【NTTドコモ】海外でのM&Aの失敗を国内のM&Aに生かす

【NTTドコモ】海外でのM&Aの失敗を国内のM&Aに生かす

2016.07.13

【NTTドコモ】海外でのM&Aの失敗を国内のM&Aに生かす

国内最大の移動体通信業者

 NTTドコモ<9437>は、親会社のNTT(旧日本電信電話公社)によりサービスが開始された無線呼出(ポケットベル)の事業をルーツとしており、1991年8月にエヌ・ティ・ティ・移動通信企画株式会社として設立された。ドコモという社名の由来は、Do Communications Over The Mobile Network(移動通信網で実現する、積極的で豊かなコミュニケーション)の、頭文字をつづったものである(NTTドコモHP参照:https://www.nttdocomo.co.jp/corporate/about/outline/identity/)。

 92年には政府措置によりNTTから分離され、98年10月に東京証券取引所第一部に上場した。「iモード」の大ヒットなどにより、ITバブル期の2000年には、時価総額40兆円を超え営業利益は1兆円にも達した。そして現在、ドコモの携帯電話市場シェアは16年3月時点で国内トップの約45%である。

もろくも崩れた海外でのM&A戦略

 98年に上場したドコモは、00年のITバブルにかけて国内移動体通信事業者だけでなくIT企業として国内では圧倒的強さを誇っていた。98年に上場して以降、00年にかけてITバブルとともに株価は跳ね上がり、上場時約8.8兆円だった時価総額はわずか2年後の00年には4倍以上の40兆円にまで達した。この時、親会社のNTTの時価総額を10兆円以上引き離し日本企業トップとなった。

 当時、携帯電話事業はおろかヤフーBBのサービスを始める前のソフトバンクですら時価総額21兆円で、同時期のトヨタ自動車の時価総額が16兆円程度だったことを考慮すると、IT関連株の株価の高騰は異常だったことがよく分かる。

 また、この時のドコモの株価収益率(PER)[注1] は150倍以上、EV/EBITDA倍率[注2]は30倍以上であり、同時期の日経平均のPERが70倍前後(近年は15倍~20倍前後)とITバブルの影響もあり水準こそ高いものの、ドコモのような巨大企業がPER150倍以上になることは通常であれば極めて稀なことである。 [注1] : Price Earnings Ratioの略称。株価収益率。 株価と企業の収益力を比較することで株式の投資価値を判断する際に利用される。時価総額÷純利益、もしくは、株価÷1株当たり利益(EPS)で算出される。[注2]:「簡易買収倍率」ともよばれ、企業の割安性を測る指標。 EV(企業価値)がEBITDA(営業利益+減価償却費)の何倍になっているかを測る 。

 こういった株高を背景に、ドコモの海外でのM&Aは00年前後のITバブル期に集中している。例えば、英ハチソンテレフォン、蘭KPNモバイル、米AT&Tなど、1千億円を優に上回る巨額のM&Aを集中して行っている。

