【三菱商事】資源価格の低迷がM&A戦略を変える

【三菱商事】資源価格の低迷がM&A戦略を変える

2016.08.20

【三菱商事】資源価格の低迷がM&A戦略を変える

■日本の五大商社で最大の総合商社

 三菱商事株式会社<8058>は、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅とともに日本の5大商社の一つである。

 同社は三菱財閥を起源としており、三菱財閥は明治維新に始まる近代日本と歩みを同じくしている。土佐藩(高知県)出身の岩崎弥太郎が創立した三菱商会を基盤に、明治政府の保護も得て海運業を独占し、海運部門の全盛期に事業の多角化を図っている。明治6(1873)年の吉岡鉱山や明治14(1881)年の高島炭坑の買収に始まる鉱業(三菱鉱業の前身、現・三菱マテリアル)、明治17(1884)年の官営長崎造船所を借り受けて進めた造船業(三菱造船の前身、現・三菱重工業)など、古くから今でいうM&Aを手掛けてきた。また、東京海上保険(現・東京海上日動火災保険)、明治生命保険(現・明治安田生命保険)、三菱為替店(現・三菱東京UFJ銀行)もこの時代に設立されており、日本を代表するような企業を数多く設立している。

 そして、明治26(1893)年三菱合資会社を設立。これを持株会社として造船業・鉱業・鉄道・貿易などあらゆる分野に進出している。これが三菱財閥の出発点である。

 その後、岩崎弥太郎の甥である岩崎小彌太が三菱財閥4代目となり各事業部を株式会社として独立させた。この時、貿易事業が独立する形で、大正7(1918)年に三菱商事が誕生した。しかし、第二次世界大戦後、連合国軍最高司令官総司令部 (GHQ/SCAP) の指令により三井財閥、住友財閥と共に三菱財閥は解体され、1954年に三菱商事は改めて設立された。

 現在、三菱グループの中核企業の一つである三菱商事は、国内及び海外約90カ国に200以上の拠点を持ち、600社を超える連結対象会社を持つ日本最大の総合商社である。また、2016年3月期決算における売上高(IFRS基準)は、6兆9千億円の規模を誇る。

■変わりゆく総合商社の投資スタンス

設立以来、三菱商事は多くのM&Aを手掛けてきた。その数は出資も含めると膨大な数に上り、現在の連結対象会社が600社以上であることもうなずける。

 総合商社はこれまで、例えば、「ラーメンからミサイルまで」を扱う投資スタンスから、今では「ローソンから石炭鉱山まで」の事業投資が主体となっている。つまり、ある程度特定の事業への投資しかできなくなってきている。それは、社員が直接事業投資先で経営するため、人の供給を絞る必要があるからである。

 こういった背景から、三菱商事では20年後を見据えて高い競争力のある「コア」の部分に投資し伸ばそうとしており、そうではない「ノンコア」の部分は売却するなど、「コア」に成り得る事業との入れ替えを進めている。

 同社は原則として、投資を考えるときにはそれに見合う入れ替えを用意して投資の優先順位を決めている。例えば、05年12月の新東亜交易の株式全てを兼松に売却した例や、衣食住の「住」分野への集中を目的とし、子会社の三菱商事建材が、エムシー砿産を吸収合併、グリーンハウザーの貿易事業譲受した例などがそれに当たる。

 02年、同社はさらにM&A事業を本格展開するため、投資ファンドの運用会社を設立している。M&Aに精通した外国人を数多く採用し買収案件の発掘を進めてきた。そして買収後も、短期間で企業の収益力を高めるため、過去に優れた実績を持つ人材を確保し、総合商社として蓄積したノウハウやネットワークを有効活用できるよう特定の産業に対象を絞り込んだ投資を行っている。

 08年3月期までの中期経営計画では、金融や企業再建ビジネスを重点分野に位置付け、中堅企業で投資ポートフォリオを組み、短期間で売買を繰り返して着実に投資収益を上げる戦略を打ち出している。

