上から目線の失敗宣言で炎上した「就職氷河期」改名騒動

カレー沢薫の時流漂流 第40回

上から目線の失敗宣言で炎上した「就職氷河期」改名騒動

2019.04.29

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第40回は、「就職氷河期世代」の“改名”について

日本政府が、「就職氷河期世代」の名称を「人生再設計第一世代」と変更して炎上したそうだ。

ただ、国のやることというのは「まず1回燃えろ。話はそれからだ」という印象があるため、山火事の中で行われるBBQの如く、他の炎上に比べて目立たない気がする。

就職氷河期世代というのは、バブル崩壊後に卒業期を迎えた30代半ばから40代半ばの人間、約1700万人を指し、この世代には現在も無職や非正規雇用が400万人弱いるといわれている。ちなみに私も、この400万人の中の1人だ。

私が現在無職なのは時代のせいかというと甚だ疑問であり、むしろ時代のせいにできる時期に社会人になって良かったとさえ思っているが、この時期に「時代が悪かった」せいで、就職を逃した人が多くいるのも事実である。

そういった背景があるにもかかわらず、「人生再設計第一世代」などと呼ぶのは、まるで本人がボンクラだったせいで就職を逃し、人生失敗したみたいではないか、と大いに燃えた次第である。

氷河期世代には私が含まれているので、ボンクラの数は0ではないが、おそらく残り399万9999人は、能力があるのに時代のせいで就職できなかった人であろうから、あらぬ誤解を与えるネーミングなのは確かだ。

政府の「テコ入れ」改名、その目的は

そもそも何故、今になって名称を変えたのか。結成から20年以上経つのに全然売れないから芸名を変えたみたいな話か、というとあながち間違いではなく、テコ入れに際し名称を変えたという。

どういうテコを入れるかというと、セクシー路線で売るなどではなく、もちろんこの400万人を「定職につかせる」ことである。しかし、それを聞いても「何で名前変えたん」という思いは消えない。

恵まれない時代を懸命に生きてきたのに、「頑張ってるつもりか知らんけど、君それ失敗してるから、人生再設計しなさい」と上から言われたら怒るのは当然である。

だが、私が失敗していないかというと、かなり人生ミスった感が否めない。なので、言葉尻に激怒するのは48時間ぐらいにして、国がやり直しの機会をやると言うのなら、喜んでコンテニューしようと思う。

では実際に国主導で何をするかというと、まず地域のハローワーク、大学、職業訓練機関、経済団体が連携し、対象者の状況を把握し、計画、目標をたて、不安定就業者の数を減らしていくという。

つまり、まず役所がその地域にいる不安定労働者の数や現状を把握し、その数を減らすよう計画する、ということだ。数を減らすと言われると、一か所に集めて燃やされるのかと思ってしまうが、具体的には人生再設計に向けた専門のハローワーク部署・専門家を置き、人生再設計、就職等へのアドバイス等の伴走支援を行うとともに、人手不足産業への就職促進やICT等の能力開発等、出口一体型のリカレント教育を強化するという。

これは文章を長くして煙に巻こうとしているパターンではないかと勘ぐってしまうが、簡単に言えば「手に職をつけさせる」ということである。確かにスキルがなければ低賃金の仕事にしかつけず、職についたとしても貧困から抜け出せない場合も多い。

そもそも国が氷河期世代の就職支援に乗り出したのは、手取り11万でもいいからとにかく定職に就かせたという実績を作るためではない。非正規雇用でも、30代~40代の今は生活できているかもしれないが、数十年後、この400万人が一斉に生活保護のお世話になることを国は危惧しているのだ。そこで、今のうちに70歳を過ぎても働ける状態にしておこう、というのが今回の試みなのである。

「余白の美」が認められる社会になるか

しかし当事者としては、「俺たちが20代のうちに何とかする気はなかったのか」というのが本音だろう。たとえ職業訓練でスキルを身に着けても、40代で実務経験なしだと難色を示す所が多いのが現状だ。

また、情報をびっしり入れ過ぎるとダサく見えるから、いかに上手く「余白」を入れるか、というのはデザインの基礎中の基礎である。それにもかかわらず、こと「履歴書」だけは、余白期間があると「君の人生のデザインどうなってんの?」と面接官に難癖をつけられ、かといってアルバイト履歴を書いても「それは就職とは言えないよ(笑)」という地獄が展開されてしまう。年月が経ち、余白が広がる前になんとかすべきだったのだ。

とはいえそこは国も考えており、就業希望者にただスキルを身に着けさせるだけではない。企業側にも人生再設計世代の雇用を積極的するように働きかけ、いかに余白多めのオシャレなデザインの40代が来ても「君この期間何やってたの?」と意地悪を言って帰すんじゃない、と指導するかどうかはわからないが、対象者を雇用したとき企業側が受け取る助成金の条件を緩和したり、就職可能な期間を延ばしたりして、再設計世代が就職しやすくするという。

ちなみに就労先として、人材不足の職種と同時に「人手不足の地方」を挙げていることがまた反感を買っている。確かに、職を探している人にむけ「選ばなきゃ仕事あるでしょ」と言うのが乱暴なように「都会に仕事がなければ、地方に行けばいいじゃない」というのはマリーアントワネット的思考であり、「そう簡単に言ってくれるな」というところだろう。

しかし、何せ私も400万人の1人であり、良い中年だ。反抗期のように国のやることに逐一反発もしていてもしかたない。

人生100年なら、30代40代はまだ、ショタとロリだ。「遅すぎる」などと思わずに再設計を考えてみても良いのかも知れない。

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2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

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