■NTTドコモの行った主なM&A
年月 概要
1999.12 香港のハチソンテレフォンカンパニーに2,000億円出資し、株式の19%取得。
2000.05
オランダの携帯電話会社KPNモバイルに5,000億円出資し、株式の15%取得。
2000.11 米AT&Tの携帯電話事業部門であるAT&Tワイヤレスへ1兆800百億円出資し、株式の16%取得。
2001.01
ビットワレット(現楽天Edy)にソニーなどとともに57億円出資し、株式の5%取得。
2005.04
三井住友カードに増資引き受け等を通じて987億円出資し、株式の34%取得。
2005.11 タワーレコード(東京)に業務提携を目的とし128億円出資し、株式の42%取得。
2005.12 韓国2位の移動体通信事業者KTに増資引き受け等を通じて655億円出資し、株式の6%取得。
2006.01 フジテレビジョンの株式2.6%を207億円で取得。
2006.01 フィリピンの通信事業者PLDT社へ、筆頭株主から株式6.4%を1700億円出資し取得。
2006.03 グアム島および北マリアナ諸島の移動体通信事業者であるグアムセイラー社およびグアムワイアレス社を83億円で株式100%取得し買収。
2006.04 ローソンへ自己株式の譲受により株式の2%を91億円で取得し資本参加。
2006.12 角川グループホールディングスの株式4%を40億円出資し取得。
2007.01 日本テレビ放送網の株式3%を134億円で取得。
2007.06 ゼンリンの高品質な地図データベースと高度な地図データ配信技術を有するゼンリンデータコムの株式10.3%を取得。
2007.06 ファミリーマートの自己株式譲受により株式の3%を90億円で取得。
2009.02 ドコモとエイベックス・エンタテインメントは、新たにエイベックス通信放送を共同出資により設立。ドコモの出資比率は30%で取得価額21億円。
2009.03 インドのタタ・グループ持株会社タタ・サンズ、およびタタ・サンズ傘下の通信事業者TTSLの株式27%を2,667億円出資し取得。
2009.04 エクササイズ商材や健康食品、CD等、ネット通信販売会社オークローンマーケティングの株式51%を310億円出資し子会社化。
2011.12 2009年共同出資により設立されたmmbiへ300億円追加出資し株式の9.5%を追加取得。
2012.03 有機、低農薬野菜と無添加食品の会員制宅配サービスを展開している、らでぃっしゅぼーやを公開買付により69億円で株式の14%取得し買収。
2012.06 2005年に出資していたタワーレコードの株式8.2%を買い増し子会社化。
2013.03 ファッションサイト「MAGASEEK」などを運営するマガシークの株式を公開買付により20億円で株式の71%取得。
2013.05 メディカルデータベース事業を展開する日本アルトマークの株式77.5%を26億円で取得。
2013.08 東京放送ホールディングス及びTBSテレビと業務提携により株式の3%を70億円で取得。
2014.01 料理教室最大手「ABCクッキングスタジオ」を運営するABC HDの発行済普通株式取得により株式51%を200億円で取得。

 00年には、国内携帯電話市場では99年2月から開始したデータ通信サービス「iモード」の大ヒットによりドコモは圧倒的なシェアを持っていた。

 しかし、既に飽和状態になりつつある国内市場において、ドコモにとって海外への進出は必須の課題だった。また、01年にはこれまで国や地域ごとに異なっていた通信方式が次世代携帯電話で統合されるという差し迫った問題もあった。

 こうした状況下、世界市場を攻略するには携帯電話会社のグループ化とネットワークを共同構築することが必要だった。そのため、ドコモは資本参加する際の出資比率を20%以下に抑える一方、次世代サービスに向けた先進技術・ノウハウを供与するという戦略を打ち出した。データ通信性能が高い次世代携帯電話ではiモードのようなネット接続サービスが中心となると考え、必要となる無線通信技術と運営ノウハウを提携関係の担保とする戦略であった。

 ドコモが海外での提携関係を築こうとする中、ライバルの英ボーダフォン・グループは米エアタッチを約6兆2千億円で買収。さらに、米通信大手ベル・アトランティックとの米携帯電話事業を統合し、約17兆7千億円規模で独マンネスマンを買収と、巨額のM&Aにより英独米の三市場を制していた。

 こういったライバル企業の動向が、「iモード」で世界の携帯市場の主導権を握りたいドコモにとって、00年前後の巨額M&Aを急がせる動機となり、それとともに00年以降ドコモは手許資金が減少し、借入の割合が増加している。

■現預金・借入の割合推移

※2003年3月期より米国会計基準へ変更

■自己資本比率

 しかしながら、ドコモに限らずこの時期に行われた巨額M&Aの大半は結局失敗に終わっている。

 M&Aで先行していた英ボーダフォン・グループについては、01年3月期に約1兆6千7百億円の最終赤字を計上し、同じくドコモについても、累計2兆円近くを欧米、アジアの通信会社に投じ、その後、AT&Tなど出資先4社の収益環境の悪化に対応し、1兆円を超す損失を出し株式売却を余儀なくされている。

 ドコモは当初、経営権を握れない部分出資でも、「iモード」などの技術供与料や出資先の会社が株式を上場した時の株式売却益などで投資のリターンは十分確保できると見ていたが、ITバブルの崩壊とともに巨額M&Aを繰り返してきた欧米各社が行き詰まり、それに続く形でドコモも巨額M&Aの減損処理に追い込まれたのである。

海外M&Aの失敗を教訓に、国内M&Aでは事業の多角化を図る

 度重なる海外でのM&Aの失敗の経験から、ドコモは通信会社としてではなく、携帯電話を核とする総合サービス企業に転身を図ろうとしている。

 09年、テレビ通販「オークローンマーケティング」を皮切りに、有機野菜宅配サービス「らでぃっしゅぼーや」、CD販売「タワーレコード」と異業種の買収・子会社化を積極的に展開している。これらのM&Aでは、提携先とのシナジーを発揮するだけでなく、ドコモのサービスそのものへの取り込みも行われている。

 その一例が、dショッピングである。ここではオークローンマーケティングの通販商品や、らでぃっしゅぼーやの有機野菜を取り扱う。また、dショッピングからタワーレコードのオンラインショップへのリンクも用意している。

 こういったM&Aの方針転換は、将来的には音声通話収入の減少や、スマートフォンのデータ通信料の伸び悩みも見据えたものであり、ドコモは音声通話とデータ通信に頼らない収益構造の構築を急いでいる。

■上場来業績推移

※2003年3月期より米国会計基準へ変更

 ドコモ財務内容を見ると、自己資本比率はITバブル以降も非常に高い水準を保っている。営業収益こそ年々減少傾向にあるものの、利益水準は維持しており、収益構造の効率化が見受けられる。また、株価についてはITバブル期の異常なPERを除き近年は15倍~20倍前後と比較的安定しており、国内携帯電話キャリアNo.1の企業であり、かつ安定した高配当銘柄として、株主も安定していることが伺える。

■各社年度末シェア 推移

※一般社団法人 電気通信事業者協会データベース(http://www.tca.or.jp/database/)より

 海外のM&Aの失敗から国内のM&Aに回帰した感のあるドコモであるが、どちらかというと守りのM&Aを行っているように見える。海外での大胆なM&Aがことごとく失敗したため、地に足の付いたM&Aを行っていくことが今のドコモにとって最善という結論に至ったのかも知れない。

変わりゆく国内携帯電話市場

 近年、音声通話の定額プランや仮想移動体通信事業者(MVNO)[注3]による格安携帯、2年契約の途中解約における違約金の解除など、携帯電話市場は大きな転換期にあり、これまでほぼ独占状態にあったドコモをはじめとする大手携帯電話会社各社にとって収益構造の多角化や事業展開の工夫が求められている。[注3]:「Mobile Virtual Network Operator」、日本語では「仮想移動体通信事業者」。 大手キャリアなどから無線通信基盤を借り受け、独自サービスを加えて提供する企業のこと。

 15年春、携帯電話に挿入されているSIMカードのロックが解除できるSIMロックの解除が義務化された。SIMロックとは、携帯電話利用者が購入したキャリアのSIMカードしか読み込まないようにする仕組みのことで、これによってユーザーの囲い込みができるといわれている。

 しかし、今回SIMロックの解除が義務化されたことで、例えばスマートフォンの中に入れるICチップを交換するだけで今までと異なるキャリアでスマートフォンを利用できるようになった。

 これを機に、ドコモなどの大手キャリアから回線を借りて格安SIM・格安スマホを展開するMVNOが急激に増加、契約者数も同様に増えている。大手携帯キャリアに対してMVNOは、初期費だけでなく利用料も安いことが、消費者心理に大きな影響をもたらしている。。

 これまで多くのユーザーが携帯電話を買う際には、割賦(分割払い)を利用しており、大手キャリアのほとんどは24回にわたって通信料を割り引くことでスマートフォンなどの実質価格を抑えていた。しかし今後は、携帯電話はそのままにキャリアだけ乗り換えるといったことが当たり前になると考えられる。

 政府主導の携帯電話市場の自由化により利用者にとってはより安くより便利に、これまでほぼ市場を独占してきた大手キャリア3社にとって、これまで以上にM&Aを視野に入れた経営戦略、それに伴う業態転換や経営の効率化が求められるようになった。

 急激に市場が変化していく中で、ドコモのこれまでのM&A戦略が正しいかどうかを見極めるのは時期尚早と言えそうだが、携帯電話利用者の立場からすれば、過去の海外での巨額M&Aの失敗経験を生かし、より安くより便利にサービスを受けられることにつながるような今後のM&A戦略に期待したい。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

「コミケ有料化」の経緯と“DB”の哲学

カレー沢薫の時流漂流 第20回

「コミケ有料化」の経緯と“DB”の哲学

2018.12.17

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第20回は、盆暮れにやってくるオタクの祭典「コミケ」の有料化について

来年の話になるが、2019年からコミケことコミックマーケットが有料化するそうだ。

このニュース、「ガタッ」と席を立った人と興味ゼロな人、真っ二つだと思う。私だって「渋谷ハロウィン有料化」と言われたら、「別にいいんじゃないすか、知らんけど」と答えるだろう。

コミケの「入場料」、参加者の反応は

まずコミケとは同人誌即売会の事である。よく知らない人からすれば、アニメや漫画のキャラクターを使った破廉恥極まる漫画、すなわちDB(ドスケベブック)が並んでいる場所というイメージがあるかもしれないが、その印象はまったく間違っていない。

しかしDJB(ドスケベじゃないブック)もあるし、手作りのグッズやアクセサリーを売っている人もいる。また企業の参加も多く、もはや、どんたくやねぶたに並ぶ大きな「祭」と言っていいだろう。

そのコミケだが、東京オリンピックの影響を受けて、長らく会場として使っていた東京ビッグサイトが使えなくなり、中止になるのではという噂があった。結局、中止されることはなかったが、東京ビッグサイトと青海展示場の2か所を会場とし、期間を4日にして開催される予定のようだ(従来は3日)。

しかし、従来のコミケより規模を縮小することには変わりなく、収益は例年より減るのに、警備費などの費用がいつもよりかかると予想されており、DBなどを売る側である「サークル」から徴収する「サークル参加料」だけでは採算がとれないので、買う側である一般入場者側からも金をとることにしたようだ。

これに関しては概ね「仕方ない」という反応が多いそうだ。虎穴に入らずんば虎児を得ずと同じように、入場料を払わなければDBを得られないと言われれば払うしかない。また、そうしないとコミケ自体が成り立たないと言うなら、参加者として協力せざるを得ないだろう。

だが、オタクが金を惜しまないのはあくまでDBもしくはDJB本体に対してだけだ。DBを買う時に「値札を見る」というのは「集中力に欠ける」としか言いようがない。表紙の破廉恥極まる推しの姿以外が視界に入るようではまだ青い。

また、同人誌即売会で売られる本というのは「数に限りがある」。よって目当ての本というのは「買えるか買えないか」でしかなく、「いくらか」は関係ない。

たとえページ数に対し割高な値段であろうとも、どうせ明日には転売野郎が同じ商品を法外な値段でオークションに出すのだ。それだったら相場の何倍だろうが、「目が眩むほど推しを破廉恥に描いてくださったご本人」の懐に入ってくれた方がありがたい。むしろその金を元手にもっと描いて欲しい。

別の例で言えば、ライブのチケットでも、まずチケットが取れたことが嬉しく、チケット代がいつもより安いとか高いとかはあまり考えないだろう。しかしイープラスなどに払う「手数料」までどうでも良いかというと、「てめえはダメだ」という人も多いのではないか。

コミケも、その入場料でDBが1、2冊多く買えたと思えば、惜しいと感じなくもない。そのため、コミケ有料化自体は容認しても、それを引き起こした東京五輪に対して怨嗟の声をあげている者はいるようだ。

門外漢からすれば「どう考えても東京五輪の方が重要じゃないか」と思うかもしれないが、これは「野球中継でDB(ドラゴンボール)が見られない」のと同じことなのだ。野球という名の東京五輪に興味がない者にとっては、そのせいでDB(ドラゴンボール)という名のDB(ドスケベブック)が買えないとなると、東京五輪を苦々しく思わずにはいられない。

DBとDJBの境界線

だが有料化によるメリットもあるようで、特に「年齢確認が楽になる」といわれている。

当然だが、DBは18歳未満には売ってはいけない。よって、販売時には身分証明書を提示するというのが一応の決まりになっているが、混雑時に一人ひとり確認するのは手間だし、だからと言って確認せず18歳未満に売ってしまったら、売った方が怒られる。

2019年開催のコミケでは、入場料を払った時点で入場者にはリストバンドが渡され、それが2会場の入場券の代わりになる。入場料支払い時点で年齢確認を行い、リストバンドの色などで18歳以上か未満かわかるようにすれば、いちいち売り場で確認しなくても済む。

この18歳以上を示すリストバンドは、私もコミケじゃない同人誌即売会で利用したことがある。入場料を払う時ではなく、入場待機しているところに係の人が回ってきて、「18禁本を買う予定の18歳以上の方は挙手してください」というシステムだった。

「我々はスポーツマンシップに則りエロ本を買います」と選手宣誓をしろということになるが、同人誌即売会に来ておいてDBを買うことを隠したいというのは、ヌーディストビーチに来ておいて「脱がなきゃダメ? 」と言っているようなものだ。

続々と手があがり、その場で免許証などによる年齢確認が行われ、確認が済んだ者には「エロ本買えますリストバンド」が渡された。これは売り場での年齢確認制より格段にスムーズであり、1分1秒を争う会場内では実に便利であった。

コミケでなくても、「ゾーニング」は大きな問題となっている。有料化と2会場化を機に、DBとDJBの線引きがさらに厳格化していくのかもしれない。

なぜTBSラジオは「スペシャルウィーク」をやめるのか

なぜTBSラジオは「スペシャルウィーク」をやめるのか

2018.12.17

聴取率争いに自ら終止符? TBSラジオの決断

ラジコの普及で重要性を増すリアルタイムの聴取者数

「ノンリスナーのリスナー化」がラジオ業界の至上命題

TBSラジオが「スペシャルウィーク」をやめる――。11月29日(木)深夜の「木曜JUNK おぎやはぎのメガネびいき」(毎週木曜深夜25時からTBSラジオで生放送)でこの件が話題になった時は、初耳だったので驚いた。なぜ、こういう決断に至ったのか。TBSラジオのスペシャルウィークは今後、どうなるのか。TBSラジオの三村孝成社長に聞いた話も交えてお伝えしたい。

TBSラジオは12月8日(土)、AM波を送信している戸田送信所(埼玉県戸田市)の使用電力を再生可能エネルギーに切り替え、「ナイツのちゃきちゃき大放送」(毎週土曜日、朝9時から午後1時までの生ワイド番組)内でセレモニーを実施。この機会を捉え、TBSラジオの三村社長(左端)に話を聞いた

ラジオの「スペシャルウィーク」とは何か

本題に入る前に、まず、ラジオのスペシャルウィークとは何かをおさらいしておきたい。

スペシャルウィークと密接に関係するのがラジオの「聴取率」だ。これはビデオリサーチという会社が調べているもので、調査は首都圏、関西圏、中京圏の3カ所でアンケートを実施して行う。

そのうち、首都圏の調査を取り上げて中身を詳しく見ていきたい。まず、調査の対象エリアは東京駅を中心とする半径35キロ圏内となっている。対象者は12歳~69歳の男女個人、標本数はおよそ3,000人。調査回数は1年に6回(偶数月)で、その調査月のうち1週間を「聴取率調査週間」に設定し、「その期間中にラジオを聴いたか」「どんな番組を聴いたか」といったことをアンケートで調べて聴取率を算出する。

つまり、ラジオの聴取率というのは、首都圏でいえば、年に6回の「聴取率調査週間」の間に、アンケート調査を受けた人が、ラジオを聴いていたかどうかによって決まる。1分ごとの数字をはじき出すテレビの「視聴率」とは、かなり性格の違う指標だということが分かる。

こういう調査方法であることから、ラジオ局は聴取率調査週間に合わせて、通常放送とは違う企画、通常放送とは違うパーソナリティーの起用、リスナーへのプレゼント企画、豪華ゲストの起用といった特別な施策を実施する。これがスペシャルウィークだ。

約150mのアンテナがそびえ立つTBSラジオ戸田送信所。1,900万戸にAM波を届けるTBSラジオの基幹送信所で、使用電力は月間11万キロワットだ。再生可能エネルギーは「みんな電力株式会社」が供給する。電力は新潟県上越市の小規模水力発電施設などから調達する

ラジオ局によって呼称は異なるかもしれないが、聴取率調査週間をスペシャルウィークと位置づけ、特別なキャンペーンを展開したり、番組の内容を変えたりする手法は業界では一般的だ。

そんな中、TBSラジオは、この調査期間をスペシャルウィークと呼称することをやめると宣言した。その期間中に、局を挙げて特別なキャンペーンを打つことも、今後はしないという。つまり、聴取率を上げるために調査週間を狙って特別企画を展開するのはやめて、今後は時期を自ら考えて特別な取り組みを行うという態度を鮮明にしたのだ。

なぜ、こういう決断をしたのか。TBSラジオは17年4カ月の間、聴取率で業界トップを走り続けているにも関わらずだ。

聴取率トップでも放送収入が上がらない現状

決断の背景として、まず注目したいのは、聴取率で業界トップのTBSラジオでさえ放送収入が上がっていないというラジオ業界の現状だ。業界全体で見ても、広告収入は25年間、ずっと下がり続けている。

それに、ラジオの聴取率も過去に比べれば低迷している。前述したビデオリサーチの調査によれば、2018年10月の首都圏の「全局個人聴取率」(12~69歳、男女、週平均)は5.2%。この数字、1990年代には9%くらいあったそうだ。

スペシャルウィークに注力した結果、聴取率で業界トップに輝いたとしても、収入は上がらないし、ラジオを聞く人も増えない。それならば、慣習に固執する必要もない。これがTBSラジオの判断なのだろう。

確かに、普段はラジオを聴かない人(ノンリスナー)が、スペシャルウィークをきっかけに聴くように(リスナーに)なるかどうかは疑問だ。

もとからのラジオリスナーであれば、何らかの特別企画やキャンペーンに興味を持った時、ラジオをつけるなり「ラジコ」(radiko、スマホアプリやPCでラジオが聴ける)を使うなりして、番組を聴くかもしれない。しかし、ノンリスナーであり、ラジオの受信デバイスすら持っていないような人たちが、これを機にラジオをわざわざ買うかどうかは微妙だ。ラジコならハードルは低そうだが、三村社長は「今の時代って、アプリをダウンロードしてもらうのもすごく大変じゃないですか」と話す。

キャンペーンは時期が大事! 今後のTBSラジオは独自展開

スペシャルウィークに他局と足並みをそろえ、聴取率争いのために力を使うのではなく、ノンリスナーをリスナー化するために知恵を絞りたい。それがTBSラジオの考えらしい。

ラジオ業界の至上命題は「ノンリスナーのリスナー化」と語ったTBSラジオの三村社長

特別なキャンペーンを展開するにしても、聴取率調査週間より効果的なタイミングは確かにあるかもしれない。三村社長の考えはこうだ。

「ラジオを聴かなくなる理由には、例えば引越しや転勤などがあります。住む場所が変わって好きな番組が聴けなくなったり、ライフスタイルが変わってしまったりして、聴かなくなるパターンです。例えば、大学生で時間に余裕のあった人が、社会人になるとか。引越しとかライフスタイルの変化が多い時期というのは、ある程度は決まっていますから、そういう時にこそ、キャンペーンを張るという方法はあるのかなと思っています」

つまり、聴取率調査週間を気にしなければ、キャンペーンや特別企画が流動的に実施できるということだ。例えば、3月は奇数月で聴取率調査はないが、ノンリスナーに訴求するには適した時期かもしれない。

また、特別企画や豪華ゲスト起用のタイミングは個別の番組で決めてもいい。「私も、企画をやっちゃいけないといっているわけではないんですよ(笑)。効果が出そうな時に、どんどん企画をやってもらいたい。それが、たまたま聴取率調査週間なのであれば、その時にやってもいいわけだし」というのが三村社長の考えだ。

TBSラジオは機を見て特別企画を仕掛ける流動性を手に入れた

TBSラジオはスペシャルウィークだけを特別視するのではなく、「毎日がスペシャル」の気持ちで通常放送に取り組みつつ、ノンリスナーをリスナー化するための施策を打ち出していく。そういう方針を明確にしたわけだ。

重視するのは「ラジコ」のリアルタイム情報

とはいえ、聴取率はラジオ局にとって、ほぼ唯一の指標だったはずだ。これからTBSラジオは、何を参考にして番組づくりに取り組むのか。三村社長はラジコのデータを重要視する。

「聴取率を調査する目的は2つあって、1つは番組編成を考えるのに使うマーケティングデータを得るためです。番組の編成が、ちゃんと効果を出しているかどうか、リスナーに受け入れられているかどうか、それぞれの番組の企画や演出が、リスナーに評価されているかどうか。それらを測る指標が聴取率でした」

「ただ、その点に関しては、マーケティングデータといいながら、52週(1年間)のうち6週間しか調査していない数字ですし、調査週から約1カ月遅れて結果が分かるというのが実情でした。一方、ラジコのデータは毎日、リアルタイムで確認することができます」

おそらく、世の中でラジオを聴いている人の割合でいえば、ラジコよりもラジオ受信機を使っている人の方がまだまだ多い。しかし、ラジコであればラジオ局側は、リアルタイムでリスナーの実数が把握できる。このデータの方が、マーケティングデータとしては有用だと判断したようだ。

「もう、ラジコも始まって9年目です。ラジコの数字が動けば、聴取率も動くというのは体感しています。ラジコの聴取人数が増えれば、基本的には聴取率も上がるんです」

ラジコで毎日、リアルタイムで聴取人数が把握できて、そのデータを重視するというのであれば、スペシャルウィークに的を絞った番組づくりをしていていいはずがない。通常放送がいかに面白く、リスナーをひきつけているかの方がはるかに重要になる。実際のところ、TBSラジオの番組製作陣も、すでにラジコの数字を参考にしているらしい。

ラジコの聴取人数と聴取率はほぼ連動しているというのがTBSラジオの読みだ

聴取率を測るもう1つの目的は、営業データとして利用するためだという。

「分かりやすくいうと、広告主が宣伝費を出しますよね、その費用対効果を測るために聴取率を使うんです。これはテレビの視聴率と似ています。この点については今後、今のままでいいのかどうか、業界で議論していこうと思ってます」

リスナーの奪い合いはもはや無意味?

スペシャルウィークをやめるというTBSラジオの決断には、賛否両論があるかもしれない。しかし、スペシャルウィークで各局がゲストの豪華さや企画の面白さを競い合い、ライバル局のリスナーを奪い合うという従来の構図だと、既存のラジオリスナーが各局の間を移動するだけで、新規リスナーの数は増えないのだとすれば、納得できる部分は大いにある。

また、ラジオ局同士が聴取率争いをする必然性は、ラジコで「タイムフリー」というサービスが始まった今、かなり薄れているような気もする。この機能を使うと、全てのラジオ番組を、放送後1週間以内であれば、後からさかのぼって聴くことができるからだ。

例えば、放送時間が重なっているTBSラジオの「JUNK」とニッポン放送の「オールナイトニッポン」を両方とも聴くことは、今となってはとても簡単なことだ。録音機材を用意する必要すらない。どちらかをリアルタイムで聴いて、もう一方を後からタイムフリーで聴いてもいいし、どちらもタイムフリーで後から聴いたって問題ないわけだ。この点を踏まえると、もはやラジオ業界には、「裏番組」という概念すらなくなっているようにも思えてくる。

なぜ業界トップのTBSラジオが率先して変わるのか

TBSラジオは長年の間、聴取率で業界トップを走ってきたリーディングカンパニーだ。そのTBSラジオが、「スペシャルウィークをやめる」「ナイター中継をやめ、同時間帯を通常の番組(新番組を含む)に充てる」「ポッドキャスト配信TBSラジオクラウドでの配信に切り替える」など、率先して新しいことに挑戦するのはなぜなのか。賛否両論があるのは分かりきっているにも関わらず、こういった決断をできる理由が知りたかったので、三村社長に聞いてみた。

「前任の入江(TBSラジオの前の社長で、現在は会長の入江清彦さん)の時から、数々の改革をスタートさせていました。改革といっても、単に変えればいいという話ではなくて、一番の目的は新規リスナーを獲得することであり、パイ(ラジオリスナー自体の数)を大きくすることです。そのためには、リーディングカンパニーが率先して変わらなければ、業界も変わらないと思うんです」

「(パイが大きくなった時に)TBSラジオだけを聞く人が増えるということはありません。ラジオ受信機もラジコも、コミュニティFMをのぞけば、NHKを含め全ての局が聴けるわけですから。ラジオメディアそのものとして、ノンリスナーをリスナー化するのが最も大事なことですし、メディアビジネスとしては、自分達だけ得をしようというのはありえません。ただ、パイが大きくなれば、シェアが変わらなかったとしても、結果としてTBSラジオリスナーは増えますよね」

ノンリスナーのリスナー化は難題だが、これを成し遂げられなければラジオ業界に明るい未来はない。これを成し遂げるため、TBSラジオは挑戦するし、変わってもいくということなのだろう。

賛否両論が予想される決断を率先して下すのは、TBSラジオにリーティングカンパニーとしての自負があるからだ

最後に、リスナーとして気になるのは、TBSラジオのスペシャルウィークで楽しみにしていた各番組の特別企画が、今後、聴けなくなる(あるいは、頻度が少なくなる)のではないか、という点だ。この懸念をぶつけてみると、TBSラジオ編成局の野上知弘さんからは「これまでもそうだったんですけど、いいゲストはいつでも入れればいいということなんです」との答えが返ってきた。年に6回かどうかは別にしても、特別な企画やゲストの起用は今後も続くとみて間違いなさそうだ。

ちなみに、2018年12月10日~16日までの聴取率調査週間で、他局がスペシャルウィークを展開する中、TBSラジオの各番組はどんな放送を行っていたのだろうか。自分が聴いた番組のごく一部を振り返ってみると、例えば「火曜JUNK 爆笑問題カーボーイ」(毎週火曜日、深夜25時~27時)には漫才コンビのミキが、「水曜JUNK 山里亮太の不毛な議論」(毎週水曜日、深夜25時~27時)には相方のしずちゃんがそれぞれ出演していた。これらの番組は、「スペシャルウィーク」という言葉こそ使っていなかったものの、普段とは一味違う内容になっていた。

「月曜JUNK 伊集院光 深夜の馬鹿力」(毎週月曜日、深夜25時~27時)は従来(少なくともここ10年くらいは)、スペシャルウィークでも通常放送(フリートークとレギュラーコーナー)を行うスタンスを貫いてきたが、今回の発表を受け、12月10日の放送では冒頭にラジオコントを放送。その後は2018年のフリートークを振り返る「特別企画」を実施した。なんとも伊集院さんらしい対応だ。番組の最後に伊集院さんは、スペシャルウィークをやめるというTBSラジオの決定について「基本的には賛成」との考えを示していた。

「メガネびいき」では従来、12月のスペシャルウィークに実施していた毎年恒例の企画「ダイナマイトエクスタシー」を12月20日(木)に放送すると発表している。こちらは、聴取率調査週間とは時期をずらして特別な企画を打つという点で、新しい取り組みだといえるだろう。

もちろん、これらのTBSラジオの番組は、放送後1週間以内であればラジコのタイムフリーで後からさかのぼって聴ける。世界の主要メディアも注目しているとか、していないとかいう噂のダイナマイトエクスタシーは、今週木曜日の深夜に開催の運びとなる。