乳児用の「液体ミルク」国内販売へ 震災きっかけに開発

乳児用の「液体ミルク」国内販売へ 震災きっかけに開発

2019.03.11

赤ちゃん用「液体ミルク」の国内販売が解禁

先陣を切った江崎グリコ、開発のきっかけは熊本地震

使い勝手は良好、今後の課題は「価格」か

飲用水の確保が難しい災害時にも、赤ちゃんに与えられる「乳児用液体ミルク」(以下、液体ミルク)。育児にかかる労力の簡便化のいち選択肢としても注目されているが、その国産製品の発売が今日、3月11日から始まった。

3月11日より一般発売された江崎グリコ「アイクレオ 赤ちゃんミルク」

粉ミルクよりも簡単に与えられる新たな選択肢として、注目されている液体ミルク。発売同日に都内(ベビーザらス錦糸町店)で開催された「アイクレオ 赤ちゃんミルク(乳児用液体ミルク)」体験会で、ユーザーと開発者の生の声を聞いた。

被災地トラブルで注目された液体ミルク、一般発売へ

「液体ミルク」は、長年市場に流通している乳児用の「粉ミルク」と対比された言葉。2018年9月、北海道胆振東部地震の被災地に支援物資として送られた輸入品の液体ミルクに、「国内での使用例がない」として使用を自粛するような文書が添付されたと報道され議論を呼んだ。

このトラブルの背景にあったのは、液体ミルクの認知度の低さ。そもそも、ごく最近まで日本国内では液体ミルクの販売自体が認められておらず、輸入品を利用することもできなかった。2018年8月に厚生労働省が液体ミルクの国内販売を解禁する改正省令を施行したことで、複数の国内メーカーが開発に乗り出した。

発売に関して、先陣を切ったのが江崎グリコ。今夏発売予定だったところを前倒しする格好で、このたび「アイクレオ 赤ちゃんミルク」が発売された。

開発のきっかけは熊本地震

同製品の開発リーダーを務めた江崎グリコ 商品開発研究所 ベビー・育児グループの永富宏氏によれば、開発のきっかけは2016年4月の熊本地震だった。

被災時には母親の母乳が出なくなることもある、飲用水が確保しにくいなどの理由から、「災害でもっとも弱者となるのが赤ちゃん」だと強く認識。フィンランド産の液体ミルクが被災地で活用されたこともあり、「ミルクを扱う企業の一員として液体ミルクを国産で届けられないか」と開発を決意した。

開発には2年を費やし、製品は2018年段階で完成。厚生労働省の承認を受けた特別用途食品の表示を許可され、発売に至った。

江崎グリコ「乳児用液体ミルクに関する調査」(2018年10月)

昨年10月に同社が行った調査では、子育て中の親における液体ミルクの認知度は半数を割っていた。しかし、その存在を知った上で「使いたい」と回答した人は半数を超えたことから、開発の追い風となった

「常温で飲める」液体ミルク、粉ミルクとの違いは

液体ミルクの特徴

液体ミルクと粉ミルクでは対象年齢は変わらず、新生児から飲むことができる。一方、異なるのは飲むときの「温度」だ。

粉ミルクは人肌にさまして与えるよう指導されているが、これはユーザーが扱う工程で70度以上の湯による殺菌が必要となり、それを赤ちゃんが飲める温度まで冷ますめやすとして示されていたもの。そのため、無菌充填された液体ミルクは常温で飲ませることができる。

保存に関しても、常温・未開封で保存期間は半年となっており、緊急時向けの備蓄品としての利用も行える。また、「アイクレオ 赤ちゃんミルク」は濃縮タイプではないため、お湯などで薄める必要はない。成分としては粉ミルクタイプのアイクレオ製品と同等とのことだ。

使う際は、付属の移し替え用ストローで哺乳瓶に移し替え、赤ちゃんに与える。温度や濃度の調整がいらないため、調乳に不慣れな同居家族・親族でも育児に参加できるツールとして有用に思われた。

粉ミルクは熱湯を使うため一度赤ちゃんから手を離す必要があるが、膝に赤ちゃんを抱えたままでも、液体ミルクの準備はできる。与えたい時にすぐ用意できるメリットは大きい
「アイクレオ 赤ちゃんミルク」には、容器移し替え用のストローが付属。飲用向けではない短いもので、後端に液だれ防止のかえしがついている

飲みのこし問題の一方、「足りない」との声も

1日に頻回、昼夜問わず行う授乳。液体ミルクを導入することで、母乳を中心にした育児であれば母親の睡眠不足、粉ミルクであれば頻回作る手間が解消されるメリットがある。

液体ミルクの発売にあたり、冒頭の災害時対応に加え、こうした育児の負荷軽減に期待する声は大きい。その一方、いわゆる「コスパ」の面でいえば、既存の手段に比べやや分が悪い。

「アイクレオ 赤ちゃんミルク」の容量は125mlで、1本200円(税抜き)。同シリーズの粉ミルク「アイクレオ バランスミルク」スティックタイプは1本あたり100mlのミルクになるためほぼ同様の内容量となるが、スティックは1本あたり約50円前後。液体ミルクの値段はそれと比較すると約4倍だ。出産直後は1日10回近くは授乳することを考えると、粉ミルクを飲める状態にする手間と、4倍の価格のどちらをとるかという話になるだろう。

体験会に子供と参加した彌重江理さんは、「液体ミルクを授乳室に置いた自販機で販売する予定は?」など、江崎グリコ側に意欲的に問いを投げかけていた。だが、すでに使用している粉ミルクと比較して値段が高いことを挙げ、「使うのは緊急時やお出かけの時だけになると思います」とも語った。

体験会で使われたのは、殺菌済みの使い捨て哺乳瓶。液体ミルクそのものが割高な状況では、日常の授乳に毎度用いるのはあまり現実的ではなく、緊急時・外出時の利用が現状ではスタンダードなのかもしれない

解禁の報せを受け、SNSなどでは「もったいないからと飲み残しを再度与えることになりかねないのでは」と憂う声もあった。江崎グリコの製品説明では「飲み残しは廃棄」とされている。やはり抵抗力の低い新生児には雑菌感染のリスクがあるため非推奨という。

飲み残しと言っても、赤ちゃんが口をつけてない、パックに残ったものであれば、牛乳のように冷蔵庫に入れて…ということも考えられるかもしれないが、パックに残ったものについても再利用は非推奨となる。

「冷蔵庫の中にも菌は存在します。紙パックはキャップがないので、一度開栓したら残りも保存せず使い切るようお願いいたします」(江崎グリコ 永富氏)

一方、体験会に足を運んだ、いわゆる「首のすわった」赤ちゃんを育てている母親・父親からは、「125mlでは足りないかもしれない」「1パック200mlくらいあれば」という声もあった。

成長すれば飲む量も増えるため、個包装の量についてはメーカーも試行錯誤が必要と思われるが、永富氏からは「不足する場合は粉ミルクなどを追加であげるか、液体ミルクを2本開封してあげてください」という説明がなされていた。

今後、別の容器で販売する可能性は?

諸外国の液体ミルクには、ペット容器入りで飲み口を付けてそのまま与えられるタイプも多くあるが、今回発売された「アイクレオ 赤ちゃんミルク」は哺乳瓶への移し替えを前提とした紙パックタイプ。この形態になったのは、「世界的に一番実績があり、ゴミの処理がしやすい」(江崎グリコ 永富氏)ためという。

被災地等での利用にはニップル(吸い口)つきでそのまま使える容器がより便利と思われるが、先述の飲み残しを与えてしまうリスクから、その形態は見送ったということだ。今後、液体ミルクの認知度が国内で上昇し、当たり前になってからであれば、こうした容器の新製品が出てくるのかもしれない。

体験会の場に展示されていた売り場の設営イメージ。地方自治体の被災時向け物資としては、10パックがまとまった箱(棚上段左側)での納入がされているという

また、今回の小容量タイプだけでなく、諸外国にはもっと大きな容量でパッキングされた再栓可能な製品もあり、一定時間であれば蓋をして冷蔵保存、再利用ができるものもあるという。そうした形態の製品は今後拡充するかと尋ねたところ、「保育園や病院など、一度に大量に用いる施設でそういったニーズがあるのは把握しており、社内で検討している」(江崎グリコ 永富氏)とのことだった。

「完母」信仰の強い日本、液体ミルクは広がるか

近年、母乳のもつ赤ちゃんへの効能が注目され、一切市販のミルクを使用しない「完全母乳育児(通称:完母)」が推奨される風潮が加速している。しかしながら、体質や体調、就労状況など、さまざまな要因で母乳だけでの育児が難しい人もおり、そうした人に「完母」を強いるのは強いストレスとなることが問題視されている。つい最近、厚労省が母乳の効果を再検討し、アレルギー疾患予防効果は「なかった」と指針を更新。ミルクを選択する保護者を尊重すべきとの方針を示した。

液体ミルクに関して言えば、昼夜問わず行う授乳の手間を簡便化するメリットは非常に大きい。価格面と認知度の低さがネックになっているものの、後者の解決は徐々に進んで行きそうだ。価格面についても、ニーズが確立し、流通量が増えれば、値段が低下する可能性も見えてくるかもしれない。

個人差を尊重した多様な育児環境の醸成に、液体ミルクが一役買うのか。その動向を注視していきたい。

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2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu