あの“ロマンス小説”出版社から硬派な歴史分冊百科!? その方針転換の経緯とは

あの“ロマンス小説”出版社から硬派な歴史分冊百科!? その方針転換の経緯とは

2016.07.01

ハーパーコリンズ・ジャパンのエントランス

「2000年代半ば頃、それまで柱にしていた『ハーレクインシリーズ』『MIRA文庫』だけでは業績の伸びが期待できず、新たな事業の必要性を感じました」。そう静かに切り出したのは、ハーパーコリンズ・ジャパン 取締役 副社長 鈴木幸辰氏だ。

ハーパーコリンズという社名にあまり馴染みがない方もいるだろうが、ハーレクイン社といえば“ピン”とくる方も多いのではないだろうか。

ロマンス小説だけでは成長が見込めない状況

2015年4月に米ハーパーコリンズにより、ハーレクインのカナダ本社が買収され、日本法人の社名もハーパーコリンズ・ジャパンに変更された。そして同年9月、「週刊ビジュアル江戸三百藩」というパートワーク誌(分冊百科)が出版された。

ロマンス小説の老舗で、その分野でもっとも名がとおっている旧ハーレクインが、江戸三百藩という“歴史モノ”の王道、しかも単発ではなく分冊百科というリソースのかかる分野になぜ足を踏み入れたのか……。以前から気になっていたので取材をお願いしたところ、鈴木氏は冒頭のように語り出した。

ハーレクインのロマンス小説は1980年代から刊行され、30年以上の歴史を誇る。当時は同シリーズのテレビCMが盛んに放映され、多くの読者を獲得した。だが、鈴木氏によると当時からの読者がまだ残っている一方、離脱した読者も多く、新規顧客の獲得もはかどらなかったそうだ。そこで、新規事業へと視線が移っていった。

まず、同社が手をつけたのがロマンス小説のデジタル化だった。2000年代半ばといえば、まだiPadといったタブレットは姿形もなく、一部のユーザーが電子書籍版の写真集などをパソコンで購入していたような時代だった。そんな電子書籍の黎明期からロマンス小説をデジタル化し販売するのは、非常に大きな“賭け”だといえよう。だが、この賭けが功を奏し、現在では同社の収入の5割を占めるまでの主力事業に育っている。

ロマンス小説のデジタル化とほぼ同時に進められたのが、小説の独自制作によるコミック化で現在は「ハーレクインコミックス」として独り立ちしている。さらに当時、ライトノベルという出版分野が目立つようになり、その存在感をグングンと大きくしていた。その流れに逆らわず、既存のシリーズに加え、ポップでライトな表紙・文体の文庫を投入。比較的若い世代の読者獲得に成功した。

ハーレクインの電子書籍ページ
既存シリーズに加え、ライトノベルやコミックに進出した

つまり、ハーレクインシリーズの読者離れという難局を、既存資産をデジタル化すること、独自にコミック化、ライト化することで乗り切ったことになる。そして2010年頃になると、また大きな潮目を迎える。

その大きな潮目とは、現在代表取締役を務める立山昭彦氏がハーレクインに入社してきたことだろう。実は立山氏も取材させていただいた鈴木氏も、パートワーク最大手のデアゴスティーニ・ジャパン出身。となれば自然と「ハーレクインでもパートワークをやりたいね」という話になるのは至極当然な流れだ。

だが、前述したとおり、パートワーク出版は入念なリサーチや専門的な知識に長けた編集能力、さらにクラフト・マガジンの場合、高度なモデル・パーツの設計生産能力といった高いリソースが必要になる。当時のハーレクインにはそのリソースがなかった。そこで、日本進出を考えている海外のパートワーク大手と組めないかと考えた。

イーグルモスとタッグを組んで販売したパートワーク

海外には何社かパートワーク出版社があるが、デアゴスティーニとアシェットは日本市場に進出済み。そこで、シンガポールに拠点を置くマーシャル・キャベンディッシュに連絡を取った。そしてその翌年、やはりパートワーク大手イーグルモスのチーフ・エグゼクティブからハーレクインに「話が聞きたい」というオファーがきた。実はマーシャル社はイーグルモス傘下に収まっており、回り回ってハーレクインに連絡がきたということだ。

こうしてイーグルモスが刊行したパートワークをハーレクインが販売する体制が整った。まず皮切りに「NISSAN R35 GT-R」というクラフト・マガジンを2012年1月に販売し、以降「世界の軍艦コレクション」や「日産フェアレディZ」、「MILITARY WATCH COLLECTION」といったシリーズを投入していく。余談となるが、「世界の軍艦コレクション」創刊後に「艦これ」ブームが到来した。これが追い風となり、販売は好調だったという。

ハーパーコリンズ・ジャパンが手がけるパートワーク

そして、いよいよ自社のパートワーク「週刊ビジュアル江戸三百藩」に取りかかるが、この際も出会いがあった。江戸三百藩はもともと、他社の版元が手がけていたパートワークだった。だが、この版元はパイロット版(テスト版)までは行ったが、撤退した。そこで江戸三百藩の製作会社がハーパーコリンズに着目し、そのコンセプトを元に新作を作り持ち込んだということだ。イーグルモスと組んでパートワークを手がけていたため、「ハーパーコリンズなら」と製作会社は考えたのだという。

2016年6月、ハーパーコリンズ・ジャパンに社名を変更してから第2弾のパートワークとなる「週刊ビジュアル戦国王」を投入した。さらに、ロマンス小説だけでなく一般小説や実用書にも進出。ロマンス小説専門出版社から総合出版社へと大きく変わろうとしている。

一般小説や実用書など、ハーレクイン時代には手を出さなかった分野にも積極的に進出する

“出版不況”が叫ばれてから久しい。全盛期には2兆円を超えていた出版市場規模は年々縮小し、1兆5,000億円ほどまで落ち込んだ。この間、ほとんどの出版社は、雑誌を休刊するなど、“身を守るため”に多くのものを捨ててきた。だがハーパーコリンズ・ジャパンは成長の10年間だったという。総合出版社として、今後どういう戦略を採るのか、注目しておきたい。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
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○藤田朋宏の必殺仕分け人
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○カレー沢薫の時流漂流
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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu