ソフトバンクは何を狙う? アーム買収を巡る真の意図

ソフトバンクは何を狙う? アーム買収を巡る真の意図

2016.08.02

ソフトバンクは7月18日、半導体設計で知られる英アームの買収を発表した。買収総額240億ポンド(日本円換算で約3.3兆円)を手持ち資金と借り入れを合わせた全額キャッシュで賄い、買収後は100%子会社として上場廃止を行う計画だ。まだ今後も各国や関係機関での買収審査が待っている状況だが、早くも買収の意図や今後を巡る議論が盛り上がっている。今回はアームのバックグラウンドを振り返りつつ、買収にまつわるいろいろを整理してみる。

約3.3兆円を全額キャッシュというソフトバンクによるアームの大型買収

アームのバックグラウンド

アーム(ARM Holdings)の歴史を紐解くと、英エイコーン・コンピュータ、米VLSIテクノロジー、米アップル・コンピュータの3社が1990年に設立したアーム(Advanced RISC Machines)に行きつく。当時PCメーカーとして活動していたエイコーンが半導体の設計・製造を行っていたVLSIとのプロセッサ開発プロジェクトが源流にあり、後に自社製品で活用すべく興味を示したアップルが出資して、独立した半導体メーカーとして同年にアームが設立された。アーム設立時のオリジナル計画ではアップルの主力製品の一部に向けたプロセッサ開発だったといわれるが、この計画は途中で破棄され、チームがPDAの「Newton」プロジェクトに参加したことで注目されることになった。

興味深いのは、アームが比較的初期から携帯機を中心とした省電力プロセッサの市場を指向していたことで、前出のNewtonでの採用のほか、2000年代に入ると任天堂のゲームボーイアドバンスで採用されたことが知られている。DEC StrongARMやその流れを汲むIntel XScaleといったアームアーキテクチャでより高速なプロセッサを指向する試みもあったものの、基本的にはマイクロコントローラを中心に低消費電力プロセッサを主力にビジネスを拡大してきた。今日、スマートフォンやタブレット製品の大部分、センサーや家電の制御機器に、将来的には自動車産業への進出など、適用範囲はより広がっている。

そして、アームで最も特筆すべきはそのビジネスモデルにある。

アームのビジネスモデル

一般に半導体メーカーといえば、インテルのように開発から製造までをすべて自社で行うようなところもあれば、クアルコムやエヌビディアのように"ファブレス"と呼ばれる開発と販売だけを行って製造は他社に委託するところがあったり、あるいはファブレスのメーカーからの受託で製造のみを行う台湾TSMCのようなメーカーだったりと、いずれかの形で製造・販売に関わるのが一般的だ。

現在のアームを構成する技術の数々。これらを直接の顧客となる半導体メーカーに要素単位でライセンスする

だがアームでは半導体の設計のみを行い、これをメーカーにライセンスすることで収入を得るという「知的財産(IP)」モデルを採用している。「アームプロセッサ」といってもアーキテクチャのみが共通で、最終製品は各半導体メーカーに委ねられている。つまり、われわれがスマートフォンなどで利用している「アームプロセッサ」はアーム社が作ったものではなく、アップルやサムスン、クアルコムといったアームからライセンスを受けたメーカーが作ったプロセッサということになる。ビジネス的にみれば、最終製品の販売に比べて売上面では劣ることが多いが、一方で一定のライセンス収入が得られ、今後搭載デバイスの増加とともに収益増が見込めるという手堅いビジネスだといえる。

さて、このアームとソフトバンクの関係だが、事業としてのリンクはこれまでのところ存在しないというのが定説だ。かつてはPCソフトウェアの卸しや出版・メディア事業からスタートしたソフトバンクは、2000年代以降は通信事業を中心としたビジネスへと進出し、その集大成は2012年に発表されたスプリント買収だ。当初の想定ほど進展状況はよくないといわれるスプリント買収だが、一方で通信業界での大型買収は一段落したとみられており、おそらく次の10年以上先を見据えた形での次世代の事業展開を睨んだアーム買収だと考えられる。では、この買収はソフトバンクにとってどのような意味があり、今後業界に与える影響はどうなのだろうか。

ソフトバンクの事業の変化はパラダイムシフトと共にあると孫正義氏。実際、その時々で主流とされていた事業を中核に据えていた

利害関係のない買収劇

7月21日に都内のホテルで開催されたSoftBank Worldで基調講演を行ったソフトバンクの孫正義氏は、講演時間の多くをこのアームの紹介と買収の意図についての説明に費やし、さながら「孫正義の半導体の歴史と最新トレンド講座」ともいうべき内容になっていた。

アーム買収の背景と意図について説明する孫正義氏

これはこれで非常に興味深いのだが、本来ビジネスの勉強と商談の場としてSoftBank Worldにやってきていた人にとってはおそらく完全に分野外の話題であり、非常に面食らったのではないかと思う。ただ、そこまでして孫氏がアームと半導体分野の現在について説明しないといけなかったあたりに、ARM買収の鍵が隠されているのではないかと筆者は考える。

アームの業績についてはさまざまな意見があるものの、今後もアームプロセッサ搭載デバイスが増加することで市場が拡大し、それにつれて業績も拡大していくことに異論を挟む人は少ないだろう。一方で、2015年度における同社の売上は15億米ドル程度であり、これから先も売上が上昇カーブを描き続けたとして、おそらく今後10年ビジネスを続けても買収に費やす約3.3兆円を回収するのは難しいだろう。

孫氏は、今後もビジネス的に成長する源泉は「IoT」と「車載システム」にあると力説する。確かに、IoTではPCやスマートフォンでは比較にならない台数へとアームプロセッサが搭載され、プロセッサの出荷台数は倍々ペースで増加していくだろう。インフォテインメント対応に加え、通信機能搭載やセンサーの固まりとなった自動車は将来的に自動運転を見据えた新しいビジネスへと変革していくことが見込まれており、こちらも非常に有望だ。

アームプロセッサの出荷台数は今後もさらに急カーブで伸び続ける
アームのエコシステムを次に大きく拡大するドライバーとして期待されるのがIoT分野
車載システムでの事業領域拡大も期待される

とはいえ、あくまでライセンス収入に頼るアームは、デバイス数の増加ほどには売上増加が望めないというジレンマがある。PCやスマートフォン向けプロセッサとは異なり、これら制御系のマイコンは単価も安めで、個々の収益は知れている。ライセンス料の上昇は顧客離れにもつながるため、基本的には収益を抑え込むことがアームプラットフォームの拡大に貢献するという構図だ。

売上も大幅に増加しているものの、実は純粋な半導体メーカーと比較するとその事業規模は小さいのが特徴

そうなると、ソフトバンクによるアーム買収の意図はどこにあるのだろうか。同社は携帯電話事業やヤフー・ジャパンのように主に収益を上げることに重点を置いた「運用資産」と、アリババなどが好例だが先行投資を行ってリターンを得るという「投資資産」という2軸のビジネスを展開している。問題はアーム買収がどちらに属するのかという点だが、前出のように直接ソフトバンクとコラボレーション可能な事業ではないため、どちらかといえば投資資産としての側面が強い。ただ、3.3兆円もの"すでにビジネスとして確立した"案件での買収を実施するにあたっては相応の理由が必要で、先行投資ではない形のメリットを投資家や銀行らに説明しなければならない。SoftBank Worldでの半導体業界講座は、これを反映したものだといえるだろう。

ソフトバンクは運営と投資の2つの事業領域で構成される。問題はアームがどちらに属するかだが、投資事業の一環だとみられている

不足感が残る説明をどう見るか

それでも説明不足だというのは、筆者だけでなく多くの人の頭の中でくすぶっている問題だろう。孫氏はアームの100%子会社化にあたって全株式の買収と非上場化を実施する予定だが、将来的にアームがさらに有望な企業となったところで他社へと売却したり、あるいは再上場でキャピタルゲインを得るということも可能だろう。ただ、アームの過去の株価を見る限り買収金額は6割増し程度の水準であり、10年後などのタイミングで売却したとしても、せいぜい買収金額と同程度だと予想する。そのため、事業的に将来性が見込めない、あるいは本業や他の事業で問題が発生したと孫氏が判断しない限り、長期的に傘下企業としてアームを抱え込む算段なのではないかと筆者は考える。

逆転の発想で、「なぜソフトバンク以外の企業はアームを買収しなかったのか」という話がある。全世界で動作する95%以上のマイクロプロセッサはアームベースの製品であり、これだけ驚異的なシェアを持つアーキテクチャを開発する企業であれば「事業買収で業界を支配してやろう」と考える会社や人物がいてもおかしくはない。だが現実には買収されなかった。正確にいえば「できなかった」というのが正しいかもしれない。

