【サントリー】「やってみなはれ」M&Aの活用における意思決定力の重要性

【サントリー】「やってみなはれ」M&Aの活用における意思決定力の重要性

2016.07.16

【サントリー】「やってみなはれ」M&Aの活用における意思決定力の重要性

 サントリーHD(非上場)は国内屈指の飲料メーカーであり、アルコール飲料のメーカーとしては関連企業を含めると国内ナンバーワンの企業である。ウイスキーでは国内ナンバーワンのシェアを占めるも1990年代に入り蒸留酒の低迷を受けて厳しい状況が続いた。

 そういった状況下での「プレミアムモルツ」の大ヒット、ハイボールによるウイスキー人気の復活、ビーム社の買収を始めとしたグローバル戦略、これらの戦略は数多くの失敗に学び、それでも攻めの姿勢を崩さない同社の社風によるところが大きい。非上場が故の「意思決定力」が功を奏した面も見逃せない。今回は営業戦略における「意思決定力」の重要性にフォーカスし、サントリーのM&A戦略を分析する。

創業理念の重要性

 サントリーは1899年に創業者鳥井信治郎が大阪市において「鳥井商店」を開業、ぶどう酒の製造を始めたのが発祥である。1923年には国内で初のウイスキーづくりに乗り出す。紆余曲折を乗り越え、洋酒ブームによりウイスキー市場が拡大する中、単一市場の事業リスクを懸念し63年にビール市場に参入、72年より食品事業を展開。90年代には飲料市場を牽引して酒類事業と並んで大きな事業となる。

 87年に登場したアサヒビール「スーパードライ」の大ヒットの影でヒット商品に恵まれず酒類事業が苦戦する中、2005年「ザ・プレミアム・モルツ」がモンドセレクションのビール部門で金賞を受賞。40年以上も赤字であったビール事業の黒字化に成功する。その後グローバル戦略にも注力し、09年にはオランジーナ・シュウェップス・グループの全株を取得。14年に「ジム・ビーム」でおなじみのビーム社を買収したのは記憶に新しいところである。

■主なM&Aの取り組み

概要
1983年 フランスボルドーの名門 シャトー・ラグランシュを買収。
1990年 フランスの シャトー・セント・ジーンを買収。
1994年 イギリスのウイスキー醸造所 モリソン・ボウモアを買収。
2009年 ブラックストーン・グループとライオンキャピタルからオランジーナの銘柄を持つフランスの清涼飲料メーカー オランジーナ・シュウェップスを約3500億円で買収。
2009年 キリンホールディングスとの持ち株方式による経営統合の交渉行うも難航、2010年に交渉打ち切り。
2014年 ジム・ビームの銘柄を保有していたビーム社全株を総額160億ドルで買収。買収後のビーム社をビームサントリーとしてサントリー酒類のスピリッツ事業と統合。

 日本の大手酒類メーカーのM&Aの歴史について振り返ると、キリンビールが積極的にM&Aに着手したのが06年以降(メルシャン、協和発酵、サンミゲルほか)であり、アサヒビールも01年以降(ニッカウヰスキーほか)、サッポロビールにおいては現在もM&Aには消極姿勢である。80年代から積極的にM&Aまた商品開発や事業領域の拡大に取り組んでいたサントリーは、同業他社と比較してもM&A戦略には前向きであると言える。

 サントリーは創業者鳥井信治郎、二代目社長佐治敬三、三代目社長鳥井信一郎、四代目社長佐治信忠と歴代同族経営を貫いていた。五代目社長には佐治信忠氏とかねてより親交が深く慶応義塾大学の後輩でもある新浪剛史氏が就任。五代目社長である新浪氏は同族ではないが、いわばワンポイントリリーフ的な役割であり、いずれは鳥井信一郎氏の長男にあたる鳥井信宏(同社副社長)が承継していくものと推測できる。同社の企業理念である「チャレンジ精神『やってみなはれ』」「社会との共生『利益三分主義』」「自然との共生」の中でも特に有名であるのが『やってみなはれ』の精神である。チャレンジ精神を掲げる企業は多いが、サントリーはファミリービジネスであるが故に意思決定を迅速に行えるという強みがある。判断を誤ると企業の屋台骨が揺らぎかねないが、経営戦略を即座に実践につなげることができるという点は競合他社にはない大きな強みである。

 特にM&Aに関していえば、タイミングを逸しないために迅速な意思決定が求められる。先般のビーム社買収という大型M&Aを取り組む段階で三菱商事出身の新浪氏にスイッチしたのは賢明な施策と言えよう。有効な戦略立案と実行を新浪氏が行い、会長職の佐治氏が追認するという現体制は社内の意思統一も図りやすいと思われる。

サントリー食品インターナショナル

 サントリー食品インターナショナルは、サントリーHDの子会社であり清涼飲料事業を営む。設立は09年1月であるが、同年4月にはサントリー本体の純粋持株会社化に当たり、国内外の食品事業を継承した。11年1月組織変更により、フルコア・グループ、オランジーナ・シュウェップス・グループ、セレボス・パシフィック・リミテッド、ペプシ・ボトリング・ベンチャーズLLCなどを当社傘下に移管して海外における清涼飲料事業を統合。13年7月には東証一部に上場している。15年7月にはジャパンビバレッジグループ及びジェイティエースターグループを子会社化、販路拡大戦略にM&Aを積極活用している。

(出典:サントリーHP 2015年12月期決算投資家・アナリスト向け説明会資料より)

■サントリーHD・サントリー食品インターナショナル 構成図

(出典:サントリー食品インターナショナル有価証券報告書201512月第4四半期より)

■業績推移

サントリーホールディングス株式会社

■売上高・損益推移

(2013年はサントリー食品インターナショナル上場による特別利益を内包)

■自己資本比率

サントリー食品インターナショナル株式会社

■売上高・損益推移

■自己資本比率

 M&Aによる企業買収の効果はてきめんで、増収増益にて推移している。競合他社の売り上げが伸び悩む中、同社が売り上げを伸長させている点を考慮すれば、今後もM&Aをいかに活用するかが経営の鍵を握っていると言えよう。マーケットにおける競合の分析を次項で行う。

■マーケット動向

業績比較

■売上高比較

■営業利益比較


■ビール類売り上げシェア(2015年)

 国内大手酒類メーカーの勢力図はこの10年で大きく変化した。アサヒビールはスーパードライのヒット以降、国内におけるビール類の売り上げシェアは6年連続首位をキープしている。サントリーにおいてもプレミアムモルツのヒットやハイボールのブーム火付けが功を奏し、ウイスキーの売り上げも好調である。またサントリーはビーム社を買収した事により、他社を大きく引き離し、グループ全体では国内食品メーカーで売り上げ首位である。

 これに対しキリンは大きなヒット商品に恵まれず、M&Aにおいても11年に行ったブラジルのスキンカリオール社の買収が足かせとなり、15年には上場以来(49年)初の赤字(560億円)を計上した。事業領域の拡大やグローバル展開を迅速に行うためにM&Aは有効な施策と言えるが、買収先を見誤ると大きな負の遺産を背負い込む結果を招くこともある。

 日本のビールの売り上げは近年減少の一途をたどっているが、これにはさまざまな要因がある。ただ、明らかなのは成人の嗜好の変化である。これにより、ビール以外の飲料へのシフトが起こり、発泡酒や第三のビール、またハイボールへと移り気なトレンドが次々に訪れ、ビール単体の売り上げは下がっていく。今後の人口減少も考慮すれば、ビール以外の領域への展開はもとより、海外進出は必須となる。

 ただ、足元で見ると、08年から行った「角ハイボール」のプロモーションが大いに当たり、ウイスキーの売り上げは回復基調にある。20代~30代をターゲットにした施策やレストランチャネルの拡充、ドラマ「マッサン」のヒット、英国「Whisky Bible 2015」にて「山崎シングルモルト・シェリーカスク2013」が世界最高のウイスキーに選出されるなどの追い風もあり、国内、海外とも需要が増加している。08年には7.5万キロリットルまで低迷していたウイスキー年間出荷量が14年には11.8万キロリットルと飛躍的に伸びている。国内のウイスキー市場のシェアは、サントリー、ニッカ(アサヒHD)の2社で9割を占めており、寡占状態にある。

 しかし、国内のウイスキー市場が伸びているとはいえ、今後はグローバル戦略の強化が求められる。生産ラインが限られている国内の状況、また熟成に時間がかかるウイスキーの商品特性を考えると、海外メーカーのM&Aによる買収は効率的であると言える。

サントリーのM&A戦略

 サントリーのM&Aはビーム社の買収を機に「ハンズオフ」から「ハンズオン」に変化しつつある。ビーム社買収により有利子負債が1兆6000億円を超えた状況において、買収先のガバナンスの徹底は喫緊の課題である。ただ、老舗のブランド力を持つビーム社において、強硬な手法を取る事は禁物である。ビーム社の優れた部分を生かしながら、オーナーとしてのガバナンスを利かせていく、いわゆる「不易流行」を理念とした経営政策はサントリーのいわば「お家芸」であり、新浪社長を中心としたビームサントリーのガバナンス改革が今後のサントリーの将来に大きな影響を与えることとなる。

総括


 国内のビール市場がシュリンクしていく状況下において、事業ドメインの見直しやグローバル戦略の策定が今後の経営の鍵を握ると言ってよい。有効な戦略としてM&Aが挙げられるが、M&Aを成功させるには迅速な意思決定力と統合後のPMIが重要であり、正にサントリーは、現在その手腕を問われる局面にある。ビールにおいて日本のメーカー4社の世界シェアはわずか4.8%に過ぎず、これから海外勢が日本の酒造メーカーを買収のターゲットとしてくる中、サントリーの今後のグローバル戦略は競合他社への影響力も大きく、引き続き動向が注目されるところである。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

マーケティングと恋愛が似てるってどういうコト?Facebookで聞いてきた

恋するSNSマーケティング講座 第1回

マーケティングと恋愛が似てるってどういうコト?Facebookで聞いてきた

2018.11.14

Facebook社員に「マーケティングのイロハ」を聞く新連載!

第1回は、講師の紹介と「マーケティングと恋愛」の関係性について

フェイスブック ジャパンのSNS運用コンサルタントに「SNSマーケティング」について聞く短期連載。初心者~中級者に知ってほしい「マーケティングの考え方」について、全5回にわたって説明します。

キーワードは「恋愛」。とっつきづらいマーケティングも、恋愛に喩えて考えてみると、意外とわかりやすいようです。

「恋愛とマーケティングは似ていると思うんです」

FacebookやInstagram、TwitterなどのSNSを活用したマーケティングは今や企業にとって欠かせないものになっている。

一方で、「どこから始めればいいのかわからない」「そもそもSNSマーケティングって?」といった疑問もまだまだあるだろう。そこで今回は、フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リードを務める丸山祐子さんを講師に迎え、SNSマーケティングを“恋愛”に喩えてわかりやすく解説してもらうことにした。

フェイスブック ジャパンのクライアントソリューションズマネージャ リード 丸山祐子さん

なぜ“恋愛”なのか。それは「日々のお客様とのやりとりの中で、恋愛とマーケティングは似ていると感じることが多かったから」と丸山さんは言う。

丸山さん自身も現在婚活中の身。これまで仕事最優先で生きてきたが、最近になってパートナーを探すべく婚活を開始したという。その過程で感じたのが、前述の恋愛とマーケティングの共通点だったというわけだ。

「流行」は人の手でつくられるモノ

今回は連載初回ということもあるので、まずは講師である丸山さんの経歴から紹介しよう。

東京で生まれ育った丸山さんは、中高大一貫校に通っていた。小学生時代から「自分の知らない世界に行ってみたかった」という丸山さんは、高校時代に初海外となるカナダを訪れる。

「知らない言語で話しかけられたり、東京では見られない地平線や水平線を見たりして、私の知っている世界はなんて狭いんだろうと思いました」(丸山)

海外に魅了された丸山さんは、一念発起してカリフォルニアの大学に進学。そのころ、「ファッションの流行は自然に生まれるのではなく、必ず裏には仕掛人がいる」ということを実感したのがキッカケとなり、「自分も人の心を動かす仕事がしたい」と考えるようになった。

大学卒業後は日本に戻り、人材業界で働くことに。長くアメリカで過ごしていたこともあり、日本の業界事情がつかめない中、「まずはいろいろな業界を知りたい」と考えたためだ。

その後、「リーマンショック」が起こり人材業界の業績が悪化したこともあり、業務を通して興味を持つようになったデジタル業界への転職を決意。転職先は、IT業界を中心にメディアプランニングなどを行う電通の子会社。メディア担当として、デジタル広告のイロハを学んだ。

そこで担当していたクライアントが、当時日本に上陸したばかりのFacebookだった。その後、それまで培ったデジタル広告のノウハウをより活かすべく、フェイスブック ジャパンへ転職し、現在に至る。

広告はラブレター「相手に届かないと意味がないんです」

丸山さんは現在、FacebookやInstagramの広告メニューについて、運用コンサルやメディアプランニングなどを行っている。また、Instagramをより企業に活用してもらうためのプロジェクトメンバーとしても活動しているそうだ。

さて、そんな丸山さんがFacebookのコンサル業務を通して常々感じていたのが「恋愛とマーケティングの共通点」である。

どんな業界でもそうだが、良い製品だからといって何もせずに売れるわけではない。“届けたいメッセージを届けたい相手にちゃんと伝える”必要がある。これがマーケティングの目的だ。

「広告はよくラブレターに例えられます。いくらラブレターを書いても、それがちゃんと届けたい人に、その人の心に響くかたちで届かないと意味がありませんよね。ラブレターを届けるために恋愛にもマーケティングが必要なんです」(丸山)

婚活において“ラブレターを届けるべき相手”とは、まだ見ぬ将来のパートナーだ。その相手はどこかに存在しているはずだが、まだ出会ってはいない状態である。運命の相手と出会うために重要なことの1つは「とにかく出会いの数を増やすこと」だという。

「1人と会ってみて、その人が運命の相手ならラッキーですし、そういうケースもあるでしょう。でも、そうでない場合には、たとえば運命の相手と出会える確率が1/100だとして、10人と会うのと100人と会うのではどちらの方が出会える確率が高いか、言うまでもありません」(丸山)

これはそのままマーケティングに置き換えても同じことが言える。自社の製品を購入してくれる潜在的な顧客の態度変容効果が一緒であるなら、できるだけ多くの人数に広告を届けた方が売上は伸びるはずだ。

「そう考えると、婚活でもせっかくの週末に部屋にこもっているのはもったいないなと思いますよね。積極的に行動をおこして、多くの人に出会う機会を増やすことが大事なんです」(丸山)

一方で、重要なのは数だけではないと丸山さんは言う。多くの人にリーチすることは大前提として、そこからさらに“出会いの効率”を上げていく必要があるのだ。

では「数」に続いて大事なこととは? 次回は効率を上げるために必要な「ターゲティング」について、これまた恋愛と絡めて聞いていく。

第2回「恋するSNS講座」は11月20日に掲載予定です。

クルマ新時代の駐車場は何を目指す? 「CASE」で見えてきた未来像

クルマ新時代の駐車場は何を目指す? 「CASE」で見えてきた未来像

2018.11.14

日本自動車研究所が「自動バレーパーキング」の実証実験

駐車をシステム任せにできる仕組みとは?

未来の駐車場はクルマの“ハブ”になる

自動運転、電動化、カーシェアリングなど、新たな技術・サービスの登場により変革期を迎える自動車業界。クルマの乗り方、使い方を根本的に変えるかもしれないこれらの要素をまとめて「CASE」というが、この文字を目にする機会も増えてきた。クルマが変わればクルマに関連するモノや場所も変わりそうだが、例えば駐車場は、どのような姿になっていくのだろうか。日本自動車研究所(JARI)の実証実験で、その一端を垣間見た。

「CASE」の進展で駐車場の姿も一変する?

「バレーパーキング」を自動化

「CASE」とは「Connected」(コネクティッドカー)、「Autonomous」(自動運転)、「Shared & Service」(カーシェアリングなど)、「Electric Drive」(クルマの電動化)という4つの言葉の頭文字をとってダイムラーが使い始めた概念のこと。そのうち、コネクトと自動化の2つを使って、JARIが実用化の道を探っているのが「自動バレーパーキング」というシステムだ。

JARIは経済産業省および国土交通省の委託を受け、2016年度から「一般車両による自動バレーパーキングシステムの社会実装に向けた実証」というプロジェクトを進めている。「バレーパーキング」とは、例えばホテルやショッピングセンターなどにクルマで乗りつけたとき、キーを従業員に預けて、代わりにクルマを駐車しておいてもらうサービスのこと。その自動化に向けて、JARIはシステム、制度、事業性などを検証してきた。

JARIは今回、自動バレーパーキングシステムの機能的な確認を行うためとして、東京都港区にある「デックス東京ビーチ」の駐車場で実証実験を実施。その模様を報道陣に公開した。そこではクルマが勝手に動き、定められた駐車スペースに止まり、再び動き出す様子を見ることができたし、自動バレーパーキングを含めた駐車場の未来像に関する話も聞くことができた。

JARIはデックス東京ビーチ駐車場の2階で実証実験を実施した

自動バレーパーキングとはどんなシステムなのか

自動バレーパーキングをドライバー目線で説明するのは簡単だ。例えばショッピングセンターのエントランスにクルマで乗りつけたならば、降車してスマートフォンのアプリで「入庫」を指示し、そのまま買い物にでも食事にでも向かえばいい。用事が済んだ頃に「出庫」ボタンを押して出口に向かえば、クルマ寄せには愛車が迎えに来ている。

自動バレーパーキングの指示はスマホで行う

では、そのシステムはどのようなものなのか。自動バレーパーキングは「クルマ」「管制センター」「駐車場」の3者による協調で機能する。駐車場の構造を把握している「管制センター」は、ドライバーから入庫の要請を受けると、安全性や効率を考慮して駐車場所とそこへ向かう経路を決め、「クルマ」に無線で指示する。「クルマ」は「駐車場」にあるランドマーク(目印)をカメラやセンサーなどで読み取り、「管制センター」が持つ駐車場の構造情報(地図)と擦りあわせて自らの位置と経路を確認し、指示された駐車スペースに向かう。そんな流れだ。

自動バレーパーキングの様子。運転席に人は乗っているが、ハンドルからは手を離している

同システムが実用化となれば、駐車場の「利用者」は手間を省けるし、「事業者」は駐車効率の向上を図れる。無人で自動運転を行うクルマであれば、ドアの開閉スペースは不要だし、ぶつけたりこすったりする心配もないはずなので、クルマをギュウギュウに詰め込めるからだ。JARIによれば、駐車効率は従来比で20%向上する可能性があるという。また、自動車事故の3割は駐車場で発生しているので、自動化は事故削減にもつながる。

ただ、実用化には当然ながら、いろんなハードルがある。自動バレーパーキングの実用化に向けて動いているのは日本だけではないが、JARIとしてはまず、同システムの国際標準化に向けた手続きを進めたい考え。2021年のISO国際標準化に向け、各国と協議を重ねているところだ。

また、システムが実用化となったとしても、最初から全てのクルマが自動バレーパーキングを利用できるわけではない。まず、通信機能が備わっていないクルマはアウトだし、通信できたとしても、管制センターの指示通りに自動運転をこなせるクルマでなければ、やはり同システムの恩恵は受けられない。

JARIの考えでは、まずは同システムが求める要件を満たすクルマだけが使える専用の駐車場を実用化し、段階的に「混在型」を目指すのが現実的だそう。ただし、混在型を実現するためには、人が運転するクルマと自動運転のクルマを駐車場内でうまく交通整理する工夫が必要になるだろう。

未来の駐車場はクルマの「ハブ」になる?

自動バレーパーキングの実用化には時間が掛かりそうな雰囲気だが、その先の駐車場の在り方についてもJARIは考えをめぐらせている。JARIのITS研究部に所属する深澤竜三さんによると、未来の駐車場が目指すのはクルマのハブ、つまり、クルマにまつわるさまざまなサービスの結節点だ。

JARIが描く未来の駐車場の姿

ハブ駐車場とはどのような施設なのか。深沢さんの描写はこんな具合だ。

「自動バレーパーキングで、勝手に駐車しておいてくれるのはもちろんですが、そこが自動車整備の拠点としての役目を果たしたり、電気自動車(EV)であれば、勝手に充電しておいてくれるとか。買い物が終わる頃には充電が済んでいるというのが理想ですね。あとは、観光地であれば情報配信拠点としての機能も想定できます」

「ほかのアイデアとしては、クルマを駐車しておいたら、宅配便がトランクに届いている、といったような使い方も考えられます。その場合は、トランクを開けられるような仕組みが必要にはなりますが、届け先を1件ずつ回る必要がなくなるので、配送業者の方も楽ですよね」

未来の駐車場は、クルマにまつわるいろんな機能を提供する拠点になるかもしれない

深澤さんの話を聞いていると、おそらくハブ駐車場はホテルに1つ、ショッピングセンターに1つという具合にではなく、地域に1つ、しかも大型の施設として存在するもののように想像できた。用事で近くまで来た人も使えば近隣の住人も使うし、カーシェアやレンタカーなどのクルマも混在している大きな駐車場。そんなイメージだ。

こういう駐車場が必要かどうかについては、地域によって状況が違うだろう。コンビニエンスストアですら広大な駐車場を備える地域がある一方で、例えば銀座のように、数台しか止められないけれど、短時間で驚くべき値段になるコインパーキングが稼動している場所もある。おそらく、ハブ駐車場が必要になるのは後者の方だ。

銀座に大きなハブ駐車場を作る余地があるかどうかは別としても、クルマの駐車以外には使いみちがないという点で「デッドスペース」化している駐車場に、さまざまな機能を持たせるというJARIの構想には可能性を感じた。一般道の自動運転も実用化となれば、例えば東京オリンピックの後、有明かどこかに残された広いスペース(会場の跡地)に大きなハブ駐車場を作り、そこと銀座などの繁華街を結ぶということも、夢のようではあるが不可能ではないはずだ。