NPBとKONAMIがeBASEBALLに期待する“多層なファンの相乗効果”

NPBとKONAMIがeBASEBALLに期待する“多層なファンの相乗効果”

2019.02.25

NPBとKONAMIが開催した「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2018」

関連資料が野球殿堂博物館へ寄贈されるほど、高い評価を得た

主催者であるNPBとKONAMIがeBASEBALLで目指すものとは

日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)が共催した「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2018」は、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球 2018』(パワプロ)を使用するeスポーツのプロリーグ。2018年11月にスタートし、今年1月の「SMBC e日本シリーズ2018-19」の決着をもって閉幕した。

NPBが手がけるプロ野球初のeスポーツリーグとして、野球界の歴史にも大きな足跡を残したと言えるだろう。その偉業を称え、eBASEBALL関連資料の「SMBC e日本シリーズに出場した埼玉西武ライオンズと横浜DeNAベイスターズのサイン入りユニフォーム」「サイン色紙」「最優秀選手 なたでここ選手使用のPlayStation 4用コントローラー」「PlayStation 4用ソフト『実況パワフルプロ野球2018』」が野球殿堂博物館へ寄贈された。これらの資料は約1年間展示される予定だ。

寄贈されたeBASEBALLの関連資料。選手の使用したコントローラーが野球のウイニングボールのように飾られている

これまで、ゲームソフトの『パワプロ』が野球殿堂博物館で展示されたことはあったが、eスポーツ関連の資料として展示されることは、画期的な事象だと言える。

そこで今回、日本の野球シーンに新たな1ページを刻んだeBASEBALLについて、大会運営を担ったNPB 総合企画室 室長 髙田浩一郎氏と、コナミデジタルエンタテインメント プロモーション企画本部 副本部長 車田貴之氏から、リーグを終えた感想などを伺った。

さまざまなファンが訪れたeBASEBALLの会場

――まずは、NPBとKONAMIが組んで「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ 2018」を開催するに至った経緯をお教えください。

髙田浩一郎氏(以下、髙田):KONAMIさんの開催した大会「パワプロチャンピオンシップス 2017」を、NPBが公認したことがきっかけです。以前より懇意にさせていただいておりましたが、eスポーツリーグの共催という文脈では、これがきっかけになりました。また、ほぼ同時期にNPB内部でも「eスポーツについて何か取り組むべきではないのか」という話が出てきていたんですね。たしか、2017年の暮れくらいだと思います。そして12球団と真剣にeスポーツについて事業研究を始めた矢先、2018年の3月くらいにKONAMIさんから今回のお話がありました。

KONAMIさんからいただいたお話では、扱うタイトルが野球ゲーム『パワプロ』だったのですが、NPB内部では「NPBだからといって、野球にこだわる必要はないのではないか」という意見も出ました。議論を重ねていった結果、最終的には「両方やってみよう(※)」という答えになり、eBASEBALLを含む2つの競技タイトルで大会を開催することにしました。

大会の形態についても、さまざまなものを検討しましたが、アメリカのプロバスケットボールリーグ「NBA」が開催しているバスケットボールゲームのeスポーツ大会などを参考にして、やはり“リーグでやること”に意味があるのではないかと結論付け、今回のeBASEBALLを開催することに決めました。

※ NPBでは今回の『パワプロ』を用いた「eBASEBALL」だけでなく、2019年5月18~19日に『スプラトゥーン2』の大会を開催する予定。「第4回スプラトゥーン甲子園」に出場し、かつ応募のあったチームのなかから選考を行い、最終的に12球団によるドラフト会議で選ばれたチームが参戦する。

NPB 総合企画室 室長 髙田浩一郎氏

車田貴之氏(以下、車田):開催が決まったあとは、NPBさんと何度も議論を重ねて、概要を決めていきました。eBASEBALLでは出場者を“プロ野球eスポーツ選手”と位置づけることにしましたが、プロになるにはプロ野球と同じようにプロテストから始めて、ドラフト指名を勝ち取ってもらうことにしました。「もう一つのプロ野球」をテーマに設定していたので、流れはできるだけプロ野球と同じにしたかったんですよね。

具体的には、2018年7月30日からオンライン予選を開始し、その成績上位者のみが参加できるオフライン選考会を西日本と東日本で実施しました。そこで合格した36人が「eドラフト会議」に参加します。そして、各球団の指名によって、12球団を代表するプロ野球eスポーツ選手が決定するわけです。

コナミデジタルエンタテインメント プロモーション企画本部 副本部長 車田貴之氏

――そうしてプロ野球eスポーツ選手の所属チームが決まり、「もう一つのプロ野球」としてスタートしたeBASEBALLですが、シーズンを通しての感想を教えてください。

髙田:eドラフト会議では、前大会の「パワプロチャンピオンシップス 2017」や選考会の成績をもとに、ドラフト指名が行われていったのですが、実際にeBASEBALLのシーズンが始まると、ドラフト下位指名選手の活躍が目立ちましたね。

プロ野球でもドラフト上位選手が必ず活躍するわけではないですし、そこにドラマが生まれることもあるわけです。今回のeBASEBALLでもそのようなドラマがあり、人の感情を揺り動かすような結果を得られたのではないでしょうか。このような視点からも、2019年はもっと多くの人に観てもらえるはずだと手ごたえを感じましたね。

車田:回を追うごとにファンが増えていくのがわかりました。KONAMIではeスポーツ大会をいくつも開催していますが、eBASEBALLは雰囲気が違いましたね。『パワプロ』のファンだけでなく、プロ野球のファンや各球団のファン、eスポーツ自体のファンなど、さまざまな人に来ていただけました。そこに相乗効果が生まれ、プロ野球ファンがeスポーツやゲームに、eスポーツファンがプロ野球に関心をもってくださればと思います。

今シーズンでも、ファンの熱量が多くの人に伝わったことで、e日本シリーズで三井住友銀行(SMBC)さまがスポンサーとして参加してくださったのではないでしょうか。

髙田:大会を開催するにあたって、プロ野球の各球団からはマスコットを呼びました。試合の解説にはプロ野球のOBに来ていただきましたし、実況もプロ野球実況を現役で行っているアナウンサーにお願いしました。ゲームをほとんど遊んだことがないプロ野球ファンにも、そのあたりが刺さったのではないでしょうか。いろいろなタイプのファンがいて、会場で一緒に声を出して応援する。ほかではなかなか見られない光景ですよね。

e日本シリーズでは、12球団のマスコットとスポンサーSMBCのキャラクター「ミドすけ」が集結。全チームのマスコットがそろうのは、プロ野球ではオールスターゲームくらいだとか

――開幕戦は明らかにプロ野球チームのファンが多い印象でしたが、SMBC e日本シリーズではeBASEBALL選手の名前とチーム名が入った旗を振っている人を多く見かけました。eBASEBALL選手がプロ野球選手と同様に応援される存在になったのだと、確信した瞬間でした。それについてはどう感じられてますか?

車田:そうですね。いろいろな層の人がいるのは本当におもしろいですし、それぞれの層の人がeBASEBALLに興味を持ちだしているのはうれしいことです。あとは、ゲームのプレイヤー解説とプロ野球OBの解説の掛け合いもおもしろかったですね。eBASEBALLの解説をオファーするときに、内容の説明をするのが難しかったのですが、今回お願いしたプロ野球OBの方々はゲームシステムにも興味を持ってくださいました。特に、元ヤクルトスワローズ監督の真中満さんは、選手とのコミュニケーションを積極的に図ってくださって、eBASEBALLのいい雰囲気を作っていただけたと思います。

――シリーズ後半では、真中さんも選手固有の特殊能力である「チャンス○」や「調子の良し悪し」などを完全に理解していましたね。

髙田:真中さんは本当に吸収力がすごかったですね。演出については、こちらが本気度を出さなければ、観客に本気になってもらえないと思ったので、「プロ野球とはこういうものだ」というものをできる限り加えました。今後も、プロ野球と同じくらいに作り込んでいきたいですね。

eBASEBALL開幕戦の様子。左からフリーアナウンサーの田中大貴氏と元ヤクルトスワローズ監督の真中満氏、プレイヤーゲストのめし原氏

eBASEBALLをプロ野球と同じような興行スタイルへ

――SMBC e日本シリーズで、eBASEBALLの来季の開催が発表されました。来季はどのような形での運営を考えてますか? やはり野球観戦というと、ビールを飲みながら応援する楽しみもあるでしょう。ビールの売り子さんが居てくれると、さらに盛り上がると思います。あとは、選手のグッズが販売されていると、観に来る人もうれしいのではないでしょうか。

