人工知能でカスタマーサポートの価値は向上するか

人工知能でカスタマーサポートの価値は向上するか

2016.09.27

近年、急速に開発速度が高まり、実用化が進む人工知能(AI)。AIの活用事例としては自動運転車などがあるが、ここに来て新たに広がっているのが、カスタマーサポート分野での利用だ。対人コミュニケーション能力を問われるだけにAIでいいのかという不安も残るが、果たしてAIによるサポートはどこまで効果を上げるのだろうか。

AIによるサポートはどこまで効果を上げるか

AIが人間の言葉を理解する

人工知能開発では様々な分野で急速に発展しているが、いわゆる人間の知能のように自発的に考えられるわけではない。あくまで、特定の分野において「自ら学習し、解析と検証を進め、成長することができる」というレベルだ(それでも以前と比べれば格段に進歩し、人間の性能を超えた部分もあるのだが)。学習において大量のデータを必要とするため、過去に実績のある分野であれば人間を超えることもあるが、まったくの新規分野では無力なのが人工知能だ。

そんな現在の人工知能が得意としている分野には「画像解析」や「データマイニング」のほか、「音声解析」「自然言語理解」がある。人間の声をデータとして解析し、何を話しているのかをテキスト化したり、話し言葉のような文法的に正しくない文章を解析して何を話しているかを把握したりすることが可能なのだ。

マイクロソフトの手がけたAIチャットボット「りんな」。口調はだいぶ砕けている

こうした自然言語理解の結果、人間とコンピュータの間のインタフェースとしてAIを使う試みが進んでいる。ユーザーの目に留まりやすいものとしては、グーグルの「OK Google」や、アップルの「Siri」、マイクロソフトの「Cortana」といったモバイルOSが搭載する音声アシスタントが代表格だが、その他の分野で特に進んでいるのがチャットサービスだ。昔から「人工無脳」とよばれる半ばジョークプログラムともいえるチャットプログラムはあるが、AIを使ったチャットはもっと自然なやりとりが可能だ。

日本語で会話できるAIチャットボットとしては、マイクロソフトがLINE上で展開している「りんな」が代表格といえるだろう。女子高生をモデルとして、ユーザーが入力した文章を理解し、自然な文体(やや砕けすぎているが……)で返せる様は、人工無脳とは明らかに次元の違うパワーを体感させるものになっている。

人間をサポートする「Watson」

AIを活用することで、音声でもテキストでも、人間の入力に対して自然に、現実的な速度で返答することが可能になった。こうして人とAIのコミュニケーションが人と人のコミュニケーションレベルになったことで、AIを人間のアシスタント・パートナーとして仕事に活用することが検討されるようになった。

その一例がIBM・ソフトバンクの「Watson」だ。自然言語による入力に対してDBを解析し、相手が要求するデータを推測して提示できるのがWatsonの能力だが、これを電話サポートにも利用している。具体的には、サポートの電話を受信すると、人間のサポート担当者とWatsonが同時にその会話を聞き取る。Watsonは会話を瞬時に解析し、過去のサポート事例から予測される解決策を数秒以内に提示し、サポート担当者のディスプレイに表示する。サポート担当者はその表示を元に顧客に説明を行う、という具合だ。

Watsonはサポート窓口だけでなく、医療分野などでも活用されている

Watsonでは、あくまでサポート担当者が対人インターフェースとして位置付けられており、その黒子に徹している。それでも担当者が自分でDBを検索したり、経験から対応するよりも早く正確さが高まるということだろう。この方式はサポートを受ける相手は人間相手の丁寧なサービスを期待することができ、サポート側はスキルの低い担当者でも熟練担当者並の知識・対応をスピーディーに返せるという点で有効だ。

また、サポートの経験を積んでいくと、システム自身が自分で成長していく点も人工知能ならではと言える。通常業務をこなしていくだけで成長していくシステムというのは理想的だ。

AIがすべてを担当する「AIコンシェルジュサービス」

サポートの質を向上させるという点でWatsonは理想的に見えるが、問題がひとつある。Watsonはコスト的に非常に「高い」のだ。サポートセンターのコストは人件費がかなりの部分を占めるが、Watsonではサポートの窓口を人間が担当する以上、人を減らすことができない。さらにWatsonでは、「大企業でなければ導入するメリットがない」とまで言われるほど、導入コストの高さが指摘されている。質の向上にはつながるが、企業としてコスト減などのメリットを受けることはできないわけだ。

それではAIのパワーを質の向上ではなく、コスト減に集中させてみたらどうなるだろうか。それを追求したのがU-NEXTマーケティングの「AIコンシェルジュサービス」だ。U-NEXTマーケティングは光通信やMVNO事業を展開するU-NEXTの子会社で、コンタクトセンターの外部受託などを担当する会社だ。同社が、音声認識技術「AmiVoice」や、人工知能「AOI」で高い評価を得ているアドバンスト・メディアと提携して構築したのが「AIコンシェルジュサービス」となる。

