セキュリティ問題はサーバールームから役員室へ?

セキュリティ問題はサーバールームから役員室へ?

2016.01.06

日本と海外で大きく異なる経営者のセキュリティ意識

テクノロジーイノベーション(技術革新)は必ずしも手放しでよろこぶべき事柄ではない。なぜならサイバー攻撃技術も同時に成長し、我々はサイバーセキュリティの危険にさらされているからだ。当初はサーバーに大量のアクセスを行うことで、過度な負荷を与えてサービス提供を妨害するDoS攻撃やWebページの改ざんといった稚拙な攻撃だったが、利便性の向上を求めた相互接続などネットワークの拡大によって被害が広がっている。

警察庁生活安全局情報技術犯罪対策課が2015年10月にまとめた「不正アクセス行為対策等の実態調査 調査報告書」。200ページにのぼる報告書には、無線LANやID・パスワードの管理方法、クラウドサービスの利用状況、Webサイトの管理から被害遭遇時の届出機関などが掲載。各企業や法人がどのような実際にどのような対策を施しているかがわかる

警察庁が2015年10月にまとめた「不正アクセス行為対策等の実態調査」によれば、今現在でもWebページの改ざんやメールの不正中継といった被害が全体の50パーセントを占め、サイバー攻撃の手段もマルウェアなどを使った感染や社外からの不正アクセスが多いという。このようなサイバー攻撃に対して、対応する管理体制もシステム運用管理者が兼務するケースが74.9パーセント。専従の担当者を設置している企業はたった11.7パーセントという状況だ。

日本マイクロソフトが2015年12月に開催したセミナー「サイバーセキュリティと企業経営リスク」で、同社代表執行役社長の平野拓也氏は「サイバーセキュリティは経営問題」と強く主張している。同社チーフセキュリティアドバイザーの高橋正和氏も「セキュリティ問題はサーバールームから役員室へ」と同様の主張を行っていた。これは某量販店のクレジットカード情報が流出し、和解金を支払ったことから株主がCEOを退任させた事例を元にしている。このようにサイバー攻撃による結果がブランドイメージや業績ダウンといった影響にとどまらず、経営責任を問われかねないのが現状だ。

経済産業省と独立行政法人 情報処理推進機構が作成したサイバーセキュリティ経営ガイドライン。セキュリティ投資に対するリターン算出はほぼ不可能であるにも関わらず、その影響は大きい。セキュリティ対策を具体的なフレームワークとして、いかに構築して備えるかについて明解にまとめてある

だが、前述したように肝心の企業経営者の意識は決して高くない。経済産業省が2015年12月に公開した「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」によれば、積極的にセキュリティ対策を推進する経営幹部がいる企業は日本の27パーセントに対して、ワールドワイドでは59パーセント。サイバー攻撃予防は役員レベルで議論すべきか?という問いに対しても日本は同意意見が52パーセントだが、ワールドワイドでは88パーセントにもおよぶ。これらのデータはプライスウォーターハウスクーパースの「2014 Global State of Information Security Survey」と、KPMGジャパンの「KPMG Insight 日本におけるサイバー攻撃の状況と課題」をもとに同省が作成したものだが、あまりにも差が大きい。平野氏も「海外と日本では大きな隔たりがある」と同セミナーで語っていた。

日本と海外の経営者のセキュリティに対する意識調査の比較(サイバーセキュリティ経営ガイドライン内データより作成)

終わりのないサイクルに対して、経営者が取り組むべき対策とは?

しかし、サイバー攻撃者にとって国境は存在しない。経営者のセキュリティ意識云々に関わらず、システムの脆弱性をみつけてはサイバー攻撃を仕掛けてくる。ラック サイバーセキュリティ本部 理事の長谷川長一氏はインシデント(サイバー攻撃事例)の傾向として、以前は重要インフラを扱う業種が狙われていたが、直近の調査結果によれば、業種を問わずにサイバー攻撃を受けていることを明かした。さらにインシデント再発割合も2012年には8パーセントにとどまっていたが、2013年は21パーセント、2014年は28パーセントと増加傾向にあるという。

その理由として長谷川氏は「サイバー攻撃を受けた企業は対策を講じるが、(技術革新の速度にサイバー攻撃対策が追いつかず)数年後には通用しなくなる」と説明した。つまりIT技術の進化は、そのままサイバー攻撃技術の進化とイコールとなり、防衛する企業側も日々対策を講じる必要がある。

もちろん経営者が常にセキュリティ対策を行う必要はない。セキュリティ対策を推進する経営幹部を設ければ済む話である。だが、同時に組織全体を見直す必要があることを忘れてはいけない。長谷川氏はセキュリティ対策の実施順序として、最初に「セキュリティ監視と不正通信の洗い出し」を行い、次に「インシデントを前提とした組織体制の構築と、社員の意識改革および教育」を実施。そして「インシデント対策チームの組織化」や「サイバー攻撃発生を見越した演習」という例を挙げている。このように会社全体の管理体制の変更を伴うため、セキュリティ対策は単なる専任者ではなく経営層の判断が必要になる。

他方でセキュリティ対策は、設備投資のように金額に置き換えにくい部分があるのも事実だ。そのためセキュリティ対策は「力のいれどころと抜きどころが重要」と、ディアイティ クラウドセキュリティ研究所 所長の河野省二氏は語る。経営者はどこまでセキュリティ対策の現場に権限を与えるべきか、経営層が判断する情報として何を提示させるか明示しなければならない。

セキュリティ対策の現場は目的に応じた対策を行うと同時に、ログなどを視覚的にまとめたレポートを経営層へ報告する一定の仕組みを作り出す必要がある。経営層はレポートをもとに意図したセキュリティ対策が講じられているか、さらなる改善が必要なのか判断すればよい。企業におけるセキュリティ対策は単発ではなく、中長期経営計画とともに取り組む覚悟が必要だと河野氏は強調した。

IDS(侵入検知)やログ解析といったセキュリティ管理や、ワンタイムパスワード、生体認証といった認証技術など、セキュリティ対策に必要なアプローチは多岐にわたる。さらに"何を保護するのか"と目的を明確にしなければならず、経営者としてセキュリティ対策は頭の痛い問題だろう。だが、技術革新がとどまることはなく、サイバー攻撃者も手を緩めることはない。顧客や株主といったステークホルダーの信頼度を高めるためには、常日頃からのセキュリティ対策や情報開示といった取り組みが目下の急務だ。

阿久津良和(Cactus)

メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

メディア露出多数、高まる「N高出身」への期待値

2019.03.22

ネットの学校「N高」の卒業式に潜入

開校時に入学したN高1期生が卒業した

世間の注目を浴び続けた生徒は、何を想う?

3月、角川ドワンゴ学園「N高等学校」の卒業式が東京・お台場にて開催された。

「ネットの高校」として、3年前に設立したN高。この日、2016年の開校時に入学した第1期生と、途中転入・編入した生徒をあわせ、計1593名が卒業した。3年前、『VR入学式』で世間を賑わせたこの学校を巣立つ卒業生たちは、N高での日々をどう捉え、今後はどのようなキャリアを描いていくのだろうか。

卒業式は2019年3月20日、お台場にて行われた

卒業式を彩る最新テクノロジー

N高は、ドワンゴとKADOKAWAの経営統合で誕生したカドカワが設立母体となり、2016年4月に開校された通信制高校だ。同校は開校後、2年次編入なども受け入れてきたため、これまでも卒業生を排出してきてはいたが、「1年生~3年生をN高で過ごした生徒」が卒業するのは、初めてのことだ。

卒業式には多くの報道陣も参加した。生徒にとって、「卒業式に記者がいる」「自分たちが卒業する様子がテレビやWebで取り上げられる」というのは不思議な感覚だろう。とはいえ、もう「VR入学式」に「ニコニコ超会議」へのブース出展(N高ではそれを「文化祭」と表現)などの経験を経て、メディアへの露出には慣れてしまっているのかもしれない。

そして、今回の卒業式も例によって独特だった。

卒業式は任意参加で、会場には袴や制服に身を包んだ生徒が集まる一方、その様子をライブ配信することで、会場に来られない生徒生徒も参加できる仕組みになっていた。会場のスクリーン上にはニコニコ生放送さながら、リアルタイムでコメントが表示されており、こうした演出は「N高らしい」といった印象を受けた。

卒業式の様子。オンライン参加者のコメントがスクリーンを流れる

中でも印象深かったのは、当日来られなかった生徒を代表して、米シリコンバレーに留学中の佐々木雅斗さんが「ロボット」に自分の顔を映して卒業証書を受け取ったシーンだ。

使用したのは、ANAが“未来の移動手段”として開発する、視覚・聴覚・触覚などを備えた、ユーザーの分身となるロボット「ANA AVATAR」。同校ではこのロボットを試験的に授業にも導入しているそうで、こういった最新のテクノロジーを使うあたりもN高らしい。

遠隔操作ロボット「ANA AVATAR(Beam Pro)」を用いて卒業証書を受け取った佐々木さん

と、テクノロジーにばかり目が行きがちではあるが、そもそも「高校生がシリコンバレーに留学している」という事実も驚くべき点だ。高校に通いながらも、シリコンバレーでビジネスを学ぶ――、というキャリアを選べるのは、学校という場所の制約を受けない、ネットの高校のメリットと言えるだろう。

卒業式にはほかにも「異色のキャリア」を持つ生徒たちが集まり、特に活躍した卒業生に対する特別表彰も行われた。

表彰を受けたのは、東京から鹿児島県に移住し、農業や水産業を手伝い地域活性化に貢献する白鳥優季さん、第18回アジア競技大会ジャカルタ・パレンバン「ウイニングイレブン 2018」eスポーツ 金メダリストの相原翼さん、N高のプログラムを最大限に活用し、スタンフォード大学やオックスフォード大学のサマープログラムに参加した冨樫真凜さんなど。その活躍の幅は広い。

さまざまな分野で活躍したN高生に対しては、特別表彰が行われ、記念品としてクリスタルトロフィーが贈呈された

メディア露出が多いがゆえに高まる期待値

N高を卒業した個性豊かな面々は、今後は大学進学、就職とさまざまなキャリアを歩む。

日本初で唯一N高にのみ実在するという「起業部」に所属し、かつ起業第一号として「Easy Go」という会社を創業している、鈴木颯人さんと山田陽大さんから「N高で過ごした時間」についてコメントをもらった。

「元々は地元の進学校に通っていたのですが、『自分が好きなことをしたい』『起業したい』という想いがあり、N高に入学しました。年齢や場所に縛られず、多くの人とコミュニケーションを取れ、充実した3年を過ごせました」(鈴木さん)

「以前通っていた学校が自分と合わず、ネットで見つけたN高で『ここだったら新しいことができるかも』と入学を決意しました。今振り返ってみて、やはり『この学校に来てよかった』と思います」(山田さん)

Easy Go代表取締役の鈴木颯人さん(左)と取締役の山田陽大さん(右)

2人に限らず、卒業生のコメントを聞いていくと「この場所で挑戦してみたい」という想いの元、N高を選んでいる生徒が多い印象だ。

普通の高校とは違い、メディアに露出する機会の多いN高での生活は、良くも悪くも、世間からの注目を浴びる。まだ高校生の彼らにとっては、その視線が時に辛く感じることもあっただろう。ただ、その一方で鈴木さんは「初めて会う方とお話しする際、『N高出身です』と言うだけで、会話が広がることがよくあります」とその知名度を好意的に捉えている。

若くして、覚悟を持ってN高という環境に飛び込んだ生徒たちは、周囲の視線を浴びつつ、たくましく成長してきたことだろう。「N高出身」というキャリアは、彼らにとって1つの大きな武器になりそうだ。

カドカワは新たに2019年4月から、「N中等部」も開校する予定だ。「ネットの学校」という、世間の注目が集まる新しいコンセプトの学校だからこそ、在校生・卒業生の動向は、今後もしばらくは注目され続けそうだ。

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2019.03.22

中国スマホメーカーのOPPOが独自のカメラ技術を説明

開発競争が続くスマホカメラ、トレンドは「望遠」へ

高倍率ズームスマホの登場で、デジカメの優位性に危機?

中国のスマホメーカーとしてシェアを急拡大するOPPOが独自に新開発したカメラ技術、「10倍ハイブリッドズーム」が面白い。実際に2019年の新機種からスマホへの搭載を進め、日本市場へも製品を投入するという。

OPPOが「10倍ハイブリッドズーム」技術を紹介

メーカー間の開発競争が続くスマホカメラだが、「望遠」が次のトレンドになりつつある。デジタルカメラに匹敵する10倍もの高倍率ズームを、OPPOはどのように実現したのだろうか。

1年で7機種を投入、気付いた「日本市場の難しさ」

OPPOは世界のスマホ市場で熾烈な4位争いを繰り広げている。サムスン、アップル、ファーウェイのトップ3社に続く集団の中で、2018年は中国Xiaomiに僅差で迫る5位になった(IDC調べ)。

OPPOは2018年、日本市場で7機種のスマホを発売した。OPPO日本法人の鄧宇辰社長は、これまでに国内販売チャネルを12に拡大し、あわせて認定修理店を全国に展開したことを挙げ、「日本のSIMフリー市場でいち早く成長するブランドになった」と振り返る。

オッポジャパン 代表取締役社長の鄧宇辰氏
2018年の1年間にスマホを7機種投入

2019年は国内展開をさらに加速する。日本の消費者に向けたコミットメントとして、件の「10倍ハイブリッドズーム」機能を備えたスマホや、FeliCa・防水対応のスマホ、新たに立ち上げたブランド「Reno」シリーズの市場投入を約束する。

また、話題の「5Gスマホ」の市場投入も急ぐ。日本では5Gの周波数がまだキャリアに割り当てられていないものの、ドコモ、KDDI、ソフトバンクを含む世界の事業者と標準化に向けて連携しており、準備を整えていることを強調する。

MWC19のQualcommブースではOPPOが5Gスマホを実演

一方で鄧社長は、日本市場の難しさについて、「1年の経験を通して、日本市場は他の国と違うことに気付いた。消費の習慣や求めるレベルも高い。グローバルのやり方を日本に持ってきても通用しない」とも述べている。日本市場における品質やサービスの要求水準の高さは、多くのメーカーが直面してきた課題だが、OPPOも同じ壁にぶつかったといえそうだ。

スマホカメラ、次のトレンドは「望遠」に

そのOPPOが市場攻略にあたり、特に注力をしはじめたのが「カメラ」だ。その中でも、業界では次の進化ポイントとして「望遠」技術に注目が集まっている。

そもそもスマホはデジカメと違い本体が薄いため、搭載できるレンズに物理的な制約がある。このレンズの制約から、スマホのカメラはどうしても焦点距離の狭さが弱点になってしまっていた。そこで最近はスマホに複数のカメラを内蔵し、それぞれで広角や望遠を使い分けることで、この弱点を克服しようと進化している。

OPPOの「10倍ハイブリッドズーム」技術は、この弱点に対し異なるアプローチで挑む。プリズムを使って光を屈曲させるペリスコープ(屈曲光学)構造をカメラモジュールに採用することで、レンズを従来の垂直方向ではなく水平に配置できるようにした。これにより、薄型のスマホであっても、光学レンズでは従来不可能だった高倍率ズームが搭載できる。

光を曲げるペリスコープ構造を採用

ただ、35mm換算での焦点距離は16~160mmの10倍となっており、一般的なコンデジの感覚では5倍ズーム程度の性能だ。8.1倍以上はデジタル処理を組み合わせた「ハイブリッドズーム」としているなど、いくつか注意点はある。とは言え、これまでにない望遠レンズをスマホで扱えるのは面白い。

10倍ハイブリッドズームによる画角の違い

OPPOは既に報道陣に向けて、この10倍ハイブリッドズーム技術を搭載するスマホの開発デモ機を公開している。2019年の第2四半期には製品化する計画で、日本市場へも2019年中に投入する見込みだ。

10倍ハイブリッドズームのデモ機。5Gにも対応できるという

特にカジュアルなカメラ需要の受け皿としてスマホに押されがちなデジタルカメラだが、高倍率ズームはスマホには無い、デジカメに残された得意分野のひとつだった。だが望遠もスマホで十分撮れるとなれば、いよいよその優位性も危うくなる。今回のズーム技術は、デジカメ市場をもう一段縮小させてしまう可能性を秘めているのだ。

最大のライバルであるファーウェイも「HUAWEI P30」シリーズで望遠カメラを搭載するとみられており、今後は各メーカーが高倍率ズームで競い合うことは間違いなさそうだ。

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