車田:いまはeBASEBALLというはじめての取り組みを終えたばかりなので、まだ来期の詳細までは決定していません。現在話し合いを進めている最中です。いかにしてファンや視聴者を増やしていくか、チーム編成や選手数、メディア対応など、しっかりまとめていく必要があると思います。

髙田:個人的には物販や会場での飲食など、みなさんが想像するような取り組みをしていきたいですね。やりたいことをすべて盛り込むことは難しいですが、それでも期待に応えていきたいと思っています。

開幕戦の様子。試合前にオンライン投票での勝敗予想が行われた

――来期のスポンサーについてはいかがでしょう。e日本シリーズではSMBCがスポンサーについたこともあり、さまざまな企業がスポンサーに名乗り出てきそうですが。

髙田:特にBtoC向け企業の方が注目してくださっているようです。実際、会場にはさまざまな企業の方が視察にいらっしゃっていたようですね。eBASEBALLは、プロ野球ファンとeスポーツファンの両方をカバーできる希有な存在でもあります。そういう部分が企業にとって興味の対象になるのかもしれません。

――では、最後に来期に向けてひと言お願いします。

車田:「百聞は一見にしかず」という言葉は、まさにeスポーツ、eBASEBALLのための言葉だと思います。単語だけ知っている状態と、実際に会場や動画で観たあとでは、eスポーツやeBASEBALLの印象は大きく変わるはずです。

eBASEBALLや『パワプロ』が好きな人は、これからプロ野球が始まるので、キャンプやオープン戦も観てほしいですね。実際にキャンプ地まで行くのは大変なので、スポーツニュースやネットニュースでチェックするのもいいと思います。そうすれば、2019年シーズンのeBASEBALLをより楽しめるようになるのではないでしょうか。

髙田:来季もさまざまな施策を実施する予定ですが、その前に一度、KONAMI公式チャンネルのアーカイブに残っているeBASEBALLの配信動画を観てほしいですね。そして、いざシーズンが始まったら、ぜひ会場に足を運んでみてください。そこには野球場と同じようなドラマがあり、感動があるので、それを実際に感じていただきたいと思います。

またNPBとしては、プロ野球eスポーツ選手がしっかりと職業になるような形を目指さないといけないと思っています。そのためにも、eBASEBALLを事業としてきちんと定着させなければなりません。ゲームではありますが、プロ野球と同じような興行スタイルへと作りこんでいきたいですね。

――ありがとうございました!

プロ野球初のeスポーツリーグとしてeBASEBALLは、成功を収めることができたと言えよう。ただし、eペナントレースは各チーム1節3試合ずつ、全5節でリーグ戦が終了し、eリーグ代表決定戦やSMBC e日本シリーズが1試合のみ、3イニング交代制という形式が正解かどうかは、検討してみる余地がありそうだ。

また、動画配信に関しては視聴者数も期待以上のものだったが、実際に会場に足を運ぶとなると、観戦環境としては設備が足りないという印象も持った。プロ選手としての報酬額についても、物足りなさを感じた人もいるのではないだろうか。

具体的な運営は検討中とのことだったが、ファンとしては、プロテストやドラフトから再スタートするのではなく、選手がある程度チームに固定されると応援しやすいように思う。プロ野球の試合前にファンと『パワプロ』で対戦するようなサービスがあれば、両者がさらに一体化していけるかもしれない。

長年「プロ野球」というリーグを手がけてきたNPB。eBASEBALLの課題はあるだろうが、その手腕に期待したいところだ。

「SMBC e日本シリーズ2018-19」のアーカイブ動画
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先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。

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2019.05.21

2018年度のM&A件数は830件、取引総額は12兆7,069億円

「武田薬品のシャイアー買収」は日本企業最高金額に

日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が見られた

平成最後の年度となる2018年度(2018年4月-2019年3月)は、日本の上場企業によるM&A(企業の合併・買収)が活発だった。

国内の高齢化が進み、中小企業の後継者不在の問題はますます深刻になっている。大手企業でも国際競争が激しくなる中で、規模を拡大したり、「選択と集中」で経営を効率化したりする動きが活発だ。こうした経済環境の中で、多くの企業はM&Aに注目し、自社の成長の手段の1つとして積極的に活用し始めている。

M&A仲介サービス大手のストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースによると、2018年度のM&A件数は830件、金額(株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額)は計12兆7,069億円となり、いずれも2009年度以降の10年間で最高に達した。

2009年度から2018年度にかけてのM&A件数の推移。ストライクが東京証券取引所の適時開示情報を基に構築したデータベースで集計したもの。※経営権が移動するものを対象とし、グループ内再編は対象に含まない。金額などの情報はいずれも発表時点の情報
2009年度から2018年度にかけてのM&A金額の推移。 ※同上

日本企業最高金額となった「武田薬品のシャイアー買収」

2018年度に注目されたのが取引金額の拡大だ。

武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアーの買収に投じた6兆7,900億円は、日本企業が実施したM&Aとしては過去最高額となった。さらに同年は、1,000億円を超える案件がこの10年で最高であった2017年度と並ぶ18件に達するなど、国際競争が激しくなる中で、日本企業がクロスボーダー(国際間案件)のM&Aを活発化させた様子が見てとれる。

武田薬品のシャイアー買収は2018年5月8日に発表され、2019年1月8日に成立した。巨額の買収金額が経営に与える影響を懸念して、創業家一族ら一部の株主が買収に反対したことも話題になったが、臨時株主総会での武田薬品株主の賛成率は9割近くに達した。

武田薬品に次ぐ大型の案件は、ルネサスエレクトロニクスによる米半導体メーカー・インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の買収であった。買収金額は日本の半導体メーカーとして過去最高となる7,330億円に達した。自動運転やEV(電気自動車)などの進化に伴い、車載向け半導体の需要拡大が見込まれており、ルネサスエレクトロニクスはIDTの買収によってこの分野の開発力強化や製品の相互補完を目指す考えだ。

それに次ぐ大型の案件は、日立製作所によるスイスABBの送配電事業の買収であり、その金額は7,140億円に達する。日立製作所はABBから2020年前半をめどに分社される送配電事業会社の株式の約8割を取得して子会社化したあと、4年目以降に100%を取得し、完全子会社化する予定だ。再生可能エネルギー市場の拡大や新興国での電力網の整備に伴い、送配電設備に対する需要は一層高まると予想されており、日立製作所は買収により送配電事業で世界首位を目指す。

2018年度(2018年4月1日-2019年3月31日)の取引総額上位10ケース。※金額は株式取得費用と一部アドバイザリー費用を合わせた取引総額 (ストライク調べ)

2019年度も活況続くか

先述したように、金額が1,000億円を超える大型のM&Aは18件あり、武田薬品など金額上位3社のほかに、大陽日酸、三菱UFJ信託銀行、大正製薬ホールディングス、東京海上ホールディングス、JTといった大企業が名を連ねた。

これら18件中17件はクロスボーダーであり、かつ2018年度のM&A件数中、こうしたクロスボーダーは185件(構成比22.3%)に達しており、日本企業が積極的に海外での地盤固めに動いた様子が浮かび上がった。

かつて、日本で企業の投資といえば、研究開発や設備投資が大半を占めていた。しかし、最近の状況を受けて、ストライクの荒井邦彦社長は「全体の成長率が低迷する中で、こうした投資の効果は思うように高まらず、事業戦略としてのM&Aが日本企業でも定着してきている」と分析する。

なお同氏は、2019年度のM&A市場の動向についても「日銀による金融緩和が企業の資金調達環境を改善させており、活況が続きそうだ」と予測している。

出展:M&A online データベース

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