比喩ではなく日本が激震した「嵐、2020年活動休止」

カレー沢薫の時流漂流 第27回

比喩ではなく日本が激震した「嵐、2020年活動休止」

2019.02.11

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第27回は、日本が揺れた「嵐の活動休止」について

嵐、2020年で活動休止。

私がその第一報を聞いたのは、テレビのニュース速報だ。いちアイドルグループの休止がニュース速報になる。これだけでも、日本における嵐の重要度が伺える。

正確には、そのニュース速報を見た家人の「嵐活動休止だって」という声で知った。同じニュース速報でも、どこぞの市長が再選したとかなら、絶対に読み上げないだろう。ちなみに、私も家人も芸能人にはとても疎い。そんな人間でも「声に出して言いたいニュース速報」、それが「嵐活動休止」なのである。

「これはエライことになったぞ」

嵐ファンでなくても、最近騎士団長になった島耕作の顔でそう思った人間は多いのではないだろうか。何故なら、ファンでなくても「嵐ファンの知人」の一人や二人、頭に浮かぶからだ。すぐにSNSなどで、それらの人の安否確認に走った人もいるだろう。

つまり、行動が「災害が起きた時のそれ」になってしまっているのだ。「激震」というのは比喩でもなんでもない。

私もすぐにツイッターを見に行ったが、私のTLでは誰も嵐の話をしていなかった。どうやら、私の「安否が気遣われる嵐ファンの友人」というのは脳内で作り出した幻だったようだ。しかし、実際にそういう友人がいる人、さらに我こそは嵐ファンであり、「無事か?」というLINEがたくさん来たという人も日本には大勢いるだろう。

嵐と言えばSMAPなき後、日本の男性アイドル界のトップと言っても過言ではなく、今まさに人気の絶頂だ。そのグループが何故。

その何故、を我々が憶測する間もなく、速報が出たその日の晩に、本人たちによる会見が行われた。その会見によると、休止に至った理由はリーダーであった大野さんの「自由に生活がしたい」という気持ちが発端だったという。

当初大野さんは事務所自体を辞めるつもりだったが、他のメンバーが引き止め、話し合いの結果、「とりあえず嵐をお休みするということでいいんじゃないか」となり、2020年で嵐としての活動を休止することが決まったとそうだ。

嵐活動休止のニュースはファンらにとって寝耳に高圧洗浄機だったと思うが、このように、嵐と事務所側はできるだけファンへのダメージを減らすべく、周到に準備していたことが伺える。そうでなければこの段取りはありえない。

ダメージどころか、速報を見た時点で爆発四散した、という人も多いと思う。だがその後の会見を見て、私がファンだったら、四散した体が二散ぐらいまでには回復したと思う。

推しという「希望」と、ファンにとって本当に辛いこと

私は生粋の二次元原理主義だが、次元の別を問わず「推し」というのは希望だ。「今週末嵐のコンサートだ」という嵐ファンを、どれだけバールのようなもので殴っても絶対に死なない。もはや生きる理由を与えてくれる存在、と言っても過言ではないのだ。

大野さんが語った「自由な生活がしたい」という意思は、「嵐の活動がつらかった」とも取れる。自分たちの希望である彼らの活動に、「仕方なくやっていた」部分があるのだとしたら、それはファンにとって大変辛いことだ。

彼らにとって嵐は「仕事」なのだから、我々が会社を休んだり、辞めたり、解散という名の爆発を求めるのと同じように、大野氏が嵐の解散や休止を望むのも、全く不思議ではない。だがファンの理想は、「彼らも『嵐』であることを楽しんでいてほしい」なのだ。

ところで、その記者会見の席で、活動休止は「無責任では?」と質問した記者がいた。それに対し、メンバーの二宮さんと櫻井さんがしたフォローが、ファンの間で「神」と話題になっている。特に櫻井さんが和やかなムードから一転、真剣な面持ちで真っ先にコメントを返したことが、休止の発端になった大野さんをかばった行為として賞賛されている。

確かにこのエピソードは、ファンにとって救いである。イヤイヤやっていたのか、と思うのも辛いが、それ以上にファンにとって辛いのは「メンバーの不仲」である。活動休止ともなればいろいろな憶測を呼びそうなものであり、事実は本人たちにしかわからないが、少なくともあの会見では「不仲が原因ではない」と思わせてくれた。

実際、「嵐活動休止」の報を聞いた直後はこの5文字しか情報がなかったため、「実はメチャクチャ不仲で『大野氏』『松本氏』と呼び合うような状態だったのか」とか、「みんな嵐としての活動が苦痛で、楽屋に名前が書かれた嘔吐用洗面器が5個常備されていたのか」など、ネガティブな理由が多数頭に浮かんだ。それらはファンにとって何より辛いことである。

ファンが推しに抱く感情と言うのは、ただカッコいい、カワイイ、ともすれば恋愛感情のようなものだけではない。二次元のオタクをやっていても、ただキャラ同士が和気藹々としているのを見ただけで「尊い」と涙が止まらない時がある。

「あんたらが仲良さそうにしているのを見るだけでもババアは長生きできるよ、飴食う?」というような「何目線だよ」という立場から、推しにパワーをもらっているファンもいるのだ。もしメンバーが会見でお互い目も合わせないで、大野氏が経緯の説明をしている間に、二宮氏と櫻井氏がスマホをいじっていたりしたら、ファンはさらに二十四散ぐらいしたと思う。

その点今回の会見は、休止は確かに悲しいが、大野さんにはやりたいことがあり、メンバーがそれを尊重した結果なのだから仕方ないと思わせてくれるものだったと思う。

また、「無責任では」という記者の発言について、一週間でバックレたなら無責任と言えるかもしれないが、嵐はかれこれ20年勤続である。普通の会社勤めとして考えてみても、現代において20年間一度も転職したことがないという人間の方が少数派だろう。

さらに、嵐は休止までにまだ2年活動する。これは会社で言えば「退職前の引継ぎ作業」に相当する。会社で辞意を伝えた際に「じゃあ引継ぎを2年かけてしてね」と言われたら、その足で労基に行ってしまうだろう。

もちろん会見で言ったことが全てではないだろうし、とてもファンの前では言えない休止理由があるのかもしれない。だが、そういう部分を見せないのがアイドル(偶像)の仕事なのだ。ウンコはするけどファンの前ではしないのがアイドルなのだ。

そういった意味で、嵐は最後までアイドルの仕事を全うしようとしているように見える。

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2019.06.17

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放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

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