文具の世界の魅力を伝える「文具ソムリエール」として、TVやWebで活躍する菅未里さん。本連載では、そんな菅さんならではの視点で、文具に反映される現代社会の構図や情勢に思いをはせたコラムを展開します。

女性を強く意識した文房具の博覧会「女子文具博」が人気だ。2017年末に東京都大田区の東京流通センターで初開催されたイベントには約2万5,000人が来場。面積を倍に広げて昨年末に行われた第二回イベントには、約3万5,000人が参加したという(いずれも主催者発表)。この春には大阪でも開催予定だというので、大盛り上がりだといえる。人混みが苦手な私は参加できなかったほどだ(マスコミ向けの公開日には行ったのだが)。

「女子文具」が盛り上がる背景には、リーマンショック以降、会社が経費削減のために文房具の購入を控えるようになったことがあると想像される。文房具が支給されなくなった会社員は自分で文房具を買い求めるようになったため、文房具メーカーが会社ではなく個人を意識するようになった。その結果、それまではあまり目立たなかった「文具好きの女性」がターゲットとして浮上してきたということだ。

「文具女子博」ビジュアル

「女子」という言葉にまつわる違和感

ところで、SNSを見ると、イベントはともかく「文具女子」という言葉に拒否反応を示す女性がちらほら見受けられる。「なぜわざわざ『女子』とつけるのか?」というわけだ。「文具男子」とは言わないのに……。

私も「文具女子」という言葉にはどこかズレたものを感じざるを得ない。たとえば、「女子」という言葉に紐づけられる文房具の多くは、いわゆる「可愛いもの」だ。ピンク、パステル、花柄……。なるほど、たしかに可愛いものはよい。私も可愛いものは好きだし、多く持っている。以前書いたように、ピンクも色によっては好きだ。

筆者が所有しているピンク色の文具

しかし、多くの場面で私が使う文房具は、落ち着いたデザインだったりネイビーだったりと、男性が選ぶものとそうは変わらない。というのも、TPOや私の年齢を考えると、「可愛い」ものがふさわしくない場合が多いからだ。何よりも、私が好む文房具がすべて「可愛い」とは限らない。私はピンクも好きだが、同様にネイビーやグレーも好きである。

筆者が愛用しているシックな色合いの文具

「女子」は作られたイメージ?

ところが、「女子」という言葉が見え隠れする取材やイベントで、私が落ち着いた文房具を提示すると、あまり反応が良くないことが多い。「もっと女子っぽいものはないですか?」「華やかなものがあると助かるんですが……」。よくわかる。雑誌なら紙面を、TVなら画面を華やかにする必要はあるだろう。だが、女性たちが皆、いつでも、ピンクや花柄を好むわけではないのだ。

思うに、「女子」という言葉は、男性ばかりだった世界に女性が登場したときに使われるものだ。文房具も本来は主に仕事で使われる道具だったので、女性の就業率が低かった時代が長かった以上、男性の趣味といえる。もちろん女性の文房具ファンはいたのだが、あまり目立たなかった。それが可視化されはじめたので、「文具女子」という言葉が生まれたわけだ。

しかし残念なことに、「文具女子」のイメージは、女性たちが自ら選び取ったものではなく、おそらく男性によって与えられたものだ。他の「何とか女子」と同じように。だが、実際の女性たちは、もっと複雑だ。「文具女子」という言葉が陳腐化してはじめて、文具は真の意味で男女両性の文化になっていくのだろう。

ただ、「女子」というくくりが不要だとは、まったく思わない。くくりがなければ、そもそも女性の居場所がないかもしれない。だが、「可愛いもの」だけを追いかける「女子」は、たぶん存在しないのだ。

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2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
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