グローバルで戦える商品ラインナップを! シチズンがスイス腕時計会社を傘下におさめた理由

グローバルで戦える商品ラインナップを! シチズンがスイス腕時計会社を傘下におさめた理由

2016.07.15

シチズン時計が、スイスの独立系腕時計企業、フレデリック・コンスタントの株式を100%取得し、傘下におさめると発表した。現在、機械式腕時計を生産する企業のほとんどがスイスに籍を置き、企業グループに属している場合が多い。そうした企業グループとの競争力を高めるのが、今回の買収のおもな要因だ。

高価格帯の需要に対応

シチズン時計 取締役 グローバル企画事業部長 ムーブメント事業部担当 名取房満氏

「マルチブランド化することで、多様なニーズに応え、グローバル市場で戦っていける存在を目指します」と、シチズン時計 取締役 グローバル企画事業部長 名取房満氏は話す。名取氏は、今回のフレデリック・コンスタントのM&Aを主導した人物だ。

そもそもシチズン時計は、1920年代に完成した懐中時計を、内務相や東京市長を務めた後藤新平氏が「CITIZEN(市民・民間人)」と名付けたのが由来。以来、その社名に沿うように、普及価格帯の腕時計を中心に生産してきた。

だが、CITIZENブランドだけでは多様化する腕時計のニーズを広く取り込めない。特に高価格帯となるラグジュアリー製品への需要に対し、CITIZENブランドではなかなかリーチできなかった。事実、名取氏は「30万円以上の価格帯となると、CITIZENブランドの製品は苦戦します」という。

フレデリック・コンスタントのスイス本社。1904年から続くダイヤル工房が前身

そこで“白羽の矢”が立ったのがフレデリック・コンスタントだ。同ブランドは15~50万円ぐらいの機械式時計を得意とする。創業は1988年と、機械式腕時計メーカーとしては“新参”といわざるを得ないが、自社でムーブメントを製造できる「マニュファクチュール」である。そして、時計の精度を司る「テンプ」部分がダイヤル(文字盤)側から見えるようにした小窓「ハートビート」を、世界で初めて採用したメーカーとしても有名だ。近年では、スイス製として初めて“スマートウォッチ”をリリースしたことでも知られている。

最高峰技術が求められるトゥールビヨンも展開

ハートビート マニュファクチュール「FC-945MC4H6」。ダイヤル下部の窓がハートビート。そのほかブレゲ針やギョーシェ彫りが施されている

それだけでなく、機械式腕時計の世界では“最高峰の技術が必要”とされる「トゥールビヨン」も手がけている。15~50万円の価格帯を得意とすると前述したが、トゥールビヨンともなれば数百万円はくだらない。マニファクチュールであること、トゥールビヨンを手がけていることなどから、新参ながら市場での技術的な評価は高い。

ブローバの音叉時計「アキュトロン」の広告。当時を物語る貴重な資料だ

実はシチズン時計は、ここ数年、立て続けにM&Aを行っている。2008年には米ブローバを買収。ブローバは1960年に世界で初めて音叉式の腕時計をリリースし、技術的な評価を獲得。以来、アポロ計画に積極的に参画するなど、“アメリカの象徴”ともいえる腕時計メーカーだ。

シチズン時計とのつきあいも古く、音叉時計のテクノロジーをシチズンに供与し、日本産音叉式腕時計の誕生にも一役買っている。なお、両社の合弁企業として設立したブローバ・シチズン社は、現在、小型チップLEDや光センサーといった、電子デバイス上流部品を扱うシチズン電子に姿を変えている。

アーノルド&サンの製品。創業1764年と、老舗メーカーのひとつだ

そして2012年、シチズン時計はスイス、プロサー社の株式100%を取得する譲渡契約を結んだ。プロサーは老舗腕時計メーカー、アーノルド&サンやアンジェラスを傘下におさめている。両メーカーともにラグジュアリー志向の強いブランドで、数百万円以上の価格帯がメインステージとなっている。特に後者は1970年以降に訪れた“クォーツ・ショック”により操業を停止していたが2015年に復活。年間の生産本数がきわめて少なく希少だ。そのほか、プロサーは、ムーブメント製造のラ・ジュー・ペレも所有している。

プロサー、そして今回のフレデリック・コンスタントのM&Aにより、シチズン時計はスイス時計市場に一気に迫った格好だ。

これだけ立て続けにM&Aを行っている背景は、冒頭で記述したとおり企業グループとの競争力強化のためだ。

巨大な海外の企業グループ

たとえば腕時計で世界最大のスウォッチ・グループの場合、ブレゲ、オメガ、ロンジン、ハミルトン、そしてスウォッチなど、ラグジュアリーからベーシックまで幅広く取りそろえている。続くLVMHグループはウブロ、ゼニス、ブルガリなどを所有。さらにルイ・ヴィトンやフェンディ、ヘネシーなど時計以外のファッションや高級酒でも存在感を示している。リシュモン・グループにはヴァシュロン・コンスタンタン、ランゲ&ゾーネ、IWC、カルティエといったトップブランドが所属する。

前出の名取氏は、「スイスの企業グループとは役割が違います」と否定するが、巨大グループとグローバルで競争していくには、ある程度のM&Aが必要だったのではないだろうか。

そしてもう一点。スウォッチ・グループは世界最大のムーブメント製造企業、ETA社を所有している。1990年代から復活し始めた機械式時計メーカーのほとんどが、このETAからムーブメントの供給を受けた。ところがスウォッチは、外部グループの腕時計メーカーへのムーブメント供給を停止する方針をしばしば示している。これは2000年代前半からくすぶっている問題で、スウォッチは完全供給停止と撤回の発表を繰り返している。スイス時計市場の“アキレス腱”ともいえる問題だ。

シチズン時計がムーブメント製造企業を所有するプロサーを傘下におさめたこと、マニファクチュールとして自社ムーブメントを製造できるフレデリック・コンスタントをグループ化することは、この問題が無縁ではあるまい。

さて、名取氏は「今回のM&Aで、“ブランド・ピラミッド”は一応の完成をみました」と話すが、「身丈に合ったM&A先があれば……」とももらす。ひょっとしたら、また意外なM&A劇が見られるかもしれない。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
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○カレー沢薫の時流漂流
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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu