進むか農業ICT、ある農家の証言

進むか農業ICT、ある農家の証言

2016.02.25

就農人口の減少と高齢化。それに伴う耕作放棄地の増加。これが日本の農業を巡る大きな課題となっている。ITの力を活用した農業ICTは、耕作放棄地の受け入れ農家にとって圃場管理の有効な手段ともなるが、現場はどう捉えているのか。ある農家に聞いた。

ある農家の転機

千葉県の横芝光町は、千葉県北東部に位置する人口約24000人程度の小さな町だ。ここに、高齢化の波に揉まれ、離農していく農家も多い中、海外からの研修生を含めて15人以上を雇用し、成長を続けている農家がある。この成長を支える秘密のひとつが、農業ICTを駆使することだった。

「グリーンギフト」は横芝光町の鈴木敏弘・紗依子夫妻が運営する農業法人だ。敏弘氏は今年30歳。20歳から家業を継いで農業を始め、当初は普通の農家と同じように農業を営んでいたが、今は特産の米とネギを中心に、ウェブ経由で農作物の直販を行っている。

グリーンギフトの鈴木敏弘氏

既存の流通を使わず、インターネット経由で消費者と直接取引きをするスタイルは、いかにもICTを駆使する先進的な若い農家の典型例といった感じだ。さぞや昔からパソコンなどのITに慣れ親しんでいたのかと思いきや、「パソコンは苦手」という。以前は家のパソコンでウェブサーフィンする程度で、農業に活用することは考えていなかったのだという。しかし転機が訪れるのは数年前、農業ショーにおいて「アグリノート」のデモンストレーションを見てからだ。

「5~6年前から人を雇って、高齢化や離農などの理由で耕作放棄された田んぼを借りて、耕作面積を広げてはじめたんです。でもあちこちに田んぼが点在していて、しかもどの田んぼが誰の家のものか、看板が出ているわけでもなくわかりづらいんです」(鈴木敏弘氏、以下発言同)。

グリーンギフトでは現在、約200もの圃場を管理している。しかも、管理する圃場は、自動車を走らせ、たどり着けるような場所も少なくない。これをすぐ覚えろというのは到底無理な話だ。

鈴木氏の管理するネギ畑。口頭での説明を受けるもどこまでが同氏の管理圃場なのかわからないほど広い

グリーンギフトの本社から自動車で15分ほど走った先にある、実際に耕作している畑を見せてもらった。「ここいら一帯がうちのネギ畑なんですよ。あそこから向こうは別の農家の畑。こっち側も違う」。そういって敏広氏が指差す先は、一面のネギ畑。地元民であれば見分けもつくのだろうが、素人眼にはどこも同じ畑にしか見えない。「うちはパートさんや海外からの農業研修生も受け入れていますから、経験の少ない人でもわかるような手段が欲しかったんです」。間違って他人の圃場を耕作してしまうのは論外。自分の圃場でも行程を飛ばしてしまう、あるいは繰り返すのはロスが大きいので、絶対に避けたい。そこで、当初は経験のある人とない人でグループを組ませるなどしていたという。

それが、今では一人で目的の圃場までいって、必要な作業を済ませられるように変わった。その秘密はどこにあるのだろうか。

アグリノートで作業効率が大幅にアップ

前述した「アグリノート」は、東京大学発の農業ベンチャー、ベジタリアのグループ会社のウォーターセルが開発・販売している農作業記録用のクラウドシステムだ。NTTドコモも販売に協力している。

同システムはGoogleマップやYahoo!地図の航空写真の上に圃場をマーキングし、マップ上に直接情報を書き込める。GPS情報があれば、現在位置と地図上の圃場を見比べられるので、圃場数が多い生産者でも視覚的に確認できる。また、入力フォームがシンプルで、作業記録を記入するのも容易だ。ウェブブラウザからの入力に加え、Android用アプリがあるので、PCのほかにAndroidタブレットが利用できる(今後iOSにも対応予定)。

タブレット上でネギ畑を示したところ。タブレット内の青丸が現在地。これによってどこが管理する畑かを見分けることができる

導入コストについても「月々の利用料金がほかのシステムと比べて安いのも魅力的でした。当時はお試しで無料期間があったというのもありますが、このくらいの額であれば、失敗しても飲みに行ったと思えば諦められますから」。

それまでは紙のノートに作業手順などを手書きをしていた敏弘氏だが、その頃は指示のニュアンスが農業経験者に対するものになっていたという。アグリノートの導入により、事前にタブレットに指示を入力しておいて渡すことができるようになり、文面も初心者へのわかりやすさを念頭に入れたものに変わってきた。アグリノートへのデータ入力は、先代である敏弘氏の父親が行うこともあるという。

従業員への作業指示などができるのがアグリノートの特徴

「現場ではAndroidタブレットを使うことにしました。最初は社員の中にも不安な声はありましたが、興味のある人から使ってもらおうと」。システムの導入と同時にソニーのXperia Z Tabletを購入し、入力用端末として社員に貸し出した。ちなみに防水防塵端末なので、泥などで汚れても水洗いできる点がお気に入りだとのこと。

タブレットを持っていくことで、現在位置を見ながら圃場にたどり着けるようになったため、これまで2人で向かっていたところが1人で済むようになった。また、不明な場合などはタブレットのカメラを使って写真付きでメールを送ってきて確認するようになったため、作業効率が大幅に向上した。

さらに、これまでは各自の実際の作業内容をおおまかにしか把握できていなかったものが、誰が何時間でどのくらい作業をしたのか、きちんと記録できるようになった。このため、給与計算の際に一人一人の頑張りを反映することができ、社員のモチベーション維持にも繋がっているという。

ほかにも次のようなメリットが見出せたという。「副作用的なものですが、うちが出荷した米が袋ごとに、誰がいつどこでどんな作業をしたのか、10分もあれば全部洗い出せます。いわゆるトレーサビリティというやつですね。また、農作物を輸出するための『GLOBAL G.A.P』や安全な農作物を作るための管理基準を示した『JGAP』といった認証制度があるのですが、これを取得するための記録やデータを日々の入力から自動的に生成してくれる機能があります。海外への輸出を考えている人はもちろんですが、自分の生産物に責任を持つという意味でもGAP対応は重要だと思います」。

ICTの効果は見えにくい

農業ICTのメリットを感じるグリーンギフト。その一方で農業ICTがキーワードになったのは近年のことであり、本格普及はこれからといったところだろう。普及に向けた課題として、アグリノートのような圃場管理ツールは直接生産性に影響するものではないため、外からはそのメリットがなかなか感じ取りにくいことがありそうだ。また、グリーンギフトのような農業法人はともかく、家族経営の農家では、情報のやり取りはわざわざデータ化せずとも口頭で済んでしまうし、記録を取っておく必要も感じにくい。

既存の農家は、なまじこれまでのノウハウがあるだけに、未知のICTに投資して失敗するリスクを恐れてしまうこともありうる。だがデータ化すれば、それだけ分析もしやすくなるだけでなく、農業経験の浅い人にノウハウを伝える際に客観的な説得力が増す。きちんと管理するならICTを導入したほうがトータルで見てお得になるが、そこまで農家側のマインドセットが辿りついていないのが現状なのかもしれない。農家側の意識改革も、今後の農業ICTが成功するうえでの重要なポイントだろう。

アグリノートの販売に関わっているNTTドコモでは、この他にもべジタリアと連携し、田んぼの水位センサーなどの農業向けICT製品を展開している。こうしたものに興味はあるかとの質問には「興味はあるけど、コスト面でのメリットがまだ小さいことと、盗難にあう恐れがあるのでなかなか手が出せない」とのこと。

水位管理は稲作の中でも非常に重要なポイントだけに効率化はしたいが、例えば通信費ひとつをとっても、まだインフラ側が整備されきっていない。ICTだからといって何でも導入するのではなく、必要性を見極めて導入する冷静さが求められているようだ。また提供する側も、インフラとして適切な価格設定などをしっかり定めておく必要がありそうだ。

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

2019.04.25

携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

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日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

モノのデザイン 第53回

日本の掃除機市場を変革した元外交官、日本市場への本格参入を語る

2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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