ツイッター創業者と歩んだ10年、モバイル決済「Square」の歴史を振り返って

ツイッター創業者と歩んだ10年、モバイル決済「Square」の歴史を振り返って

2019.02.21

小規模決済の雄「Square」はどのように生まれたのか

創業のきっかけは「アメックスが使えなかった」こと

今アントレプレナーに必要なのはMBAより、作る能力だ

「10年前、ある女性がアメリカン・エキスプレスで私の作ったガラス工芸品を買えないことに、ひどく腹を立てました。『なんだなんだ!』って。そこで、ジャックに電話をしたんです。『彼女が出したアメックスを簡単に決済できるようなサービスを作ろう』と」

モバイル決済サービス大手「Square(スクエア)」の共同創業者であるジム・マッケルビー氏は語る。米国テキサス州・ダラスにて行われたダッソーシステムズ主催の3次元CADイベント「SOLIDWORKS WORLD 2019(ソリッドワークス ワールド)」の基調講演でのことだ。同氏自身、ソリッドワークスユーザーであり、スクエアの開発にも使用している。

「SOLIDWORKS WORLD 2019」

2019年2月11日~13日まで米国テキサス州ダラスで行われた、世界最大級の3次元CADイベント。

ダッソー・システムズ・ソリッドワークス(以下、ソリッドワークス)の年次ユーザーイベントであり、全世界のソリッドワークスユーザー、代理店、パートナー企業、ソリッドワークス社員など、合計7000人以上の来場者が一堂に会した。

スクエア共同創業者のジム・マッケルビー氏

これはスクエア創業時のエピソードである。「今日はスクエアが誕生して10年が経った、特別な日」とジム氏は同社が歩んできたこれまでの道のりを振り返る。

彼の話は、世界を席巻する決済サービスが生まれるまでのストーリー、そして同氏が考える「アントレプレナーに求められる力」にまで及んだ。

モバイル決済サービス「スクエア」って?

「スクエア」と聞いてもハテナマークが浮かぶ人もいるだろう。筆者はそのサービスを使った経験がないし、「モバイル決済大手」「米国Fintech(フィンテック)企業の雄」と同社を表現する言葉を並べても、ピンと来ない。

しかし、先述のジャック(フルネームはジャック・ドーシー)氏という人物が「Twitterの創業者」であること、このサービスのローンチがFintechの波が来る以前(2010年)であったことを挙げれば、その重要性がわかりやすいのではないだろうか。

スクエアが提供するのは、”手軽なカード決済サービス”。用意するのはカードリーダーとアプリと、スマートフォン(もしくはタブレット)の3つだけ。スマートフォンのジャックにリーダーを差し込み、対応したクレジットカード(もちろんアメックスも含む)を読み込ませるだけで、決済できるという仕組みだ。

スクエア使用イメージ

その導入の簡単さや、申請後の審査の速さなどから人気を集め、個人事業主や開業直後のビジネスの場などで人気を博している。

最近だと、同社が提供する決済アプリ「Cash(キャッシュ)」において、アメリカ50州すべてでビットコイン(Bitcoin/BTC)の取引ができるようになったことも話題になった。

まだフィンテックという言葉が広く一般に知られる前に生まれ、業界の最前線に立つ企業である。

その時、ジャックは15歳だった

世界的な企業が生まれた時、その創業時のエピソードは「神話」のような扱いを受け、語り継がれる。

よく知られているのは、ウィリアム・ヒューレット氏とデビッド・パッカード氏が創業したヒューレット・パッカード(HP:Hewlett-Packard)であろうか。

HPの歴史は、カリフォルニア州・バロアルトにあるパッカード氏のガレージから始まった。そのガレージは今もなおHPが所有しており、「シリコンバレー発祥の地」として、米国家歴史登録罪に指定されている。

最近だと、民泊大手のAirbnbの創業話も有名だ。同社は、サンフランシコのアパートに一緒に住んでいたジョー・ゲビア氏とブランアン・チェスキー氏が国際デザインカンファレンスの際、アパートの自室リビングでエアーベッドと朝食を20ドルで提供することから始まった。

では、スクエアはどのようして生まれたのか。

「私がジャックに初めて会ったのは、まだ彼が15歳の時でした」と、ジム氏は「アメックスのエピソード」よりも昔、ジャック氏との出会いについて語る。

ジム氏はスクエアの共同創業者であると同時に、ガラス細工の職人でもある。しかし、ジャック氏と出会った頃は、まだガラス細工一本では生計を立てられずにいた。

「当時私が勤めていた会社では、紙の書類をスキャンしてCD-ROMに保存し、クライアントに提供するという事業を行っていました。しかし、インターネットが普及したことで事業の立て直しを求められました。その時、私と一緒に立ち上がったのがジャックでした」

窮地に陥っていた会社は再構築され、現在も(当時とは違う)事業を続けている。ジャック氏は弱冠15歳から経営者としての大器の片鱗を見せていたというわけだ。

アメックスが使えない!

勤め先を共に立て直した経験から、2人は「一緒に事業をしよう」と話していた。一方で、ジム氏のガラス細工の仕事も軌道に乗ってきた。

ある時、彼の作った「ガラス製のトイレの蛇口」が人気を博した。これがスクエア誕生のきっかけになった。

見た人の多くに「これが欲しい」と言われるようになり、「声を掛けられるたびに、『これがなくなると困るんだ』と値段を吊り上げていきました。しばらくすると、誰も買う人はいなくなりましたが(笑)」。

「ガラス製のトイレの蛇口」

ある日、また蛇口を購入したいという客が来た。それが冒頭に述べた女性であった。彼女はその高い商品をアメックスで購入しようとしたが、「そのカードは使えない」とジム氏が言うと、ひどく腹を立てて購入を諦め、帰ってしまった。

「折角の売り上げの機会を、『クレジットカードを使えない』という理由で失ってしまったのです」。

――それから10年。日本でも未だに、支払い時に「クレジットカードは使えないんです」と言われることは少なくない。そこで手持ちの現金がなければ支払いできないし、近くにATMがなかったら「カードが使えないならいいです」と断らざるを得ない。

そんなことが何度も続き、せっかくの販売機会を逃すようであれば、事業者にとっては大きなダメージになる。だからこそスクエアは、当時のジム氏のような小規模な事業者であっても受けられるような「シンプルな決済サービス」の提供を目指した。

MBAより必要なのは「作る能力」だ

「これからアントレプレナーを目指す人はMBAを取得するよりも、機械工学やコンピュータサイエンスを学んだ方がずっといいでしょう。アイデアを語るよりも、実際にモノを作る能力が重要なんです」

ジム氏がスクエアで得た経験から、こう語る。

決済サービスを作ると決めてから、ジム氏はハードウェアを、ジャック氏はソフトウェアを担当し、すぐにプロトタイプを作った。「ようやくできたプロトタイプは、散々たるものでした。でも、それが大事だったんです」と同氏は当時を懐かしむように振り返る。

プロトタイプ。右から初期に作ったもの、それから2つ目、3つ目に作ったもの

プロトタイプができる頃に、スティーブ・ジョブズ氏とのミーティングの機会があった。しかし、ジム氏はパニックに陥いる。ジョブズ氏が”デザイン狂い”であると知っていたためだ。

「ご存知の通り、ジョブズはデザインに"あまりにも強い”こだわりを持っていました」。プロダクトを気に入ってもらうためにはどうすればいいかと考え、ヒントを求めてApple Storeに走った。そこで見た『研磨されたアルミ』にヒントを見出し、二晩徹夜でプロトタイプの改良に着手したものの、思うようにはいかなかった。

その経験は、彼に新たな気づきを与えた。「プロダクトの改良には、反復作業を早くやる必要があるとわかりました。スピードはすべてを解決するんです」。その後は開発サイクルを速め、改良を続けた。ベンチャーキャピタル(VC)の投資を必要とする頃には、すでに機能する製品が完成していた。

「VCのピッチに参加したとき、『ジャックです、ジムです、まずはクレジットカードを出して』と言って、ベンチャーキャピタリストのクレジットカードを読み取り、いくらかの決済を行ったんです。VCのピッチに行くときに、完成品を持っていく人は少ない。アイデアだけではなく、機能するモノがあったのが良かったんです」

「今思えば、完璧なピッチだったかもしれませんね」

そして創業から10年が経った今、同社は時価総額300億ドルを超える企業になった。ちなみにこれは現時点で、ツイッターのそれよりも高い。

ジム氏が直面した、決済できなかった客のアメックス。そこから始まったスクエアは、ごく小さなカードリーダーとシンプルなシステムで、小規模ビジネスの在り方を変えた。

現在までに得た成果も、単なるアイデアの提案だけでなく、実際にモノを作ることができたからこそ。「作る能力」は、ここから先の未来に必要となる、重要な資質なのだろう。

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ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

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