新型「Aクラス」に試乗! デザインで考えた「ハイ! メルセデス」

森口将之のカーデザイン解体新書 第14回

新型「Aクラス」に試乗! デザインで考えた「ハイ! メルセデス」

2019.03.14

「MBUX」をインターフェイスデザインの観点でチェック

音声コマンドの理想的な在り方とは?

基本性能の進化にも改めて注目を

2018年秋に日本に上陸したメルセデス・ベンツの新型「Aクラス」は、デザインや走り、安全性などよりも、「MBUX」と呼ばれる対話型インターフェイスが話題になっている。実車に試乗することができたので、「インターフェイスデザイン」という観点でチェックしてみることにした。

メルセデス・ベンツの新型「Aクラス」

「インターフェイスデザイン」とは

「デザイン」という言葉がカバーする範囲は広い。筆者は2013年度から5回、グッドデザイン賞の審査委員を務めたことで、そう感じるようになった。グッドデザイン賞では「モノ」のデザインだけでなく、「コト」のデザインもジャッジする必要があるので、形や色にとどまらず、背景にある社会や生活にまで思考を巡らせてきたからだ。

でも最近は巷でも、デザインという言葉を広義に捉える人が増えてきているような気がする。昔からある「グラフィックデザイン」や「プロダクトデザイン」といった言葉に加え、「ソーシャルデザイン」や「グランドデザイン」といった新しい言葉が当然のように使われるようになってきた。

その流れでいけば、昨年10月に日本で発表されたメルセデス・ベンツの新型「Aクラス」は、インターフェイスデザインがトピックになっているクルマと言える。(内外装の)デザイン、走り、安全性といった、新型車の登場時に話題になりがちなポイントよりも、「MBUX」(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)と呼ばれる対話型インターフェイスが注目されているからだ。

新型「Aクラス」は内外装のデザインよりもインターフェイスのデザインの方に注目が集まっているクルマだ

MBUXとは何か。簡単に言ってしまえば、アマゾンの「Echo」やグーグルの「Google Home」のようなスマートスピーカーを、クルマに搭載したものである。これまでも、一部の車種ではカーナビやエアコンなどを音声で操作することができた。しかし、それらはステアリング上のボタンを押してAIにアクセスして、初めて音声コマンドを入力できるというものだった。音声だけでAIを起動できるクルマは、この新型Aクラスが初めてではないかと思う。

筆者は昨年2月にEchoを事務所に導入し、使用している。つまり、スマートスピーカーに慣れ親しんでいるユーザーの1人である。なので、MBUXについては興味津々だったのだが、実車に触れると考えさせられる部分が多かった。

筆者は事務所に入った瞬間にEchoを起動することが多い。片手にバッグを持ち、もう一方の手ではドアを開けながら、つまり、両手がふさがっていても、言葉を発するだけでニュースを聞いたり、音楽を鳴らしたりすることができるので便利だ。しかし、クルマの運転中は常にステアリングを握っている。AIを起動する場合には、ステアリングにスイッチがあれば良い。

MBUXは自動運転時代を想定したものだ、という主張があるかもしれない。しかし、現行法では、運転中にステアリングから手を離してはいけないというルールがある。自動運転がすでに実用化されているような誤解を与えるような言動は、安全面を考えれば慎むべきだろう。

「ハイ! メルセデス」と「アレクサ!」の違い

「ハイ! メルセデス」という起動ワードも気になった。実際は「ハイ!」や「ヘイ!」がなくても、単に「メルセデス」と発話するだけでAIが起動するのだが、それでも単語自体が長いし、発音しやすい言葉とは言い難い。

Echoで使われている起動ワードの「アレクサ」は、世界中の人にとって発音しやすい言葉とは何かを研究し、採用したものだと聞く。しかも、「アレックス」などの名前の人が使用することも考慮して、起動ワードを変更することが可能な仕様となっている。

先日発売となったBMWの新型「3シリーズ」にも、「BMWインテリジェント・パーソナル・アシスタント」と呼ばれる音声操作システムが搭載されている。こちらの起動ワードはデフォルトで「OK! BMW」に設定されているが、後から変更することが可能だ。

インターフェイスデザインの観点でMBUXと比べると、使いやすいワードを研究して採用した点でアマゾンの方に分がある。音声による対応という観点で見ると、レベルは最近のボルボ車の方が上に感じた。

ただ、AI関連の技術は1年間で格段の進歩を遂げるという実感もあるので、使い込んでいくうちに、MBUXもレベルアップしていくのだろう。また、ドライバー以外の乗員にとっては、スイッチに手を伸ばしたり、ドライバーに操作をお願いしたりしなくても良いわけで、有用な装備と言えるのかもしれない。

新型Aクラスのインターフェイスの特徴はまだある。メーターパネルとセンターのディスプレイを一体化させ、横長でフラットな1枚のパネルに集約したことだ。試乗した日は雨だったこともあるが、この種のパネルで気になる外光の反射はうまく抑えてあって、常にクリアな視認性が得られた。

メーターパネルとセンターのディスプレイが一体化している

センターコンソールのタッチパッドは、右利きの人の使い勝手はどうなんだろうと思ったりしたが、筆者は左利きであり、大きな不満は抱かなかった。

新型「Aクラス」のセンターコンソール。四角く見える部分がタッチパッドになっている

続いて、目の前のステアリングから左右に生えるコラムレバーを見ると、トランスミッションのセレクターレバーであることを記した黄色いステッカーが貼ってあった。

近年のメルセデスは、セレクターレバーをセンターコンソールやインパネではなく、ステアリングコラムの右側から生やしている。この方式を採用しているのはメルセデスくらいだ。間違えやすいので、ステッカーを貼ったのだろう。

ステアリングコラムの右側に付いているセレクターレバー。黄色いステッカーでそれが何であるかを明示してあった

とりわけAクラスのセレクターレバーは、左側のウインカー/ワイパーレバーと同じように細く、スタイリッシュに仕立ててあるので誤解しやすいかもしれない。もちろん、乗り慣れれば問題はなくなるだろうが、注意書きが不要なインターフェイスデザインが理想だと思う人は多いはずだ。

基本性能の進化にも目を向けたい

このように、インターフェイスデザインについては語るところが多い(?)新型Aクラスだが、自動車本来のデザインやエンジニアリングの進化は着実だった。

エクステリアデザインは、他のメルセデスも採用しているエッジを効かせた顔つきや、キャラクターラインを控えめにして面で魅せるボディサイド以外は、旧型の人気が高かったためもあり、キープコンセプトでまとめている感じがした。

しかし実際は、全長が120mm、ホイールベースが30mm伸びており、室内や荷室が広くなっている。なのに、全体から受ける雰囲気はAクラスそのままというのは、デザインの工夫があってこそだろう。

走り出すと、今度はしっとりした乗り心地に感心した。試乗車のタイヤサイズが205/60R16と、近年の欧州車としてはおとなしかったおかげかもしれないけれど、先代初期型の荒っぽさが払拭されたのは大きな進歩と言える。

しっとりとした乗り心地には感心した

試乗した「A180」というグレードが搭載していたのは、メルセデスがルノーと共同開発した1.3L直列4気筒ターボエンジンだった。アクセルペダルを踏み込んで上まで回すとこもり音が気になったものの、1.3Lという数字から想像するよりも力はあり、回転はなめらか。7速デュアルクラッチトランスミッションのマナーもスムーズだ。

メルセデスとルノーが共同開発した1.3L直列4気筒ターボエンジン

もうひとつ気づいたのは、「スポーツモード」が最近のクルマとしては、かなり明確にアクセルやトランスミッションなどのキャラクターを変えることだ。このモードを選べば、Aクラスがカジュアルでスポーティな車種であることを多くの人が感じるはずだ。

運転支援システムはメルセデスの最上級セダン「Sクラス」と同等の操舵支援機能付きアダプティブクルーズコントロールを採用している。セットオプションで24万円という価格ではあるものの、車線変更までアシストしてくれるのはこのクラスでは異例と言える。動作のレベルも高かった。

先代より全長もホイールベースも伸びているので、室内は広くなった

クルマとしての基本性能は水準以上にある。なので、MBUXがそのポテンシャルに水を差していないかと気になったが、最近は話題性重視で買い物をする人が多いような気もするので、MBUXをメインに宣伝を行うメルセデスの手法は、マーケティング面では正しいのかもしれない。

ただ、形や色のあるものだけがデザインなのではなく、光や音もデザインの一部であり、使い勝手を高める上で、これらを工夫していくことも大切であることは、お伝えしておきたいポイントだと思っている。

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ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

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