「日本の5G」に未来はあるのか? 新参「楽天」が見せた希望

「日本の5G」に未来はあるのか? 新参「楽天」が見せた希望

2019.03.08

MWCで見た「日本と5G」の現状

日本企業の存在感が薄い中、新参の楽天が奮闘

5Gのマスへのリーチはまだ先、遅れを取り戻せるか

2月25日から2月28日まで、スペイン・バルセロナで開催された世界最大級のモバイル関連展示会「MWC19 Barcelona」を取材してきた。

MWCといえば携帯電話業界を主軸にしたイベントだ。ただ、今年からは正式名称が「Mobile World Congress」でなく「MWC」となり、「モバイルに限った話題のイベントではないですよ」という感じになった。

「MWC19 Barcelona」の会場であるスペイン・バルセロナにあるFira Gran Via

そうはいっても、イベント主催が携帯通信会社業界団体のGSM Association(GSMA)なので、通信が主体のイベントであることに変わりは無い。CES(北米で毎年開催される世界最大の家電展示会)が正式名称をConsumer Electronics Showから「CES」に変えても、コンシューマ向け製品が中心であることと同じである。

今回のMWCの話題の中心はやはり「5G」だ。もはや5Gは現実のものであり、準備のフェーズですらない――、というのが今年のMWCのテーマだったように思う。

だが、こと日本と比較したり、5Gの将来を考えたりすると、なかなか微妙な気分になるシーンも多かった、というのも事実だ。ここでは、MWCを取材して感じた「5Gの理想と現実」についてまとめる。

存在感が薄い「日本の5G」

会場はとにかく、「5G祭り」だった。

日本の報道の中には、2019年1月に行われたCESでも、「5Gがテーマ」と言っていたことがあったが、まったく比較にならない。

MWCは通信が主軸のイベントなので、「5Gによって直接的に利益を得る企業ばかり」が出ているから当然のことだ。そんな企業が、本番のMWCの前に実施されたCESで5Gの本格的なニュースを出すわけがない。

T-Mobileブース。一面「5G」。携帯電話事業者のブースはどこもこの状態だった

MWCという場であるからこそ強く感じたのは、「日本企業の存在感の薄さ」だった。

現在の携帯電話業界において、個人が使う端末でも、アンテナを含むネットワーク側の機器でも、日本企業の存在感は薄い。もちろん、機器に使われる各種パーツであったり、通信から一歩離れた部分の機器では日本企業も頑張っていたりするのだが、それはMWCという場では目立たない。

特に日本の場合には、5Gの周波数帯割り当てもこれから、プレサービスの開始も2019年後半、という状況で、他国に対してざっくり半年から1年は遅れている。その中で機器メーカーの存在感がなければ、わざわざ海外に出ていってアピールする必要もない。

「携帯業界のアポロ計画」を企てる楽天

その一方で、非常に目立っていた企業もある。楽天だ。

同社はこれから携帯電話事業に参入する立場であり、特にインフラについて、4Gへの投資を抑制し、5Gを主軸とする立場にいる。

しかも彼らは「携帯電話業界のアポロ計画」と三木谷浩史社長が自ら言うほど、いままでとは違う考え方のインフラ構築をしているので、その点でも、広くアピールするのが当然の位置にいる。

楽天の三木谷浩史社長。自社の5Gネットワークの先進性をアピールした

彼らが手がけているのは、簡単にいえば「汎用技術での携帯電話ネットワーク立ち上げ」だ。携帯電話ネットワーク専用の機器を極力廃し、PCやクラウド、仮想化などの技術を活用し、5Gを主体としたネットワーク構築を行う。これまでは例のない構築スタイルで、「コストを7割削減できる」(三木谷社長)としている。

コスト以上に、インターネットサービスの携帯電話側への取り込みやサービス構築の柔軟性など、5G時代に向けた利点は多数ある。しかし、今のところは「彼らはそう主張している」という世界に過ぎず、実際にシステムが動き出し、サービス運用が開始されるまでは本当の評価を下すのは難しい。

それでも、楽天がバルセロナの地で「FCバルセロナのスポンサー、というだけでない」存在感をアピールしており、それが一定の成果を挙げていたのは間違いない。

楽天ブース。FCバルセロナのスポンサーであり、胸の「Rakuten」ロゴはすでに現地でもお馴染み。通信会社としてのアピールを強化した

日本と他国の違いは、5Gへの「切迫感」

では、日本が5Gで本当に遅れているのか、というと、「そうでもないな」という気もする。正確には「切迫感がない」と言うべきだろう。日本は5Gのスタートが少し遅いのは問題だが、それ以上に、そもそも5Gについての切迫感が薄いようにも思われる。

5Gは、なかなか真価を発揮するのが難しい技術だ。例えば、日・米・韓などで設備設置が進もうとしている5Gは、ある意味「暫定」である、ということはご存じだろうか。

5Gには、4Gとの併存を前提とした「NSA(ノン・スタンドアローン)」と、5Gだけを前提に敷設する「SA(スタンドアローン)」がある。現在、国内を含め多くの国では、先行して規格化されたこと、LTEの制御信号を使うためにコストメリットがあることなどが理由で、NSAでの設置敷設が進んでいる。

会場の天井に設置されていた5G用アンテナ

だがNSAでは、LTEの制御信号を使うがゆえに、「通信遅延」「同一エリア内への端末収容量」といった点では、本来5Gが持っているすべての能力を使えるわけではない。楽天は5Gを中心にインフラ構築を行うため、原則SAでの敷設となる。そのため「5Gの利点をより活かせる」としているが、一方で、エリア展開充実度の面では不利となる。

また、5Gをなにに使うべきか、明確なターゲットが薄いのも事実だ。

確かに、転送速度が上がるのはとてもいいことだが、そこで「ダウンロードが速くなる」「動画の画質が上がる」と言われても、実はピンとこないのではないだろうか。なぜなら、日本のモバイルネットワークインフラは、すでにけっこう快適だからである。この辺は、諸外国との大きな違いといえる。

今回のMWCでは多数の「5G対応スマホ」が展示された。それらは確かに魅力的だが、多くの人にとっては「単に通信速度が速くなったスマホ」に過ぎない。2つ折りで広げられるものが出たとしても、そこで出来ることには極端な違いはない。率直にいって、5Gは「今のままのスマホでは価値がわかりづらい」とも言える。

ファーウェイが発表した、5G対応の折り畳みスマホ「Mate X」

来たる5G時代への対応に「説得力」のある他国

5Gの価値を活かせるものとして、各社はAR・VR関連デモや、スマートシティをアピールしていた。それらの用途は確かに大きな可能性をもっているが、現状では「可能性」に過ぎない部分もある。

その理由は大きく2つある。「ニーズが定まっていないこと」、そして「"5Gであること”以上の整備が必要であること」だ。

現状の5GはNSA環境が前提で、遅延などの点でまだまだ理想的でないところがある。それに、いくらSA環境であったとしても、サービスがインターネットの向こうにあっては遅延が短くならないし、帯域の広さも活かしにくい。端末内で処理したり、携帯電話基地局のより近い部分にサーバーを置いて処理する「エッジ」型が広がっていく必要もある。

要は、どこもまだ模索中なのだ。保守的に考えれば、そのような状況で、海外のイベントで無理にアピールする必要はない、といえるかもしれない。

そして、そんなことは海外の携帯電話事業者や設備事業者だって、百も承知なハズだ。その上で「5Gはもはやリアルである」ということを信じ、先のビジョンを見せることに専心していた。

MWCに参集した企業は、今年から先、5Gに大きなビジネスチャンスを感じており、まだ実ビジネスの離陸には時間が必要だとわかっていても、モバイル業界を盛り上げるものとして、しっかりとアピールしていたのだ。

サムスンは、ブースに大量の5G対応端末「Galaxy S10 5G」を展示し、5Gを想定したデモを展開した

5G搭載スマホも、実際の出荷はずいぶん先だろう。だが、MWCの場に製品を持ってくるのとそうでないのでは、やはり説得力が違う。

それに比べると、どうしても(楽天を除く)日本の企業は、今ひとつ迫力に欠けた。

特に、ソニーモバイルが"端末メーカー”として、5G対応端末を試作機しか展示しなかったのは残念なことだ。日本市場のことを考えると、確かに「このタイミングで実機を展示する必然性はない」のだが、全体的な意気込みに欠けるように思えた。

ソニーモバイルブースには5Gの試作機が展示されたが、ガラス越しに通信速度を見せるだけ。他社の実機展示に比べると迫力に欠けた

スタートダッシュは遅れたが、勝負はこれから

日本が5Gで他国に遅れをとらないためには、ここからプレサービスや本サービスに向け、いかに色々な可能性をアピールできるかにかかっている。

今の5G環境では、たとえ対応スマホが出ても、マスに訴求しづらい。

LTEやVoLTEのような新技術も、「それが使いたい」という理由でスマホを買った人は稀で、「最新のスマホを買ったら新インフラに対応していた」というパターンが中心だ。そう考えると、5Gの展開は、「スマホから」ではなく「他の端末やサービス」から生まれる可能性が高い。スマホは、「結果的に5Gになっていた」というパターンだ。

だとするならば、「5Gならでは」の機器やサービスの創出に注力すれば、日本はそれほど「遅れた」という状況にならないで済むかもしれない。

そこに対して、いかに真剣に素早くトライアルを重ねられるだろうか。日本はこれまでそういうことがとても苦手だったが、(残念ながら)通信事業において辺境になった今こそ、そういうサイクルの見直しと高速化につなげるべきなのだろう。

楽天を見習う点があるとすれば、今回の5Gに対して、「新規参入ゆえの大胆さ」で臨むことだ。あとは、それがどこまで言葉通り実現できるかが見所となる。

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2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
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