潜在労働力! ベンチャーで時短女性のニーズ高まる訳

潜在労働力! ベンチャーで時短女性のニーズ高まる訳

2016.08.03

“女性が働きやすい会社”といわれると、大企業の手厚い支援を想像する人は多くいるだろう。一方でベンチャー企業と時短勤務の女性の相性は相容れないものとの印象が強い。しかしこのイメージには誤解がある。

今年3月、Googleは、「Women Will」プロジェクトの1つで、様々な立場の人から働く女性を応援するアイデアを集めた。企業による実践につなげていこうという「#HappyBackToWork」のアイデア分析発表会を開催した。このプロジェクトはおととし10月から始まり、それまでにアイデアは5000件以上が集まったほか、700社以上の企業が賛同している(3月時点)。

今年3月開催された「#HappyBackToWork」のアイデア分析発表会

「帰社時のすみません禁止」、「育児家事って“手伝う”ものじゃない。当然“シェアする”ものなんです」などといった言葉が並ぶ会場内。発表されたアイデアの中には、どの企業、家庭にもありがちな場面についてチクリと刺さる言葉があった。

このアイデアの中で女性の家事の負担を減らすために洗濯の初歩から教える「パパのためのお洗濯ガイド」を自社サイトで公開し始めたのが、ネット宅配クリーニングサービスのリネットだ。

同社では、インターネットを使った宅配というスタイルを採用している。24時間いつでも注文ができ、店に洗濯ものを持っていく手間が省ける便利さなどから、利用者の多くは、共働き家庭などの時間がない人だ。そういったことから働いている人をどうやって支援したらいいかという発想でサービスを展開。今回のGoogleのプロジェクトにも賛同したという。

リネットが提供する洗濯ガイドのHP

「パパのためのお洗濯ガイド」は、女性の仕事を支援するために、男性の家事支援の後押しが一番大事という同社のパパ社員の発想から出てきたものだ。同社の特設ページには、洗濯の基礎から紹介されていて、中には、「洗濯剤と柔軟剤の違いとは」といったことまで書かれている。

「さすがにこれは分かるのではないでしょうか」と言った記者の問いかけに、同社で広報業務などを担当している田中雅子さん(48)は、「私たちもびっくりしましたが、本当にこういったところから知らないという方はいるのです」と話した。

共働き家庭のユーザーが多い同社は、必然的にそういった家庭の家事をどうやって支援できるかという発想になるのだという。同社が調べた専業主婦家庭と共働き家庭の家事の分担率を比較したところ家事の分担率はほぼ同じであることが分かっている。「パパ側が変わらないと、ママが楽にならない。そういうことを思う男性社員も多い」と田中さん。

(左)リネットで広報業務などを担当している田中雅子さん

同社の男性社員はどうして、そのような発想の人間が多いのだろうか。田中さんによると、「小さい子どもがいるパパがたくさん働いていますし、ベンチャー企業だからこその柔軟性を持っていて、昔の考え方にとらわれず、働き方をよくしようとか、ライフスタイルを変えていこうという思いをもっている人が多い」のだという。

こう分析する田中さんだが、彼女こそまさにワーキングマザー。商社、通信業界などでの勤務を経て、前職のITベンチャーでは、役員にまで上り詰めた。その間に第一子を出産したが、育児時短が終わった後、個別に企業と交渉し、独自の時短を適用してもらい、働いていたという。ただ、子どもの小学校進学を前に、根本的に働き方を見直したいと思い、前職を辞職したのだという。「仕事を持ち帰ることもありましたし、子どもの態度のちょっとした変化もありました。習い事も土日しかさせてあげられないな、などと考えた結果です」。

料金改定で会員数が2年で4.5倍に

前職を辞めたのち、2013年にインターネットで派遣の仕事などを探していたところ、主婦に特化した人材サービスを展開しているビースタイルのサイトにたどり着いた。役員の経歴を持つ田中さんは、キャリアを積んでいた女性を対象としたサービス「時短エグゼ」に登録。そこでリネットに出会ったのだという。任された仕事は、データ分析をして料金を最適化する作業。その年の10月に改定すべく3月から12月まで、週3回午前10時から午後4時までの勤務で派遣契約を結んだ。

田中さんが改定した料金では、例えば240円だったワイシャツを150円に値下げ(※現在の価格とは異なる)。これが功を奏し、同社は、2013年から2015年までの2年間で会員数が約4.5倍になった。

田中さんにおいては翌1月、時短勤務のままに直接雇用に切り替わり、2016年1月には時短勤務の正社員になった。同社は、彼女を正社員にするにあたって、ある決まりを作った。

それは、いたってシンプルなものだ。

1年以上勤務の社員を対象に、会社の承認を得て1日5時間以上で時短勤務とすることができるというもの。男女問わず、子どもの年齢に関係なく、介護のためであっても、話し合いの上、適用される制度だ。

社員の働き方にあわせて制度を作る

「この会社は上司との個人面談を週1でやっています」。そういった機会を増やすことで、働き方についての相談もしやすいのだという。小回りが利くベンチャーならでは発想といえよう。

企業の女性登用の実情に詳しい松蔭大学の田中聖華准教授は、「ワークライフバランス達成への取り組みがうまくいっているところは、実は新しい会社に多いのです。優秀な人材確保のために働く人に合わせて制度を作っているから。既存の会社にはそれがしにくい。今までの制度があり、その多くのものが基盤である人事制度の修正や変更にまで関わるため、スピード感をもって対応しにくい」と指摘する。

彼女の正社員登用によって、企業が従業員の実態に気づき、変化をもたらした同社だが、若い人が多いベンチャーにおいて、このようにキャリアを積んだ女性の視点への期待は高まっているのだという。

「時短エグゼ」のHP

「時短エグゼ」を運営するビースタイルの広報担当者によると、社員にとっておかあさんのような存在であり、キャリアがあるためトップとも対等に話せる、そしてそういった女性自身の働き方への相談などが企業内の潤滑油になるのだという。それがまさに田中さんのような例だ。

事実、田中さんが利用したビースタイルの「時短エグゼ」は中小ベンチャー企業の利用が増加しており、2014年6月からの1年間と、2015年6月からの1年間を比較したところ、約30%もベンチャーの顧客数が増加しているという。さらに「時短エグゼ」自体の業績についても右肩上がりになっている。

ベンチャーで働くメリットは、「融通が利くこと」。自分には合っているという田中さん。しかしどんなタイプの女性でも合うものではない。「デメリットは代わりがいないことですね。時には持ち帰り仕事をすることもある。ここまでやろうとか、これ以上は難しいとか自分でコントロールして、周りに伝えることが大事」。さらに、「権利主張だけでなく、まずは企業の利益に貢献することに全力を尽くすことが大切」と語った。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

これまでの記事一覧ページはこちら