AmiVoiceとWatsonは何が違うか

AIコンシェルジュサービスでは、顧客から電話を受けると、その会話文をAmiVoiceをベースとするエンジンがテキスト化し、人工知能が文脈を解析して質問の意図を理解する。その上で過去の質問DBから関連の高いものを検索し、解答用の文章を生成。その文章を再びAmiVoiceエンジンが音声として出力する、という仕組みだ。

システムとしてはすでに三菱銀行や関西電力などで実用化されているという

AIコンシェルジュサービスがWatsonと違うのは、サポート業務が100%自動化されている点だ。U-NEXTマーケティングによると、1日8時間稼働するサポート4回線を維持するのに1カ月あたり約120万円かかり、これにシステム構築やセンターの維持費などがかかる。一方、AIコンシェルジュサービスであれば、同じ4回線を24時間365日稼働させても毎月50万円程度で済むという。その他にかかるコストは初期のDB構築用のコンサルティング費用だけで、システムの導入費はゼロという徹底ぶりだ。

多言語対応が可能な点も、音声認識技術に強いアドバンスト・メディアの技術があってこそとなる
サポート体制としては格安のシステムは、サポートコストをかけられない中小企業にとっても嬉しい話となるはずだ

こうした低価格で売り出す背景には、AIを使ったサポート業務という市場を立ち上げたいという思惑もあるようだ。いずれにしても最初には、過去のサポートデータを効率良くDB化するためのコンサルティングが必須なため、そこで基本的な収益はカバーできるということだろう。また現時点では正答率は80%程度ということで、おそらく複雑な案件になれば人力によるフォローが必要になるだろうが、トータルで見れば人間の数は減らすことができる。多くの企業にとって運用コストの安さはかなり魅力的だろう。

ユーザーが接するところである音声認識については、デモも体験したが、かなりの精度だ。もともとAmiVoiceは日本語音声認識エンジンの定番ソフトとして人気を集めるソフトであり、標準語であれば非常に高い認識率を誇る。また、人工音声による応答もかなり自然で、コンピュータの合成音声のイメージをだいぶ修正させられるレベルだった。

AIコンシェルジュサービスでスマートフォン上のキャラクターをUIにした例。単にサポート電話を受けるだけでなく、予約の確認や当日現地の天気予報といったサービスも展開できる

AIによるサポートは受け入れられるか

AIコンシェルジュサービスは、今回は電話サポートという位置付けだったが、音声チャットによるサポートへの応用も可能だろう。LINEトークなどのボイスチャットシステムであれば、さらに低コストでの運用が可能になるはずだ。こうした応用範囲の広さも、AIの魅力のひとつに数えていいだろう。

システムの構築方法や目的にもよるが、サポート以外の応用範囲も期待できる点は魅力的だ

懸念されるのは、方言への対応や、あいまいな質問への対応がどの程度向上するかだ。卑近な例で恐縮だが、「何もしていないのにパソコンが急に動かなくなった」を繰り返す質問者(残念なことにこのレベルの質問は非常に多い)をちゃんとサポートできるのだろうか、という疑問がある。人間ならではの「察する力」や、「相手から正しい情報を引き出す力」をAIにどこまで期待できるかは未知数だ。

とはいえ、正答率が70~80%程度であったとしても、比較的低レベルな質問を処理してフィルタリングしてくれるというのは、サポート業務の面から見れば大きなメリットだと言えるだろう。人力での対応が必要な、本当に重要な問題などはどのみち電話サポートで解決しないことが多いのだし、重要な問題にリソースを集中できるのは経営上も正しい。

「自然にしゃべっていたから人間だと思い込み、融通が利かなくて怒り出した」という事態が起きるのが心配ながら、ユーザーの視点からも、自動音声によるサポートメニュー選択が高度化したものだと思えば、すぐに疑問が解消するならそれでもいい、と思う人は案外多そうだ。少なくともITに慣れた若い層からはあまり拒否感なく受け入れられるのではないだろうか。

冒頭で紹介したようなAIチャットボットの開発目的も、オンラインサポートをチャットで処理することが視野に入っており、DeNAなど実際に開発を進めている企業も多い。これまでテキストベースのわかりづらいヘルプや繋がりにくい電話サポートといった、ユーザーから見てあまりメリットの多くなかった分野を改善するという意味では、大いに功を奏しそうだ。

今後AIによるサポートが浸透していけば、サポートはこの先、人間が窓口となり、時間はかかるが丁寧に問題を解決する高級サポートと、AIがナレッジデータベースを元に解決策を提示する安価なサポートの二極化することになるだろう。AIコンシェルジュサービス以外のサービスも続々と参入することになるだろうが、企業としてはサービスによりコスト重視、正答率重視などの個性はあるはず。そのバランスを考えながら導入を検討するのが、サポート評価の上での重要なポイントになりそうだ。

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

ドコモがQR決済に本気、「d払い」の全国普及なるか

2019.05.22

NTTドコモがスマホ決済の「d払い」を強化する

競合ひしめくなか、ドコモはどこに勝機を見出したのか?

NTTドコモは、夏モデル発表会においてスマホ決済の「d払い」の強化を発表した。送金やミニアプリなど新機能を追加し、ドコモの会員基盤をベースにキャッシュレスを普及させるビジョンを示した。

ドコモがスマホ決済「d払い」を大幅強化

PayPayを始めとするスマホ決済各社は、還元キャンペーンや加盟店開拓などで競争を繰り広げている。ドコモはどこに勝機を見出したのだろうか。

「d払い」が送金やミニアプリに対応

電子マネー「iD」やクレジットカード「dカード」を展開するドコモが、2018年4月に始めたスマホ決済が「d払い」だ。FeliCaの搭載が必要だったおサイフケータイとは異なり、バーコードやQRコードを用いるd払いはほとんどのスマホに対応できる。

d払いアプリのダウンロードは2019年5月に500万DLを達成し、2019年度は1000万DLを目標に掲げた。利用箇所はiDとdポイント、d払いの合算で2019年4月に100万箇所。2021年度末の目標は200万箇所とした。

d払いの強みは、「dポイント」との連携だ。ドコモの利用料金やdカードからの還元だけでなく、キャリアに関係なく持てる「dポイントカード」でポイントが貯まる。2018年度の利用総額は1年間で1600億ポイントに達し、d払い利用者の53%が支払いにdポイントを利用しているという。

さらにドコモはd払いに新機能を追加してきた。9月末に提供する「ウォレット」機能では、ドコモ契約者向けだった「ドコモ口座」を誰もが使えるようキャリアフリー化し、チャージや送金の機能をd払いアプリに統合する。

ドコモ口座をd払いに統合する「ウォレット」

複数の加盟店アプリを1つにまとめた「ミニアプリ」は、秋以降に展開する。d払いアプリから加盟店のサービスを呼び出すことで、「ハンバーガーの事前注文」や「タクシーの配車」が可能になる。加盟店の専用アプリを入れる必要がなく、d払いで決済もできるのがメリットだ。

「ミニアプリ」はローソンとマツモトキヨシから開始予定

QRコードの読み取りも強化する。これまでd払いは利用者がスマホ画面のQRコードを店舗側に見せる「CPM」方式に対応しており、コンビニのようなPOS連携が必要になるなど中小店舗にはハードルの高い仕組みだった。

コードを「見せる」「読み取る」の両方式に対応

そこでd払いは、顧客がスマホのカメラで店舗のQRコードを読み取る「MPM」方式への対応を発表。PayPayなど多くの事業者に続き、d払いも6月末には両方式に対応することで、大型店舗だけでなく中小店舗に展開していく体制を整えたというわけだ。

アプリを大幅強化、「マルチQR」にも対応

次々と新機能を追加するd払いでは、アプリも大きく変わることになる。開発中のアプリ画面には、ドコモ口座への入金と送金、ポイント送付、割り勘、ミニアプリなどの機能が所狭しと並んでいた。

d払いアプリを大幅強化

参加企業が増えればミニアプリには多くのアイコンが並ぶことになるが、これにはカテゴリ分けなどで対応していく考えだ。ミニアプリの仕組みは、既存システムとのAPI接続や専用パッケージの提供など、さまざまな方式を検討するという。

また、増え続けるQRコードへの取り組みも発表した。1つのQRコードで複数の決済サービスに対応できるデジタルガレージの「クラウドペイ」に、d払いも対応する。

1つのQRコードで複数の決済サービスに対応

クラウドペイでは、店舗側が支払う決済手数料は一律3.24%(税込)となるものの、固定費や機器の導入は不要で、複数の決済サービスをワンストップで契約できるなどのメリットがある。

全国のドコモ代理店が加盟店開拓へ

今後は全国のドコモ代理店の営業リソースを活用し、加盟店を拡大していくという。最近ではソフトバンクの営業部隊がPayPayの加盟店を次々と開拓する快進撃を続けており、そこにドコモが勝負を挑む構図になりそうだ。

d払いは、スマホアプリを中心にさまざまなサービスにポイントを循環させるビジョンを描いている。ドコモの発表からは、これまで以上にアクセルを踏み込む姿勢が感じられた。dポイントを絡めた「20%還元」など、新たなキャンペーンにも期待したい。

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ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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