eスポーツを“魅せる”ゲーム内カメラマンという職業

eスポーツを“魅せる”ゲーム内カメラマンという職業

2019.04.24

さまざまな大会が開催されるようになったeスポーツ

大会では動画配信を行うことも珍しくない

eスポーツの映像はどのように生み出されているのか

RIZeSTで働く「ゲーム内カメラマン」に話を聞いた

「4いくよ、4。はい、いった」
「マップ出せる?」
「次、SunSister追って」

会場に設置したディスプレイやインターネット上の配信サービスで、ゲームの映像を届けるeスポーツイベント。プロゲーマーが火花を散らす舞台の裏側では、めまぐるしく変わる戦況に応じて、スタッフが視聴者を楽しませるための映像を手がけている。常にさまざまな指示が飛び交う配信室は、さながら“もう1つの戦場”といったところだ。

eスポーツの映像は、単純なプレイヤー視点のゲーム映像ではない。タイミングよく情報を表示させたり、スーパープレイが起きればリプレイを流したり、盛り上がるであろうシーンを近くから映したりと、いくつもの工夫がされているのだ。特に、広いフィールドのなかを、プレイヤーごとに異なる視点で動くゲームの場合は、視聴者にどのシーンを見せるのかが重要になってくる。

その役割を担うのが「ゲーム内カメラマン」と呼ばれる人たち。なかなか表舞台に出ることはないが、高度なゲーム知識と、豊富な経験がなければ務まらない。彼らの手で、視聴者の観たいシーンを絶妙な角度で切り取る――。それが、ゲーム観戦をエンターテインメントに昇華させているのだ。

今回は、eスポーツイベントを裏側から盛り上げるゲーム内カメラマンの話をしよう。

巧みな連携によって最適なシーンを届ける

「eスポーツのおもしろさを、視聴者にうまく伝えるための仕事です」

ゲーム内カメラマンとは何か? という問いに対して、RIZeSTでゲーム内カメラマンのスイッチャーを務める立石雄太氏はそう答えた。同社はeスポーツのイベント運営を請け負う企業。会場の設営からキャスティング、映像制作などを、トータルでサポートする。

RIZeSTでゲーム内カメラマンのスイッチャーを務める立石雄太氏

「たとえば、『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)』というバトルロイヤルゲームでは、広いフィールドを移動する参加プレイヤー64人を平等に扱いながら、対戦が発生した場合はそこにフォーカスしたり、実況・解説の内容に合わせて表示画面を変えたりと、eスポーツの魅力を最大限届けられるよう心がけています」

最大100人のプレイヤーがフィールドに降り立ち、落ちているアイテムを駆使しながら最後の1人になるまで戦うバトルロイヤルゲーム『PUBG』。見事に最後まで生き残れたとき、「勝った! 勝った! 夕飯はドン勝だ!!」と画面に表示されることから、100人の頂点に立つことを「ドン勝する」と呼ぶ。2人のタッグプレイ(デュオ)や4人のチームプレイ(スクワッド)も可能で、その際の「ドン勝」の条件は、「ほかのチームのプレイヤーを全員倒すこと」だ。

日本ではDMM GAMESが、PUBGを使った国内公式eスポーツのプロリーグとして「PUBG JAPAN SERIES(PJS)」を開催している。ルールは4人1チームのスクワッド。16チーム計64人で、1日4試合ずつ、6日間行ってシーズンの覇者を決めるというものだ。

立石氏は、このPJSにおいて6人のゲーム内カメラマンを統括する「スイッチャー」として“ゲーム内カメラマンのボス”のような役割を担う。プレイヤーが64人いる状態でスタートするPJSでは、誰がどこで何をしているかわからない。そのため、ゲーム内のさまざまな場面をチェックしている「ゲーム内カメラマン」が観戦機能で撮影する画面を、戦況に応じて立石氏が切り替えているのだ。

PJSの会場。選手64人は同じ会場でPUBGをプレイする
PJS season2 Phase2 PaR Day1のアーカイブ動画。定期的に視点が切り替わっていくのがわかる

PJSを配信中の現場にお邪魔すると、立石氏は常に何らかの指示を出しているようだった。「次、2いくよ」とカメラの番号を伝えてから手元の機器を操作し、画面を切り替えたかと思えば、「SunSisterいける?」とチーム名をカメラマンに伝えて、次の動きを指示する。

「PJSの場合、カメラマン6人とマップ管理、そしてスイッチャーの計8人がゲーム映像を担当します。6人のカメラマンのうち中心にいる2名のリーダーに僕から指示を出して、そのリーダーが左右のカメラマンに指示をする流れです。状況に応じて『俯瞰の映像を撮りたい』『ここの戦闘を追おう』といったことを伝えていますね」

PJS配信室の様子。立石氏は6人から送られてくる映像を常に見比べながら、最適なものを選択する

現場にいるカメラマンはインカムでつながってはいるが、全員が一斉に発言すると混乱するので、リーダーを立てて連携するルールを決めたという。だが、スイッチャーが状況に応じて指示を出すとはいえ、カメラマンが言われた通りに動いているだけかというと、そうではないらしい。

「実況・解説の声は全員がしっかり聞いて、その情報を把握しながら動いてもらっています。特定の選手が話題に出たら、その選手のカメラに切り替えるようにしているのですが、それをイチイチ指示していたら間に合いませんからね。ただ、もちろんすべての情報を把握できるわけではないので、言葉はかけあうようにしています」

ゲーム内の状況に加え、配信室内での指示や、実況・解説の声にも耳を傾ける。PUBGの局地的な戦闘は一瞬で終わることも珍しくないので、決定的な瞬間を撮り逃さないように、さまざまな情報を把握しながらすばやく行動しなければならないのだ。

そのように情報が錯綜しがちな配信室内では、可能な限り連絡をスマートにしていき、「何も言わなくても伝わるようになるのがベスト」だと立石氏は考える。実際に現場でのやり取りを見ていると、かなり洗練された連絡系統が確立されているように思えたが、事前に綿密な打ち合わせなどは行っているのだろうか。

「ゲーム内カメラマンチームの打ち合わせは、実はおおざっぱなものです。『こういう場面ではこうしよう』といったことを決めておいても、実際はうまくいかないことが多いんですよ。その場で臨機応変に対応しなければいけないことがほとんどなので、決めるのは序盤・中盤・終盤ごとの大枠のルールだけです」

各プレイヤーがフィールド内でバラバラに散る序盤は戦闘が起きにくい。そのため、いくつかのポイントを短い間隔で順番に映していく。中盤はリーダーからの報告のみに限定し、最も盛り上がる最終局面では戦闘を仕掛けるプレイヤーがわかった瞬間にカメラを切り替えられるようにしているそうだ。

「このようなルールは、試行錯誤しながらほぼ毎週変えていますね。特にPJSでは、シーズン1からシーズン2に移行する際、大幅にルールが変わり、キル(敵のプレイヤーを倒すこと)を取れば取るだけポイントが入るようになったので、戦闘数が異常に増えました。シーズン1ではリーダー以外にも発言してもらっていたのですが、それだと混乱するようになったので、チームで話し合いながら、今の形にようやく落ち着いた感じです」

ルールが変わればプレイヤーの動きも変わる。プレイヤーの動きが変わればカメラもそれに合わせて動かなければならない。プロチームの情報はもちろん、プレイヤーの動き方まで把握しなければ、選手の魅力的なプレイを視聴者に届けることができないのだ。

「チームメンバーの入れ替わりやキルを取る選手、索敵を担当する選手などは把握しています。ただ、もちろんすべての戦闘を撮りきれるわけではありません。派手な戦闘が起きそうなときでも、先に別の場所で小さい戦闘が始まった場合には、そちらを最後まで追いかけるようにしています。そのチームのファンであれば、結末を見届けたいと思うはずですから」

手探りでスタートしたゲーム内カメラマンのキャリア

さまざまな情報を把握しながらタイミングよくゲーム画面を切り替えて「eスポーツイベントの映像」を生み出す立石氏。ゲーム内カメラマンという仕事が一般的に普及しているとは言い難いなかで、なぜこの仕事を選んだのだろう。

「最初からゲーム内カメラマンをやろうと思っていたわけではありませんでした。もともとは映画系の大学で音響などをやっていたのですが、秋葉原にあるe-sports SQUARE AKIHABARAでアルバイトを始めたときに、店長から映像をやってほしいと言われたのがきっかけですね」

アルバイトを始めたのは3年前。国内ではまだ「eスポーツ」という言葉すら知られていなかった時代だ。もちろん、eスポーツのスタッフもほとんどいない状況である。

「自分たちで全部やるしかないという状況でした。対戦格闘ゲームの大会『闘劇』でプロデューサーをされていた方がいろいろと教えてくださったので、正しい方向に成長できたと思いますが、手探りの部分も多かったですね」

ゲームイベントの映像周りをすべて担当していた立石氏。「ゲーム内カメラマン」というゲーム映像の担当ができたのは、さらに最近のことだという。

「僕はゲーム画面と実況・解説の様子、選手の様子などを切り替える放送全体のスイッチャーをやっていたのですが、以前アクションシューティングゲーム『オーバーウォッチ』のイベントを実施した際に、ゲームのカメラも必要だという話になりました。そこで、自分が担当するようになった形です」

急速に普及したeスポーツでは、まだイベント運営のノウハウが蓄積されているわけではない。実際にeスポーツ大会の運営経験を積み重ね、試行錯誤を繰り返していくことで「ゲーム内カメラマン」という存在の必要性に気付いたのだ。

「ゲーム内に限定されることで、これまで以上に知識が求められるようになりました。もともとゲームはやるほうなので、わかっていたつもりだったのですが、知識不足を実感することも多くて。練習試合や海外の配信を観て、勉強するようになりましたね」

PJSではゲーム内カメラマンが作業する部屋の横に、放送全体の切り替えを行う配信室があった

eスポーツの普及には映像クオリティのボトムアップが必要

eスポーツの主役はプロゲーマー。しかし、プロ選手にスポットライトを当てるためには、照明を持つ人が必要だ。現状では、まだ照明を当てる側の人間も少ないのではないだろうか。立石氏はゲームイベントを支える仕事について、今後どうなっていくべきだと考えているのだろう。

「コミュニティの大会でも映像クオリティが底上げされていけばいいなと思います。PJS以外にもPUBGのイベントを楽しめるのはいいことですし、毎日何かしらの楽しみが生まれますからね」

立石氏が望むのは、eスポーツ全体の映像クオリティの向上。エキサイティングな映像でeスポーツの魅力を伝えられる大会が増えれば、それだけファンが増える可能性がある。

「ただ、PJSはDMM GAMESさんのサポートによって、6人のゲーム内カメラマンをアサインできていますが、コミュニティレベルのイベントでは、同じPUBGでも、1人でゲーム内カメラマンを担当することがほとんどです。主催者が高いクオリティの映像を届けたいのかどうかにもよりますが、選手の優れたプレイや動きを観られないのは、視聴者にとっても残念なことだと思うので、小さい大会でも、練習試合でも、いいプレイをいい画面で観てもらえるようになるといいと思います」

ゲーム内カメラマン6人をアサインすることは、けっして簡単ではない。しかし、映像のクオリティを高めることができれば、視聴者の満足度も上がるはずだ。主催者やスポンサーが資金を出し惜しみすれば、それだけ出来上がる映像のグレードは下がってしまう。

「実際、練習試合の配信では視聴者数もそこそこ。コンテンツのレベルが上がれば視聴者数も増えるだろうし、視聴者数が増えればスポンサーのブランド露出も増えるはずです。PJSでは、投げ銭のようなスーパーチャット機能も実装されましたが、機能を搭載するだけでなく、観ている人たちがお金を出したくなるレベルのコンテンツを作ることが大事だと思いますね」

視聴者がお金を払いたくなるためには、コンテンツの質を高める必要があると考える立石氏。もちろん、高いクオリティの映像を制作するには、スタッフなどの運営体制をしっかりと整える必要があるのだ。

「僕がかつて見ていたeスポーツは、海外のコンテンツ。日本もそこに近づいてはいますが、海外シーンも同様に成長しています。PJSはゲーム内カメラマン6人態勢で進行しますが、韓国などはもっと人数が多いでしょうし、機材もいいものを使っているでしょう。そう考えればまだまだ、日本にも伸びしろはあるはずです」

eスポーツの発展にはコンテンツクオリティのボトムアップが必要。そう話す立石氏にとって、質の高い映像とはどのようなものを指すのだろうか。

「個人的な意見ですが、ゲーム内カメラマンはいかに視聴者が自然にプレイに入り込めるかが大事だと考えています。主役はあくまでも選手。選手を魅せるために、カメラという存在感をいかに消すか、それを目指して仕事していきたいですね。映像づくりにおいては、引き続き僕らの出せるベストを毎回更新していければなと思います」

ゲーム内カメラマンは、あくまで視聴者の目に過ぎない。カメラの存在をいかに消して、選手のプレイに没頭してもらえるかが大事だと立石氏は考える。口調こそは静かだったが、ゲーム内カメラマンとしてのこだわりが伝わってきた。

「正直、あまり表舞台には出たくないんです。そっとしておいてほしいと言いますか……(笑)」

取材を始める前に、立石氏はこう言った。eスポーツの主役はプロゲーマーであり、ゲーム内カメラマンは表舞台に出る必要はないと。

しかし、eスポーツを“魅せる”エンターテインメントへと昇華させている彼らの存在があってこそ、多く人が楽しめるコンテンツが生まれているのだ。eスポーツ普及への貢献度は、計り知れないだろう。

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2019.06.17

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最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu