マイクロソフトが手に入れた「LinkedIn」というミッシングピース

マイクロソフトが手に入れた「LinkedIn」というミッシングピース

2016.07.05

マイクロソフトは6月13日、「LinkedIn」の買収を発表した。その金額は263億ドルに上り、SNSの買収としては最大規模となる。また、現在のマイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラ氏にとって初の大規模買収となった。LinkedInと、これを買収したマイクロソフトの狙いはどこにあるのか。

マイクロソフトがLinkedIn買収を発表。写真中央:マイクロソフトのサティア・ナデラCEO、写真左:LinkedInのジェフ・ワイナーCEO、写真右:創業者のレイド・ホフマン氏

LinkedInとはなにか

LikedInは、2003年5月に開設されたビジネスプロフェッショナルに特化したソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)だ。人々は自分の学歴やキャリア、スキルを登録し、ビジネス上のつながりを記述していく。ユーザー数は世界で4億3300万人、有料ユーザーは200万人に上る。

LikedInはビジネスプロフェッショナルに特化したSNS。学歴、キャリア、スキルにポイントを置いたのが特徴

必要なスキルを持つ人材を探すには、LinkedIn上でメッセージを送ることができるが、直接繋がりのない相手には、共通のつながりがある人を介して、あるいは返信保証付きの有料でメッセージを送る仕組みだ。また企業は、求人情報を掲載することもできる。

LinkedInは個人のキャリアが基本であるため、例えばグーグルやアップルの人の出入りを見つける手段としても利用できる。どんな人材がどんなポストに就任したか、という情報は、その企業が何をやろうとしているのかを推し量る材料の1つとなるのだ。

日々のツールになれなかったSNS

筆者は2012年に『LinkedInスタートブック』(日経BP)を上梓した。当時、日本ではあまり活用されてこなかったSNSについて紹介した書籍だった。この中で、MIT Media Labの所長を務める伊藤譲一氏へのインタビューの一節が、LinkedInの使い方を物語っている。

「僕自身、LinkedInは人を探すとき、あるいは人からコンタクトをもらったとき、企業について知りたいときに参照するツールとして毎日開いています」

米国においては、LinkedInにプロフィールがないことは、キャリアや求人市場に存在していないことと同義だ、と言われるほど、仕事にまつわるFacebook以上に重要なプロフィールであるとの認識がある。

その一方で、FacebookやTwitterのような情報発信や日々のコミュニケーションを行うとためのツールではない。LinkedInにもニュースをシェアしたり、プロフェッショナルが注目するニュースをまとめるPalse機能が搭載されているが、残念ながら「毎日チェックするウェブサイト」にはなれずにいた。

自分の関連業界の情報が得られるPulse機能

生産性のツールから、人と組織に活力を与えるツールへ

SNSの世界ではFacebookのような、仕事中も含めて開きっぱなしのウェブサイトというポジションを獲得できなかったLinkedIn。これを買収したマイクロソフトの狙いはどこにあるのだろうか。それは、マイクロソフトが現在行っている「変革」に注目すると、非常に有効なピースであることがわかる。

マイクロソフトのビジネスアプリケーションのポートフォリオは、Word、Excel、PowerPointなどでおなじみのOfficeから始まり、メールや連絡先などの情報を管理するサーバ環境Exchange、共有やコラボレーションを支援するSharePointやLyncといったサーバ製品、クラウド環境Azure、そして業務基幹システムと顧客管理を束ねたDynamicsがある。

これらに加えて、ビデオ会議プラットホームのSkypeを2011年、社内コミュニケーションアプリYammerを2012年にそれぞれ買収しており、オフィス内でのコミュニケーションについて強化してきた。

LinkedInの買収はマイクロソフトのサービス領域との融合を可能にするという(マイクロソフト説明資料より)

このように見ていくと、マイクロソフトは、働く人個人の生産性向上をOfficeで追求しながら、そしてチームや職場といったサイズのコミュニケーションやコラボレーションを支えるソリューションを拡充してきた。いうなれば、今、この瞬間の個人や組織のためのツールを提供してきた、ということになる。

過去と未来の情報と外部との接続を取り持つLinkedIn

LinkedInが持っているのは、プロフェッショナルとしての個人が、過去どんな学問を修め、どんな企業で、何に取り組んできたか、どんな人とつながっているか、という情報だ。

そうした個人が集まって、企業という組織を構成している。すると、その企業内にどんなタレントが眠っているのかを見つけることができるようになる。あるいは、全く別のチームにいる人のスキルを活かしてより良い結果を得られるようにすることもできるだろう。

LinkedInは、企業内で利用する上で、ダイナミックな人材活用の手段を提供する可能性がある。加えて、企業外で利用する際にも、人材募集や協業をする上での判断材料を与えてくれる。ポイントは、これらの機能がマイクロソフト製品を導入しているビジネス顧客に解放されることだろう。

加えて、時間軸のダイナミクスへの取り組みにも興味がある。あらゆる人も企業も、過去・現在・未来の時間軸の中を生きている。LinkedInが保管するのは、人とタレントにフォーカスして、その人のキャリアや企業がどんな過去を過ごしてきたかがわかり、これからどんな未来をたどるのかを予測する材料を提供してくれる。

その活かし方は様々だ。例えば、人材育成や、せっかく獲得した人材がやめないような社内でのキャリアパスの設計やマッチングも可能になるだろう。

フェイスブックとグーグルオフィスから締め出す

今回の買収は、基本的には、マイクロソフトが取り組んでいる、個人や組織の生産性から、彼らのエンパワーメントへと転換する有力なピースを埋めることが主眼と見ることができる。同時に、競合に対する大きなアドバンテージを取ることもできた。

Facebookは、消費者同士、ビジネス顧客との接点として絶大な力を持つようになった。さらに、Facebookを社内コミュニケーションに活用するアイデアも試されている。またグーグルは、Google Appsが支持を集めており、メールと個人用のクラウド環境の事実上のデファクトを取るまでに成長してきた。

このように、消費者向けのサービスがビジネスへの進出を狙っている中で、マイクロソフトはLinkedInの買収によって、フェイスブックやグーグルをオフィス環境から締め出そうと試みていることがよくわかる。

Facebookには人々のつながりの情報はあるが、Officeのような生産性ツールがない。Googleにはメールからドキュメント作成までをクラウド上で提供する環境はあるが、人々のつながりの情報はない。マイクロソフトは、これらの両方を持つ唯一の企業になったのだ。 職場でFacebookが憚られる日本においては、マイクロソフトによるLinkedInの導入次第で、SNS業界の風向きが変わる可能性も秘めている。

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

新AQUOSは“片手ポケット族”狙う iPhone不在の「小型スマホ」市場に勝機

2018.11.16

シャープが新スマホ「AQUOS R2 compact」を発表

大画面化の波に逆らい、「片手ポケット族」が増加傾向に

iPhone不在の「小型スマホ」市場を狙う

11月15日、シャープがAndroidスマートフォンの新製品「AQUOS R2 compact」を発表した。名前に「compact」と付いている通り、最近のスマホ市場では選択肢が減っている小型モデルであることが特徴だ。

小型スマホの需要を取り込む「AQUOS R2 compact」

コンパクトな見た目とは裏腹に、中身にはハイエンドである「AQUOS R」シリーズのスペックを詰め込んでいる。世界的にスマホの大画面化がトレンドとなっている中で、あえて時代に逆行するシャープの狙いはどこにあるのだろうか。

スマホを片手で持ち、ポケットに入れて使う人が増加

世界のスマホ市場では、6.5インチの「iPhone XS Max」に代表される大画面モデルが人気を博している。だが、日本では通勤電車などの利用シーンにおいて、片手で使う人が多いといわれている。シャープによれば、スマホを片手で持つ人は64% 、服のポケットに入れて持ち運ぶ人は49% に達しており、その割合は上昇傾向にあるという。

片手で持ち、ポケットに入れて持ち歩く「片手ポケット族」が多いという

その背景として、シャープはスマホの「インフラ化」を指摘する。SNSやコンテンツを楽しむだけでなく、サービスの利用やモバイル決済にスマホは欠かせない存在になっており、日常生活でスマホを取り出す場面が増えている。

AQUOS R2 compactは、日本人の手のサイズを念頭に置いた「横幅64mm」のボディに、できるだけ高性能な部品を詰め込んだハイエンドコンパクト機になっている。プロセッサは最新のSnapdragon 845、メモリは4GBを搭載しているが、これは大画面モデルのAQUOS R2と同等だ。

ポケットに入れやすいサイズに高性能を詰め込んだ

スマホ本体を小型化する一方、画面は前モデルの「AQUOS R compact」より大型化した。このためにシャープは画面の上下に切り欠き(ノッチ)を持つIGZOディスプレイを開発。インカメラと指紋センサを搭載しつつ、表示領域を上下に広げてきた。

前モデル(左)と比べて新モデル(右)は表示領域が広がった

「iPhone不在」の小型スマホ市場を直撃

シャープによれば、小型スマホを求める人は全体の3割程度という。スマホ市場では残りの7割に向けた大画面モデルが幅を利かせており、最新のiPhoneでは6.5インチのXS Maxに加え、一般向けモデルの「iPhone XR」も6.1インチとなっている。

一方、小型モデルとして根強い人気のあった「iPhone SE」は、後継モデルが出ないまま販売が終了。中古市場では価格が上昇する騒ぎもあった。

日本で最大シェアを誇るiPhoneだが、小型スマホ市場では存在感が薄れつつある。ソニーモバイルはXperiaシリーズのコンパクト機を投入しているが、2018年夏モデルの「Xperia XZ2 Compact」と比較して、シャープ機は画面の大きさ、薄さ、軽さの面で圧倒している。

中国メーカーとして日本でも勢いを伸ばすファーウェイ、OPPOも世界市場において大画面化競争を繰り広げており、小型モデルに積極的な動きは見せていない。この点もシャープにとって有利に働いている状況だ。

また、AQUOS R2 compactは顔認証と指紋認証の両方に対応しているのも特徴。これは、iPhoneにもXperiaにもない機能だ。スマホをポケットから取り出し、顔の前に持ち上げるだけでロックを解除できる顔認証だが、卓上に置いている場合は使いにくい。だが指紋センサがあれば、指を置くだけで済む。

顔認証に加えて指紋認証にも対応

スマホの端末メーカーの多くはグローバル市場に目を向け、大画面化のトレンドを追いがちだ。だが、シャープは国内の需要をしっかりとらえた上で、日本のユーザーに刺さる製品作りを続けている。

依然としてiPhone人気が続いている中で、限られた市場であっても「不在」のチャンスをタイムリーに活かし、ユーザーを奪還する。国内に目配りできるシャープならではの戦い方に注目したい。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。