かつては消極的だった通話定額、MVNOが力を入れ始めたのはなぜか

かつては消極的だった通話定額、MVNOが力を入れ始めたのはなぜか

2016.08.15

「格安SIM」などで知られるMVNOのサービスは、データ通信は安いが音声通話は高いというのが一般的だ。しかしながら今年に入って以降、さまざまな形で通話し放題を実現するMVNOが急増している。音声通話サービスにさまざまな制約がある中、MVNOはどのようにして通話定額を実現しているのか。そして今、通話定額を提供する理由はどこにあるのだろうか。

今年に入り急増するMVNOの通話定額サービス

大手キャリアが通話し放題サービスを提供するようになって久しいが、今年に入ってから「格安SIM」「格安スマホ」などで知られるMVNOのサービスの中にも、通話し放題のサービスを提供する所が急速に増えている。

その先鞭をつけたのが、楽天の「楽天モバイル」である。楽天モバイルは今年1月、月額850円追加することで、5分間の通話が何回でもし放題となる「5分かけ放題」の提供を発表したことが評判となり、それ以降いくつかのMVNOが、次々と通話し放題サービスの提供を打ち出している。

楽天モバイルが「5分間かけ放題」の提供を開始して以降、通話定額サービスを提供するMVNOは急増している

実際、3月には「FREETEL」ブランドでスマートフォンや通信サービスを提供するプラスワン・マーケティングが、1分または5分間の通話がし放題となる「FREETELでんわ」の提供を開始。現在は自社回線のユーザーのみだが、今夏には他社回線のユーザーにもFREETELでんわのサービスを提供するとしている。

また5月には、フリービット傘下のドリーム・トレイン・インターネット(DTI)が、DTI SIMのユーザー向けに5分間の通話がし放題になる「DTI SIM でんわかけ放題」の提供を開始。7月にはインターネットイニシアティブ(IIJ)やNTTコミュニケーションズといったMVNO大手が、相次いで5分間の通話定額サービスの提供を開始している。

かけ放題サービスも

MVNOが提供する通話定額サービスは、5分定額だけではない。4月には「もしもシークス」ブランドで通信サービスを提供するエックスモバイルが、5分間通話定額の「かけたい放題ライト」だけでなく、月額1,800円で通話定額を実現する「かけたい放題フル」の提供を開始。また7月には「イオンモバイル」を展開するイオンが、月額1,500円で通話定額になる「050かけ放題」の提供を発表している。いずれも専用のアプリを用いる必要があるほか、連続通話時間に制限はあるという制限はあるものの、MVNOでは難しいとされてきた長時間の通話定額も実現しているのが特徴だ。

イオンモバイルも7月より、月額1,500円の「050かけ放題」オプションの提供を開始。IP電話の仕組みを用いることで通話定額を実現している

MVNOにとってある意味"厄介者"だった音声通話

しかしながら、通話定額サービスに力を入れるMVNOが急増したのは、ここ1年以内のことだ。それ以前のMVNOの発表などを見ていると、「音声通話は不要だ」と言い切る企業が少なからず存在するなど、音声通話はMVNOにとって、積極的にやりたくないサービスでもあった。それだけに、ここ最近MVNOが音声通話に突然力を入れるようになったのには、ある意味不思議な印象も受ける。

ではなぜ、MVNOはこれまで、音声通話サービスにあまり力を入れてこなかったのだろうか。その大きな理由は、音声通話はデータ通信と比べ、MVNOが制御できる余地が少なかったことにあるといえるだろう。

各MVNOのサービスを見ると、データ通信に関しては「3GB当たり980円」といったように容量別の料金プランだけでなく、使用したデータ通信量に応じて料金が変化売るプラン、そして「1日当たり500MB」といったように日当たりの通信容量が決まっているプランなど、多彩なプランが用意されていることが分かる。だが音声通話に関しては、どのMVNOも従来30秒20円で固定されており、通話定額など独自のサービスを除けば、各社とも料金の違いは全くない。

なぜこのような差が生まれているのかというと、それはMVNOとキャリアとの枠組みに起因している。データ通信に関しては、MVNO側の設備をキャリアの設備に接続する仕組みが用意されていることから、MVNO側の設備でさまざまな制御を施すことにより、自由度の高いプラン設計などができる。だが音声通話に関しては、MVNO側の設備をキャリアの設備に接続することをキャリアが認めていない。そのため音声に関しては、MVNO側が自由にサービス設計することができず、差異化ができないのだ。

その関係は現在も変わっておらず、従来の枠組みの中では、音声通話に関して他社と差異化することはできない。にもかかわらず、MVNO側が通話定額サービスを提供するなど、音声通話にも力を入れるようになった理由は、MVNOを取り巻く市場環境の変化にある。

通話定額の重要性を高めたユーザーニーズの変化

これまでのMVNOを支えてきたユーザー層は40代前後の男性が主体で、キャリアのメイン回線を持ちながらも、データ通信用のSIMをタブレットやSIMフリーのスマートフォンなどに挿入し、サブ用途で利用する人が主であった。そうしたユーザーはあくまで、データ通信を安価に利用することを目的としていたことから、通話サービスはあまり重視していなかったのだ。

しかしながらここ1、2年でMVNOを取り巻く環境は劇的に変化。「格安スマホ」「格安SIM」などのワードでMVNOが注目を集めるようになり、市場競争が加速したことでサービスの充実度も高まったことから、最近では20~30代といったより若い世代が、メイン回線としてMVNOのサービスを選ぶ割合が高まっているのだ。

しかもそうしたユーザーはメイン回線として契約するため、データ通信だけでなく音声通話も利用する。それゆえ大手キャリアと比べ、通話定額サービスがなく通話料が高いことがユーザーの不満要素となっていたことから、MVNO側が不満解消のため音声通話サービスの改善に力を入れるようになったといえるだろう。

MMD研究所が7月27日に実施した記者向け勉強会より。音声通話付きSIMの契約数は6割に達しており、そのうち6割以上が番号ポータビリティで乗り換えているという

しかしながら、先にも触れた通りMVNOとキャリアとの枠組みは変わっておらず、そのままでは通話定額も実現できない。そこでMVNO側は、SkypeやLINEの有料通話サービスなどと同様にIP電話を活用したり、キャリア以外のネットワークを経由して電話回線網に接続する中継電話の仕組みを採用したりするなど、通話料を少しでも下げる仕組みを活用することで、通話定額を実現しているのだ。

それゆえMVNOの通話定額サービスは、専用のアプリを使う必要がある、番号通知や音声品質などに制約があるなど、キャリアの通話定額サービスと全く同じ内容や使い勝手というわけではない。それでもデータ通信だけでなく音声通話も安く利用できることは、メイン回線として契約するユーザーにとっては重要な要素となっているようで、楽天モバイルなどは5分間かけ放題の開始後、音声通話対応SIMの契約が8割に達したとしている。

1月に5分間かけ放題の提供を開始した楽天だが、5月には音声通話対応SIMの契約が8割に達するなど、その効果は大きいようだ

今年に入ってから、総務省の施策によって端末の実質0円販売が事実上禁止されたことから、今後端末価格の高額化を嫌い、メイン回線としてMVNOのサービスを利用したいというユーザーは一層増えるものと考えられる。それだけに、通話定額サービスを提供するMVNOも今後一層増えると考えられるし、通話に力を入れるMVNOとそうでないMVNOとの間で、ユーザー獲得に差が出てくる可能性も大いにあり得るのではないだろうか。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。