グーグルがVRに本腰、「Daydream」で目指す将来像

グーグルがVRに本腰、「Daydream」で目指す将来像

2016.07.01

グーグルが発表した、Android向けのVRプラットフォーム「Daydream」。さっそく対応スマートフォンも発表され、Daydreamによるスマートフォンを活用したVRの活性化が期待されるが、グーグルはDaydreamを、どのような形で将来のビジネスへと結びつけようとしているのだろうか。

本格的なVRコンテンツを実現するDaydream

今年のグーグルの開発者イベント「Google I/O」の基調講演では、音声アシスタント「Google Assistant」を中心とした、人工知能に関連する発表が主軸を占めており、従来の主軸であったAndroidの次期バージョン、「Android N」(仮称)に関する発表は控え目であり、これまでと比べるとあまり大きな注目を集めたわけではなかった。

しかしながら、Android Nに関して大きな注目を集めた発表が1つある。それは、Android Nに新しいVRプラットフォーム「Daydream」が搭載されることだ。Daydremに対応したスマートフォンであれば、サムスン電子の「Gear VR」のように、スマートフォンを専用のヘッドセットに接続することで、さまざまなVRコンテンツが楽しめるという。

Daydreamはスマートフォンを専用のヘッドセットに挿入して利用する、Gear VRに近いスタイルとなるようだ

VRで利用する際は、通常のスマートフォンのホーム画面ではなく、Daydream専用のホーム画面が現れ、そこから利用したいアプリを選ぶ形となる。ゲームのほか、YouTubeなどの360度動画に対応した動画配信サービス、そして「ストリートビュー」などさまざまなアプリが提供され、ヘッドセットの動きと、専用のコントローラーを用いて多彩な操作ができるようだ。Google Playも用意されているので、通常のスマートフォン同様、新しいアプリをダウンロードして追加することも可能だ。

Daydreamのホーム画面。ゲームやYouTubeなど、さまざまなVRアプリが利用できるようになる

グーグルはこれまでにも、段ボール箱などを用いて簡易的なVRコンテンツが楽しめるプラットフォーム「Cardboard」を提供してきた。だがDaydreamはCardboardとは大きく異なり、本格的なVR環境を実現するプラットフォームとなる。そのため残像の少ないディスプレイや高性能チップセット、低遅延を実現するセンサーの搭載など、対応するデバイスにはハード面でいくつかの制約が設けられている。

実際、既に中国のZTEが、初のDaydream対応をうたったスマートフォン「AXON 7」を5月に発表しているが、そのスペックを見ると、2Kの解像度を誇る有機ELディスプレイを採用し、さらにクアルコムの最新ハイエンドチップセット「Snapdragon 820」や、ハイエンドモデルでは6GBものRAMを搭載している。スマートフォンとして見ると、非常に高い性能を備えていることが分かるだろう。

AndroidベースでVRプラットフォームの主導権を狙う

確かに最近、VRは非常に大きな盛り上がりを見せており、先日はソニー・インタラクティブエンタテインメントの「PlayStation VR」が、予約開始直後に品切れとなったことが大きな話題となった。スマートフォンの世界でも、今年は世界的にVRに取り組む企業が増えており、GearVRを有するサムスンを筆頭に、さまざまな企業がVRへの取り組みを積極化している。それだけに、グーグルがDaydreamで、注目が高まっているVRに、一層注力する姿勢を見せたことは理解できなくもない。

ではグーグルは、Daydreamで一体何を狙っているのだろうか。1つはスマートフォンで馴染みのあるAndroidをベースとすることで、VRでもプラットフォームの主導権を握りたいことであろう。

現状、各スマートフォンメーカーのVRに関する取り組みを見ると、Cardboardを活用するか、メーカー側が独自にプラットフォームやコンテンツを用意するかのいずれかとなっている。また他のVRシステムを見ても、PlayStation VRはコンソールゲーム機という閉じた環境であるし、Oculus RiftとHTC VIVEは共にPCがベースとはいえ、プラットフォームはそれぞれ異なる。VRの黎明期だけあって、特に本格的なVRを利用する上では統一されたプラットフォームが存在しておらず、メーカーが自主的にプラットフォーム展開を進めているのが現状だ。

そこでグーグルは、スマートフォンを利用したVRの広がりを受ける形で、AndroidベースのDaydreamを提供。本格的なVRの世界においてもプラットフォームの主導権を握り、アプリの流通をも握ることで、スマートフォンアプリで得た成功法則を再現したい狙いがあるのではないだろうか。

無論、このことはスマートフォンのVRには大きな影響を与えるだろうし、大手メーカーの多くがDaydreamに賛同を示している通り、DaydreamによるVRの利用が大きく広まる可能性は高い。だがPCベースのVRとスマートフォンベースのVRとでは、性能に大きな差があることから、そこに入り込むのは難しいようにも思える。

Daydream対応スマートフォンを開発しているメーカー。サムスン電子やファーウェイなどの大手スマートフォンメーカーが名を連ねている

しかしながら将来的にハードウェアが進化し、ゲーミングPCに追いつくとは言わないまでも、Androidベースでもある程度ユーザーが満足できる環境を実現ようになれば、PCベースのVRに代わり、DaydreamがVRの世界で主導権を握る日が来る可能性は十分考えられる。それは、現在のスマートフォンやタブレットにおけるゲームの動向を見れば明らかだろう。

VRの先に見据えるは「Tango」との融合か

だがDaydreamでグーグルが狙うのは、単にプラットフォームを掌握することだけではないようにも思える。それを示しているのが「Tango」である。

Tangoは、以前「Project Tango」と呼ばれていたもので、スマートフォンに複数のカメラやセンサーなどを搭載し、空間を正しく認知するという、グーグルが開発している技術である。現実世界の空間を正確に測ってスマートフォンの画面上にそれを反映できることから、拡張現実(AR)を進化させる技術として高い注目を集めてきた。

「Tango」に対応したデバイスでジェンガゲームをプレイしているところ。実空間を正確に認知することで、オブジェクトがその場にあるような感覚を味わえる

これまでTangoに対応した端末は、開発者向けのタブレット型デバイスしか存在しなかった。だが今年1月のCESで、レノボがTangoに対応したスマートフォンを開発していることを公表。そして6月には、Tangoに対応した6.4インチのファブレット「Phab2 Pro」が発表されている。

Phab2 Proは通常のカメラに加え、深度や動きを測るカメラと、3つのカメラを搭載しているのが大きな特徴。これら3つのカメラを用いることで人間の知覚に近づけ、位置や他の物体との位置関係を把握することにより、実空間を生かしたコンテンツを実現できるようになる。

Tangoに対応するスマートフォンには、通常のカメラのほか、深度を測るカメラ、そして物体の動きを認識するカメラの3種類が搭載されている。Phab2 Proも同様だ

現在のところ、TangoとDaydreamは別々の存在として提供されており、Phab 2 ProもDaydreamに対応しているわけではない。だが高度な表現が可能なVRと実空間を正しく認知できるAR、双方を組み合わせれば、現実と非現実が融合し、あたかも現実の空間に仮想の物体や人物などが現れ、操作したり体感したりできるいま注目の技術「複合現実」(Mixed Reality、MR)が実現できる。

グーグルは現状、あくまでVRの盛り上がりを支えるDaydareamと、将来を見据えた新しい取り組みとなるTangoを個別に提供しているように見える。だが将来的にはそれらを融合させてMRを実現し、ゲームなどだけにとどまらないより広い分野での技術活用を目指しているのではないだろうか。先の世界を見越して新技術への投資を続けるグーグルだけに、一見別々に見える動きが、1つの線につながる可能性は十分あり得るのではないかと、筆者は考えている。

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

メルカリ出し抜くラクマ、売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が5億円を突破

2019.01.22

ラクマ売上金の「楽天キャッシュ」チャージ額が累計5億円に

同様のサービスを構想しているメルカリを先行する形に

楽天は1月21日、フリマアプリ「ラクマ」において、取引で発生した売上金のうちオンライン電子マネー「楽天キャッシュ」へチャージした累計額が2018年12月末に5億円を突破したと発表した。

