【日本テレビホールディングス】テレビ局からの脱皮を図るM&A戦略

【日本テレビホールディングス】テレビ局からの脱皮を図るM&A戦略

2016.08.22

【日本テレビホールディングス】テレビ局からの脱皮を図るM&A戦略

日本初の民間放送テレビ局

 日本テレビホールディングス<9404>は、当時読売新聞社長であった正力松太郎氏により1952年10月15日に設立され、翌53年8月28日に放送を開始した日本初の民間放送テレビ局である。NHKと民放各社の中で、省庁ではなく電波監理委員会によって予備免許が与えられた唯一のテレビ局でもあり、現在、NNN(Nippon News Network)、NNS(Nippon television Network System)により、全国各県の系列局にネットワークを結んでいる。

 2016年3月期の連結決算では売上高約4148億円であり、フジ・メディア・ホールディングス(フジテレビ)に次いで業界2位の売り上げ規模を持つ。15年の年間平均視聴率では、全日帯(6時~24時)、ゴールデン帯(19時~22時)、プライム帯(19時~23時)の3部門全てでトップとなり、年間・年度共に2年連続「視聴率三冠」を獲得している。読売新聞グループが親会社であることから、読売巨人軍の試合を中心にプロ野球やプロレス中継などスポーツ番組やバラエティー番組に強みを持つ。

許認可規制に守られてきた放送業界

 日本ではこれまで地上波民放への参入は厳しく規制され、テレビ局は新聞社に系列化されていた。90年代にはCATV(有線テレビ)や衛星放送が登場したものの対等のライバルとは程遠く、新規参入がほとんどなかったため、長年にわたる内部留保の蓄積により財務内容は極めて安定していた。そのため、キー局を買収するのは膨大な資金が必要で、かつその膨大な資金を調達する仕組みも十分ではなかった。

 これまで放送局のM&Aは日本の風土にはなじまず、アメリカの三大ネットワークの一つであるCBS社がソニーにレコード部門を売却したような異業種と放送局のM&Aが行われる可能性は極めて低かった。

 しかし近年、放送局の収入の柱である広告収入は、今後大きな伸びを期待することが難しくなっており、ネット事業への展開や、コンテンツとネットとの連携が今まで以上に求められるようになっている。また、ライブドアがフジテレビを買収しようとしたことを機に、放送局がこれまで許認可規制という大きな壁に守られてきたことが露呈し、今後のグループ企業との連携のあり方を見直すきっかけとなった。

■日本テレビ放送網が行った主なM&A

年月 内容
2000.11 日本テレビ、三菱商事、日本衛星放送(WOWOW)、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモの5社は、CSデジタル放送のプラットフォーム、およびこれに附帯する事業の事業化調査を実施するワン・テン企画に1億円出資(株式25%)し設立
2001.4 日本テレビと三菱商事は中華圏向け新規メディア・コンテンツ事業を行う企画会社アジア・ワンを500万円の折半出資(50%)により設立
2001.9 共同出資会社でCSデジタル放送プラットフォーム事業構築会社プラット・ワンの第三者割当増資の4%を1億9200万円で引き受け。これにより出資比率は21%から25%となる
2002.9 ITX子会社で民間の衛星通信事業者で、企業や官公庁向けの通信サービス、一般企業向けの電気通信事業などを行うJSATの株式を5.87%を約103億円で取得
2005.4 日本テレビグループは、ソニーグループのブロードバンド・コンテンツ・ポータルAIIの第三者割り当て増資を引き受け、株式5.58%を4億1300万円で取得
2005.12 讀賣テレビ放送の株式15.59%を5億7200万円で取得
2006.4 NTTドコモとの放送・通信連携サービスに関する業務提携、および有限責任事業組合(LLP)を設立。NTTドコモと50億円で折半出資(50%)
2006.10 日本テレビは日本ビジネスシステムズと合併で情報システム専業子会社日テレITプロデュースを設立。出資比率は80%、8000万円の投資
2007.11 日本テレビはリクルートと業務・資本提携。リクルートの株式1.8%を約100億円で取得
2007.11 日本テレビはセブン・イレブン、電通とともにテレビ、インターネット、小売業(実店舗)を連動させた、新しいショッピングポータルサイト(電子商店街)を運営する日テレ7を株式51%、2億4000万円出資し設立
2009.1 インデックス・ホールディングスから日活の株式の34%を23億9000万円で取得
2009.9 ヤフーの子会社のGyaOの株式の7%を譲り受けることで合意
2009.10 経営資源の選択と集中の観点から、子会社である日本テレビフットボールクラブの全株式を東京ヴェルディホールディングスに譲渡
2009.12 経営資源の多角化から、実質的に昭栄が保有する土地(東京都千代田区四番町5番地9)を231億5000万円で取得
2011.2 マッドハウスが第三者割当増資により発行する新株を約74%を10億円で引受け子会社化。出資比率は10.4%から84.5%となる
2014.1 タカラトミーが保有する株式のうち、発行済み株式54.3%を取得し子会社化
2014.2 日本テレビは米国の定額動画配信サービス「Hulu」の日本事業を取得
2014.12 ティップネスの全株式を238億8000万円で取得し完全子会社化
2015.5 日本テレビはバスキュールとスマートテレビ、スマートデバイスをメインとするHAROiDを設立

視聴率に左右される民放局の業績

 民放各社にはNHKのような受信料収入が無いため、企業からの広告収入、番組販売収入である放送関連事業収入と、DVDの販売やイベント開催、映画制作などの放送に関する事業以外の事業収入に分けられる。特に広告収入は売り上げ全体の7割~8割を占めており、これまで放送業界ではいかに広告収入を増やしていくかということが重要視されてきた。

 日本テレビの業績推移を見ると、売り上げはおよそ3000億円~3500億円とほぼ横ばいで推移しているものの、当期純利益の変動はおよそ50億円~350億円と非常に激しくなっている。こういった利益の変動要因となっているのが視聴率であり、CM枠という言葉があるように、高視聴率の番組になるほどCM枠の確保を競うようになり値段も高くなる仕組みになっている。そのため、民放局にとって高視聴率番組を持つことがいかに重要であるかが分かる。

 日本テレビの業績推移と視聴率の関係を見てもそれは明らかで、99年~02年までの利益率が非常に高いのは94年から「年度視聴率四冠王」を9年連続で達成していたためである。そして、03年以降の利益率が急激に下がっているのは、03年10月に明るみに出た「日本テレビ視聴率買収事件」(注1)によるものである。その後、09年にかけて底を打ち、近年は14年、15年に2年連続で年間・年度平均視聴率三冠王を獲得し回復傾向にある。

 注1:不正工作を行ったのは日本テレビのバラエティー番組プロデューサー。視聴率調査を行うビデオリサーチ社の調査サンプル世帯に謝礼を渡し、自分が制作した番組を見ることを依頼、視聴率を上げようとしたもの(オールアバウト「前代未聞!視聴率測定世帯買収事件 視聴率のためなら悪魔に魂を…」よりhttp://allabout.co.jp/gm/gc/198928/)。

■業績推移

放送事業以外の分野への多角化を図る

 05年、ライブドアや楽天による民放局への敵対的買収の試みが、これまで許認可規制に甘んじてきた民放局の経営を揺るがすとともに、番組などの民放局が持つコンテンツとITを融合させるきっかけとなった。

 例えば、ライブドアは05年2月からフジテレビの筆頭株主であるニッポン放送の株を大量に取得することで、フジテレビの株を手に入れ支配下に置こうとした。ライブドアの目的はフジテレビの持つコンテンツを自社の事業に転用しようというものだった。結果的にライブドアとフジテレビは業務提携することとなり、ニッポン放送はフジテレビの完全子会社となったが、楽天によるTBSの株式大量取得も同様で、これらの事件をきっかけに民放各社は買収防衛策の必要性と、自社コンテンツとITの融合化の必要性に迫られる。日本テレビもこれらの事件を受け、買収防衛策を講じるとともに、コンテンツの2次利用・多角的配信を目指すということを経営方針の一つに掲げ、「テレビ局」から「トータルメディア企業」を目指すマルチコンタクトポイント戦略という戦略を取っている。

 例えば、モバイル・インターネットによるコンテンツ配信、地上波放送、衛星放送、通信放送などの伝送路に、日本テレビのコンテンツを積極的に配給していくというものである。また、この戦略には放送以外の収入を拡大していくという要素も含んでおり、通信販売事業とインターネットや、テレビ番組を連動させた事業展開や、第2日本テレビ(注2)のオリジナルコンテンツの充実を目指している。他にも、アニメなどの映画を地上波と連動させて放送を行うことで放送外収入を拡大するという動きがあり、例えば話題作の特番を地上波で放送し、映画の集客数増加を促すなど、積極的に映画と地上波の連携を図っている。

 注2:日本テレビ放送網が運営するインターネットによるビデオオンデマンド事業。現在は「日テレオンデマンド」に統合されている。

 こういった動きと同時に、ネット関連企業のM&Aや他企業との共同出資も行っており、14年2月には有料会員数約120万人(15年12月時点)を抱えるHulu Japanを買収している。また、15年5月にはバスキュールと合併会社HAROiDを設立し、テレビとインターネットをつなぐアプリの開発に力を入れようとしている。

 一方、日本テレビは事業の多角化を進めるにつれ、資産は増加しているもののそれが売り上げに反映されていないという課題も抱える。99年3月期から直近の決算期を比較しても総資産、純資産共に倍以上になっているものの、売り上げや利益はほぼ横ばいでの推移となっている。これは、マルチコンタクトポイント戦略を推し進めるばかりで、売り上げにつながる事業展開ができていないということを示している。

 今後、日本テレビに限らず民放各社が放送関連事業以外の事業への多角化を図ろうとする中で、日本テレビが現在の放送業界での地位を確立するためには、トータルメディア企業としてこれまで行ってきた経営が正しいものだったのかという見直しと、今後のM&Aも含めた各事業の体制を見直す必要があるといえる。

■総資産、純資産、自己資本比率の推移

トータルメディア企業になるために求められる戦略

 放送業界の歴史は、テレビという強力なメディアと許認可規制によって長らく限られた民放局の独占状態にあった。しかし、インターネットなどの新たなメディアが登場したことにより、民放各社はテレビを中心とした放送以外の事業の拡大が重要なテーマとなった。それに伴い、M&Aの重要性も増しており、放送局がこれまで培ってきたコンテンツ制作のノウハウを生かし、さまざまなメディアへのコンテンツ配信を行うことができるようなシナジー効果のある企業とのM&Aが、テレビ局からトータルメディア企業へと進化する上で重要な要素となっている。

 このような大きな転換期にある放送業界で日本テレビが生き残るには、今後ますます放送以外の事業への多角化と、これまで以上に効率的な経営が求められている。仮に自社番組の視聴率を一時的に上げたとしても、減少傾向にあるテレビ視聴者数の流れを変えることは難しく、新たなコンテンツを創出しインターネットなどのメディアを活用することが求められている。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

モノのデザイン 第46回

バルミューダが“子どものデスクライト”を再定義した理由

2018.11.13

バルミューダ初の照明機器「BALMUDA The Light」

子供にターゲットを絞り、目の健康を追い求めた

デザイン家電ブームの火付け役が挑んだ新領域での苦労とは

バルミューダから10月26日に発売された「BALMUDA The Light」。これまで扇風機、スチームトースター、オーブンレンジなど、デザイン性と革新性を両立させた独自の製品を世に送り出してきた同社だが、照明器具の発売はこれが初めて。空調家電、調理家電に次ぐ“第三のカテゴリー”への市場参入を目論む第一弾のプロダクトだ。

“子どものため”と明確に謳ったこのLEDデスクライトは、これまでにはない思想で開発された。業界で異彩を放つ新製品の設計・機構から外観に至るまで、広義での"デザイン"について、開発チームのメンバーである同社マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏に聞いた。

バルミューダが新たに挑む製品カテゴリーである"照明"の第1弾として発売された「BALMUDA The Light」。"子どものため"のデスクライトとして、最新のテクノロジーのみならず、開発陣の思想や想いが想像以上に込められた商品だ

子どもウケデザインではない、子どものためのライト

冒頭で述べたとおり、本製品はデスクライトとして"子ども向け"を謳った商品。だが、その方向性は、見た目だけを子どもウケするようなデザインにしたものとは本質的に大きく異なる。

子ども向け="子どもの姿勢や視力への影響を配慮したもの"であり、製品の発表会では、「大人に比べて視界が狭い子どもは、机に向かっているうちにいつの間にか前のめりになってしまい、うつぶせのような姿勢になってしまう」と、寺尾玄社長自らがご子息と対峙して気づいたことが、開発の経緯になったことを明かしていた。

一般的なデスクライトの難点は、このように真上からの照明で、手元に影ができやすいことだ
光源が目に直接入ることも従来のデスクライトの問題点

高荷氏によると、初期の段階ではまったく異なるコンセプトで研究開発していたそうだ。しかし、「そのコンセプトでは商品化のめどが立たず、"集中"とか"目"が開発の方向性のキーワードになっていきました」と話す。

お話を伺った、バルミューダ マーケティング部プロダクトマネジメントチームの高荷隆文氏

BALMUDA The Lightは、同社が"フォワードビームテクノロジー"と呼ぶ、光をミラーで一度反射させてから手元に当てることで、光が瞳に直接入らない点が特長の1つである。反射板を使うことで机全体を照らすことができるという仕組みは、開発の初期段階から検討されており、デスクライトに応用することも考えていたそうだ。

バルミューダが考えた、デスクライトとしての理想的な光のイメージ。手元に影を作らず、光が直接目に入らない解決方法が検討された
BALMUDA The Lightの光源部分。ミラーによって光を反射させてから手元に当てることで、光が直接目に入らず、影もできない。光源には3灯の太陽光LEDが使われている

手術灯メーカーとの出会いで開発が加速

バルミューダがデスクライトの開発に着手したのは2014年ごろ。実は2015年に発売され大ヒットした「BALMUDA The Toaster」の発売前から構想自体はスタートしていたというが、商品化に向けて大きく動き出したのは2年ほど前とのこと。高荷氏は「でも、拍車がかかったのは、去年(2017年)の頭ぐらい。社長自らが山田医療照明の増田社長と出会ったところからなんです」と振り返る。

山田医療照明は、手術灯など医療用照明を手掛ける、業界では国内トップのメーカーだ。バルミューダが開発途中で考えていた照明の仕組みが手術灯に似ていることに気付いた寺尾社長が自らネットで検索し、探り当てたのが山田医療照明だった。これが、後の"フォワードビームテクノロジー"につながっていくことになる。

すぐさま寺尾社長はショールームへ乗り込んで行った。山田医療照明は手術灯でグッドデザイン賞を受賞するなど、デザインに対する意識も高く、製品開発の考え方にも近いものがあると感じたという。直接会いに行った同社の社長ともすぐさま意気投合したそうだ。

高荷氏は「実は山田医療照明の増田社長がバルミューダのファンで、弊社のほぼ全商品を持っていらっしゃったんです」と、共同開発にたどり着いたエピソードを笑いながら語った。

フォワードビームテクノロジーのヒントになった、山田医療照明の手術灯

2017年春からは、2社共同のプロジェクトとして再始動した、BALMUDA The Light。もう1つの技術的な特長として、光源に"太陽光LED"を採用していることも挙げられる。

太陽光LEDとは、太陽による自然光に近い波長(スペクトル)を持ったLED。一般的なLEDに比べてブルーの波長が低く、目にストレスを与えにくいといい、山田医療照明が手掛ける手術灯にも数年前から採用されている。

だが、目に優しい反面、太陽光LEDは価格が高いのが難点。一般的なLEDの10倍ほど高価なために、民生用の機器で採用されている例はほとんどないという。それをBALMUDA The Lightではなんと3個も搭載しているのだ。

BALMUDA The Light、一般的な白色LEDライト、太陽光の光の波長の違い。BALMUDA The Lightのブルーライトは、一般的な白色LEDライトに比べると太陽光に近い波長で、目が疲れにくい特性を持つ

太陽光LEDが民生用機器に採用されない理由は他にもある。「太陽光LEDは、光の質がよい代わりに発熱しやすく、放熱をいかに行うかがかなり大変なんです。放熱対策をせずに電流を流すと100℃を超えることもあり、そのままだとすぐに壊れてしまいます」と高荷氏。

そこで、BALMUDA The Lightではさまざまな放熱技術を検討していった。「フォワードビームの反射構造と放熱を両立させる設計を行い、1日中ライトをつけっぱなしにしていても、ほのかに温かいと感じる程度にまで抑え込みました。しかし、放熱のための解決策をやればやるほど本体が重くなっていき、倒れやすくなってしまったんです」と話す。

カサの部分に複数設けられた穴の部分は、放熱の機能も兼ねている

「形に合わせた開発」の苦労

以前、「BALMUDA The Range」の取材の際に、「バルミューダのデザインの神髄は、形はベーシックでありながら、オリジナリティーを追求することにある」と語られていたように、開発チームには、形を変えないままで中身を改良していくことが要求された。

「開発部門としては、あと5ミリ厚くできれば放熱と倒れにくさを両立できるのに……というせめぎ合いが何度かあったのですが、弊社の商品はデザイン性もブランドアイデンティティーの1つ。デザイン性は優先課題とされるため、"形ありきで、そこに技術をどうやってはめていくか?"という考え方で、光源部分の試作を毎週繰り返して、最終的にはコンマミリサイズで調整を続けました」と苦悩を明かす。

そのほかにも、暗くする際にチラつきが出やすく、それが目にストレスを与えてしまうという問題を電流の量で微調整する制御を行い、最小限に抑えたという。

一方、外観上のデザインに関しては、"パッと見はシンプル"というバルミューダ共通のデザイン意匠を踏襲しつつも、意識されたのは"テック感"だ。

「光源が見えない時、表側はシンプルでやさしい印象ですが、カサの内側の光源がある部分は複雑な造形にし、一部をクローム調にすることでシャープな印象に仕上げました。ポリゴン状の反射板も、光学的に有利かつテクノロジーを感じるデザインを意識したものです」と高荷氏。

それ以外にも、"子ども用"を謳う商品として、耐久性はもちろん、転倒しないように重さを調整した。"長くずっと机にいる相棒"として長年愛用できるように、デコレーション用に付属するシールが貼りやすい一方で傷や指紋が付きにくく、手入れをしやすいマット塗装やコーティングが施されている。

本製品のもう1つユニークな点は、"音"の仕掛けだ。BALMUDA The Rangeと同様に、デスクライトにもスイッチのダイヤルを回すと音を奏でるギミックが採用されている。前回のレンジはギターやドラムだったが、今回はアナログピアノの音が選ばれている。しかも、スタインウェイのグランドピアノを使って、スタジオでプロのミュージシャンが演奏した生音を音源にするというこだわりだ。

「いろいろ試した中で、光の明るさと諧調に親和性があったのがピアノの音でした。クラシカルなピアノの旋律はノスタルジックで、子どものイメージに合致しながらも、子どもっぽすぎるということもなく、長く愛用するのにふさわしい。ピッタリとハマりましたね。鍵盤の押し方とか、音の余韻までちゃんと表現されているんですよ」

製品に同梱されている取説。「子どものクリエイティビティや好奇心が掻き立てられるように」と、あえて設計図のようなデザインに仕立てたとのこと

コーポレイトアイデンティティーの1つとして"クリエイティビティ"を掲げるバルミューダ。今回の製品にも「クリエイティブであれ!」という子どもたちへのメッセージが込められている。そのために、デザインはあえて90%の完成度にし、残りの10%は使用する子ども自身の手で作り上げて欲しいという思いから、自由に組み合わせて貼れるステッカーが4シートも付属しており、本体の根本部分はペンスタンドにもなっている。

ダイヤル部分を回すと、ピアノの音階を奏でる。バルミューダらしい"遊び心"ある仕掛けに、子どもも大人も心が躍る

単に子どもたちの"目を守る"という使命だけでなく、自らの手で自分のものにした喜びや体験がモノへの愛着を生み、新たなクリエイティビティにつながっていく。いや、つなげてほしいという、同社の"意志"が大いに込められた商品だ。「デスクライトでどうやって体験を伝えるかはチャレンジングでした」と最後に語った高荷氏の言葉からも、その思いが伝わってきた。

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

カレー沢薫の時流漂流 第15回

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

2018.11.12

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第15回は、「プリンセス駅伝の四つん這い走行」問題について

今年は「パワハラ」「黒い交際」「殺人タックル」など、スポーツ界が荒れに荒れた。

スポーツにつきまとう「感動」という尺度

というよりは、今までずっと「わかり哲也」の背景ぐらい荒れ続けていたが、関係者専用のプライベートビーチだったため、一般人の目につかなかっただけのような気もする。

その一方、ワールドカップでは予選を批判した奴は全員死んだのかというぐらい本戦の健闘が称えられたり、夏の甲子園では金足農が秋田県勢として103年ぶりに決勝に進出し大きな注目を集めたりと、感動的なこともあった。

しかし、結果だけを言えば、ワールドカップは1回戦敗退だ。金足農も決勝で敗れ準優勝。逆に優勝したのに金足農の陰に隠れた大阪桐蔭が可哀想なぐらいだ。

つまり、見る側はスポーツに対し、時に結果よりも「感動」を求めがちということだ。金足農が仮に優勝していたとしても、その勝利が「地獄甲子園」式で得た物なら讃えられなかっただろう。

スポーツに感動を求めるのは悪いことではない。私のような、床を這っているコードでこけるような先のない中年は、もはや他人の活躍に乗っかって泣いたり笑ったりするしかないのだ。

だが、「感動した! 痛みに耐えてよく頑張った! 」という言葉があるように、スポーツの感動には「選手が無理をする姿」も含まれていることは否定できない。その無理が「43度の風呂」レベルならまだ良いが、選手生命、さらには最悪命を脅かしかねない時もある。

インターネット大相撲では済まない「プリンセス駅伝」問題

そんな、文字通り「選手が痛みに耐えて頑張った」事件が、先日行われた「プリンセス駅伝」で起こった。女子駅伝だからプリンセス駅伝なのだろうが、私が走者だったら相当居心地の悪いネーミングだ。

その駅伝の中で、10代の走者が中継所の直前で走行不能となったが、何と四つん這いの状態で流血しながらタスキをつないだという。四つん這いで移動した距離は約200メートル。私だったら小一時間かかる、結構な距離だ。その選手がリードの外れた柴犬ぐらいのスピードで四つん這い走行した、というなら制止する間もなくタスキは渡されていたかもしれないが、満身創痍の状態なら相当時間がかかっただろう。

当然、その姿には「誰か止めろよ」と批判が噴出した。しかし、批判がある一方で「感動した!」と、流血四つん這いで走る女子の姿にバッチリ感動した勢がいるのも事実だ。それに対し「怪我しながら走る選手を美談にする勢を許さない勢」が現れ、いつものインターネット大相撲に発展しているのはよくあることなのだが、これはかなり複雑な問題なのである。

監督が倒れた選手に「お前棄権したらわかっとるやろな? 」とアイコンタクトをしたり、観客が「俺たちを感動させるために走れや」と選手を後ろからジープで追い立てたりしたと言うなら論外だが、監督はテレビモニターで「二足歩行が厳しい」という致命的な状態の選手を見て、ちゃんと棄権を申し入れている。

だが、その棄権が現場の審判に伝わった時には、すでにタスキ受け渡し地点の20メートル手前に来ていたそうだ。つまり、満身創痍の選手が四つん這いで180メートル移動してしまうまで棄権の申し入れが審判に伝わらなかった、ということだ。ここでまず連絡体制の不備が指摘されている。

そして、審判は棄権の申し入れを知った後も、「あとちょっとだし」と最後まで走らせてしまったと言う。痛みに耐えて頑張る選手、という「感動」に流され、無理をさせてしまった感は否めない。

そもそも棄権の申し入れがあるなしに拘わらず、現場判断で中止させるべきはなかったのか、という声もある。今、試しに家の中を四つん這いで走ってみたが、これで200メートルはなかなかキツイ。何より見た目が痛々しい。

私の場合、無職の中年が昼間に家の中を四つん這いで走っているというただの「イタい」状態だが、走れなくなった若い選手が流血しながら四つん這いで走る姿は、十分制止すべき痛々しさだろう。実際、棄権申し入れがなくても、現場判断で走れなくなった選手を止める権限が審判にはある。

それでも懸命に走る意志を見せる選手に心打たれて止められなかったのかというと、必ずしも感動だけが理由ではないようだ。企業にとって駅伝というのは非常に重要なものであり、それをチームではなく審判の判断で止めるというのは、審判員側と企業側に大きな禍根を残すことになりかねないのだという。よって審判側は「よほど勇気がないと止められない」そうだ。

また、選手にとっても企業の名前を背負っている上、「自分がコケたら皆コケる」という駅伝のルール上、選手には大きなプレッシャーがかかっている。つまり選手も現場も「止まるに止まれないし、止めるに止められない」状況になっていたのかもしれない。

そして結果から言うと、この選手は「全治3~4か月の骨折」となった。あの四つん這いでの200メートルがなかったら、もう少し怪我が軽くなった可能性は大いにある。

このように、無理は早めに止めないと、逆に有望な選手を潰すことになりかねない。

「無茶しやがって…」という展開は漫画などに任せ、ダメな時は「俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ」と早々に打ち切り、次のチャンスに賭けるべきだろう。