【第一三共】国内第3位の製薬会社のM&A苦難の道のり

【第一三共】国内第3位の製薬会社のM&A苦難の道のり

2016.08.10

【第一三共】国内第3位の製薬会社のM&A苦難の道のり

 2005年に三共と第一製薬が経営統合し誕生した第一三共<4568>は、売上規模約1兆円、現在国内第3位の製薬会社だ。15年3月期で第10期を迎えた第一三共のこれまでのM&Aは、08年のRanbaxy Laboratories Limited(以下「ランバクシー」という)の買収に始まり、15年のランバクシーの売却に終わる苦難の道のりであったと言ってよい。細かく見ていこう。

■第一三共が行った主なM&A

年月 内容
2005.9 株式移転により三共と第一製薬が経営統合。持株会社「第一三共」が誕生
2006.3 アステラス製薬の100%子会社であるゼファーマ(売上高224億円)を355億円で買収(100%)
2006.4 アサヒビールが実施する和光堂(ベビーフード製造販売。売上高240億円)株式の公開買付けへの応募。60.14%を282億円で売却
2006.10 第一製薬の子会社である第一ラジオアイソトープ研究所(放射性医薬品、および放射性標識化合物の研究、開発、製造、販売、輸出入。売上高172億円)の全株式を富士フイルムに譲渡
2006.10 第一化学薬品(臨床検査薬、研究用試薬、化学薬品、薬物動態研究。売上高228億円)の全株式を積水化学に譲渡
2007.4 持株会社の第一三共が、三共と第一製薬を吸収合併。経営統合の最終段階へ
2007.5 埼玉第一製薬(経皮吸収製剤、液剤及び軟膏剤を中心とした医療用及びOTC医薬品の研究・開発・製造・輸出入事業 売上高73億円)の全株式をニプロに譲渡
2007.6 第一ファインケミカル(医薬品、動物用医薬品、体外診断薬、化成品中間体の製造(輸入)及び販売。売上高156億円)の全株式を協和発酵に譲渡
2008.2 日本乳化剤(界面活性剤、並びに化成品の製造・販売。売上高237億円、100%所有)、及び中日合成化学股份(界面活性剤等各種工業用化成品の製造・販売。売上高62億円、52.03%所有)の全株式を日本触媒に譲渡
2008.4 子会社である三共化成工業株式会社及び三共有機合成株式会社、第一三共ケミカルファーマ株式会社は、第一三共ケミカルファーマ株式会社を存続会社として合併
2008.5 U3 Pharma AG 社(ドイツ)の全株式を268億円で取得。がん及び抗体事業の強化を図る
2008.10 ランバクシー・ラボラトリーズ(インド、後発薬製造販売。売上高742億ルピー、1ルピー2.5円換算で1856億円)の過半数を取得するため、公開買付、創業家一族からの取得、第三者割当増資、新株予約権の引き受けを実施。買収価額の総額は4884億円、58.1%を所有
2010.1 米国子会社であるルイトポルド社(米国)ファルマフォース(米国、ジェネリック注射剤の開発・販売)の全株式を2100万ドル(1ドル92円換算で19億円)取得
2010.4 当社の子会社である第一三共プロファーマ株式会社の静岡工場をシミック(医療用医薬品等の研究開発・製造・営業支援)に譲渡
2010.8 インドの法令・ルールにのっとり、ランバクシーの関係会社であるZenotech株式の20%の公開買付けを実施。価額は7億8200万ルピー(1ルピー2.5円換算で15億6000万円)
2011.3 がん事業強化の一環として、Plexxikon社(米国)の全株式を805百万ドル(1ドル82円換算で660億円)で取得
2014.11 公開買付及びその後の合併によりAmbit社(売上高2380万ドル。1ドル115円換算で27億円)の全株式取得による企業買収を行う。買収価額は3億1500万ドル(1ドル115円換算で362億円)
2015.3 ランバクシーとサン・ファーマシューティカル・インダストリーズ(インド、以下サン・ファーマ)の合併によるランバクシーの譲渡。合併に伴いサン・ファーマ株式の約9%の割当
2015.4 サン・ファーマ株式を3784億円で売却

1. 第一三共の誕生

 三共の前身は1899年に創業された三共商店で1913年に三共株式会社が発足。第一製薬の前身は1915年に創業されたアーセミン商会で1918年に第一製薬が発足している。統合直前期の2005年3月期には、三共商店が151期、第一製薬が127期と歴史の長い会社同士の統合となった(図1参照)。

 経営統合は、05年9月。株式移転方式で、共同持株会社第一三共を設立、両社が持株会社の傘下に入った。05年4月に山之内製薬と藤沢薬品の経営統合により誕生したアステラス製薬は合併方式であった。株式移転方式の統合は、アステラス製薬の合併と比較して、緩やかな統合になるのが特徴だ。第一三共が合併により完全に統合したのは、経営統合から約1年半後の07年4月になる。第一三共がアステラス製薬の合併を見た後に、株式移転方式が選択されたのは興味深い。

 05年3月期の三共の売上高は5878億円、純資産が7165億円、第一製薬の売上高は3285億円、純資産が4485億円となっており、三共が第一製薬より規模は大きい(図1参照)。持株会社の代表取締役社長には、三共出身の庄田隆氏、代表取締役会長に第一製薬出身の森田清氏が就任した。取締役10名のうち、生え抜きの取締役は、三共、第一製薬とも3名選任されている。典型的な形といえ、規模の大きな三共が主導権を握った事がうかがえる。

 図1の通り、両社の過去5期の業績は安定しており、統合が必要な喫緊の課題はないように見受けられる。では両社がなぜ統合したのか。統合についてはさまざまな理由があるが、①アステラス製薬といったライバルの動向、②将来の海外展開の基盤、③研究開発費の確保のため、規模を大きくすることが、両社のマネジメントの課題であったと推察する。また、06年会社法改正で、株式交換等のスキームにより外資系製薬会社が国内製薬会社を買収しやすくなったことも、規模の確保が必要になった一つの要因と想像できる。経営統合当時、アステラス製薬(06年3月期売上高8793億円)を抜いて武田薬品工業(06年3月期売上高1兆2122億円)に次ぐ国内第2位の製薬会社の誕生となった。

 また、経営統合の後、和光堂等医薬外の子会社の売却をはじめ、両社の子会社の整理が行われた。

(有価証券報告書、決算短信を元に制作)

2. ランバクシーの買収

 ランバクシーは、インドのデリーを本拠地とし、高脂血症及び感染症などの領域における後発医薬品の製造・販売及び研究開発事業を展開している。売上規模は07年12月期で約1800億円(過去3期の主要な財務数値は図2参照)。本件は、先進国市場におけるハイリスク・ハイリターンの従来型ビジネスに加え、新興国市場へのグローバルリーチを拡大し、さらに後発医薬品により先進国市場における薬剤へのリーチを広げた「複眼経営」に取り組むための最重要案件と位置付けられた。

 08年6月に株式の取得が発表され、08年8月公開買付開始、創業家一族からの取得など、ディールが完了したのが08年11月である。

 ランバクシーの取得費用は4884億円で、前の期(08年3月期)の現金及び現金同等物の金額4443億円(図3参照)に匹敵するビックディールだ。のれん代は4087億円、無形資産として商標関連で410億円などを計上している。償却期間について、のれんは会計基準で定められた最長期間20年、商標関連無形資産は10年が設定されていることから、年間の償却負担は約245億円となる。ランバクシー07年12月期の経常利益約250億円とほぼ同水準といえる。シナジー効果を発揮し、業績を拡大しなければ、損失が発生するディールであった。

 当時、日本の製薬会社の大型クロスボーダー案件が相次いでいた。例えば、08年1月に国内第5位のエーザイが、米国のMGIファーマを約4000億円で買収した案件や08年5月には、国内第1位の武田薬品工業が、米国のミレニアム社を約8000億円で買収した案件が挙げられる。国内ライバル会社がクロスボーダーの大型案件に取り組むなか、第一三共が意識しないわけがない。

 この時の代表取締役社長は統合時と同じで、前述の庄田氏で三共出身であったことから、三共案件と噂された。

(有価証券報告書、決算短信を元に制作)

3. 誤算

 結果から言うと、買収した期の09年3月期連結財務諸表に、のれんの減損費用などランバクシー関連で3516億円の特別損失を計上。前年の純資産1兆2445億円の約3割が損失の計上により吹き飛んだ(図3参照)。08年3月期に83.6%あった自己資本比率は、09年3月期には57.7%まで落ち込んでしまった。以降、自己資本比率が08年3月期の水準に戻っていない。

 誤算は、公開買付直後の08年9月から始まる。ランバクシーのパオンタサヒブ、デワスの2工場に対して米国GMP違反の警告状が出され、当該工場の米国向け製品について輸入禁止措置が取られる。また、09年2月に、パオンタサヒブ工場に対し、安定性試験データの一部改ざんが判明し、米国食品医薬品局(FDA)によるAIPが発動、より重たい措置となった。外部機関を含めた拡大対策チームの設置を余儀なくされた。

 解決に向けた前向きな動きは、3年後になる。11年12月にランバクシーのFDAとの同意協定書締結を発表。これにより、米国において、既存品の拡大に加え、重要新製品の市販に向けて事業活動を強化できるとした。また、12年3月期決算に、米国司法省との案件の解決に向け必要とされる5億ドルについて、ランバクシーで引当金を計上。13年5月には米司法省との協議が完了し、和解金5億ドルが確定した。

 本件は、元株主との国際仲裁裁判所の仲裁案件となり、M&A関係者の間で、法務デューディリジェンスの事例でよく取り上げられる、不名誉なディールとなってしまった。元株主が米国司法省及びFDAの調査に関する重要な情報を隠蔽(いんぺい)していたとされる。M&Aプロセスに不備がなかったか、研究が深まることが望ましい。国内企業のクロスボーダー案件は、買収後に苦戦するケースが多いとされる。M&A関係者としてM&Aプロセスを改善していく使命を感じる。

 買収後のランバクシーの業績の推移は図4の通り。第一三共の売上高に対する貢献はあるものの、純利益は開示のある09年3月期から14年3月期の6期中3期赤字、6期全体を合計すると276億円の赤字で、米国でのビジネスの縮小が響いた。

(有価証券報告書、決算短信を元に制作)

(有価証券報告書、決算短信を元に制作)

4. ランバクシーの売却

 ランバクシーをサン・ファーマシューティカル・インダストリーズ Ltd(以下サン・ファーマ)に売却することを発表したのは14年4月になる。

 サン・ファーマがランバクシーを吸収合併し、第一三共がサン・ファーマ株式の割り当てを受けた。ランバクシー株式1株に対してサン・ファーマ株式0.8株を割り当てるという合併比率で、第一三共が、サン・ファーマの株式の約9%を取得する取引となった。この取引により第一三共は、連結決算上、子会社合併差益を2787億円(税効果考慮後)計上した。

 また、15年に4月投資有価証券として計上しているサン・ファーマ全株式(帳簿価額4243億円)を3785億円で売却、特別損失として、215億円(税効果考慮後)が計上された。

 なお、第一三共は、サン・ファーマとの合併契約に基づき、ランバクシーのクロージング日前の品質問題などに関し、米国連邦政府又は州政府に支払う罰金及び損害などが、クロージング日から7年経過するまでの間にサン・ファーマなどに生じた場合、その63.5%について3.25億ドルを上限として補償する義務の履行求められることとなる。

 売却時の社長は、現在と同じ中山譲治氏、サントリー出身で生え抜きではないものの、第一製薬出身者だ。三共出身の庄田氏が社長時に買収したランバクシーを第一製薬出身の中山氏が社長時に売却したこととなり、売却は第一製薬出身者で主導したと噂された。

 16年5月には、元株主との国際仲裁裁判所の仲裁案件にも結論が出る。ランバクシーの株式を同社に譲渡したランバクシーの特定の以前の株主が米国司法省及びFDAの調査に関する重要な情報を隠蔽(いんぺい)したものと判断し、12年11月に、元株主を相手方として、国際商業会議所国際仲裁裁判所に仲裁を申し立て、シンガポールにおいて仲裁を行っていたが、16年5月に約562億円の仲裁判断を受領。業績に与える影響については、回収の目処が立った段階で公表するようだ。

5.ランバクシーを超えて

 今、ランバクシーの買収から始まったM&Aにおける苦難の道のりは、(サン・ファーマに対する表明保証を除いて)終着を迎えつつある。第一三共がランバクシーのM&Aから金銭的損失を被ったが、この売却を経て屋台骨を揺るがすほどではなくなっている。こうなると、第一三共の最も大きな損失は、時間を無駄にしたことだ。

 図5をご覧頂きたい。ライバルの武田薬品工業は、06年3月期に3400億円程度であった海外売り上げは、16年3月期には1兆1100億円になり、大幅に伸ばしている。ミレニアム社やナイコメッド社の買収が大きく貢献している。海外売上高比率も06年3月期は28%であったが、16年3月期には62%となっている。一方の第一三共は、06年3月期の海外売り上げは3072億円と武田薬品工業と遜色なかったが、16年3月期に4300億円と武田薬品工業と比較して伸び悩んでいる。海外売上高比率も06年3月期で33.2%に対して16年3月期で43.7%と上昇しているものの、武田薬品工業程ではない。国内製薬会社において最も重要とされる海外戦略について、差を付けられた形だ。08年に、ランバクシー買収時に掲げた後発医薬品と新興国という複眼経営は、振り出しに戻ってしまった。16年現在も、それに代わる目玉がない。ライバル企業が海外展開を加速させるなか、短期的にライバル企業に対抗する経営戦略を構築しなければならない。

 時間を買うにはM&Aしかない。新薬を開発し、新しいマーケットに打って出るのは中長期的な経営視点では重要であるが、ライバルとマーケットは待ってくれない。ランバクシーの失敗でM&Aをためらうといった愚策を取るのではなく、ランバクシーのM&Aで得た知識とノウハウを次のM&Aに生かしてもらいたい。

 この点、第一三共は16年3月に20年度までの中期経営計画を発表。M&Aや新規事業の開発に5000億円を投資するとした。サン・ファーマ株式の売却により、手元資金は約7000億円となっており、これを活用する。ようやく攻めの経営に転じることができる。

(有価証券報告書、決算短信を元に制作)

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。