ラクマでの売上金を楽天キャッシュへチャージする機能は、2018年7月より提供開始されている。チャージした電子マネーは、楽天会員向けのグループ各種サービスで利用できるほか、ローソンやファミリーマートなど「楽天ペイ」対応店舗での決済でも利用可能だ。

2017年8月1日から開始されたローソンでの支払いに続いて、2018年12月4日からはファミリーマートでも楽天ペイが使用できるようになった

同じくフリマアプリを展開するメルカリは、100%子会社「メルペイ」で同様のサービスを構想している段階であり、この分野においてはラクマが1歩先行する形になった。

現状、メルカリで得た売上金をメルカリ以外で使う場合は、一度口座に振り込む必要がある。また、売上金には180日という「振込申請期間」が設定されており、その期間中に「口座に振り込む」か、メルカリ内で使える「ポイントを購入」するか、選ばなければならない。ただし振込の場合、1万円未満だと210円の手数料が発生する(2018年1月21日時点)。ラクマの売上金チャージ機能と比較すると、どうしても見劣りしてしまうだろう。

ちなみに筆者もメルカリユーザー。現状、売上金が合計1万円に満たないため、振込手数料を発生させずに現金に換えるためには、あと1540円分の売り上げが必要になる (画像はメルカリアプリより)

しかし、少し古いデータではあるが、2018年5月31日のニールセン デジタルの発表によると、スマートフォンからの利用率の高いオークション/フリマサービスは、1位がYahoo! オークションで25%、2位がメルカリで23%、3位がラクマで11%であることがわかっており、同じフリマサービスであっても、ラクマの利用率はメルカリの半分であるのが現状だ。

メルカリのダウンロード数は2018年11月14日時点で7500万、ラクマが同年10月時点で1500万と、両サービスの普及率にも差があることからも、日本におけるフリマ市場のバランスがすぐにひっくり返ることはないだろう。

だが、ラクマが売上金をさまざまなサービスに使えるという実用性で、メルカリとの新たな差別化ポイントを生み出したことは、新規ユーザーの獲得に少なからず貢献しそうだ。

ラクマ売上金のチャージ額が5億円突破したことは、ユーザーの「アプリ内の売上金を別の場所で使いたい」というニーズの強さの証明ともいえよう。こうしたユーザー視点に立った機能の追加による消費体験の向上が、フリマ市場にどのような影響をもたらすのか、キャッシュレス決済市場への参入が期待される、メルカリの動向と合わせて注目したい。

1000字の描き直しを越えて ―ナール制作の舞台裏

最初の書体感覚をもち続けることのむずかしさ

写研で書体デザインの責任者を務めていた橋本和夫さんに衝撃を与えた書体、ナール。作者の中村征宏氏が第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト応募時に書いた設計意図は、次の通りだ。

〈縦組みの場合にも、横組みにも字間のバランスがムリなく一つの流れを持つことを念頭におき、ボディータイプとして、従来使用されなかった丸ゴシック系のタイプフェイスを試みた。字面をいっぱいに使い、文字のエレメントを強調し、細い線で構成することによりシンプルさを求めた。字面を大きく使うことが字間の問題に関連し、字間のバランス調整のための切り貼り、字詰めの工程を少しでも短縮することができるのではないかと思う。その結果、組み上がりにおいて、集合の調和が生まれるのではないかと思う。広告制作物などにおいて、コピーやサブ・タイトルなどに適するのではないかと考える。〉(*1)

中村征宏氏の著書『文字をつくる』(美術出版社、1977年)

1970年(昭和45)5月18日にコンテスト授賞式が開催されたのち、写研からの文字盤発売に向けて、同年8月ごろから本格的な書体制作が始まった。必要な文字数は漢字が約5400字、ひらがなとカタカナで約150字、アルファベット約100字、その他(約物、記号など)約200字で、合計約5800字だ。写研の監修を受けながら、原字はすべて中村氏が描いた。監修を担当したのは橋本さんである。

約5800字の原字を描くのは、想像以上に大変な作業だ。橋本さんは語る。

「コンテストに応募するときに描いていただくのは、漢字50字とひらがなカタカナ、そして記号の一部だけです。それを1枚のパネルに構成するので、文字構成としては、まとめやすい。ところが、文字盤化する際には約5800字を1文字1文字描くことになり、完成するまでの年月は2年はかかります。外部デザイナーの方と書体をつくるようになって、われわれが一番苦労したのは、“今月と来月では、仕上がってくる書体の雰囲気が変わってしまうことがある”ということでした」

「文字を増やす際に字種リストを渡すのですが、『何の文字をつくるか』を見るためのリストのはずが、長い間ながめているうちに、つくっている文字がリストの文字に似てきて、当初のデザインと雰囲気が異なってきてしまった。ナールは既成概念をくつがえす、突き抜けたデザインの丸ゴシック体だったはずなのに、描き進むうちに最初のデザイン思想から離れ、持ち味が失われるということが起きたのです」

原字を描き進めるうち、コンテストのオリジナルデザインから、いつのまにか特徴が変わってしまっていたのだ。そのままでは、まるで違う書体になってしまう。結局、途中で1000字分を描き直すことになった。

中村氏もこのことを振り返り、著書に〈人の感覚は徐々に変化するものには気づきにくいものですから、いつも最初の見本と照らし合わせながら書き進めることが大切です。このようなことは、太さだけのことではなく字形とか感覚面でも同じようなことがいえます。感覚もときがたつことによってどんどん変化するものですが、とくに最初の感覚は大切にしていきたいものです〉と書いている。(*2)

悩ましい文字

「もうひとつ、ナールを監修したなかで、ひどく悩んだことがありました。ナールは、字面いっぱいに真四角に描かれた書体です。たとえばひらがなの『り』は通常は縦長、『へ』は横長の形をしていますが、これらの文字すら、できる限り正方形に近づけて描かれている。ぼくが悩んだのは、『々』という漢字でした」

ナールでは、縦長の「り」、横長の「へ」も正方形にかなり近い

「時々」「常々」「佐々木」など、同じ漢字を繰り返すことを表すときに用いられる「々」の字だ。

「常識的にいえば、この字は他の漢字よりも小さく描きます。では、通常は縦長、横長など固有の形をもつひらがなですら正方形に近づけているナールでは、どういう大きさにすればよいのか? 最初は『々』も他の漢字と同じ大きさで、真四角にするのがよいと思ったのですが、いざつくってみると、やはり少しは他の漢字より小さくしなければ『々』に見えないとわかりました」

「他の書体をつくるときにも『々』をどういう大きさにするか、いつも考えるのですが、ナールのときにはとりわけ悩んだものでした」

また、こうした試行錯誤を経て、「文字を図形化する際も、かなと漢字の使い方に意味のあることをあらためて認識しました」という。

新聞雑誌、広告から、道路標識まで

途中で1000字の描き直しなどがあったものの、コンテストから2年後の1972年(昭和47)、ナールは写研写植機用の文字盤として発売された。書体名は、「中村」の “ナ” と、丸みを表す言葉である「ラウンド」の頭文字 “R” をとって「ナール」とつけられた。(*3)さらに、ナールと組み合わせて使うことを想定した中太の「ナールD」の文字盤も1973年(昭和48)に発売された。

ナールD(上)とナール(下)

中村氏はコンテスト応募当時、ナールを本文書体と考えていたが、いざ発売されてみると、広告や雑誌、新聞などの見出しなどに使うディスプレイ書体として大人気となった。ポスターや広告のキャッチフレーズ、テレビの字幕、道路標識などに幅広く使われ、一世を風靡した。

「タイポスによってデザイナーのつくる書体が注目され、少女たちが丸文字を書くようになっていく流れのなかで登場したナールは、『時代に乗った』ともいえますが、むしろ『時代をつくった』書体といえるでしょう。写植の文字はナールの登場によって、それまで職人が手描きしていたレタリング文字の分野に浸透していった。“新書体ブーム”の幕開けでした。そうして写植の機械は、単に文字を印字するだけでなく、多彩なディスプレイ書体によって雑誌や広告にファッション性を生み出す手段のひとつとして、とらえられるようになっていったのです」

(つづく)

(注)
*1:中村征宏『文字をつくる』(美術出版社、1977年)P.80
*2:同書 P.21
*3:『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研、1975年)P.127

話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)
書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)
ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。

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