【日本テレビホールディングス】テレビ局からの脱皮を図るM&A戦略

【日本テレビホールディングス】テレビ局からの脱皮を図るM&A戦略

2016.08.22

【日本テレビホールディングス】テレビ局からの脱皮を図るM&A戦略

日本初の民間放送テレビ局

 日本テレビホールディングス<9404>は、当時読売新聞社長であった正力松太郎氏により1952年10月15日に設立され、翌53年8月28日に放送を開始した日本初の民間放送テレビ局である。NHKと民放各社の中で、省庁ではなく電波監理委員会によって予備免許が与えられた唯一のテレビ局でもあり、現在、NNN(Nippon News Network)、NNS(Nippon television Network System)により、全国各県の系列局にネットワークを結んでいる。

 2016年3月期の連結決算では売上高約4148億円であり、フジ・メディア・ホールディングス(フジテレビ)に次いで業界2位の売り上げ規模を持つ。15年の年間平均視聴率では、全日帯(6時~24時)、ゴールデン帯(19時~22時)、プライム帯(19時~23時)の3部門全てでトップとなり、年間・年度共に2年連続「視聴率三冠」を獲得している。読売新聞グループが親会社であることから、読売巨人軍の試合を中心にプロ野球やプロレス中継などスポーツ番組やバラエティー番組に強みを持つ。

許認可規制に守られてきた放送業界

 日本ではこれまで地上波民放への参入は厳しく規制され、テレビ局は新聞社に系列化されていた。90年代にはCATV(有線テレビ)や衛星放送が登場したものの対等のライバルとは程遠く、新規参入がほとんどなかったため、長年にわたる内部留保の蓄積により財務内容は極めて安定していた。そのため、キー局を買収するのは膨大な資金が必要で、かつその膨大な資金を調達する仕組みも十分ではなかった。

 これまで放送局のM&Aは日本の風土にはなじまず、アメリカの三大ネットワークの一つであるCBS社がソニーにレコード部門を売却したような異業種と放送局のM&Aが行われる可能性は極めて低かった。

 しかし近年、放送局の収入の柱である広告収入は、今後大きな伸びを期待することが難しくなっており、ネット事業への展開や、コンテンツとネットとの連携が今まで以上に求められるようになっている。また、ライブドアがフジテレビを買収しようとしたことを機に、放送局がこれまで許認可規制という大きな壁に守られてきたことが露呈し、今後のグループ企業との連携のあり方を見直すきっかけとなった。

■日本テレビ放送網が行った主なM&A

年月 内容
2000.11 日本テレビ、三菱商事、日本衛星放送(WOWOW)、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモの5社は、CSデジタル放送のプラットフォーム、およびこれに附帯する事業の事業化調査を実施するワン・テン企画に1億円出資(株式25%)し設立
2001.4 日本テレビと三菱商事は中華圏向け新規メディア・コンテンツ事業を行う企画会社アジア・ワンを500万円の折半出資(50%)により設立
2001.9 共同出資会社でCSデジタル放送プラットフォーム事業構築会社プラット・ワンの第三者割当増資の4%を1億9200万円で引き受け。これにより出資比率は21%から25%となる
2002.9 ITX子会社で民間の衛星通信事業者で、企業や官公庁向けの通信サービス、一般企業向けの電気通信事業などを行うJSATの株式を5.87%を約103億円で取得
2005.4 日本テレビグループは、ソニーグループのブロードバンド・コンテンツ・ポータルAIIの第三者割り当て増資を引き受け、株式5.58%を4億1300万円で取得
2005.12 讀賣テレビ放送の株式15.59%を5億7200万円で取得
2006.4 NTTドコモとの放送・通信連携サービスに関する業務提携、および有限責任事業組合(LLP)を設立。NTTドコモと50億円で折半出資(50%)
2006.10 日本テレビは日本ビジネスシステムズと合併で情報システム専業子会社日テレITプロデュースを設立。出資比率は80%、8000万円の投資
2007.11 日本テレビはリクルートと業務・資本提携。リクルートの株式1.8%を約100億円で取得
2007.11 日本テレビはセブン・イレブン、電通とともにテレビ、インターネット、小売業(実店舗)を連動させた、新しいショッピングポータルサイト(電子商店街)を運営する日テレ7を株式51%、2億4000万円出資し設立
2009.1 インデックス・ホールディングスから日活の株式の34%を23億9000万円で取得
2009.9 ヤフーの子会社のGyaOの株式の7%を譲り受けることで合意
2009.10 経営資源の選択と集中の観点から、子会社である日本テレビフットボールクラブの全株式を東京ヴェルディホールディングスに譲渡
2009.12 経営資源の多角化から、実質的に昭栄が保有する土地(東京都千代田区四番町5番地9)を231億5000万円で取得
2011.2 マッドハウスが第三者割当増資により発行する新株を約74%を10億円で引受け子会社化。出資比率は10.4%から84.5%となる
2014.1 タカラトミーが保有する株式のうち、発行済み株式54.3%を取得し子会社化
2014.2 日本テレビは米国の定額動画配信サービス「Hulu」の日本事業を取得
2014.12 ティップネスの全株式を238億8000万円で取得し完全子会社化
2015.5 日本テレビはバスキュールとスマートテレビ、スマートデバイスをメインとするHAROiDを設立

視聴率に左右される民放局の業績

 民放各社にはNHKのような受信料収入が無いため、企業からの広告収入、番組販売収入である放送関連事業収入と、DVDの販売やイベント開催、映画制作などの放送に関する事業以外の事業収入に分けられる。特に広告収入は売り上げ全体の7割~8割を占めており、これまで放送業界ではいかに広告収入を増やしていくかということが重要視されてきた。

 日本テレビの業績推移を見ると、売り上げはおよそ3000億円~3500億円とほぼ横ばいで推移しているものの、当期純利益の変動はおよそ50億円~350億円と非常に激しくなっている。こういった利益の変動要因となっているのが視聴率であり、CM枠という言葉があるように、高視聴率の番組になるほどCM枠の確保を競うようになり値段も高くなる仕組みになっている。そのため、民放局にとって高視聴率番組を持つことがいかに重要であるかが分かる。

 日本テレビの業績推移と視聴率の関係を見てもそれは明らかで、99年~02年までの利益率が非常に高いのは94年から「年度視聴率四冠王」を9年連続で達成していたためである。そして、03年以降の利益率が急激に下がっているのは、03年10月に明るみに出た「日本テレビ視聴率買収事件」(注1)によるものである。その後、09年にかけて底を打ち、近年は14年、15年に2年連続で年間・年度平均視聴率三冠王を獲得し回復傾向にある。

 注1:不正工作を行ったのは日本テレビのバラエティー番組プロデューサー。視聴率調査を行うビデオリサーチ社の調査サンプル世帯に謝礼を渡し、自分が制作した番組を見ることを依頼、視聴率を上げようとしたもの(オールアバウト「前代未聞!視聴率測定世帯買収事件 視聴率のためなら悪魔に魂を…」よりhttp://allabout.co.jp/gm/gc/198928/)。

■業績推移

放送事業以外の分野への多角化を図る

 05年、ライブドアや楽天による民放局への敵対的買収の試みが、これまで許認可規制に甘んじてきた民放局の経営を揺るがすとともに、番組などの民放局が持つコンテンツとITを融合させるきっかけとなった。

 例えば、ライブドアは05年2月からフジテレビの筆頭株主であるニッポン放送の株を大量に取得することで、フジテレビの株を手に入れ支配下に置こうとした。ライブドアの目的はフジテレビの持つコンテンツを自社の事業に転用しようというものだった。結果的にライブドアとフジテレビは業務提携することとなり、ニッポン放送はフジテレビの完全子会社となったが、楽天によるTBSの株式大量取得も同様で、これらの事件をきっかけに民放各社は買収防衛策の必要性と、自社コンテンツとITの融合化の必要性に迫られる。日本テレビもこれらの事件を受け、買収防衛策を講じるとともに、コンテンツの2次利用・多角的配信を目指すということを経営方針の一つに掲げ、「テレビ局」から「トータルメディア企業」を目指すマルチコンタクトポイント戦略という戦略を取っている。

 例えば、モバイル・インターネットによるコンテンツ配信、地上波放送、衛星放送、通信放送などの伝送路に、日本テレビのコンテンツを積極的に配給していくというものである。また、この戦略には放送以外の収入を拡大していくという要素も含んでおり、通信販売事業とインターネットや、テレビ番組を連動させた事業展開や、第2日本テレビ(注2)のオリジナルコンテンツの充実を目指している。他にも、アニメなどの映画を地上波と連動させて放送を行うことで放送外収入を拡大するという動きがあり、例えば話題作の特番を地上波で放送し、映画の集客数増加を促すなど、積極的に映画と地上波の連携を図っている。

 注2:日本テレビ放送網が運営するインターネットによるビデオオンデマンド事業。現在は「日テレオンデマンド」に統合されている。

 こういった動きと同時に、ネット関連企業のM&Aや他企業との共同出資も行っており、14年2月には有料会員数約120万人(15年12月時点)を抱えるHulu Japanを買収している。また、15年5月にはバスキュールと合併会社HAROiDを設立し、テレビとインターネットをつなぐアプリの開発に力を入れようとしている。

 一方、日本テレビは事業の多角化を進めるにつれ、資産は増加しているもののそれが売り上げに反映されていないという課題も抱える。99年3月期から直近の決算期を比較しても総資産、純資産共に倍以上になっているものの、売り上げや利益はほぼ横ばいでの推移となっている。これは、マルチコンタクトポイント戦略を推し進めるばかりで、売り上げにつながる事業展開ができていないということを示している。

 今後、日本テレビに限らず民放各社が放送関連事業以外の事業への多角化を図ろうとする中で、日本テレビが現在の放送業界での地位を確立するためには、トータルメディア企業としてこれまで行ってきた経営が正しいものだったのかという見直しと、今後のM&Aも含めた各事業の体制を見直す必要があるといえる。

■総資産、純資産、自己資本比率の推移

トータルメディア企業になるために求められる戦略

 放送業界の歴史は、テレビという強力なメディアと許認可規制によって長らく限られた民放局の独占状態にあった。しかし、インターネットなどの新たなメディアが登場したことにより、民放各社はテレビを中心とした放送以外の事業の拡大が重要なテーマとなった。それに伴い、M&Aの重要性も増しており、放送局がこれまで培ってきたコンテンツ制作のノウハウを生かし、さまざまなメディアへのコンテンツ配信を行うことができるようなシナジー効果のある企業とのM&Aが、テレビ局からトータルメディア企業へと進化する上で重要な要素となっている。

 このような大きな転換期にある放送業界で日本テレビが生き残るには、今後ますます放送以外の事業への多角化と、これまで以上に効率的な経営が求められている。仮に自社番組の視聴率を一時的に上げたとしても、減少傾向にあるテレビ視聴者数の流れを変えることは難しく、新たなコンテンツを創出しインターネットなどのメディアを活用することが求められている。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

CESで大注目の「折り曲げられるスマホ」、普及の見込みは?

2019.01.18

中国メーカーが自在に折り曲げられるスマホを実現

「大画面×コンパクト」を両立する夢のデバイス、実用性は?

端末の魅力を引き出すアプリ登場が普及のカギか

米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」では、2019年のトレンドを先取りする新ガジェットが一堂に会した。その中でも一際大きな注目を浴びたのが「折り曲げられるスマホ」だ。商品化にこぎ着けたのは世界初という。

折り曲げられるスマホ「FlexPai」

スマホの画面サイズが大型化を続ける中、iPhone SEのような小型スマホを求める声は依然として多い。そこで登場した折り曲げられるスマホは、「大画面」と「コンパクト」を両立する夢のデバイスに見える。果たして普及の可能性はあるだろうか。

自在に折り曲げられるスマホ、中国メーカーが実現

折りたためる2画面のスマホというアイデア自体は、実はそれほど目新しいものではない。NTTドコモとZTEが共同開発した「M Z-01K」などは、現行モデルとして国内で販売中だ。

だが、従来の2画面スマホはヒンジを用いて2つの画面をつなげたものに過ぎなかった。その後、液晶とは異なる特性を持つ有機ELが登場したことで、ディスプレイを紙のように自在に折り曲げられることも夢ではなくなった。

有機ELの「曲げに強い」という特性は、多くのスマホに活用されている。サムスン電子のGalaxyシリーズが画面端を曲面にしたスマホを発売後、ソニーモバイルシャープもこの形状を採用している。

これを推し進め、開くとタブレットのような大画面、2つに折り曲げるとスマホサイズという端末の可能性が見えてきた。そして2018年10月、中国のRoyoleが、世界で初めての折り曲げられるスマホ「FlexPai」を商品化したのだ。

中国Royoleのブース。フレキシブルディスプレイを使った様々な製品が並んだ

CES 2019では韓国のLG電子が巻き取り式のテレビを発表するなど、「曲がるディスプレイ」が会場全体で話題になっていた。そうした下地もあって、Royoleの出展ブースには来場者の行列が絶えず、展示機がバッテリー切れを起こすほどの盛況となっていた。

実用性はさておき、スマホの進化の可能性を示した

FlexPaiの特徴は、開いた状態ではタブレットに近い形状になり、そこから自由に折り曲げできる点にある。従来の2画面スマホとは異なり、広げた状態でも画面の境目がないため、タブレットと同じ感覚で利用できる。

広げた状態ではタブレットのように使える

メーカーが挙げるメリットは、複数のニーズごとの端末を1台に集約できることだ。大画面が欲しい人の中には、スマホとタブレットを両方持ち歩いている人もいるだろう。だがFlexPaiなら持ち歩くのは1台で済むというわけだ。

折り曲げた状態では一般的なスマホと同じように使える

折り曲げというギミックから、耐久性に不安を覚えるものの、20万回程度の折り曲げに耐えられるという。ただ、折り曲げると厚みが出るため、スマホのようにコンパクトに持ち歩くことはまだ難しい。

アプリの対応も課題だ。FlexPaiを折り曲げた状態では「表面」と「裏面」に加え、折れ曲がった「エッジ」の3画面を利用できる。FlexPaiの魅力を引き出すには、これら3画面を活用するようなアプリの登場が待ち望まれる。

そこでRoyoleは、FlexPaiをアプリ開発者向けに1,318ドルの価格で先行販売している。まずは開発者にデバイスを手に取ってもらい、どのような活用方法が考えられるか、アイデアを募っていく段階といえる。

会場で実機を試した印象だが、現段階での折り曲げスマホは実用的とまではいえないと思えた。しかしRoyoleという会社の名前を世界に知らしめ、フレキシブルディスプレイの技術を示したという意味では、この発表は大成功を収めたといえるのだろう。

また、サムスン電子など大手スマホメーカーも折りたたみや折り曲げ端末の開発を進めており、グーグルはAndroid OSとして公式サポートを表明している。スマホの次なる進化の可能性を真っ先に示したFlexPaiを、この場の実用性で語るのはお門違いなのかもしれない。

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

森口将之のカーデザイン解体新書 第12回

日本車のインテリアには独創的な未来がある? 「1kg展」で感じた可能性

2019.01.18

国内主要メーカーの内装デザイナーが集まり展示会を開催

テーマは“1kgの価値”をどこまで高められるか

実車に応用できる? 独創的な作品の数々

国内主要自動車メーカー8社のインテリア・カラーデザイナーが参加する団体「JAID」が初の作品展を開催中だ。“1kg”という重さにこだわり、最新の3Dプリンターを駆使して各社のデザイナーが生み出した作品は独創的で、会場の「GOOD DESIGN Marunouchi」(東京・丸の内)は小さな現代美術館のような雰囲気になっている。

ダイハツ工業のデザイナーが出品した「受け継がれる樹脂」という作品

雑誌の対談が契機となり生まれた「JAID」

「JAID」という名前を初めて目にした人も多いだろう。「ジャパン・オートモーティブ・インテリア・デザイナーズ」の略で、「ジャイド」と読むそうだ。

創立のきっかけとなったのが、自動車雑誌「NAVI CARS」(ナビカーズ)での対談だったと聞いて、「あの号だ!」と即座に思い浮かんだ。クルマのインテリアを特集したナビカーズの2015年7月号で、筆者も別の対談に参加させていただいていたのだ。その号に国内メーカーのインテリアデザイナーが語り合うページがあったことは記憶の片隅に残っていた。

雑誌の売れ行きが落ちているといわれて久しい。それだけに、1つの雑誌の企画からJAIDのようなコミュニティが生まれたことは、モータージャーナリズムに身を置く者として嬉しい気持ちになる。

日産自動車のデザイナーが出品した「∞ Fluff」

価値ある1kgの創造に挑んだデザイナーたち

そのJAIDが企画したのが「1kg展」だ。なぜ“1kg”にこだわるかといえば、クルマの開発に携わる人たちにとって切実な「kg単価」という指標に理由がある。

「kg単価」とは、クルマの開発で使われる値段の単位だ。インテリアデザイナーとしてはkg単価が高い、いわゆる良い素材を使いたいという気持ちは大きいだろう。快適性や安全性の追求、さらには電動化への対応、重量の削減といった視点も持ちながら素材を選んでいるはずだ。

しかし、贅を尽くしてばかりでは車両価格の上昇を招くので、妥協が必要になる。おそらくインテリアデザイナーは、このような状況で悩みながら、新しい素材や仕立て、色などを取り入れるべく、奮闘の毎日を過ごしているのだろうと想像している。

では、そういった制約がなくなったとき、デザイナーたちはこのkg単価をどこまで価値あるものに仕上げられるのだろうか。これが、今回の展示会のテーマだ。最新の3Dプリンターを駆使し、時間や空間、物質としての限界などを飛び越えた作品を独自の着眼点で製作すると同時に、広くカーインテリアデザインの魅力を伝えたい。そんなメッセージのこもった展示会なのである。

ホンダのデザイナーが出品した「風速1kg」

素材と色のコーディネートが味わえる「ハンバーガー」

会場のGOOD DESIGN Marunouchiは、2013年度から通算5回、今年度も含めてグッドデザイン賞の審査員を担当している筆者にとってはなじみ深い場所だ。ところが、「1kg展」の内覧会を訪問した時には、状況がまるで違っていた。いつもは展示物をゆったりと眺めることができる空間なのに、この日はラッシュ時の駅のようにごった返していたのだ。それだけ、インテリアデザイナーの斬新な発想に期待する人が多かったということだろう。

日産のデザイナーが出品した「4D flower」。「1kg展」に作品を持ち寄ったのは、国内大手自動車メーカー7社(ダイハツ工業、ホンダ、三菱自動車、日産自動車、スバル、スズキ、トヨタ自動車)だ

