ネットラジオの老舗、文化放送が見据える

ネットラジオの老舗、文化放送が見据える"ラジオ2.0"

2016.07.06

ラジオ放送局の未来を考える場合、注目すべきはインターネットとの融合が進むかどうかだ。地上波放送の広告費はピーク時に比べ半減しており、現状のままでかつての勢いを取り戻すのは容易ではないというのが業界関係者の見方。一方で、日本におけるネットラジオの広告市場は誕生してもいないというのが現状だ。ラジオの伸びしろがネット上にあるとすれば、その市場を開拓するのは誰か。ネットと親和性の高いコンテンツが豊富な文化放送の優位性は際立っている。

ネットラジオ時代に存在感を増すラジオ局

ネットラジオは米国をはじめとする海外で人気のあるサービスだ。米国では1兆円を超える音声広告市場を抱える巨大な経済圏を形成。聴いている人に合わせて音声広告を流すターゲティング配信の技術も一般化している。

日本ではネットラジオがようやく普及の兆しを見せはじめたところ。最近の動きとしては、TBSラジオが収益化が難しいポッドキャストの終了を決め、同サービスで育ててきたコンテンツを自社運営のネットラジオ「TBSラジオクラウド」に移行すると発表した。同社は音声広告のターゲティング配信技術を活用し、音声コンテンツの収益化に挑戦する姿勢を示している。

ネットラジオが普及すれば、既存のラジオ放送局は強力なコンテンツホルダーとして存在感を発揮することができそうだ。なかでも、アニメやゲームなどに関する番組が豊富なネットラジオ「超!A&G+」を運営する文化放送には大きな可能性を感じる。

A&Gの知見・人脈をネットで活用する文化放送

文化放送 取締役 ビジネス開発担当の片寄好之氏。同社編成局長、放送事業局長を経て2016年6月から現職。A&G番組プロデューサーとして数多くの人気番組を手がけ、イベントや番組などにも出演。リスナーからは「ダーク片寄」と愛称で呼ばれる

「A&G」とはアニメ&ゲームの略称。文化放送は20年以上も前からアニメやゲームに関連するラジオ番組を放送していたが、1996年に「新世紀エヴァンゲリオン」が一大ブームを巻き起こし、アニメ・声優バブルとでもいうべき状況が到来すると、文化放送にはリスナーとスポンサーから声優を起用した番組作りに対する要望が押し寄せた。

アニメでは決まったセリフしか話さない声優の素顔を知りたいという要望に、文化放送は番組制作で対応した。このような経緯で文化放送のA&G関連番組は増えていき、こういった番組が集まる時間帯は「A&Gゾーン」と呼ばれるようになった。「盛り上がりを狙って(A&G番組を)仕掛けた部分もあったが、外からの声が(それ以上に)強かったのが実態」。当時をよく知る文化放送の片寄氏は述懐する。先見の明でA&G関連の番組を充実させてきた文化放送が、その知見や人脈などを活用して運営するネットラジオが超!A&G+だ。

超!A&G+で一定規模のリスナーを獲得

超!A&G+は週7日間にわたり、ほぼ一日中放送している文化放送のネットラジオだ。声優やアーティストなどがパーソナリティを務めるオリジナル番組の数は130を超える。超!A&G+は「普通のラジオ放送モデルをそのままネットに移行したような構造」と片寄氏も話していたが、文化放送は地上波と超!A&G+の2チャンネルで放送を行っているラジオ局だといえる。同社は埼玉西武ライオンズに特化したナイター中継「ライオンズナイター」もネットで同時配信しているため、厳密にいえばチャンネルを3つ持っているような状況だ。

AM、ワイドFM、超!A&G+、ライオンズナイターのネット配信など、多様なチャンネルを持つ文化放送

超!A&G+はどのくらいのリスナーを抱えているのか。詳しい数は聞けなかったが、超!A&G+のパソコン・スマートフォンでの視聴登録者数は900万を超えているという。休眠状態のリスナーも存在すると思われるため、この数字がリスナーの人数を表すと短絡的に考えるわけにもいかないが、文化放送のネットラジオが一定規模のリスナーを抱えていることは間違いないだろう。

音声と視覚、どちらの広告にも対応可能な仕組み

ネットラジオの収益化には広告収入が不可欠となるが、片寄氏によると超!A&G+にはタイム提供の広告(地上波ラジオでも流れているような、いわゆるコマーシャル)が入っており、現時点でも黒字化はできているという。「マネタイズにゴールはない」と語る片寄氏は、超!A&G+に音声広告のターゲティング配信を導入することについても前向きに検討しているようだ。

超!A&G+はネットラジオという位置づけだが、映像を流す機能も備えている。実際に番組をPC経由で聴いてみると、サイトではパーソナリティが話をする様子などを観ることができた。超!A&G+の収益化に向けては、音声広告のみならず、視覚に訴える広告を導入することも可能だ。

ネットにとどまらないA&Gの収益力

A&G関連のコンテンツには、イベントを通じた実際の集客力も期待できる。例えば地上波で土曜の夜に放送している番組「神谷浩史・小野大輔のDear Girl~Stories~」では、埼玉スーパーアリーナで2日間にわたって公開イベント「DGS EXPO 2016」を開催し、両日共に会場を満員にした実績がある。関連イベントと全国・海外(香港、台湾、韓国)のライブビューイングを合わせて、総勢5万人以上を動員したDGS EXPO 2016のようなイベントが、超!A&G+からも誕生する可能性はあるはずだ。

ポッドキャストの人気番組にも収益化の道

ネット配信は地上波に次ぐ文化放送の新たな収益源となるのだろうか。この質問に片寄氏は「もうなっている」と即答した。A&G関連のコンテンツは、同社売上高の少なくとも1~2割を稼ぎ出す優良事業であり、超!A&G+はA&Gとリスナーをつなぐ窓口として重要な役割を果たしている。広告によるマネタイズが成功し、超!A&G+自体の収益力が高まれば、A&G関連事業が文化放送全体の売上高をさらに押し上げることは確実だ。

超!A&G+は番組表に沿って放送しているが、文化放送は番組を好きな時に聴ける従量課金のオンデマンドサービス「AG-ON」も用意している(画像はAG-ONトップページの一部)

「大竹まこと ゴールデンラジオ」など、多くの人気番組をポッドキャストで配信している文化放送だが、同社の場合はポッドキャストもネット配信ビジネスの一部として考える必要がある。ポッドキャストは有料コンテンツ化や広告挿入による収益化が難しい分野だが、ネット配信全体で利益が上がっている状況からすると、「(ポッドキャストはコストの掛かるサービスだが)金銭的にも労力的にもそこまで負担ではない」(片寄氏)というのが実情のようだ。

片寄氏はポッドキャストの人気コンテンツも含め、音声配信コンテンツをいかにマネタイズしていくかを考えるほうが前向きだとの認識を示した。将来的にポッドキャスト配信から撤退することがあったとしても、すでに多くのファンを獲得している人気コンテンツについては、同社の配信ビジネスに組み込む方法を探したいというのが同氏の考えのようだ。A&G関連に加えて、地上波で放送しているワイド番組などのコンテンツも配信ビジネスに紐付かせることができれば、同社のネットラジオはA&G関連の番組に興味がないリスナーにも訴求可能なチャンネルとなる。

時代はラジオ2.0、文化放送は先行できるか

ネットラジオは海外で人気に火が付き、このムーブメントに日本は乗り遅れているものとばかり思っていたが、文化放送がネットラジオに取り組み始めたのは約20年前だと聞いて驚いた。当時は日本でネットが普及し始めた頃だが、文化放送は固定電話回線の使用料が定額制となる深夜の時間帯を利用し、生放送でネットラジオを配信していたのだ。

片寄氏は地上波放送を「ラジオ1.0」と位置づけた上で、ネットラジオが普及する可能性が出てきた現状を「ラジオ2.0に入ってきている」と表現した。TBSラジオクラウドが始まったり、音声広告のターゲティング配信技術が確立したりと、日本ではネットラジオが黎明期を迎えつつあるような情勢だが、これは見方を変えると、ネットラジオの老舗ともいうべき文化放送に時代が追いついてきたと考えることもできる。A&G関連事業へのいち早い取り組みで先見の明を示した同社が、ネットラジオでも他社に先行することができるか。ネットと相性抜群のコンテンツを豊富に抱える文化放送の実力が試される。

あらゆる面で様変わり!  新型「デリカ D:5」試乗で感じた格段の進歩

あらゆる面で様変わり! 新型「デリカ D:5」試乗で感じた格段の進歩

2019.03.26

三菱自動車の新型「デリカD:5」に試乗

顔つきの変化に目を奪われがちだが中身もすごかった

本質を追求する三菱自動車の着実な技術開発が奏功

三菱自動車工業が2019年2月に発売した新型「デリカD:5」は、印象をガラッと変えたフロントマスク(顔)に注目が集まりがちだが、注目すべきはその中身だ。三菱自動車らしく本質を追求した改良により、クルマの性能は先代に比べ格段に進歩している。その出来栄えを試乗で確かめてきた。

三菱自動車の新型「デリカD:5」

12回目の改良で大幅に進化した「デリカD:5」

三菱自動車工業の「デリカ」が誕生したのは1968年のこと。その車名は「デリバリーカー」に由来しており、目的地まで人や物を運ぶクルマとして当初は商用を主体としていたが、翌1969年には9人乗りの「デリカコーチ」という乗用の車種が登場した。そして一昨年、デリカは誕生から50周年を迎えた。

左が初代「デリカ」、右は改良前の「デリカD:5」

現在の「デリカD:5」はデリカの5代目ということで、この名が付いた。50年を超える歴史の中では、1982年の2代目で早くも4輪駆動車を設定し、ディーゼルエンジンを搭載した。この2つは、今日もD:5を特徴づける要素となっている。

3代目までは「キャブオーバー」といって、エンジンを運転席下に搭載するワンボックス車の形態だったが、4代目からは客室の前にエンジンを搭載するミニバンとなった。そしてデリカD:5は、2007年のモデルチェンジによって登場し、すでに12年の歳月を経ようとしている。この間、三菱自動車は11回も一部改良を実施していて、今回が12回目となる。歴代デリカは1つの車型を長く継承する傾向にあったが、ことに今回の改良では、大きな進化を遂げたと感じる。

2019年2月に発売となった最新のデリカD:5は、外観の輪郭は従来のままだが、ことに顔つきが大きく変わり、押し出しの強い造形となった。その効果は、例えば今回の試乗で、大型トラックがやや無理な車線変更をしようとした際、ミラーに映るデリカD:5の顔を認識し、一瞬、動きを躊躇した様子にも見てとれた。この造形は、三菱が2015年の「アウトランダー」以降、フロントの共通性として各車で採用している「ダイナミックシールド」の概念に基づいた変更である。

改良を経て大幅に変わった「デリカD:5」の顔つき

またフロントの造形は、主に市街地などでの利用が多い顧客向けに新しく車種設定した「アーバンギア」と、標準仕様といえる「D:5」とで異なる意匠を採用している。

こちらが「デリカD:5 URBAN GEAR(アーバンギア)」。「D:5」には4つ、「アーバンギア」には2つのグレードがあり、価格は384万2,640円~421万6,320円となっている

いずれにしても、この大胆な顔つきの変更が注目されがちだが、それ以上に今回の改良は、走行性能や上質さといった面での進化が大きく、格段の進歩と驚かされるほどであった。なかでも、ディーゼルターボエンジンの改良と、変速段数を6速から8速へと増やしたオートマチックトランスミッション(8速AT)の効果は絶大だ。

SUV顔負けの悪路走破性に上質な乗り心地をプラス

エンジンの基本は変わらないが、新たに「尿素SCR」と呼ばれる排ガス浄化装置が取り付けられ、その精度が高まった。走行のための燃料である軽油のほかに、排ガス浄化用の尿素水溶液を補給する手間は増えるが、いまやディーゼルの排ガス浄化は尿素SCRなしでは語れない時代となっている。

その上で、エンジン内部の摩擦損失を減らしたり、燃焼室の改良や新型燃料噴射装置を採用したりするなどの改良により、最大トルクを増大し、アイドリングストップ後の再始動性を改善している。

2.2Lコモンレール式DI-D(ダイレクト・インジェクション・ディーゼル)クリーンディーゼルターボエンジンを搭載

8速ATは発進で使う1速のギア比を大きくして力強さを上げ、それ以後のギア比は従来の6速に比べ小さくすることで、滑らかかつ燃費に効果的な変速を可能にしている。

車体は、もともとデリカD:5の特徴であった「リブボーンフレーム」と呼ばれる骨格構造に加え、車体前部の剛性を上げる改良が施された。4輪駆動による悪路走破で、SUVの「アウトランダー」や「パジェロ」などに引けを取らない性能を発揮するデリカD:5は、強靭な骨格構造により、大きな凹凸のこぶ路面で、前後のタイヤが対角線上で持ち上げられ、車体にねじれが加わった状態でも、後ろのスライドドアを開閉できる車体剛性を持つ。それが他では真似できない特徴の1つだった。そこに車体前部の剛性の強化が加わり、舗装路での走りの上質さが改善されたのである。

試乗をしてみると、それらの改善が、D:5の走りを格段に進歩させていた。

新型「デリカD:5」および「アーバンギア」のボディサイズは、全長4,800mm、全幅1,795mm、全高1,875mm、ホイールベース2,850mm、最低地上高185mm。車両重量はグレードによって違うが1,930キロ~1,960キロだ

試乗で実感、性能は「様変わり」

ディーゼルターボエンジンは、始動後にディーゼルらしい音を発生させるが、軽やかに聞こえるので嫌な気分にならない。1,900キロを超える重い車体であるにもかかわらず、4輪駆動車であることから、発進時の動き出しは軽やかだ。その際もエンジンはうなることなく、ほぼアイドリング回転に近いところで走り出した。

エンジン内部の摩擦損失が軽減されたこと、同時にトルクが増大されたこと、さらには8速ATの1速ギア比が大きくなり、ギア比の力でエンジンを助ける効果などにより、このスムーズな発進が実現できたのであろう。

また今回、パワーステアリングが電動化されたので、発進してすぐに曲がる場面でも、クルマは軽やかに進路を変えた。

パワーステアリングは油圧式から電動に変わった

この走り出しの時点で、すでにデリカD:5の大きな進化を実感した。さらに、アクセルペダルを踏み込んで加速させていくと、わずかなペダルの踏み込みで速度を増していく。しかも、速度が上がるに従って、ディーゼル音は気にならなくなるほど静かになり、快適だった。8速ATの効果でエンジン回転を上げ過ぎないこともあるし、防音や吸音を増した車体の効果も静粛性に効いている。

高速道路に入っても、エンジンやトランスミッションの効果、また快適な室内の様子は変わらない。時速100キロで走行中のエンジン回転数は、アイドリングから少し上の毎分1,500回転ほどでしかない。従来のディーゼルエンジン車では、この速度で巡行するには騒音が大きく、音に疲れる印象があったが、様変わりである。

走り出しでも高速道路でも改良の効果が感じられた新型「デリカD:5」

乗り心地も、車体前部が強化されたことにより、路面の凹凸を乗り越えた際の衝撃が緩和され、改善されたことを実感した。走行感覚も乗り心地も、明らかに上質なミニバンとなった。この快適性であれば、D:5でもっと遠出をしたい気持ちにさせられるはずだ。

「様変わりした」というのが、まさしく適切な評価だろう。そこには、モデルチェンジによらず、実績を踏まえて一歩ずつ改良を加えていく三菱自動車のよさが現れている。

先進的だが着実、三菱自動車の技術開発

三菱自動車は2000年のリコール問題や2016年の燃費不正などを経験し、今日に至る。社内の隠蔽や規律違反などを抱えながら、一方で、技術開発においては先進的な取り組みを続けてきた側面がある。

1996年の直噴ガソリンエンジンの量産化や、同年の電子制御を活用した4輪駆動力制御などで、三菱自動車は先駆的な技術開発力を発揮してきた。同時に、1970年代からのラリー競技への出場や、1980年代からの「ダカールラリー」(パリダカ)出場などにより、悪路走破性のみならず、舗装路での俊足の走りを追求してきた歴史がある。

今日、三菱自動車は電動化とSUVに的を絞った商品展開で、存在感を発揮しようとしている。その両方の技術を合わせた象徴的な商品が「アウトランダーPHEV」だ。同車は世界で最も売れているプラグインハイブリッド車である。

電動化とSUVにフォーカスする三菱自動車の象徴的な商品が「アウトランダーPHEV」だ

三菱自動車が力を注いできた4輪駆動についてはデリカの歴史の中で触れたが、電動化に関しても同社は、1966年に電気自動車(EV)の開発を開始し、2009年には世界初の量産EV「i-MiEV」の市販にこぎつけるなど、先駆的な歩みを進めてきた。

いずれの技術も世界の主要自動車メーカーが開発に取り組んでいるものだが、それを量産化し、一般へ市販して世に問うことを、三菱自動車は長年にわたり粘り強く続けている。さらに、その技術を一時的な流行で終わらせることなく、磨き続けるのが同社の特徴にもなっている。それを可能としているのは、そもそも同社が、本質的な原理原則を追求した技術開発にこだわってきたからなのであろう。

世界初の量産EVとなった「i-MiEV」の現行モデル

デリカD:5においても、例えば「車体剛性」のような、一見しただけでは消費者には分かりづらい部分において、「リブボーンフレーム」という本質的な剛性構造を採用することで、ミニバンとしては悪路走破性で抜きん出た性能に仕上げている。そこが土台となり、乗り心地が格段に改善しているのだ。

技術革新といっても、目新しさをやみくもに追うのではなく、本質的な課題解決の道を探ることが、長年にわたり技術を進化させ、磨き続けることを可能にする。今度のデリカD:5においても、まさにそうした三菱自動車の開発姿勢が発揮されたと実感した。すでにD:5を所有している人でも、今回の改善には驚き、食指が動くことだろう。

関連記事
iPadのビジネス利用が広がる? アップルの地味な新製品への期待

iPadのビジネス利用が広がる? アップルの地味な新製品への期待

2019.03.25

iPad、iMac、AirPods…アップルが3日連続で新製品

一見地味な製品アップデートだが、その狙いは?

メインストリーム需要の受け皿としては充実

3月18日からの3日間は、アップルの新製品ラッシュとなった。「iPad Air」と「iPad mini」の新型を皮切りに、19日には「iMac」、20日には「AirPods」を立て続けに発表し、世界的に話題を巻き起こした。

iPad製品群に「iPad Air」と「iPad mini」の新モデルを追加

個々の製品はいずれも既存モデルのアップデートにとどまっており、見た目の変化も少なく地味な印象だ。果たしてアップルの狙いはどこにあるのだろうか。

目立ったわりにアップデートは地味

今回アップルが発表した製品に共通しているのが、見た目に大きな変化はなく、中身のアップデートにとどまっている点だ。

新しいiPad AirとiPad miniは、いずれも既存モデルとサイズや画面の大きさがほとんど同じだ。最新世代のiPad Proはデザインを一新したのに対し、2つの新製品は既存モデルの金型や部品を流用しやすい構造となっている。

新型「iPad Air」の見た目はiPad Pro 10.5とほとんど同じだ

専用ペンの「Apple Pencil」も第1世代の対応にとどまっている。第2世代のペンは無線充電方式になっており、これに対応させるとなればiPadのフルモデルチェンジは避けられなかっただろう。

プロセッサーはiPhone XSやXR世代の「A12 Bionic」を搭載した。この点についても、スマホ需要が伸び悩む中、販売不振が指摘されるiPhone XRのプロセッサーを流用したのではないかと邪推したくなるところだ。

新しいiMacは最新の第9世代Coreプロセッサーを搭載したものの、基本デザインは従来モデルから変わっていない。AirPodsの再生時間は最大5時間のままだが、新チップの搭載で接続性が高まり、ワイヤレス充電のケースが加わった。

ディスプレイ一体型「iMac」の新モデル

 

新しい「AirPods」はワイヤレス充電対応モデルも

いずれも既存モデルの順当なアップデートだが、3日連続という異例の発表スタイルを採ることで、発表会の中に埋もれることなく注目を浴びることに成功したと言えるだろう。

新生活には朗報、ビジネス利用もお手軽に

新しいiPad AirとiPad miniに期待されるのが、ペン入力への対応や低価格化によるビジネス利用の拡大だ。

小型タブレットのiPad miniは、主にコンテンツの再生用途に使われてきた。だがスマホが大画面化する中で、再生用途だけでは買い換え需要が伸び悩んでおり、2015年のiPad mini 4を最後に製品投入が途絶えていた。

これに対して、第5世代となる新モデルは専用ペンの「Apple Pencil」に対応したことで、ビジネス利用の可能性が広がっている。メモ用途に最適なサイズとして、iPad miniの対応を待っていた人も多いのではないだろうか。

 

第5世代のiPad miniはペン入力に対応した

新iPad Airは、専用キーボードの「Smart Keyboard」に対応した最も安価なモデルになる。ペンとキーボードを合わせて購入しても10万円に収まるようになり、ビジネスパーソンや学生に訴求する価格帯に降りてきたといえる。

iPadのビジネス利用にあたっては、iOSの機能やアプリ対応の面で課題が多い。だが、低価格帯のiPadが登場したことは、春からの新生活に合わせてiPadの購入を検討していた人には朗報だろう。

2018年に登場した最新のiPad Proは、プロのクリエイター用途などハイエンド寄りになっていた。その中で登場した新しいiPad AirとiPad miniは、ビジネス用途をカバーするメインストリームの製品として売れ行きに注目したい。

関連記事