進化を遂げる映画館、生き残りの策とは

進化を遂げる映画館、生き残りの策とは

2016.02.23

2015年にシリーズ10年ぶりとなる新作「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」が公開された。2016年2月現在、興行収入は全世界で20億ドルを突破し、快走を続けている。そんな明るいニュースもあるが、映画館の置かれている現状はそう甘くないようだ。
※特にことわりのない限り、記事内の価格はすべて税込。映画料金については一般料金を参照している。

来場者減、しかし「映画ファン」は通い続ける

NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューションが2015年6月に行った調査結果によれば、直近1年以内に映画館で映画を観た人は35.9%。過去の調査結果と照らし合わせると、その数はじわりじわりと減少し続けている。

映画館での鑑賞頻度が下がっている一方で、1人あたりの鑑賞本数は増加傾向にある。直近1年以内に、映画館で「1本のみ」映画鑑賞した人の割合は減り、「5~11本」「12本以上」観た人の割合が増えた。全体の鑑賞率は下がったとはいえ、映画館に通う人は、より足繁く通っているという現状がうかがえる。

直近1年以内の映画館での映画鑑賞率(NTTコム リサーチ調べ)
過去調査からの鑑賞率の推移(NTTコム リサーチ調べ)
直近1年以内に映画館で観た映画本数(NTTコム リサーチ調べ)

そういった状況に合わせて生き残っていくために、ユニークな試みにどんどん挑戦しているのが東京都・立川市にあるシネマシティだ。

シネコンの危機に、どう立ち向かうか

「2004年頃にシネコンのピークは終わったな、と思った」と語るのは、シネマシティ 企画室室長の遠山武志氏。東京都・立川市にあるシネマシティは、複数のスクリーンを持つシネマ・コンプレックス(以下、シネコン)という形態をとる。一般的にシネコンはショッピングモールなどに併設されていることが多いが、シネマシティはそうではなく、「立川という街全体がショッピングモールみたいなもの」だという(遠山氏)。

インタビューに応じてくれたのは、シネマシティ 企画室室長の遠山武志氏

"ピーク云々"の話に戻ろう。ビデオレンタルショップだけでなく、YouTubeやHulu、Netflixなど、オンラインで動画を楽しめるサービスの台頭に、遠山氏はシネコンの危機を感じ取った。映画を享受する方法が増えれば、わざわざ映画館へ足を運ぶ人が減るのも当然のこと。では、立川シネマシティは映画館として生き残るためにどんな方法をとっているのか?

答えは有料の会員制度

「映画館に行く人が減れば、そこには"濃い層"が残る」(遠山氏)。シネマシティはそういったロイヤルティの高いユーザーにとってメリットが多い策を講じ、みごとファンの獲得に成功している。その策のひとつが「シネマシティズン」という有料の会員制度だ。

シネマシティズン会員は「6カ月会員(180日間)」「1年会員」の2種類。会費は6カ月が600円、1年が1,000円となる。会員の種類にかかわらず、平日は1,000円、土日祝日は1,300円で映画を楽しめるのだ(一般料金は通常1,800円)。現在の会員数は約6万人。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』と『ガールズ&パンツァー 劇場版』の極上爆音上映(詳しくは後述する)をきっかけに、一気に増えたという。

ところで、シネマシティには「レディースデー」「メンズデー」がない。以前は存在したらしいが、廃止してしまった。「たまたま来たら1,000円で映画を観られてラッキー」と思った来場者が、次回来た際に、通常料金を割高に感じてしまうからだ。「通常料金へのハードルが高くなった結果、映画館から足が遠のいてしまうなら、有料の会員サービスを作って"会員はいつでもおトク"という仕組みにしたほうが、会員もシネマシティもみんな幸せになれる」(遠山氏)。

「シネマ・ツー」には窯焼きピッツァを食べられるカフェも併設されている

シネマシティズンには、リピーターを増やしたいという思惑もある。一般的に、上乗せしてどんどん高くなっていく料金体系では、リピーターが増えにくい。たとえば、現在注目を集めている体感型の映画上映システム「4DX」。4DXの鑑賞料金は通常の鑑賞料金に+1,000円(3D作品の場合は一般的に+1,400円)で、2D作品なら2,800円、3D作品なら3,200円となる。4DXを味わった後に「もう1回観たい!」と思えど、約3,000円をもう一度支払うのは多くの人がためらうだろう。

シネマシティズンはそこをうまく突いた。「1,000円なら」と案外ひょいっと払ってしまうのだ。その結果、リピートのハードルを下げることにも成功し、同じ作品を観るために何度も何度も足を運ぶ人が数知れずいる。

