なぜ今頃? UQ mobileがiPhone 5sを取り扱うワケ

なぜ今頃? UQ mobileがiPhone 5sを取り扱うワケ

2016.07.08

「iPhone SE」が発売され、4インチサイズのiPhoneとしては既に旧機種となった「iPhone 5s」。にもかかわらず、ワイモバイルに続いてUQ mobileまでもが、iPhone 5sの取り扱いを始めることを発表した。なぜ、低価格でサービスを提供する事業者が、相次いでiPhoneの旧機種を扱うようになったのだろうか。

iPhone 5sで先行するワイモバイルに追いつくUQ mobile

6月23日に発表会を開き、新しい戦略を発表したばかりの、UQコミュニケーションズのスマートフォン向け低価格通信サービス「UQ mobile」。それから1週間が経過した6月29日、UQコミュニケーションズはUQ mobileに関する新しい施策を発表した。

それは、アップルの「iPhone 5s」の取り扱いを7月15日より開始することだ。UQ mobileはMVNOとしてKDDI(au)から回線を借りてサービスを提供していることから、正規のルート以外で取り扱うケースを除けば、日本でMVNOがiPhone 5sを取り扱う初のケースとなるだけに、驚きをもたらしたようだ。

ちなみに販売されるiPhone 5sはストレージが16GBのモデルで、カラーはシルバーとスペースグレイのみ。音声通話やデータ通信、テザリングも対応するとのことだが、価格などについては発売時に改めて発表するとされている。

UQ mobileが新たに取り扱うことを発表した「iPhone 5s」は2013年発売の旧機種で、NTTドコモが初めてiPhoneを取り扱うことで話題となったモデルでもある

確かに、MVNOが正規のルートでiPhoneを取り扱うというのは、従来であれば考えられなかったことだ。しかしながらよく考えてみると、iPhone 5sは約3年前に登場した2世代前のiPhoneであり、決して新しいモデルとはいえない。しかも今年、アップルはiPhone 5sとほぼ同じデザインとサイズ感ながら、性能を大幅に向上させた後継機種「iPhone SE」を発売しており、このタイミングでiPhone 5sが新機種として登場することに違和感を抱く人も少なくないはずだ。

ではなぜ、UQ mobileがiPhone 5sの取り扱いを始めたのか。

iPhoneの販売開始で狙うもの

それは、やはりソフトバンクがサブブランドとして展開しているワイモバイルの影響が大きいだろう。

UQ mobileはKDDIのグループ会社であるUQコミュニケーションズが展開しており、かつてはKDDIとやや距離があったものの、販売面でauとの協力を打ち出すなど、積極的なKDDI側のテコ入れによって、KDDIとの連携を強化。最近ではMVNOながら、auがカバーしきれない低価格層をカバーする、サブブランドに近い位置付けとなりつつある。

そして大手キャリアと密接に結び付きながら、低価格層を獲得するという戦略は、まさにソフトバンクがワイモバイルブランドで展開している戦略そのものだ。そのワイモバイルは今年の3月、春商戦の目玉としてiPhone 5sの取り扱いを開始したが、これが大きな評判となってユーザー数を急拡大している。そうしたことからUQ mobileも、ワイモバイルに追従するべくiPhone 5sの取り扱いを開始するに至ったといえそうだ。

ワイモバイルは今年の3月よりiPhone 5sを発売。これが人気となってユーザー数を拡大させているようだ

キャリアのサブブランドだからこそなせる業

しかしながらiPhoneを正規ルートで扱うためには、アップルと契約して端末を調達する必要があることから、扱うためのハードルは非常に高い。規模の小さいMVNOはアップルとの交渉テーブルにつくことすら難しく、海外などからSIMフリー端末を独自に調達するなど、正規外のルートで確保する以外に、販売する手段がなかった。

ではなぜ、UQ mobileがiPhone 5sを販売できたのかというと、形式上はMVNOであるものの、実質的にKDDIのサブブランドに等しい位置付けとなりつつあり、KDDIが積極的に関与するようになったことが大きいだろう。UQ mobileは低価格層のユーザー獲得で出遅れ感が目立っていたことから、さらなるテコ入れ策としてKDDI経由で端末を揃え、iPhoneを販売するに至ったと考えられそうだ。

UQ mobileはauの販売連携を進めるなど、これまでやや距離を置いていたKDDIとの距離を急速に縮めてきている

UQ mobileに先んじてiPhone 5sを投入しているワイモバイルも同様だ。しかもワイモバイルの場合、現在はiPhoneを販売しているソフトバンク自身が運営しているブランドであることから、元々iPhoneを扱いやすかったといえる。

かつてはiPhone 4Sも

実は、ワイモバイルがiPhoneを扱ったのは、今回が初めてではない。ワイモバイルの前身の1社であるウィルコムのショップで、2013年にソフトバンクモバイル(当時)のiPhone 4Sを取り扱っていたことがあったのだ。

この際、iPhoneの回線の契約先はあくまでソフトバンクモバイルであり、料金プランも当時のソフトバンクモバイルのものであったことから、大きな成果が得られたわけではなく取り組みも短期間で終了している。だがそうした取り組みからは、ソフトバンクが以前より、ソフトバンク以外のブランドでiPhoneを販売する方向性を探っていたことがうかがえる。

ワイモバイルの前身の1つでPHSなどを提供してきたウィルコムは、2013年の一時期、ソフトバンクモバイルのiPhone 4Sを扱っていたことがある

ただ、大手キャリアがサブブランドのiPhone販売に大きく影響しているだけに、キャリアのメインブランドで取り扱っている最新のiPhoneを、サブブランドで扱うわけにはいかない。UQ mobileやワイモバイルがiPhone SEではなく、型落ちのiPhone 5sを扱っているのには、メインブランドとサブブランドの力関係が大きく働いていると考えられる。

iPhone旧機種に需要は?

しかしそもそも、既にiPhone 6sやiPhone SEまでもが登場している中、いくら安価に提供されるとはいえ、型落ちのiPhone 5sに需要があるのか? という疑問を抱く人もいるかもしれない。そこで考慮する必要があるのが、国内における圧倒的なiPhone人気と、実質0円の事実上禁止である。

そもそも、日本でこれだけiPhoneが高い人気を獲得したのには、iPhoneの販売価格が大きく影響したことを忘れてはならないだろう。実は日本でiPhone人気に火が付いたのは、ソフトバンクが2009年にiPhone 3Gを0円で販売する「iPhone for Everybody」キャンペーンの影響が大きい。当時販売が低迷していたiPhoneを、ソフトバンクが0円で販売するという捨て身の戦略が功を奏し、人気を高めるのに成功したのである。

その後iPhone人気に追従するべくau、そしてNTTドコモがiPhoneの取り扱いを開始したが、各社とも販売するiPhone自体に差はないことから、各キャリアともいかにiPhoneを安く提供するかに力を入れ、激しい値下げ合戦が繰り広げられた。その結果、日本でスマートフォンを購入するならiPhoneが最も安いという市場環境を作り出し、それが日本でiPhoneの人気を高める大きな要因となったのである。

しかしながら昨年実施された「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の結果を受け、総務省は今年、スマートフォンを実質0円で販売するなど、過剰な割引をすることを事実上禁止した。その結果、元々非常に高額なiPhoneを安価に販売することは難しくなり、大手キャリアが販売するiPhoneの店頭価格も高騰してきている。

iPhone旧機種のターゲットは?

日本におけるiPhoneの人気は、特に若い世代ほど高い。だが若い世代は可処分所得が少なく、学生に至っては親のサイフに頼らざるを得ないことから、現在の環境では高額なiPhoneを手にするのが難しくなりつつある。低価格に強みを持つサブブランドで型落ちのiPhoneを取り扱い始めた理由は、iPhoneブランドに強いこだわりを持つ一方で高額な料金は支払えない、学生を中心とした若年層を取り込む狙いが大きいのだ。

実際、7月5日に実施したワイモバイルの記者向け発表会で、ソフトバンクのY!mobile事業推進本部 執行役員本部長である寺尾洋幸氏は、iPhone 5sを投入した理由について「子供達の中でiPhoneは非常に強いブランド。我々がiPhone 5sを投入したことで、大手の半値くらいで提供できた。高校でスマートフォンデビューする時に選んでもらいやすくなった」と話しており、高校に進学する学生を狙ってiPhone 5sを投入したことを明らかにしている。

iPhone 5sの効果もあって、3月以降ワイモバイルの加入者数は急拡大。4月には前年比280%の伸びを示している

正規の手段でiPhoneを販売できるのは大手キャリアのグループならではのメリットであり、他のMVNOには容易に真似することはできない差別化要因となる。しかも先行するワイモバイルが、安価であればiPhoneの旧機種でも十分支持が得られることを証明している。それだけにUQ mobileは、iPhone 5sの販売開始を機として、iPhoneを中心に据えた販売拡大戦略をとってくる可能性が高いといえそうだ。

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

「eBASEBALL」の初代覇者が決定! 定番プロリーグとして定着なるか

2019.01.17

「eBASEBALL」で初代王者を決めるe日本シリーズが開催された

頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ

はたして“もう1つのプロ野球”で頂点に輝いたのは?

1月12日、東京ビッグサイトTFT HALL 500にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018」のe日本シリーズが開催された。頂点を争ったのは、埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズ。はたして初代王者に輝いたのは、どちらのチームか。

3カ月間の戦いの末、頂点を争う切符を勝ち取った2チーム

「eBASEBALL」とは、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018(パワプロ)』を使用した、日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共同で開催するプロリーグだ。

2018年7月より行われたオンライン予選、西日本、東日本選考会を経て、9月末に実際のプロ野球球団による「eドラフト会議」を実施。ドラフトで指名された選手は、プロゲーマーとして各球団に所属する形になった。

11月からは実際のプロ野球のペナントレースのように、セ・リーグ、パ・リーグに分かれて「eペナントレース」がスタート。そして12月に行われた、eペナントレース上位チームによる「eリーグ代表決定戦」によって、パ・リーグの埼玉西武ライオンズと、セ・リーグの横浜DeNAベイスターズが、e日本シリーズへの切符を手にした。

パ・リーグ代表の埼玉西武ライオンズは、eペナントレースを13勝2敗の圧倒的な強さで勝ち抜き、eリーグ代表決定戦でも危なげなく、代表権を獲得。対するセ・リーグ代表の横浜DeNAベイスターズは、キャプテンであるじゃむ~選手のデータを活かした戦術と強力打線、そして巧みな投球術でeリーグ代表権をもぎ取った。

埼玉西武ライオンズのなたでここ選手(写真左)、BOW川選手(写真中)、ミリオン選手(写真右)
横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手(写真左)、じゃむ~選手(写真中)、AO選手(写真右)
会場は超満員。立ち見席も出るほどの人気ぶりで、まさに日本一を決定するのに相応しい舞台となった

一発勝負の決勝戦! 最後に笑うのは……?

e日本シリーズでは、各チーム3名による3イニング交代制の試合を1戦だけ行う。そこで勝利したチームがeBASEBALL パワプロ・プロリーグの初代チャンピオンになるわけだ。

『パワプロ』でお馴染みの選手の調子発表

選手の調子を見ると、埼玉西武ライオンズは、主力に不調の選手がおらず実力を存分に発揮できそうなラインアップ。横浜DeNAベイスターズは主砲筒香の好調が嬉しいものの、桑原、ソトの不調が厳しい。どちらかというと調子具合は埼玉西武ライオンズが優位に見られた。

さぁ、いよいよプレイボール。まず1人目、埼玉西武ライオンズはミリオン選手、横浜DeNAベイスターズはヒデナガトモ選手がコントローラーを握る。奇しくも、ペナントレースで最多奪三振のタイトルを獲得した2人の対戦となった。

そのため、激しい投手戦が繰り広げられたが、3回裏に均衡が破られる。豪打を誇る埼玉西武ライオンズとしては珍しいスクイズで1点を先制すると、そこから怒濤の連打で計5点をもぎ取り、序盤にして埼玉西武ライオンズが大量リードを得た。

スクイズ、スチールと小技も冴え、一気に5点を奪うミリオン選手
センターフライの捕球ミスやスクイズの打者をアウトにできなかったなど、ミスが出てしまったヒデナガトモ選手

2人目は埼玉西武ライオンズがBOW川選手、横浜DeNAベイスターズがじゃむ~選手と、キャプテン対決。じゃむ~選手が2点を返すも、BOW川選手が1点を追加し、スコア「西武 6-2 DeNA」で最終プレイヤーにバトンが渡された。

埼玉西武ライオンズのキャプテンを務めるBOW川選手
横浜DeNAベイスターズの軍師ことじゃむ~選手

最後は、ペナントレースで急成長した埼玉西武ライオンズのなたでここ選手と、横浜DeNAベイスターズ無敗のエースAO選手の対戦となった。

最優秀防御率のタイトルを獲得し、eペナントレースでの失点はわずか3点と脅威の安定感を持つAO選手は、e日本シリーズでもその実力を発揮。打撃3冠を獲得したなたでここ選手をみごとに完封した。しかしながら、3イニングでは1点を返すのがやっとで、最終スコアは「6対3」。埼玉西武ライオンズが優勝し、e日本シリーズを制した。

今回の大会で急成長したなたでここ選手
横浜DeNAベイスターズのエースとしてチームを牽引したAO選手
ペナントレースから実況を担当した清水久嗣アナはe日本シリーズの実況も担当
解説を務めた元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏
同じく解説を務めた元中日ドラゴンズ監督の谷繁元信氏
ゲーム解説を務めるぶんた氏
パワプロ・プロリーグ初代チャンピオンの埼玉西武ライオンズ

埼玉西武ライオンズも横浜DeNAベイスターズも、打撃、特に本塁打に期待できる選手が揃っており、その打撃力で勝ち進んでいたなかで、e日本シリーズではホームランが「ゼロ」という、頂上決戦に相応しい緊迫感のある試合だったといえよう。

e日本シリーズでは博多激獅会も応援に駆けつけ、プロ野球さながらの応援が飛び交った

試合終了後は、優勝の表彰とともに、各個人タイトルの表彰も行われたので、その様子も紹介しよう。パ・リーグでは、首位打者、本塁打王、打点王、最優秀防御率の4冠を埼玉西武ライオンズのなたでここ選手が獲得。最多奪三振は埼玉西武ライオンズのミリオン選手が獲得した。

また、セ・リーグでは、首位打者と本塁打王の2冠を広島東洋カープのカイ選手、打点王と最優秀防御率の2冠を横浜DeNAベイスターズのAO選手、最多奪三振を横浜DeNAベイスターズのヒデナガトモ選手が獲得。そして、MVPには、4冠獲得のなたでここ選手が選出された。

パ・リーグの最多奪三振を獲得したミリオン選手
セ・リーグの首位打者と本塁打王を獲得したカイ選手
セ・リーグの打点王と最優秀防御率の2冠を獲得したAO選手
セ・リーグの最多奪三振を獲得したヒデナガトモ選手
パ・リーグの首位打者、打点王、本塁打王、最優秀防御率の4冠、そしてMVPを獲得したなたでここ選手
e日本シリーズでは12球団のマスコットがそろい踏み。スポンサーであるSMBCのキャラクター「ミドすけ」も登場した

eBASEBALLは試合を重ねるごとに盛り上がりを見せ、決勝の舞台でもあるe日本シリーズでは立ち見が出るほど多くのファンが駆けつけた。プロ野球ファンにとって、オフシーズン時期の楽しみの1つとして、eBASEBALLが定着しそうな気配も感じる。

最後にNPB(日本プロ野球機構)コミッショナーの斎藤惇氏による締めの挨拶にて、「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2019」の開催も発表された。来シーズン、さらなる飛躍と盛り上がりに期待したい。

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。