■三菱商事が行った主なM&A1

年月 内容
2005.7 ライフコーポレーションの発行済株式の16.62%を追加取得。出資比率は3.38%から20%となる
2005.12 出光興産グループのLPG 事業部門を会社分割し、三菱商事子会社の三菱液化瓦斯に承継の上、同社を存続会社として出光興産の100%子会社である出光ガスアンドライフと合併し、アストモスエネルギーを設立。同社への出資比率は49%となる
2005.12 保有している新東亜交易の株式25%の全てを兼松に売却
2006.3 CLP Holdings社(香港)とアジアにおける民間発電事業の推進を図るため、発電事業の開発・運営を行うOneEnergyの株式50%を約6億7000万米ドル出資し共同で設立。
2006.4 いすゞ自動車の普通株式4,000万株(3.7%)を約160億円で米GMから取得
2006.4 保有するダイヤモンドシティの株式を、イオンが実施する公開買付に応じ、27.38%を約340億円で譲渡
2006.6 衣食住の「住」分野への集中を目的とし、子会社の三菱商事建材が、エムシー砿産を吸収合併、グリーンハウザーの貿易事業譲受
2006.7 北越製紙が実施する第三者割当増資を引受け、発行済株式数の約 23%を約304億円で取得。これにより出資比率は1%から24%となる
2006.7 金商の第三者割当増資による新株の約41.8%を引受け子会社化。出資比率は9.2%から約51%となる
2006.8 日本軽金属と国内外の鋳造・ダイカスト用アルミニウム合金製造・販売事業を統合。出資比率は45%となる
2006.10 子会社化を目的に行っていた、興人の普通株式に対する公開買付を終了。約55億円出資し出資比率は30%から73.09%となる
2006.11 いすゞ自動車発行の普通株式6,000万株(5.6%)をトヨタ自動車に売却
2006.12 ロイヤルダッチシェル、三井物産と共同で出資していたサハリンエナジー社の株式の一部をロシアのガスプロム社へ約14億9000万米ドルで譲渡。譲渡後の出資比率は10%となる
2007.2 ダイヤモンドリース、三菱商事および三菱自動車工業の3社グループにおける自動車ファイナンス事業再編。三菱オートリースHDを新設し出資。出資比率は50%
2007.4 米久の発行済株式につき、現行保有分と合わせて株式の19.83%を取得することを決議。これにより出資比率は1.83%から21.67%となる
2007.4 中央化成より、食品添加物事業を行っている中央フーズマテリアルの全株式を吸収分割により100%子会社化
2007.5 発行済株式の30.63%を保有している日本食品化工<2892>の株式を、連結子会社化を目的に公開買付けにより取得。株式35.37%を約17億7000万円で追加取得し、保有割合は66%となる
2007.6 発行済株式総数の 20.80%を保有する日本農産工業を連結子会社とすることを目的として公開買付けを実施。株式35.83%を約157億円で追加取得し、保有割合は56.63%となる
2007.6 発行済株式総数の 34.72%を保有する日東富士製粉を連結子会社とすることを目的として公開買付けを実施。株式30.87%を約52億円で追加取得し、保有割合は65.59%となる
2007.8 50%出資する三菱オートリースHDの傘下にある、三菱オートリースとダイヤモンドオートリースを合併。出資比率は50%
2007.10 約31.11%を保有している日本ケンタッキー・フライド・チキンの株式を、連結子会社化を目的とし米国KFCから公開買付けにより取得。株式33.41%を約148億円で追加取得し、保有割合は64.52%となる
2007.12 発行済株式総数の 51%を保有している金商の株式の全部を取得することを目的に公開買付を実施。公開買付の結果、約60億円で保有株式と合わせて96.19%を取得

■三菱商事が行った主なM&A2

 
年月 内容
2008.3 日本航空の優先株式をUBS証券から取得
2008.3 千代田化工建設との提携強化を目的とし、同社が行う第三者割当増資を引き受け。株式23.13%を約608億円で追加取得し、保有割合は33.4%となる
2008.5 中央化成より、肥料事業を行っている播州ケミカルの全株式を吸収分割の手法で取得し、当社直接保有の100%子会社とすることを決定
2008.12 グローバル競争に打ち勝つための新たな協業 イオンと三菱商事の包括業務提携契約の締結
2009.1 伊藤ハムと資本面での関係強化を目的とし、同社の第三者割当増資を引き受けるとともに、同社代表取締役会長の伊藤研一氏から株式を取得。株式16.43%を約137億円で追加取得し、保有割合は20.06%となる
2009.1 各社の強みを生かし経営資源を有効活用することを目的に、伊藤ハム及び米久との包括業務提携契約を締結
2009.7 発行済株式数の52.75%を保有する上場子会社である日本農産工業を完全子会社化するため公開買付けを行うことを決定。これに伴い株式39.54%を約147億円で追加取得し、保有割合は92.29%となる
2010.8 事業の一環として行っている機能化学品本部のシリコーン・乾式シリカ事業を100%子会社である三菱商事ケミカルに吸収分割させることを決定
2011.2 子会社である菱食、明治屋商事、サンエス、及びFNSの4社は経営資源を集中させるため経営統合を決定
2011.2 香港最大の電力会社である CLP ホールディング社と共同で設立した合弁会社を通じて間接的に保有する EGCO社の株式 11.21%に加えて、CLP 社が間接的に保有するEGCO社の株式 13.36%(約 230 億円)を、子会社のテプディア社を通じて全て買い取ることに合意し、同時に、東京電力は、三菱商事との間でテプディア社の株式 50%を買い取ることに合意
2011.4 事業の一環として行っている機能化学品本部の塗料原料・製品事業を子会社である三菱商事ケミカルに会社分割により承継
2011.10 中央化学を連結子会社化を目的とし公開買付けにより株式の46.25%を約36億円で取得。これにより出資比率は55.62%となる
2011.11 優良資源事業投資の拡大と持続的に成長可能な資源ポートフォリオの拡充を目的とし、アングロ・アメリカン保有のチリ銅鉱山・製錬所運営会社の株式24.5%を約53億9000万米ドルで取得
2011.11 子会社である三菱デベロップメントは、豪マーチソンメタルズ(以下、MML社)と共同で事業化調査を推進する西豪州中西部地区におけるジャックヒルズ鉄鉱石プロジェクトならびに鉄道・港湾インフラ関連の全ての資産をMMLより約3億2500万豪ドルで買収。出資比率は50%から100%となる
2011.11 三菱デベロップメントは、コール&アライドの株主により、被買収企業が主導して手続きを行う友好的な企業買収手法であるスキーム・オブ・アレジメントの買収提案が承認された
2012.8 事業の一環として行っている非鉄金属本部の純金・プラチナ積立事業を会社分割(吸収分割)により田中貴金属工業へ承継
2012.12 シンガポールに金属資源トレーディング子会社を新規設立し、これに併せて子会社である三菱商事ユニメタルズを承継会社とする金属資源トレーディング事業の会社分割(吸収分割)を行うことを決定
2013.1 事業の一環として繊維本部で行っている欧米ブランド OEM・輸入取引を、三菱商事ファッションに承継する会社分割(吸収分割)を行うことを決定
2013.2 連結子会社であるメタルワンは、エムオーテックの普通株式を公開買付けにより取得することを取締役会にて決議。約24億8000万円出資し株式の52.54%を取得。保有割合は94.05%となる
2013.2 米久を連結子会社化を目的に公開買付けを行い、約10億6000万円で株式44.27%を取得。これにより保有割合は71.02%となる
2015.2 連結子会社である Alpac Forest Products Inc.(AFPI)の保有している全株式(発行済株式数の 70%)及び Alpac Pulp Sales Inc.(APSI)の保有している全株式(発行済株式数の 100%)を北越紀州製紙に譲渡
2015.5 ビジネスサービス部門で行 っている建設業向けのクラウド型システムサービス事業を、会社分割 (吸収分割 )によって、100%子会社であるMCデータプラスに分割し承継 させ、さらに当該子会社に対 して、インテック及びシグマクシスからの一部出資を受入れることで合意
2015.6 子会社である三菱商事石油を承継会社として、産業需要家向燃料油販売事業を会社分割(吸収分割)により移管すること、100%子会社であるエムシー・エネルギーを吸収合併させること、三菱商事石油の社名を三菱商事エネルギーに変更することなどを決定

■ホワイトナイトとなり紙・パルプ事業の強化をもくろむ

 近年、三菱商事が関係したM&Aで世間的に話題となったのが、王子製紙が北越製紙に対して敵対的TOB(注1)を仕掛けた案件である。

 当時、ライブドアによるニッポン放送、楽天によるTBSなど、その結果からも敵対的買収は日本の文化に合わないのではと言われ始めていた。そのような世間の雰囲気がある中で、製紙業界最王手の王子製紙が、業界6位の北越製紙に対する敵対的TOBを行ったため、世間の注目度はおのずと高まった。

 この時、三菱商事は北越製紙のホワイトナイト(注2)として登場し、北越製紙株を約24%取得して筆頭株主に躍り出た。しかし、三菱商事にとって北越製紙への出資の目的は、単なるホワイトナイトとしての買収防衛というよりも、グループ企業である三菱製紙と北越製紙との再編にあった。同社としては業績不振に苦しむ三菱製紙のてこ入れを行うとともに、王子製紙、日本製紙グループ本社に続く紙・パルプ会社の第三勢力の誕生をもくろんでいた。しかし、北越製紙はあくまで自主独立路線を守るため三菱製紙との提携を拒んだ。

 実は北越製紙はかつて三菱製紙と提携関係にあったが、その後提携を解消している。その背景には、三菱製紙と中越パルプ工業との合併話が05年1月に浮上したからだといわれている。この合併は同年5月には白紙撤回となったが、北越製紙にとって三菱製紙は一度裏切られた相手という見方が一部にあるのかも知れない。

 将来的には三菱製紙と北越製紙の提携もあり得るが、それは北越製紙としては本来自主独立路線を守るために結んだ三菱商事との資本業務提携だったはずが、その意に反した方向に転がる可能性があるということにもなる。仮にそうなった場合、三菱商事との提携が王子製紙との経営統合よりも経済合理性があったかという点には大きな疑問も残る。

 こういった部分で、三菱商事が引き受けた北越製紙の第三者割当増資が正しいものだったかはまだ分からない。しかし、三菱商事が意図するような短期間に集中して「コア」事業に投資するという意味ではもくろみが外れている。こういった出資は三菱商事としては今後見直しの対象となり、いずれ「ノンコア」となる可能性も否定できない。

 (注1)大量の株式を短期間に取得するために、新聞公告などを行い、株式市場外で対象企業の株主から直接株式の買い付けを行うこと。http://www.strike.co.jp/maword/0073.html参照

 (注2)敵対的買収を仕掛けられた企業側に立つ有力な支援者のこと。アーサー王伝説に出てくる英雄がその由来。http://www.strike.co.jp/maword/0195.html参照

■資源価格下落による決算内容の悪化から立て直しへ

 これまで数々のM&Aを行ってきた三菱商事であるが、特に資源分野には力を入れてきた。例えば、オーストラリア原料炭の新規鉱山の開山や、米国Cameron LNG の最終投資決定を行ったことなどである。

 14年半ばから始まった原油価格の下落の影響があったものの、非資源分野の底堅い利益の積み上げなどにより15年3月期の連結純利益は4006億円となり通期目標も達成している。しかし、今回の決算は、あくまで非資源分野の好調が寄与したもので、資源関連では950億円、その他も含めた総額では1270億円の減損を余儀なくされている。

 15年3月期の非資源分野では過去最高益を達成しており、これはファンド関連事業における持分利益の増加、畜産事業の収益増加などに加え、ローソン株式などの減損振り戻し益が寄与したことによる一時的な要因も含まれている。

 直近の決算では資源価格の低迷が大きく影響し、資源分野は3850億円の損失、非資源分野についても前年度に計上した減損振り戻し益の反動などにより765億円の損失と合わせて4260億円の大幅な損失を計上している。

■業績推移(左)IFRS移行後(右)

■総資産、純資産、株主資本比率の推移(左)IFRS移行後(右)

 こうした状況を受け、16年以降3年間は、資源価格の変動に影響されやすい体質から「資源」と「非資源」のバランス見直しを経営戦略に掲げている。また、リスク・リターンの観点からポートフォリオ・リバランスを実現するため、資源分野については優良資産への投資を継続しながら入れ替えを通じて投融資残高を一定に保ち、非資源分野では入れ替えを進めつつ、主体的に強みや機能を発揮できる事業への成長投資の実行を目標としている。

 三菱商事がこれまで成長の源泉を「投資」に求めていたことが資源価格の下落により限界を迎え、今後は事業の中に入り、「経営力」を生かした、主体的な価値の創造により成長していくという方針に変わらざるを得ない状況となっている。そういった意味では、今後の三菱商事のM&Aにもこれまでと違った変化が起きてくることが予想される。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。