体験を共有する」次元にコミュニケーションを進化させたいという。

VRの活用事例としては、たとえば製品の3Dデータを囲みながら、本社と開発センター間でVR会議を行うというような使い方も面白いだろう。VR HMDが個人でも入手しやすくなれば、VR内でのマルチプレイヤーゲームにも使えそうだ。コミュニケーションツールとしての発展余地は大きい。

テキストや音声と比較して、情報量が多いVRは通信には不向きに思えるが、実際の通信量は数百kbps程度で済み、あとはクライアント側に依存するという。これならモバイル回線でも十分に通信が可能だ。スマートフォンやVR HMDのスペックが向上すれば、アバターの表現を高度化することも検討したいとのこと。方向性としては、利用者が写真を取り込んでアバターに反映させたり、外部のカメラなどを使ってリアルタイムに自分自身をVR空間に映し出したりできるような形を思い描いているという。

通信インフラの充実でVR体験の質も向上

KDDIが扱うスマートフォンやVR HMDの性能には機種ごとに差がある。こうした性能差はKDDIで統一するわけにはいかないので、サーバー側でGPU処理を行い、レンダリング結果だけを送信することで性能差を吸収することも考えているそうだ。特に通信が5Gになって低レイテンシーの通信が可能になれば、こうしたサーバーサイドのレンダリングも実用的になるという。

コミュニケーション手段としてのVRの活用に加え、これまではサードパーティが担っていたVRコンテンツの配信も、KDDIが参入していくという。ただし、全てをKDDIがコントロールするのではなく、特に制作分野ではさまざまなパートナーと協力して、まずはVRの普及を目指し、マーケットを作ることを優先して進めていくつもりとのことだった。

3大キャリアでは一歩先んじたKDDIのVR事業

これまでVRはコンテンツ業界の担うべき分野と考えられてきたが、KDDIはコミュニケーションという新たな方策をもって、この分野に積極的に参入する意思を明らかにした。それではモバイル通信3大キャリアのうち、KDDI以外の残る2社の動向はどうなっているだろうか。

コミュニケーションの多様化にVRを活用しようとするKDDI。他のキャリアの考え方はいかに

NTTドコモはVRコンテンツの配信用として「dTV VR」アプリの配信を開始。dTVでVRコンテンツの配信を開始するとともに、夏フェスでの360度カメラによる撮影やアーティストのVR作品を制作するなど、配信事業のひとつの柱としてVRを捉えているようだ。

ソフトバンクも、VR映像のライブ配信を手がける米NextVR社へ約80億円の出資をするなど、VRコンテンツ、特にライブ配信を重視した戦略を取っているようだ。同社はVR/ARが将来のコミュニケーションや教育、コンテンツ分野において重要であるという立場を明らかにしているが、現時点ではUstreamへ投資したのと同様に、コンサートやスポーツ会場などのライブ配信をコンテンツの中心に考えているようだ。

こうしてみると、VRを配信コンテンツの目玉のひとつに使おうとするドコモ・ソフトバンクと、コンテンツ配信だけでなくコミュニケーションにも積極的に利用しようとするKDDIでは方向性がだいぶ異なることがわかる。将来的には全社とも配信・コミュニケーションをカバーしていくことにはなるだろうが、KDDIはVRによるコミュニケーションに先鞭をつけたという点で、イメージ戦略的に一歩先んじた感がある。本格的な普及にはまだまだ時間がかかりそうだが、キャリアとしての特色を出す意味でも、こうしたチャレンジはもっと評価されていいだろう。将来の展開が大変楽しみだ。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

NewsInsightは、諸般の事情により記事更新を終了いたします。

ご愛顧いただいた読者の皆様、また関係者の皆様に、編集部一同、誠に感謝いたします。

なお、NewsInsightに掲載中の記事につきましては、引き続きマイナビニュース(https://news.mynavi.jp)へと掲載場所を移管いたします。

掲載中の連載記事につきましても同様に、マイナビニュースへ移管いたします。各連載記事の新しい掲載URLにつきましては、以下となります。

○安東弘樹のクルマ向上委員会!
https://news.mynavi.jp/series/andy

○森口将之のカーデザイン解体新書
https://news.mynavi.jp/series/cardesign

○清水和夫の自動運転ソシオロジー
https://news.mynavi.jp/series/autonomous_car

○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
https://news.mynavi.jp/series/game_heisei

○岡安学の「eスポーツ観戦記」
https://news.mynavi.jp/series/e-Sports_review

○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

○藤田朋宏の必殺仕分け人
https://news.mynavi.jp/series/shiwakenin

○「食べる」をつくる科学と心理
https://news.mynavi.jp/series/food_science

○阿久津良和のITビジネス超前線
https://news.mynavi.jp/series/itbiz

○山下洋一のfilm@11
https://news.mynavi.jp/series/filmat11

○モノのデザイン
https://news.mynavi.jp/series/designofthings

○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
https://news.mynavi.jp/series/mobile_business

○文具ソムリエール・菅未里の「新しいコンパス」
https://news.mynavi.jp/series/bungu

○活字・写植・フォントのデザインの歴史 - 書体設計士・橋本和夫に聞く
https://news.mynavi.jp/series/font-history

○カレー沢薫の時流漂流
https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu

最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu