「社会インフラ」と化したフォントの未来を考える

「社会インフラ」と化したフォントの未来を考える

2019.02.14

ここ10年で、フォントがサブスクリプション化

フォントはクリエイターたちにとって「社会インフラ」に

凸版印刷が行う「社会インフラ」への貢献、今後の展望は

印刷される「フォント」から、表示される「フォント」へ。スマホ等の普及やペーパーレスの流れにより、スクリーン上で触れる機会も多くなった「フォント」だが、今や当然と受け止めてしまいがちなこの状況も、直近10年程で変化した結果だ。

一方、印刷物やWebコンテンツを作る側からすれば、フォントを「買い切る」か、「定額利用する」かも大きな変化と言えるだろう。

2月6日~8日の3日間にわたり開催された、印刷業界の展示会「page2019」(東京・池袋)。同イベントでは印刷関連のカンファレンスやセミナーが多数実施されたが、そのなかでも8日に開催された、印刷業界におけるフォント利用にまつわるトークセッション「Adobe Fonts ~これからのフォント環境~」の様子をお伝えする。

フォントをめぐる変化

アドビがホストを務めたこのトークセッションのゲストは、macOSにも標準搭載されているフォント「凸版文久体」を手がけた、凸版印刷 情報コミュニケーション事業部 ソーシャルイノベーションセンターの田原恭二氏と同社の紺野慎一氏。両氏は同フォントの製作統括を担当したという。

凸版印刷の田原恭二氏

まずは田原氏が、凸版文久体について説明した。「目にやさしく、心にひびく。」というキャッチフレーズが付いた同フォントは、戦前からつづく活字の書体をデジタル化したもので、10年前の段階でスクリーン表示を意識して作られた、当時としては先進的な書体であったという。

10年前といえば、まだiPadがこの世に登場したばかり。従来の紙+活字に加えて、スマートフォンやパソコン等で多くの人がスクリーン上に表示される文字に触れ始め、読書環境にもデジタルが普及し始めた段階だ。

当時は印刷用がメインで、デジタル用はオプション的な位置づけだった。設計段階でWebでの表示を考慮した日本語フォントが少ないことに気づき、凸版文久体の開発に至ったという。

このフォントの開発が行われたのは、大手ベンダーのモリサワが提供する「MORISAWA PASSPORT」など、フォントがサブスクリプション形式で提供され始めた頃。これを機に「フォントを買い切って長く使う」形態から、「フォント利用に対して継続的に投資する」スタイルへ切り替わり、印刷会社、デザイナーなど業界関係者にとって仕事にかかせない、水道や電気のような「産業基盤」となったと言えると田原氏は語った。

凸版文久体は「社会インフラへの貢献」を意識して開発された

また、田原氏は、「凸版文久体で大事にしたこと」として、読むリズムの演出、横組みでの可読性、身体的なタイプデザイン、レガシーの継承、そして社会インフラとしての貢献——の5つを列挙。モリサワパスポートへのフォント提供と、macOSへの搭載(macOS 10.12 Sierraより搭載)、そしてWebフォントサービスの「REALTYPE」への提供についても、社会インフラとしての貢献の一環だと説明した。

こうした同フォントの提供形態の多様化は、凸版文久体が開発された頃はサブ的な扱いだった、Webサイトなど「デジタル利用」といえる範囲の重要性が格段に高くなったことを意味していると言えるだろう。

ここで、このトークセッションの進行役を務めていたアドビ システムズ フィールドプロダクトマネージャーの岩本崇氏が、Adobe Creative Cloudに付帯するサービス「Adobe Fonts」を紹介した。以前は「Typekit」という名称で知られていたが、2018年10月にリニューアルされ、サービス名が「Adobe Fonts」に改められている。

アドビ システムズのフィールドプロダクトマネージャー・岩本崇氏(写真右端)。スライドに写っているのは、アドビ開発の日本語フォント「貂明朝」

フル機能のAdobe Fontsは、月額費用がラインナップ中安価なフォトプランを含む、Creative Cloudのすべての有償ユーザーが利用可能。最大100フォントまでだった同期フォント数が無制限になったほか、1万5000種類以上(日本語フォントは185種類)のフォントが利用可能で、Webフォント利用にも対応している、と紹介した。

そして、岩本氏は、Adobe Fontsの新サービス「フォントパック」についても言及。これはテーマに応じパッケージ化された複数のフォントを手軽にインストールできるもので、日本語3種類を含む15種類がラインアップされ、印刷物やWeb、デジタルサイネージ、映像字幕などでの商業利用も可能とのことだ。

印刷業に携わる人の関心を示すように、大入りとなった今回のトークセッション

印刷業界では、Adobe Creative Cloudに含まれるアプリケーションが既に社会インフラ化していると言っても過言ではなく、そこに付属するフォントサービスであるAdobe Fontsへの関心が高まるのは自然なことと言える。

Creative Cloudに付随するサービスであるAdobe Fontsは、2018年10月のTypekitからの改名のタイミングで、Creative Cloudのすべての有償プランにおいて利用可能となった。また、Adobeは、自社開発のフォントにも近年力を入れており、直近では日本語フォント「貂明朝」に、少し抑揚を抑えてデザインされた本文用フォント「貂明朝テキスト」をリリースするなど、フォントに関しても”社会インフラ化”を推し進めている様子が伺える。

果たしてフォントサービスに関しても、Creative Cloudアプリケーションのように印刷業界のディファクトスタンダートとして受け入れられるのか、注目したい。

印刷業界におけるいまの使い勝手

次に、凸版印刷の紺野氏が、Adobe Fontsで提供されているフォントを使う上での注意点を解説した。

凸版印刷の紺野慎一氏

特に強調していたのは、Adobe Fontsのフォントは、Adobe IllustratorやAdobe InDesign上で「パッケージ機能の対象外」である点だ。Adobe Fontsでは膨大な数のフォントが利用できるが、パッケージ機能でフォントが収集されないとなると、出力センターなどではデータのなかにそのフォントが存在しない状況になるため、トラブルになってしまう。

本来、Adobe Creative Cloudユーザー同士であれば、InDesignやIllustratorのファイルを開くだけでAdobe Fontsにアクセスし、必要なフォントを自動的にダウンロードしてくれる。

だが、セキュリティ上の観点から印刷会社ではオフライン状況下で作業するため、自動的にフォントを取得する機能を利用できないことが多い。やはりAdobe Fontsのフォントを使う場合は、PDFにフォントを埋め込むか、あるいはアウトライン化(パスで構成されたオブジェクトに変換すること)してからの入稿を推奨すると語った。

印刷会社へ入稿する場合、フォントの同期トラブルを避けるには、PDFによる入稿が対応策として挙げられる

また、印刷業界では、IllustratorファイルやInDesignファイルのネイティブ入稿が依然として主流ながらも、PDF入稿が増えているという。これは前述のフォント同期を解決する以外に、アプリケーションのバージョンが異なっていてもデータを共有できるからという理由がある。ちなみにAdobeでは、出力の処理スピードを大幅に向上し、作業が効率的となる新しいPDF規格「PDF/X-4」の利用を推奨している。

「元号対応」と社会インフラ貢献の推進

2019年4月1日の新元号発表を控え、印刷業界といえばカレンダー対応などが話題になったが、フォントにもその余波は及んでいる。日本語フォントには「平成」などの元号などを1文字で表す合字(リガチャ)が含まれており、各フォントにも新元号の合字が追加されることが見込まれるからだ。Adobeは、新元号に対応する文字を提供するため、新たな文字集合規格である「Adobe-Japan1-7」を作成し、そこに新しい元号の合字を追加する。

凸版文久体の今後の取り組み

田原氏は、凸版文久体のこれからの取り組みとして、「新元号対応」と「社会インフラ貢献の拡大」を挙げた。

新元号対応に関しては「他のフォントメーカーは新元号の合字について公式にはコメントしていませんが、まもなくアナウンスするでしょう。凸版としてもできるだけ早く新元号対応に取り組む所存です」と述べた。

さらに、社会インフラ貢献の拡大についても言及し、「将来的に凸版文久体をAdobe Fontsに提供できれば、(macOSのように同フォントが標準搭載されていない)Windows利用のCreative Cloudユーザーにも利便性を提供でき、社会インフラ貢献の拡大になりうると思うので、検討したい」と述べ、トークセッションを締めくくった。

フォントのサブスクリプション製品といえば「MORISAWA PASSPORT」を筆頭に複数存在する。だが、金額面や収録内容などから、すべてのクリエイターがCreative Cloudなどのアプリケーションに加え、別途月額を支払ってフォントを使うというのはあまり現実的ではない。

凸版文久体のような歴史あるフォントがAdobe Fontsに加われば、日本語フォントの選択肢は広がる。国内クリエイターの「使える」フォントが広がる動きに期待したい。

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

LINEと比較されがちな「+メッセージ」は独自の価値を打ち出せる?

2019.04.25

携帯3社が「+メッセージ」の機能拡充を発表

LINEと比較した強みは「信頼性」

金融サービスと連携し、住所変更手続きが容易に

NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯大手3キャリアが「+メッセージ」(プラスメッセージ)の機能拡充を発表した。

国内大手3キャリアが「+メッセージ」の機能拡充を発表

サービス開始から1年が経過した「+メッセージ」だが、広く普及した印象はない。「メッセージならLINEで十分」との声も多い中で、普及する可能性はあるのだろうか。

「LINE」とは異なる可能性を秘めた「+メッセージ」

2018年5月に大手3キャリアがサービスを開始した「+メッセージ」は、2019年4月までに利用者が800万人を突破したという。だが「使ったことがない」とか、そもそも「名前を知らなかった」という人もいるのではないだろうか。

+メッセージの利用者は800万人に

「+メッセージ」とは、国際規格のRCSに準拠したメッセージサービスだ。従来のSMSを置き換えるサービスとして、短いテキストだけでなく長文や画像、スタンプを送れるのが特徴だ。

「+メッセージ」はSMSを置き換える上位サービス

一方、日本国内ではLINEが普及しており、月間利用者数は7900万人、そのうち毎日使うユーザーは6600万人もいるという。日本のほとんどのスマホにLINEは入っており、日常的なメッセージ需要はLINEが十分に満たしている状態だ。

だが、どんなにLINEが普及してもSMSがなくなることはない。サービスのID登録やログイン時など、本人確認を必要とする多くの場面でSMSは使われている。SMSは契約時に身分証明書で本人確認を済ませており、信頼性が高いのが特徴だ。

一般に「+メッセージ」は大手キャリアのLINE対抗策と認識される傾向にあるものの、その性質はやや異なる。「+メッセージ」がSMSの延長にあるという特性を活かせば、SMS認証のような本人確認はもちろん、企業と個人の間でのさまざまな手続きに活用できるはずだ。

こうした背景を踏まえて3キャリアが発表したのが、新サービスの「公式アカウント」や、金融各社と連携する「共通手続きプラットフォーム」だ。

仕組みの共通化やMVNO対応など、課題は山積

2019年5月以降に始まる「+メッセージ」の公式アカウントは、企業向けのアカウント機能だ。利用例としては銀行やレストラン、携帯会社を挙げ、登録住所の変更やレストランの予約、問い合わせといったサービスを実現できることを示した。

「+メッセージ」の「公式アカウント」機能

こうした機能はアプリでも提供されているが、スマホにアプリを入れていないユーザーも多く、パスワードを入れてログインするのは煩雑だ。だが「+メッセージ」なら電話番号だけでユーザー本人とつながり、チャットで手続きができるので便利というわけだ。

銀行やレストラン、携帯会社による利用例

だが、サービス提供に向けた課題は多い。公式アカウントの開設は、大手3キャリアが個別に営業をかけ、各社の基準で審査する方式となっている。一見すると無駄な仕組みだが、独占禁止法への抵触を避けるため、3社が競争している建前になっているという。

3キャリア以外への対応として、ワイモバイルなどのサブブランドやMVNOでは利用できない状況が続いている。サービス開始時から指摘されていた問題だが、1年が経過して何の進展もないのは理解に苦しむところだ。

iPhone対応にも課題がある。アプリを入れることで「+メッセージ」は使えるものの、SMSを送受信する標準のメッセージアプリを置き換えるものではない。ここに手を加えるのはiPhoneの基本的なユーザー体験に影響するため、アップルの判断次第になりそうだ。

また、今後の構想として、金融5社を横断した「共通手続きプラットフォーム」も打ち出された。住所変更手続きなど、各社の競争に直接関係しない事務手続きを共通化し、顧客の利便性向上を図るのが狙いだ。

金融5社と「共通手続きプラットフォーム」に向けた検討を開始

最近、フィンテックやキャッシュレスの新サービスが増え、新たに住所や電話番号を登録して口座を作る機会は多くなった。しかし、それに伴い変更の手間も増している。そこで+メッセージを利用したオープンな事務手続きプラットフォームが実現すれば、1回の手続きで全社に情報が伝播するというわけだ。

「+メッセージ」は、携帯市場で競合する大手3キャリアが共通サービスの整備を進めなければならない。その中で「電話番号でつながる」強みを活かした独自の活用法が、ようやく見えてきたといえそうだ。

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2019.04.25

シャークニンジャ日本法人の社長 ゴードン・トム氏に直撃

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者が語る参入秘話

日本向けの製品カスタム、消費者ニーズの取り入れ図る

全米ナンバーワンの掃除機ブランド「シャーク」。日本では、長年スチームクリーナーのメーカーとして知られていたが、2017年6月に日本法人が設立され、翌2018年夏に日本市場に本格参入した。

第1弾として、同年8月にコードレススティッククリーナーの「EVOFLEX」を発売。翌9月にはハンディクリーナー「EVOPOWER」、10月にはスチームモップ3製品、ロボット掃除機「EVOROBOT」と精力的に新製品を日本市場に投入している。

そこで今回は、シャークニンジャ日本法人の社長を務めるゴードン・トム氏を直撃。同社の日本市場への本格参入の意図と、今後の戦略や日本の掃除機市場や消費者について伺った。

シャークニンジャ日本法人の社長のゴードン・トム氏。英国の元外交官で、20年前にダイソンの掃除機を日本に広め、現在の業界の発展につながる市場の開拓の礎を築いた人物だ

「コードレススティッククリーナー」人気の立役者

ゴードン・トム氏と言えば、日本の掃除機市場の変革者と呼んでも過言ではない人物。もとはイギリスの外交官として来日。赴任中の1990年代にダイソンの日本法人の初代社長に抜擢された(編集注:イギリスの外交官には副業を認める制度がある)。

当時国内メーカーの寡占状態であった日本の掃除機市場に“吸引力が落ちない”の謳い文句で同社のサイクロン掃除機を展開し、「ダイソン」ブランドの地位確立の礎を築いた。

ダイソンを退いた後は、エレクトロラックス日本法人の社長に就任し、キャニスター型に代わり、現在日本の掃除機市場において主流となった“コードレススティッククリーナー”の人気を定着させた。

外国人でありながら、日本の掃除機市場を知り尽くした“業界のマシュー・ペリー”的存在のトム氏だが、今度は全米ナンバーワンの掃除機メーカーの日本法人の社長として日本に再上陸したのは、どういった経緯なのだろうか。

「2014年にエレクトロラックス社を退職して、以降はマーケティングのコンサルタントの仕事をしていましたが、2016年の9月ごろにシャークから連絡がありました。当時のシャークの売上は北米が95%、イギリスが5%ほど。中国法人を立ち上げ、代理店経由でメキシコにも進出するなど本格的な国際化戦略を進めており、日本も大事な市場の1つと考えていました。そんな中、私のところに相談があり、翌2017年の1月くらいにボストンの本社へ出向き、エンジニアやデザイナーに会って話をし、3~4月ぐらいに日本に展開する商材や現地法人の設立、取引・流通事情、マーケティング戦略の提案をしました」

日本法人の設立にあたっては、最終的にはトム氏自らが初代社長に就任することになり、これまでの経験をもとに、オフィスの設置場所や人材集めなども自ら担ったとのことだ。

参入にあたり日本向けにカスタム

次に着手したのは、日本市場に投入する商材の選定。氏曰く「これまでで最高の掃除機に出会えた」と評する同社の製品で、日本市場参入第1弾に選ばれたのは、「EVOFLEX」。本国では2017年秋に発売され、ボタン1つでパイプを90°曲げて掃除ができるという独特のギミックで注目を集めた製品だが、日本で発売するにあたっては多くが日本向けにカスタマイズされたという。

日本市場への本格参入の第1弾として2018年8月に発売されたコードレススティッククリーナー「EVOFLEX」。本国でおよそ1年前に発売された製品(左)を、サイズからモーター、操作性に至るまで、日本向けに大幅にカスタマイズした上で登場し

「本国で開発された最初の試作機は、私の目から見たら全然ダメでした。まず、大きすぎて日本人の身体にも家にもマッチしていませんでした」

パイプ部分が90°曲がって家具の下にも潜り込みやすいという、製品のアイデンティティーとも言える独自性はそのまま継承しつつも、パーツの着脱をしやすくするためにボタンの改良が施されるなど、日本のユーザーに受け容れられるよう細かい部分にまで配慮がなされた

そこで実際に、試作機を用いて日本の家庭50世帯で6週間のテストを3回行い、その結果、日本向けの「EVOFLEX」は、原型は同じでありながらも本国の製品とは見た目も中身もかなり異なる製品に仕上がった。「例えば、ヘッドブラシは、畳や木材などが多い日本家屋の床に合わせて柔らかいローラーにしました。ダストカップも中身が見える透明な素材で、中のメンテナンスがしやすいように角を丸くしています」とトム氏。

それ以外にも、高音域のモーター音を好まない日本のユーザーのために音を低減したり、高性能なHEPAフィルターの採用や、取り外しやすいメッシュフィルターを採用してサイクロン部の手入れをしやするなど、掃除機の本質性能だけでなく、操作性やメンテナンス性にこだわった改良が多数施された。

こうした改良点について、トム氏は日本とアメリカの掃除機に対する消費者の根本的な考え方や流通ルートの違いを明かす。

「日本の場合には、掃除機や家電製品の購入は、家電量販店が主流ですが、米国の場合にはウォルマートなどの巨大スーパーで購入するケースが一般的です。そこでは日本のように実際に製品に手で触れて試してみるという機会がありません。そのため、製品への信頼度が重要で、ブランド力というのはとても大事なのです」

日本でも昨秋発売された同社のロボット掃除機。本国ではそのおよそ1年前に発売されているが、ほぼアイロボット社の独占市場であったアメリカのロボット掃除機市場において、初めてアイロボット以外で2桁のシェアに躍り出ている。

2018年10月発売のロボット掃除機「EVOROBOT」。掃除機メーカーとしてのブランドへの信頼性と、十分な機能・性能と消費者が受け入れやすい価格帯で、アイロボットの「ルンバ」以外で初めて10%を超えるシェアを獲得したという

さらに、米国の消費者は「掃除機が必要」という需要があった上で、その用途を満たすための機能と予算を照らし合わせて製品を選ぶというのが購入の意思決定。ゆえに、デザインやメンテナンスといった要素は日本人ほど重視されず、むしろ「さまざまなユーザー層の需要に応えるために、価格によって付属品を選べることが重要なのです」と話す。

20年前の日本市場は「つまらなかった」

一方、約20年前に日本の掃除機市場に乗り込み、「日本の掃除機は紙パックのキャニスター式ばかりで個性がなく、つまらなかった」と当時を振り返るトム氏。業界の“エバンジェリスト”として、日本市場においてシャークブランドのプレゼンスをどのように高めていくのかに注目される。

そこで目を向けたのが、昨年9月に発売された「EVOPOWER」だ。本国での発売後、日本向けにカスタマイズして上陸した「EVOFLEX」とは異なり、日本をメインマーケットとして、日本の消費者のニーズを多く取り入れて開発されたハンディクリーナーで、その後に英国でも発売されているとのこと。

さらに、今年1月には長崎県の無形文化財である「臥牛窯」とコラボレーションし、「EVOPOWER」に絵付けを施した限定商品を発売するなど、"日本発"の掃除機を送り出している。今後もこうした商品展開や戦略を積極的に進めていく方針なのだろか。最後に、シャークニンジャの展望について訊ねてみたところ、次のように語ってくれた。

2018年9月発売の「EVOPOWER」。コンパクトで部屋に設置しやすくサッと使える機動力のよさと、生活感を感じさせない外観でインテリアにもなじみ、部屋に常設しやすいと好評だ
「臥牛窯」とのコラボレーションで生まれた限定の「EVOPOWER」。プロモーションというよりも、どちらかと言うと日本の伝統工芸贔屓のゴードン社長の“趣味”で作られたようだが、今後も相性がよいものがあれば実現していきたいとのこと

「シャークの掃除機は、あくまでユーザーの使い勝手が最優先です。ゆえに、EVOPOWERも持ちやすく、どこにでも置いて使いやすいサイズ・形状を追求したハンディクリーナーですが、空間に置かれた時のこともイメージし、見た目のデザインにもこだわって開発された、これまでになかった商品だと思います。そういう意味ではEVOPOWERのデザインはまさに"機能美"と言えます。臥牛窯は、単に私が好きだと言う理由でやりました(笑)。積極的にとまでは言えませんが、伝統工芸が好きなので、実現できれば個人的には今後もコラボ商品を展開してみたいですね」

ダイソンで日本の掃除機市場に風穴を開け、エレクトロラックスで新たな掃除スタイルを日本に定着させたゴードン・トム氏。掃除機メーカーとして全米で絶対的なブランド力を誇るシャークニンジャを率い、今度はどのような手腕を奮うのか楽しみである。

長年の経験・知見を武器にした"掃除機"を通じた外交で、日本と諸外国をつないで、今後も世の中の掃除・家事スタイルやあり方を変えていってくれることへの期待が寄せられる、ゴードン・トム氏
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