作品の中には、クルマのインテリアデザインとは関係なく、最新の3Dプリンターならではの表現能力の高さをアピールするような作品も見られた。それらを業界の枠を飛び越えた独創的な作品と捉える人もいたようだが、クルマが好きで今の仕事に携わっている(はず)の方々だからこそ、もっとインテリアにこだわって欲しかった。

ただ、クルマのインテリアとの関連性が高い作品が大半を占めていることは確かで、中には独創的な発想や興味深いアイデアも見られた。本稿では独断と偏見で、そのうちの3つを紹介していこう。

まずは、会場の入り口近くに置かれていた「CMFバーガー」だ。「CMF」とはカラー、マテリアル、フィニッシュの頭文字で、ナビカーズでの対談が行われた頃から、自動車に限らずデザイン分野でひんぱんに使われるようになってきた言葉だ。造形だけでなく色や素材、仕立てにも気を配ることで、より完成度の高いデザインが生まれるというような意味が含まれている。

「CMFバーガー」はトヨタのデザイナーが出品

この作品は、CMFのコーディネートを1kgのハンバーガーに見立てて表現したもの。レザーのバンズ、クリアレンズのトマト、加飾素材のチーズやパティ、シート素材のレタスがさまざまな色で用意してあり、好みのバーガーを作り出せる。

3つの作例では、CMFの違いでかなり雰囲気の異なるバーガーを作れることが分かった。バンズを肉抜きタイプにすると総重量が1kgを切るなど、計量化を実感できる仕掛けも盛り込んである。ディーラーが車種別にCMFハンバーガーを用意すれば、顧客は楽しみながらカラーコーディネートを試すことができるかもしれない。

ディーラーに「CMFバーガー」が置いてあったら面白いかも

インテリアをボールにした斬新な作品も

続いて紹介するのは「トランスフォームステアリング」。自動運転が実用化された未来を想定した変形機構を持つステアリングで、手動モードでは伸びて操舵できる状態となり、自動モードでは縮めて格納しておける。全てがマットブラック仕上げだが、グリップ部分、変形部分、外枠部分を別のメーカーのプリンターで製作することで、素材の違いを表現している。

トヨタのデザイナーが出品した「トランスフォームステアリング」

製作したデザイナーはステアリング機能だけを想定していたようだが、左右のグリップをねじることでアクセルやブレーキの操作ができれば、この部分だけで基本的な運転操作ができる合理性の高いインターフェイスになると思った。ペダルがなくなれば、室内レイアウトの自由度も高まりそうだ。

伸ばせば手動運転に使えるし、自動運転中は縮んだ状態で格納しておける

最後は「インテリアボール」だ。写真を見てお分かりのとおり、クルマのインテリアを構成するパーツをボール状のアートとして表現したもので、多くのパーツをまとめ上げ、世の中というフィールドにデザインを“投げ”かけているインテリアデザイナーの仕事をボールの形に込めたのだという。

「インテリアボール」はホンダのデザイナーが手掛けた

展示してあるのは1個だけだが、スポーツの世界では競技によってサイズの違うボールを使うことにも製作者は着目している。使用する材料や加工方法を変えることで、同じ1kgでもサイズや見え方の違った表現ができるそうだ。

しかしながら筆者には、これがボールではなく卵に見えた。卵から生まれる前のクルマ、そのインテリアデザインは、こうなっているのではないかと想像したのだ。同じクルマのエクステリアデザインを卵の殻で表現することで、多くの車種を球形にできれば、一風変わったミニチュアになるのではないだろうか。

JAIDが企画した1kg展の作品群は、それ自体が柔軟かつ斬新な発想から生まれているだけでなく、見ているこちらも創造力が掻き立てられるものだった。この展示会を訪れて、日本の自動車メーカーにインテリアデザインの実力者が多いことに感心するとともに、メーカーには、この実力を引き出して製品に結び付ける能力が求められていることを教えられた。

1kg展の会期は1月25日まで。入場は無料だ。時間に余裕のある方は、一度訪れてみてはいかがだろうか。