アームのエコシステムは広大であり、半導体業界やデバイスメーカーでは利害関係が存在しないケースを探すほうが難しい。例えば、アームの顧客であるアップルやクアルコム、サムスンは競合他社との利害関係が発生してしまう。エコシステムにあたる影響から、おそらく近年急伸しつつあるファーウェイなど中国系メーカーが買収するのも難しいだろう。各国での買収承認が下りない可能性が高いからだ。

失敗するケースもあるものの、トータルでみれば世界的な成功企業の投資案件を複数抱えている時点でソフトバンクは希有な存在だといえる。投資に対するリターンもそれだけ大きい

一方で、今回のソフトバンクのように微妙に事業領域が近いながらも直接的な関係がないというポジションで「3.3兆円もの大金をキャッシュで用意できる会社は存在しない」と考えられ、「仮に買収を考えてもソフトバンクくらいしか買収できなかった」というのが筆者の唱える結果論だ。「買収を考えても実行できるのはソフトバンクくらいしかいない、だったら買収してやろう」と孫氏が考えたかは不明だが、これだけコンピュータや通信業界の中核にいながらも手つかずだった企業を「チャンス」とばかりに買収した背景には、このような流れがあったとみている。

買収を巡る双方のメリット

孫氏は、買収発表から3カ月以内での買収完了を見込んでいるようだが、株主による承認さえとれれば買収は成功する可能性が高いと筆者はみている。逆にいえば、株主による承認が最大のハードルであり、だからこそアームに関する説明を非常に入念に行っているのだと考える。ソフトバンクはアーム買収にあたり、英国内にある同社の拠点の今後5年での人員倍増のほか、アドバイスなどの側面以外での経営への介入を直接行わないとの条件を示しており、前出の利害関係の問題を考えれば、おそらく各国の関係機関での買収承認を得るのは可能だろう。特にスプリント買収を経て、T-Mobile USA買収の失敗で辛酸を舐めた同氏は、特に入念にこのあたりの根回しを行っているとみられる。

買収される側のアームだが、現時点でこの買収にはメリットのほうが大きい。まず経営への直接介入を行わないと孫氏が表明していることで、現状のビジネスモデルはそのまま維持できる。一方で公開企業やベンチャーキャピタルのような投資会社が経営に直接口出しをしてこない点で、プロセッサの設計やライセンス事業に注力できるメリットがある。最近記憶に新しいのは、クアルコムの業績が落ち込んだタイミングで株主からIPライセンス事業と半導体事業を分離しろという再三にわたる圧力で経営が混乱したという前例だ。アームはそのエコシステムの広大さと比較して、他の半導体メーカーに比べれば売上は非常に小粒であり(年間売上は10分の1以下)、これを狙って何らかの市場介入を試みる投資家がいても不思議ではない。

ただ、これでは単にソフトバンクがアームに救済の手を差し伸べただけに過ぎないし、「孫正義氏は夢に投資している」と批判を受けても仕方のない話だ。残りの問題は、「アームがどの程度ソフトバンクからの独立性を維持するのか」という点に帰結する。スプリントのような同業他社の買収とは異なり、共同調達や事業連携のような関係がソフトバンクとアームの間には存在しない。将来的にはソフトバンクが要望を出してアームにプロセッサ設計を依頼するということも考えられるが、現時点ではまだ難しいところだろう。アームは基本的にすべてのマイクロプロセッサを供給する半導体メーカーと提携関係にあり、これを利用しての情報収集や、ソフトバンクがそれらメーカーとの何らかのコラボレーションを行うという予測もある。ただ、こうした動きも直近の話ではなく、今後5~10年以上先の話だ。

筆者の予測だが、今回の買収は今後ソフトバンクが目指したい方向性を示し、今後ビジネスモデルを順次組み立て、その前段階としてまず買収可能なアームに食指を伸ばした……というのが現時点での状況だと考える。

