アップルの海外戦略に異変? 中国市場の急減速にどう対処するか

アップルの海外戦略に異変? 中国市場の急減速にどう対処するか

2016.08.25

アップルはこれまで、中国市場に非常に力を入れてきた。そのことは、最近のアップルの発表イベントを見ても明らかだ。中国市場への言及や、OSの中国語対応の強化、そして中国で人気のあるアプリとの連携強化を紹介するなど、完全に「米国と中国」が想定される市場の中心となった。

実際、中国は米国に次ぐ第二の市場として成長を続けてきた。2016年第3四半期決算までは……。2016年第3四半期の決算を見ると、中国市場での売上は前年同期比33%減と急減速し、下落幅が小さかった欧州市場に再び追い抜かれてしまった。いったい何が起きているのだろうか。

iPhoneの急減速と中国市場の変化

アップルが中国市場を急成長させる原動力として活用したのは、2014年に発売したiPhone 6・iPhone 6 Plusだった。この2機種は伝家の宝刀とも言える「大画面化」を図った戦略モデル、と振り返ることができる。

アップルの中国市場急成長の原動力となったiPhone 6(4.7インチ)、iPhone 6 Plus(5.5インチ)

iPhone 6発売以前、100ドルのAndroidスマートフォンですら、当時アップルのフラッグシップだったiPhone 5s(4インチ)よりも大きなディスプレイを備えるのが当たり前となっていた。アップルの高いブランド価値は拡がっていたが、製品に明らかな競争力不足を抱えていた。iPhone 6シリーズは、その競争力不足を解消し、中国でのiPhoneのシェアを一気に伸ばすことに成功したわけだ。

しかし再び、iPhoneの競争力に陰りが見えている。その結果が、前述の前年同期比33%減に現れている。ただ、中国市場の変化の煽りを受けたのは、アップルだけではない。

IDCによると、アップルは中国市場において、2016年第2四半期に860万台のiPhoneを販売、マーケットシェアは7.8%だった。2015年第2四半期は1260万台を販売し、マーケットシェアは11.9%、第3位のシェアを獲得している。つまり、2016年第2四半期は前年同期比で31.7%下落している。この数字は、売上高の下落幅にほぼ一致する。そして、2016年第2四半期において、アップルは中国市場における第5位のメーカーだったという。ちなみに、サムスンの名前はすでに上位にはない。

アップルの出荷数量とマーケットシェアが大きく落ちていることが分かる。対してファーウェイ、オッポ、ビーボが伸ばしている(出典:IDCプレスリリース)

これまで中国市場でトップを走っていたシャオミはアップル以上となる38.4%の販売減となり、かろうじて1000万台を確保する4位に落ち込んだ。変わって、昨年同期で2位だったファーウェイが1位となり、2位にオッポ、3位にビーボが入った。

オッポとビーボは、いずれも昨年同期に800万台程度を販売していたメーカーだったが、2016年第2四半期はオッポが1800万台、ビーボが1470万台と急成長した。ちょうど、シャオミとアップルの販売台数がそのままオッポとビーボに移った様子が分かる。

飽和する中国市場

中国市場におけるスマートフォンの急成長は2015年に既に終焉を迎えたと言われている。スマートフォンの普及率は9割を超え、新規購入者がいなくなりつつあるという。実際、2016年第2四半期における中国市場での販売台数の成長率はわずか4%だった。

これからは買替え需要を喚起していかなければならないが、2016年の中国経済は、年初の株式市場の混乱などもあり、高付加価値路線よりも、価格を魅力に感じる市場へと変化しているのではないか、と考えられる。

前述の急減速を受けたシャオミは、9割が中国市場向けであり、同社の減速は中国の中~高付加価値のスマートフォンに対する需要を図るベンチマークだ。最も価格が高い部類にあるアップルのiPhoneとともに販売台数が下落している様子は、中国市場における高付加価値スマートフォンの購買力が落ちていることを表している。

脱中国の難しさ

アップルは、米国、欧州、中国、日本に加え、インド市場の開拓にも着手している。ティム・クック氏は中国に続いてインドを訪問し、地図を中心とした研究開発拠点の開設や、iOSアプリ開発のサポート拠点を設置するなど、インドに対する投資と関与を強める姿勢をアピールした。

インドでは、単一ブランドのみを扱う店舗を設置するには、5年間、インド製品を3割以上置かなければならない、などの制限がある。Apple Storeの設置にも、トップ会談を通じて実現しなければならないほど、難しい市場だ。

また、インドの平均的なスマートフォンの価格は150ドル以下に設定されている。400ドルに価格を下げたiPhone SEですら、2.5倍以上の値付けとなっている。新品のiPhone 6sは、6倍以上だ。そこで、中古のiPhoneの販売を行おうとしているが、当局から中古品販売の承認が下りなかった。

Strategy Analyticsによると、インドのスマートフォン市場におけるアップルの出荷台数は、価格が安いiPhone SE投入直後の2016年第2四半期に、前年から3割減となり、iOSのマーケットシェアも2.4%と2.1ポイント減少している。インドも一筋縄にはいかない状況にあることがわかるだろう。

中国の次に狙うインドでも思うように販売数やシェアは伸びず(出典:Strategy Analyticsプレスリリース)

アップルに残された2つの光

新興市場ではなくなった中国と、新たな市場としての難しさをにじませるインド。しかしアップルは、直近の決算において、2つの光を見出している。

マイナスが並ぶアップルの2016年第2四半期決算のサマリーの中で、前年同期比で3つだけプラスだったカテゴリがある。そのうちの1つは日本市場での売上だが、後の2つは、注目すべきだ。

1つ目はiPadの売上高の7%上昇だ。販売台数は前年同期比9%減と減少させているにもかかわらず、売上は上昇した。つまり、販売単価が上昇したことを意味している。これは、3月に発売したiPad Pro 9.7インチモデルの影響と考えられる。

iPad Proには、明確に「(古い)PCの代替」という位置づけを与え、本体価格は100ドル高い599ドル(32GBモデル)に設定されている。iPad Air 2が100ドル値下げしてなお、売上高が上昇している点に注目すれば、iPad Proの販売増加は、iPadカテゴリの売上増を後押しする。

iPad Proが今後もアップルに貢献できるかに注目

付加価値の高いデバイスの販売が伸びることは、アップルらしい戦い方と言える。前述のように、iPhoneは他のメーカーのスマートフォンよりも、多くの市場で2倍前後の値付けだ。そのため販売台数を落としているが、他方、スマートフォン販売から得られる利益のシェアは7割を超えるなど、薄利多売に陥らないポジションを維持してきた。

iPhoneが単独でスマートフォン市場を盛り立てる可能性は、ほぼないことを考えれば、高い利益率を維持できるビジネスを続けることのほうが、販売台数を追い求めるよりも良い、と見ることができる。

その戦略で進むべき、と語りかけるのが、決算書サマリーの中のもう一つの「プラス」だ。アップルは2016年第3四半期決算で、サービスカテゴリを前年同期比で19%成長させた。ここには、App StoreやApple Music、Apple Pay、iCloudなどが含まれている。これらの売上は、iPhoneが利用されればされるほど上昇値続け、季節などによって大きな変動の影響を受けにくい。

前掲のサマリーにはまだ含まれていないが、大ヒットとなったPokemon GOの売上の3割は、このサービスカテゴリに計上されることになる。裏を返せば、iPhoneを使う上でアプリやサービスにお金を使わないユーザーを集めても、持続的な売上につながらないことを意味する。

今後、中国にしてもインドにしても、アプリ開発に対する投資を大きくしていくと考えられ、その結果としてiPhoneの魅力を大きくする戦略を採っていくと考えられる。前述のインドへのiOS開発センターの設置や、中国最大のタクシー配車アプリ「滴滴出行」への10億ドルの投資などで、その戦略は顕在化しつつある。

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

カレー沢薫の時流漂流 第15回

感動に流されがちなスポーツと「プリンセス駅伝、四つん這い走行」

2018.11.12

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第15回は、「プリンセス駅伝の四つん這い走行」問題について

今年は「パワハラ」「黒い交際」「殺人タックル」など、スポーツ界が荒れに荒れた。

スポーツにつきまとう「感動」という尺度

というよりは、今までずっと「わかり哲也」の背景ぐらい荒れ続けていたが、関係者専用のプライベートビーチだったため、一般人の目につかなかっただけのような気もする。

その一方、ワールドカップでは予選を批判した奴は全員死んだのかというぐらい本戦の健闘が称えられたり、夏の甲子園では金足農が秋田県勢として103年ぶりに決勝に進出し大きな注目を集めたりと、感動的なこともあった。

しかし、結果だけを言えば、ワールドカップは1回戦敗退だ。金足農も決勝で敗れ準優勝。逆に優勝したのに金足農の陰に隠れた大阪桐蔭が可哀想なぐらいだ。

つまり、見る側はスポーツに対し、時に結果よりも「感動」を求めがちということだ。金足農が仮に優勝していたとしても、その勝利が「地獄甲子園」式で得た物なら讃えられなかっただろう。

スポーツに感動を求めるのは悪いことではない。私のような、床を這っているコードでこけるような先のない中年は、もはや他人の活躍に乗っかって泣いたり笑ったりするしかないのだ。

だが、「感動した! 痛みに耐えてよく頑張った! 」という言葉があるように、スポーツの感動には「選手が無理をする姿」も含まれていることは否定できない。その無理が「43度の風呂」レベルならまだ良いが、選手生命、さらには最悪命を脅かしかねない時もある。

インターネット大相撲では済まない「プリンセス駅伝」問題

そんな、文字通り「選手が痛みに耐えて頑張った」事件が、先日行われた「プリンセス駅伝」で起こった。女子駅伝だからプリンセス駅伝なのだろうが、私が走者だったら相当居心地の悪いネーミングだ。

その駅伝の中で、10代の走者が中継所の直前で走行不能となったが、何と四つん這いの状態で流血しながらタスキをつないだという。四つん這いで移動した距離は約200メートル。私だったら小一時間かかる、結構な距離だ。その選手がリードの外れた柴犬ぐらいのスピードで四つん這い走行した、というなら制止する間もなくタスキは渡されていたかもしれないが、満身創痍の状態なら相当時間がかかっただろう。

当然、その姿には「誰か止めろよ」と批判が噴出した。しかし、批判がある一方で「感動した!」と、流血四つん這いで走る女子の姿にバッチリ感動した勢がいるのも事実だ。それに対し「怪我しながら走る選手を美談にする勢を許さない勢」が現れ、いつものインターネット大相撲に発展しているのはよくあることなのだが、これはかなり複雑な問題なのである。

監督が倒れた選手に「お前棄権したらわかっとるやろな? 」とアイコンタクトをしたり、観客が「俺たちを感動させるために走れや」と選手を後ろからジープで追い立てたりしたと言うなら論外だが、監督はテレビモニターで「二足歩行が厳しい」という致命的な状態の選手を見て、ちゃんと棄権を申し入れている。

だが、その棄権が現場の審判に伝わった時には、すでにタスキ受け渡し地点の20メートル手前に来ていたそうだ。つまり、満身創痍の選手が四つん這いで180メートル移動してしまうまで棄権の申し入れが審判に伝わらなかった、ということだ。ここでまず連絡体制の不備が指摘されている。

そして、審判は棄権の申し入れを知った後も、「あとちょっとだし」と最後まで走らせてしまったと言う。痛みに耐えて頑張る選手、という「感動」に流され、無理をさせてしまった感は否めない。

そもそも棄権の申し入れがあるなしに拘わらず、現場判断で中止させるべきはなかったのか、という声もある。今、試しに家の中を四つん這いで走ってみたが、これで200メートルはなかなかキツイ。何より見た目が痛々しい。

私の場合、無職の中年が昼間に家の中を四つん這いで走っているというただの「イタい」状態だが、走れなくなった若い選手が流血しながら四つん這いで走る姿は、十分制止すべき痛々しさだろう。実際、棄権申し入れがなくても、現場判断で走れなくなった選手を止める権限が審判にはある。

それでも懸命に走る意志を見せる選手に心打たれて止められなかったのかというと、必ずしも感動だけが理由ではないようだ。企業にとって駅伝というのは非常に重要なものであり、それをチームではなく審判の判断で止めるというのは、審判員側と企業側に大きな禍根を残すことになりかねないのだという。よって審判側は「よほど勇気がないと止められない」そうだ。

また、選手にとっても企業の名前を背負っている上、「自分がコケたら皆コケる」という駅伝のルール上、選手には大きなプレッシャーがかかっている。つまり選手も現場も「止まるに止まれないし、止めるに止められない」状況になっていたのかもしれない。

そして結果から言うと、この選手は「全治3~4か月の骨折」となった。あの四つん這いでの200メートルがなかったら、もう少し怪我が軽くなった可能性は大いにある。

このように、無理は早めに止めないと、逆に有望な選手を潰すことになりかねない。

「無茶しやがって…」という展開は漫画などに任せ、ダメな時は「俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ」と早々に打ち切り、次のチャンスに賭けるべきだろう。

タイヤ技術でオリパラを支えよ! ブリヂストン、義足の改良に挑む

タイヤ技術でオリパラを支えよ! ブリヂストン、義足の改良に挑む

2018.11.12

オリパラの裏側には、さまざまな最新技術が隠れている

パラアスリートを支える、ブリヂストンの「タイヤ技術」って?

義足用ソールの開発に挑む研究者らに話を聞いた

東京2020年オリンピック・パラリンピック競技大会の開催まで2年を切った。自国開催ということもあり、現地で観戦しようと考えている人も多いだろう。そこで1つ提案したいのが、オリンピック・パラリンピックを「技術」の視点で見ることだ。

2018年の平昌オリンピック・パラリンピックでは世界初の5Gの実証実験サービスが行われ、開会式ではインテルがドローンによる光のパフォーマンスが行われた。このような派手なものに限らず、大会の裏にはいくつもの技術が隠れている。パラアスリートが用いる器具などがその典型的な例と言える。

そこで本稿では、「ワールドワイドパラリンピックパートナー」であるブリヂストンによる、自社技術の活用によってパラアスリートを支援する取り組み「パラアスリート技術支援プロジェクト」に注目。東京2020を支える技術の裏側に迫る。

タイヤ技術でパラアスリートを支えよ! 

パラアスリート技術支援プロジェクトは、同社のオリンピック・パラリンピックのパートナー契約締結を機に『タイヤやゴムの技術をアスリートのために活かせないか』という想いから発足したという。ではその技術で何を作っているのかというと、1つの例が義足用の「ソール」(地面に接する部分、靴底)だ。

今回話を聞いた、ブリヂストン 先端企画本部 先端技術推進部 先端技術企画推進第1ユニット 主任部員の小平美帆さん(左)とオリンピック・パラリンピックマーケティング推進部 アクティベーション推進ユニット 課長 鳥山聡子さん(右)

「当社では、パラトライアスロン選手の秦由加子さんの義足用ソールを開発しました。現在も定期的に本人と話し合いの場を設けながら、当社の技術でサポートできる部分はないか、ということを模索しています」(鳥山さん※以下、鳥山)

秦由加子 選手。1981年生まれ。千葉県出身。3歳から10歳まで水泳を習う。13歳で骨肉腫を発症し、右足の大腿部切断を余儀なくされたが、2007年に障がい者水泳チームで水泳を再開。2013年にパラトライアスロンに転向した。大腿部切断でパラトライアスロンを行っている唯一の日本人選手だ

なぜ同社がソール部分に注目するようになったかというと、「タイヤ技術との親和性の高さ」が理由だと小平さんは語る。

「もともと当社では、タイヤはもちろん、ゴルフシューズや農業機械用のゴムクローラなど、『地面と接する部分』の製品開発に強みを持っております。ソールも同じく、地面と接するモノ。そこで当社の持つ技術との親和性が高いと感じ、注目するようになりました」(小平さん※以下、小平)

さらに、ソールの素材はゴムと高分子の複合体であり、これは同社の製品でもよく使われる素材であった。タイヤ製品で培った技術を活用することで、選手をサポートできるのではないか? と考え、新ソールの開発を始めたというわけだ。

義足イメージ。ランニングシューズの底のように、特有なパターン(模様)の入っている部分が、ブリヂストンの開発したソール

「ランニングシューズを切って、義足に貼る」が当たり前?

そもそも、義足用のソール開発に力を入れている企業というのはグローバルで見ても少ない。義足を必要とする人は多くいる一方で、切断箇所や筋肉量の違いなど、個人個人によってのニーズが異なるために、高ロットでの生産ができず、なかなかビジネスとして成り立たないことが原因だという。では、秦選手の使用していたソールには具体的にどのような課題があったのか。

「これは秦さんに限らず、ほとんどのパラアスリートに当てはまることなのですが、それぞれが個人に最適化されたツールを使えていないという課題がありました。もともと、多くの種類が市場に出回っているわけではないので、パラアスリート向けの『高品質な製品』自体が少なく、モノによっては、開発されて数十年経っている”最新モデル”もあります」(鳥山)

驚くべきことに、世界大会で活躍する秦選手のような人であっても、ランニングシューズを買って、ソール部分を切り取り、義足に貼り付けて使っていたのだとか。そのように「売られているものを転用して使う」というパラアスリートは少なくないそうだ。

「当たり前ですが、ランニングシューズのソールは、義足を必要とする人向けに開発されたものではありません。地面と接触した際にかかる力は違うし、耐摩耗性が求められる箇所も異なります。秦さんは以前、雨の中でのレースで、『滑るのが怖くて、思い切って走ることができなかった』という経験をしたそうです。そうした意見を聞き、どんな状況であっても安心して走れるようなソールを開発したい、と考えるようになりました」(小平)

タイヤ開発のノウハウを詰め込んだソール開発

しかし、いくら「地面と接するモノ」だからといって、タイヤとソールで求められる技術が一緒だとは思えない。どのようにブリヂストンの持つノウハウをソール開発に適応させたのか。

「はじめはゼロからの挑戦でした。そもそも、『義足のソールに求められることって何? 』という疑問からのスタートなんです。勉強の日々でしたね。どうにか当社の技術を活用できないか、と考え、まずは走る際にかかる力を測るために、タイヤ開発に使用する測定器を使って圧力測定を行いました」(小平)

圧力測定時の様子。ランニング時、ソールへの力のかかり方がどう変化するかを調査した

ほかにも、使用した後の摩耗部分の分析などを行い、グリップ力を上げつつ摩耗を抑えられるソールはどのようなゴム材料・溝形状にすればよいかをひたすら考えたそう。

さまざまなデータから見えた課題に対して「どうブリヂストンの技術を適応させれば良いか」と考え、試行錯誤を重ねた後に、ようやくソールを開発。2017年4月、初めて秦選手に新ソールをつけた義足で走ってもらうことになった。

「私たちのソールで走ってみた秦さんには『全然違う! 』と、すぐに気に入っていただきました。その1カ月後には早速、新ソールで大会にも出場していただきました。その大会もあいにくの雨だったのですが、確実に滑りにくくなっているとのフィードバックをいただき、手応えを感じました」(小平)

小平さんや鳥山さんは、秦選手と密にコミュニケーションを取りながら、フィードバックを元にソールの改良を続けた

さまざまな領域での技術活用も視野

そのレース以来、秦選手は変わらずブリヂストンが開発したソールを使い続けている。現在のソールは2代目で、2017年に開発したモデルから、パターンと材質を変更しているそう。

しかし、いくら製品の改良を実現したと言っても、事業化につなげられなければ、同社の「パラアスリート支援」は一過性のものになってしまう。同社は今後、この取り組みをどのように続けていく予定なのか。

「秦さんとの協力によって生まれた技術が将来、当社製品のブレイクスルーにつながる可能性はあると考えています。将来的には、さまざまな領域での技術の活用も視野に入れております。ですが、何よりこの取り組みは、当社がグローバルメッセージとして掲げる『CHASE YOUR DREAM』を体現するもの。

CHASE YOUR DREAMとは、ブリヂストンが、さまざまな困難を乗り越えながら「夢に向かって挑戦し続けるすべての人を支えていく」という想いを表現したメッセージ

そのため、必ずしも『将来的なリターン』を求めてこの活動をやっている訳ではありません。私たちの取り組みが社内外に広がり、当社の『夢に向かって挑戦し続けるすべての人を支えたい』という想いに触れていただき、一緒にオリンピック・パラリンピックを応援してくれる仲間を広げていくことを目指しています」(鳥山)

「2020東京」まで1歩ずつ、2人3脚で

現在、すでに秦選手用の最新ソールは完成しているそうだが、まだまだブリヂストンの挑戦は続く。

「最新モデルは、秦さんの要望を満たし、かつさまざまなデータから考えられる問題点を解決した自信作。しかし、パラリンピックまではまだ時間があります。今後も本人のフィードバックをもとに、より改良を続けていきたいです」(小平)

パラアスリートと一緒に夢を追い続けるブリヂストン。今回紹介したのは、同社の秦選手との取り組みだけだが、それに限らず、ほかにも多くのアスリートを支援しているそうだ。

オリンピック・パラリンピックでもっとも日の目を浴びるのは選手。しかし、その周りには、選手たちを支えている多くの人たちがいる。来る2020年、パラリンピックでは、選手の義足や車椅子などにも注目し、そこに隠れた技術の背景を想像してみるのも楽しみ方の1つだ。

ブリヂストンと秦選手の挑戦をこれからも応援したい