立川シネマシティを有名にした「極爆」

何度も同じ作品を観に来る人が多いのは、シネマシティズンという会員制度だけが原因ではない。もうひとつの重要な要素が、もはやシネマシティの代名詞ともなりつつある「極上爆音上映」だ。略して「極爆」とも呼ばれるが、「ベテラン音響家による綿密で徹底した音響調整と、シネマシティの映画館用というよりは音楽ライブ的なサウンドシステムが放つ、これまでの映画鑑賞とは別次元の没入体感型スタイル」(シネマシティ公式HPより)のこと。むやみに音量を上げるのではなく、爆発音や衝撃音は振動を感じられるくらいに、かつセリフや音楽はやかましいと思わせないクリアな音に仕上げている。

極爆上映ができるスクリーンのひとつ、「aスタジオ」。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のために数百万円を投資して購入したサブウーハーがある

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のために数百万円を費やして新たなサブウーハーを投入したり、『ガールズ&パンツァー 劇場版』では作品を作った本人たちが直々に音響調整をしに来たり、ノイズが発生した回は返金対応をしたり、と挙げればキリないが、「この人たち、本気なんだ」と感じさせるこだわりよう。ちなみに、いったん極爆を味わってしまうと、一般的な映画館の音響がなんだか物足りなくなる……というのは筆者の実体験である。

「サブウーハーはあくまで手段。とにかく、そのくらいしているオレたちの気迫を見てくれ! という思いで、いろいろなチャレンジをしています」(遠山氏)。その情熱に惹きつけられるのは映画好きだけではない。"濃い層"をガッチリとつかんでおくのはもちろんだが、極爆などシネマシティはふだんは映画館へ行かないようなライトユーザーも、ついつい通いたくなるほどの引力を持っている。

とある日の『ガールズ&パンツァー 劇場版』の予約状況。朝9時からの回、なおかつシネマシティズン会員しか予約できないタイミングにもかかわらず満席

達成した喜びもひとしお

もちろん、魅力的な映画館を作るだけが策ではない。TOHOシネマズが2015年5月にヤフーから事業譲受した「ドリパス」(もとはブルームが2010年にスタート)もまた、映画好きから好評を博している。TOHOシネマズの担当者によれば、会員数は非公表ながら増加傾向にあり、特に映画ファンの20~40代男性が多いとのこと。

ドリパスとは、ユーザーのリクエストによって上映イベントを実現するためのサービス。リクエスト状況をさまざまな指標によってランキング化し、上位の作品から上映候補作品へ入る。上映イベントの準備が整い次第、チケットがオンラインで発売され、販売枚数が定員に達すれば晴れてイベント成立という仕組みだ。

この仕組みでうれしいのは映画ファンだけではない。運営しているTOHOシネマズにとってもメリットがある。「一定人数のチケット購入があって初めてイベントが成立するので、リスクヘッジとなります。そのほか、閑散期の集客にも寄与しています」(前出の担当者)。TOHOシネマズの収入は、チケット代金のほか、チケット1枚ごとに発生するシステム利用料。システム利用料は上映会場や時間帯によって異なるが、ドリパスの運営費用に当てられている。もちろん、映画館を訪れたユーザーが飲み物やポップコーン、グッズを購入すれば、TOHOシネマズにとってはさらにうれしい。

ドリパスのトップページ

作品にもよるが、コアなファン層を持つ作品はリピート率が高いという。たとえば、『花の詩女 ゴティックメード』は東京で4週連続の上映が決定。うち1回は東京・大阪・愛知・福岡で同時上映となる。ユーザーの「ドリパスイベントの満足度」という書き込みを見てみると、「何度でも行きたい最高の日になりました」など再上映を願う声が多数。熱いファンが集まっている。

ユーザーは観たい映画を劇場で鑑賞できる、運営側は少ないリスクでチケットを販売でき、映画を上映できる。ユーザーもTOHOシネマズも、みんなが幸せになれる仕組みがここにもあった。

ドリパスには「特別企画」も存在する。特別企画として販売されるのは、多くが持ち込みとのこと。宣伝費をそこまでかけられないといった事情がある作品を上映できないかどうか、試す場にもなっている。

付加価値の時代へ

DVDをレンタルするのでも、インターネットで動画を観るのでもなく、およそ2,000円支払って映画を観る。自宅よりも大きなスクリーン、優れた音響で鑑賞できるのはメリットにちがいないが、そこに価値を見出せるのがいわゆる映画ファンだ。

今回、シネマシティとドリパスの取り組みからわかったのは、映画ファンたちに「会員だからいつでも安く鑑賞できる」「あの好きな作品を映画館でもう一度観られる」といった価値を提供できるのがカギだということ。映画館には付加価値が求められるようになってきている。

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CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。