将来的にIoTのような形ですべてのデバイス同士がつながる世界がやってくるというのは間違いなく、携帯キャリア各社も「M2M」を皮切りにセンサーネットワークの構築や次世代インフラの整備を進めている段階だ。通信品質やカバーエリアが重視される一方で、このIoTから直接得られる単体の通信量収入はそれほど大きくない。このあたりはアームプロセッサのIPライセンスモデルに通じるものがある。IoT時代の通信事業者は接続デバイス数を大幅に増加させる以外に、そのインフラを使った付加サービスを強化することで収益を増やそうとするのではないだろうか。

例えば、データセンターのリソースを提供することでセンサーネットワークの情報収集や処理に必要な仕組みを用意したり、すでに存在するセンサーネットワークのデータにアクセス可能なAPIのメニュー化、あるいは一連の仕組みを使ってユーザーにサービスを提供するための仕組みの構築に必要なコンポーネントの提供だ。コンサルティングのようなビジネスも可能だろう。

IoTの世界では特にセキュリティが大きな鍵になるといわれている。半導体とセキュリティ業界の両方を長年にわたって見てきた筆者だが、これだけ「TrustZone」というキーワードが連呼されるのは初めて見た

孫氏はアームの説明において、たびたびIoT世界でのセキュリティの重要性を強調していたが、筆者が過去のアームや関連半導体メーカーの取材の中で「TrustZone」というアームプロセッサのセキュリティ機能を指すキーワードを短時間であれほど聞いたのは初めてだ。セキュアOSのような仕組みもあるが、TrustZoneへのアプリケーションの実装は非常に原始的で実装が難しいことが知られており、ソフトウェア方面で稼ぐ手段は今後の需要増を考えればいくらでもあるだろう。ソフトバンクはアームを抱えつつ、付帯ビジネスに活路を見出すことも十分に可能なわけだ。いずれにせよ、今回の買収は短期では結果が出ず、かなり長い視点で進展を見極める必要がある案件だと筆者は考える。

見積もりが楽天的? 出揃ったキャリア決算、新規参入「楽天」の厳しい船出

見積もりが楽天的? 出揃ったキャリア決算、新規参入「楽天」の厳しい船出

2018.11.13

大手キャリアの「値下げ論争」への回答が出揃った

ドコモの値下げに、KDDIは様子見、ソフバンは人員削減で対策

楽天は、自前でのネットワーク敷設を想定通りに行えるのか?

10月末から11月初旬にかけて、大手キャリアが相次いで決算会見を実施。菅官房長官の「携帯電話料金は4割値下げできる余地がある。2019年10月に第4のキャリアとして楽天が参入するまでに実現できるだろう」という発言に対して、各キャリアの姿勢が改めて見えてきた。

値下げ発表受け、様子見のKDDI、人員削減のソフトバンク

菅官房長官の発言で携帯3社の値下げ議論は岐路に立たされた

値下げに積極的な姿勢を見せたのはNTTドコモだ。同社の吉澤和弘社長は「2019年第1四半期に2〜4割の値下げを実施する。4000億円程度のお客様還元を考えている」と発表した。具体的な値下げ方法までは明かさなかったが、端末代金に対する割引をやめ、通信料金と分離する「分離プラン」の導入が有力視されている。

ただ、これまで吉澤社長は値下げに消極的な姿勢を示していたはずだが、突然、導入に踏み切った背景にあるのは「官邸からNTTの持ち株に圧力があったのではないか」(複数の業界関係者)と見られている。

NTTドコモの「値下げ発言」に対して「正直、驚いている」と語ったのは、KDDIの高橋誠社長だ。高橋社長は「我々は昨年、すでに分離プランを導入している。まさに分離プランのトップランナーであり、政府からの宿題もすでに済ませている」と説明した。実際のところ、「NTTドコモの値下げは、具体的な内容がわからない」(高橋社長)ようで、NTTドコモに先んじて、値下げで仕掛けるということはせず、まずは様子見の姿勢を取るようだ。

ただし、NTTドコモの値下げのインパクトによっては「対抗値下げも検討する」(高橋社長)とのこと。ソフトバンクも基本的には「すでに今年9月に分離プランを導入している」(孫正義会長)というスタンスだ。

孫正義会長は「9月に導入したウルトラギガモンスター+は、ギガ単価で見れば、世界でもっとも安いのではないか」と主張。いたずらに値下げ競争には応じない姿勢を見せた。ただし、格安ブランドのワイモバイルにおいては、来春に分離プランを導入する予定で、「1〜2割程度、安くなるのではないか」(宮内謙社長)と見積もった。

NTTドコモがどれだけ値下げしてくるか、どのくらいの影響力があるか見えないだけに、ソフトバンクでは、国内通信事業に携わる社員の約4割を今後、成長ができる分野に配置転換し、通信収入が下がっても、増益を達成できる組織体制にしていく予定だ。

第4のキャリア「楽天」の厳しい船出

菅官房長官や各キャリアの社長の話をまとめると、2019年には2回、通信料金値下げが起きる可能性が出てきた。

まず最初はNTTドコモの値下げだ。吉澤和弘社長は「2019年第1四半期」という言い方をしているが、通常、NTTドコモが料金プランなどの発表を行う場合、決算会見で明らかにすることがほとんどだ。例年、NTTドコモでは、ゴールデンウィークに突入する直前の4月末に決算会見を実施する。来年も4月末に発表し、6月あたりに値下げを実施するという流れになる可能性が高そうだ。

ここで、他社を驚かせるような料金プランが投入されれば、KDDIやソフトバンクも対抗値下げを迫られることになるだろう。

もうひとつは楽天の携帯電話事業参入のタイミング。こちらは2019年10月の予定だ。

11月8日に行われた楽天の決算会見で、料金施策について質問を受けた楽天モバイルネットワークの山田善久社長は「1年先なので、他社がどうこうよりも、ユーザー視点で魅力的な料金を提供していきたい。短期的に他社がどうだからといって決めるものでもない。最終的な料金戦略は決まっていないが、期待されているので、それに応えられる料金にできればと思う」と語った。

総務省に提出された計画書では、MVNOで提供している楽天モバイルの通信料金と同等にするつもりと言われている。しかし、第4のキャリアとして参入した場合、楽天モバイルと同じ料金設定では、ユーザーにとって魅力的には見えないだろう。当然のことながら、楽天モバイルよりも安価な料金設定でなければ、誰も振り向いてくれない。

楽天はKDDIとローミング契約し、サービス開始当初は東京23区、名古屋市、大阪市以外のネットワークをKDDIから借りることができる。

しかし、2026年までには全国に自前でネットワークを敷設しなくてはならない。それには相当なコストが掛かるはずだ。楽天では6000億円未満で実現できると強調するが、その発言を本気で信じる業界関係者はほとんどいない。

ベンダー体制図と設備投資額。「少数の実績のある企業と連携を取りながら進めている。投資額は、当初発表していた600億を下回ると考えている」との説明がなされた

MVNOよりも安い料金をユーザーに提供しつつ、しかも、全国にネットワーク構築できるだけの設備投資額を確保できるだけのソロバン勘定が楽天には求められるのだ。

2019年10月に参入する楽天に対して心配しているのが提携したばかりのKDDIだ。高橋誠社長は「NTTドコモが分離プランを入れると、大手3社がすべて分離プランになる。(キャリアの通信料金が安く見えるので)楽天は、いまのMVNOと同じ料金プランでも、通用しなくなるのではないか。そこで料金をさらに下げると体力的に持たなくなる。(低料金を期待されている)楽天のハードルが上がっているような気がする」と語った。

本来であれば、高い料金プランを続ける大手3社に対して、楽天が低料金プランで果敢に攻めていくという構図が理想だったはずだ。しかし、NTTドコモが、重い腰を上げてしまったことで、楽天にとっても、厳しい船出になってしまうのではないだろうか。

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

モノのデザイン 第46回

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

2018.11.13

バルミューダ初の照明機器「BALMUDA The Light」

子供にターゲットを絞り、目の健康を追い求めた

デザイン家電ブームの火付け役が挑んだ新領域での苦労とは

バルミューダから10月26日に発売された「BALMUDA The Light」。これまで扇風機、スチームトースター、オーブンレンジなど、デザイン性と革新性を両立させた独自の製品を世に送り出してきた同社だが、照明器具の発売はこれが初めて。空調家電、調理家電に次ぐ“第三のカテゴリー”への市場参入を目論む第一弾のプロダクトだ。

“子どものため”と明確に謳ったこのLEDデスクライトは、これまでにはない思想で開発された。業界で異彩を放つ新製品の設計・機構から外観に至るまで、広義での"デザイン"について、開発チームのメンバーである同社マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏に聞いた。

バルミューダが新たに挑む製品カテゴリーである"照明"の第1弾として発売された「BALMUDA The Light」。"子どものため"のデスクライトとして、最新のテクノロジーのみならず、開発陣の思想や想いが想像以上に込められた商品だ

子どもウケデザインではない、子どものためのライト

冒頭で述べたとおり、本製品はデスクライトとして"子ども向け"を謳った商品。だが、その方向性は、見た目だけを子どもウケするようなデザインにしたものとは本質的に大きく異なる。

子ども向け="子どもの姿勢や視力への影響を配慮したもの"であり、製品の発表会では、「大人に比べて視界が狭い子どもは、机に向かっているうちにいつの間にか前のめりになってしまい、うつぶせのような姿勢になってしまう」と、寺尾玄社長自らがご子息と対峙して気づいたことが、開発の経緯になったことを明かしていた。

一般的なデスクライトの難点は、このように真上からの照明で、手元に影ができやすいことだ
光源が目に直接入ることも従来のデスクライトの問題点

高荷氏によると、初期の段階ではまったく異なるコンセプトで研究開発していたそうだ。しかし、「そのコンセプトでは商品化のめどが立たず、"集中"とか"目"が開発の方向性のキーワードになっていきました」と話す。

お話を伺った、バルミューダ マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏

BALMUDA The Lightは、同社が"フォワードビームテクノロジー"と呼ぶ、光をミラーで一度反射させてから手元に当てることで、光が瞳に直接入らない点が特長の1つである。反射板を使うことで机全体を照らすことができるという仕組みは、開発の初期段階から検討されており、デスクライトに応用することも考えていたそうだ。

バルミューダが考えた、デスクライトとしての理想的な光のイメージ。手元に影を作らず、光が直接目に入らない解決方法が検討された
BALMUDA The Lightの光源部分。ミラーによって光を反射させてから手元に当てることで、光が直接目に入らず、影もできない。光源には3灯の太陽光LEDが使われている

手術灯メーカーとの出会いで開発が加速

バルミューダがデスクライトの開発に着手したのは2014年ごろ。実は2015年に発売され大ヒットした「BALMUDA The Toaster」の発売前から構想自体はスタートしていたというが、商品化に向けて大きく動き出したのは2年ほど前とのこと。高荷氏は「でも、拍車がかかったのは、去年(2017年)の頭ぐらい。社長自らが山田医療照明の増田社長と出会ったところからなんです」と振り返る。

山田医療照明は、手術灯など医療用照明を手掛ける、業界では国内トップのメーカーだ。バルミューダが開発途中で考えていた照明の仕組みが手術灯に似ていることに気付いた寺尾社長が自らネットで検索し、探り当てたのが山田医療照明だった。これが、後の"フォワードビームテクノロジー"につながっていくことになる。

すぐさま寺尾社長はショールームへ乗り込んで行った。山田医療照明は手術灯でグッドデザイン賞を受賞するなど、デザインに対する意識も高く、製品開発の考え方にも近いものがあると感じたという。直接会いに行った同社の社長ともすぐさま意気投合したそうだ。

高荷氏は「実は山田医療照明の増田社長がバルミューダのファンで、弊社のほぼ全商品を持っていらっしゃったんです」と、共同開発にたどり着いたエピソードを笑いながら語った。

フォワードビームテクノロジーのヒントになった、山田医療照明の手術灯

2017年春からは、2社共同のプロジェクトとして再始動した、BALMUDA The Light。もう1つの技術的な特長として、光源に"太陽光LED"を採用していることも挙げられる。

太陽光LEDとは、太陽による自然光に近い波長(スペクトル)を持ったLED。一般的なLEDに比べてブルーの波長が低く、目にストレスを与えにくいといい、山田医療照明が手掛ける手術灯にも数年前から採用されている。

だが、目に優しい反面、太陽光LEDは価格が高いのが難点。一般的なLEDの10倍ほど高価なために、民生用の機器で採用されている例はほとんどないという。それをBALMUDA The Lightではなんと3個も搭載しているのだ。

BALMUDA The Light、一般的な白色LEDライト、太陽光の光の波長の違い。BALMUDA The Lightのブルーライトは、一般的な白色LEDライトに比べると太陽光に近い波長で、目が疲れにくい特性を持つ

太陽光LEDが民生用機器に採用されない理由は他にもある。「太陽光LEDは、光の質がよい代わりに発熱しやすく、放熱をいかに行うかがかなり大変なんです。放熱対策をせずに電流を流すと100℃を超えることもあり、そのままだとすぐに壊れてしまいます」と高荷氏。

そこで、BALMUDA The Lightではさまざまな放熱技術を検討していった。「フォワードビームの反射構造と放熱を両立させる設計を行い、1日中ライトをつけっぱなしにしていても、ほのかに温かいと感じる程度にまで抑え込みました。しかし、放熱のための解決策をやればやるほど本体が重くなっていき、倒れやすくなってしまったんです」と話す。

カサの部分に複数設けられた穴の部分は、放熱の機能も兼ねている

「形に合わせた開発」の苦労

以前、「BALMUDA The Range」の取材の際に、「バルミューダのデザインの神髄は、形はベーシックでありながら、オリジナリティーを追求することにある」と語られていたように、開発チームには、形を変えないままで中身を改良していくことが要求された。

「開発部門としては、あと5ミリ厚くできれば放熱と倒れにくさを両立できるのに……というせめぎ合いが何度かあったのですが、弊社の商品はデザイン性もブランドアイデンティティーの1つ。デザイン性は優先課題とされるため、"形ありきで、そこに技術をどうやってはめていくか?"という考え方で、光源部分の試作を毎週繰り返して、最終的にはコンマミリサイズで調整を続けました」と苦悩を明かす。

そのほかにも、暗くする際にチラつきが出やすく、それが目にストレスを与えてしまうという問題を電流の量で微調整する制御を行い、最小限に抑えたという。

一方、外観上のデザインに関しては、"パッと見はシンプル"というバルミューダ共通のデザイン意匠を踏襲しつつも、意識されたのは"テック感"だ。

「光源が見えない時、表側はシンプルでやさしい印象ですが、カサの内側の光源がある部分は複雑な造形にし、一部をクローム調にすることでシャープな印象に仕上げました。ポリゴン状の反射板も、光学的に有利かつテクノロジーを感じるデザインを意識したものです」と高荷氏。

それ以外にも、"子ども用"を謳う商品として、耐久性はもちろん、転倒しないように重さを調整した。"長くずっと机にいる相棒"として長年愛用できるように、デコレーション用に付属するシールが貼りやすい一方で傷や指紋が付きにくく、手入れをしやすいマット塗装やコーティングが施されている。

本製品のもう1つユニークな点は、"音"の仕掛けだ。BALMUDA The Rangeと同様に、デスクライトにもスイッチのダイヤルを回すと音を奏でるギミックが採用されている。前回のレンジはギターやドラムだったが、今回はアナログピアノの音が選ばれている。しかも、スタインウェイのグランドピアノを使って、スタジオでプロのミュージシャンが演奏した生音を音源にするというこだわりだ。

「いろいろ試した中で、光の明るさと諧調に親和性があったのがピアノの音でした。クラシカルなピアノの旋律はノスタルジックで、子どものイメージに合致しながらも、子どもっぽすぎるということもなく、長く愛用するのにふさわしい。ピッタリとハマりましたね。鍵盤の押し方とか、音の余韻までちゃんと表現されているんですよ」

製品に同梱されている取説。「子どものクリエイティビティや好奇心が掻き立てられるように」と、あえて設計図のようなデザインに仕立てたとのこと

コーポレイトアイデンティティーの1つとして"クリエイティビティ"を掲げるバルミューダ。今回の製品にも「クリエイティブであれ!」という子どもたちへのメッセージが込められている。そのために、デザインはあえて90%の完成度にし、残りの10%は使用する子ども自身の手で作り上げて欲しいという思いから、自由に組み合わせて貼れるステッカーが4シートも付属しており、本体の根本部分はペンスタンドにもなっている。

ダイヤル部分を回すと、ピアノの音階を奏でる。バルミューダらしい"遊び心"ある仕掛けに、子どもも大人も心が躍る

単に子どもたちの"目を守る"という使命だけでなく、自らの手で自分のものにした喜びや体験がモノへの愛着を生み、新たなクリエイティビティにつながっていく。いや、つなげてほしいという、同社の"意志"が大いに込められた商品だ。「デスクライトでどうやって体験を伝えるかはチャレンジングでした」と最後に語った高荷氏の言葉からも、その思いが伝わってきた。