SIMを内蔵した「eSIM」対応のスマートフォンがなかなか増えない理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第31回

SIMを内蔵した「eSIM」対応のスマートフォンがなかなか増えない理由

2019.02.05

新型iPhoneで話題になった「eSIM」、普及してない?

実はスマートフォン以外の通信端末で多く採用

ユーザーは便利でも、電話会社はメリットが薄く消極的

スマートフォンなどの本体に直接SIMを組み込んだ「eSIM」を採用する機種が登場してきている。SIMの抜き差しが不要で、スマートフォン上でサービスの契約を完結できるeSIMは非常に便利なものだが、対応する端末がなかなか増えないのはなぜか。

スマートフォン以外の採用機種は増えている

2018年に発売されたiPhoneの最新モデル「iPhone XS」「iPhone XS Max」「iPhone XR」に、新たな要素として追加され話題になったのが「eSIM」(embedded SIM)である。これら3機種にはいずれも通常のSIMスロットとは別に、本体にもう1つSIMが内蔵されており、見た目には分からないがデュアルSIM構造となっているのだ。

2018年に発売された「iPhone XS」「iPhone XS Max」などには、通常のSIMスロットに加え、内蔵型のSIM「eSIM」も搭載されている

そしてeSIMを用いることで、通常契約しているキャリアとは別の通信サービスの利用が可能になる。例えば、世界中で利用できる海外用のプリペイド通信サービス「GigSky」などは、eSIMに対応したiPhone用のアプリを提供しているので、海外を訪れた際はここからGigSkyのプリペイドのプランを契約して、通常のSIMを挿入した状態のままGigSkyによるデータ通信が利用できる。

eSIMが内蔵されたiPhone XSからGigSkyのアプリを使えば、料金プランを選んでお金を支払うだけで、SIMを差し替えることなく海外で通信ができる

日本ではまだなじみが薄いように見えるeSIMだが、実はスマートフォン以外であれば既にいくつかの端末に採用されている。その代表例となるのが「Apple Watch」で、Series 3以降にはeSIMを搭載したモデルが用意されており、NTTドコモの「ワンナンバーサービス」など携帯大手3社が用意した専用のデータ通信プランを契約することで、iPhoneに接続する必要なくApple Watchだけで通話や通信ができるようになる。

同様に、eSIMを採用した端末として2018年に登場したのが、スマートフォンが近くになくても電話が受けられる、スマートフォンの子機というべきNTTドコモの「ワンナンバーフォン」。こちらもeSIMが採用されており、Apple Watch同様ワンナンバーサービスを契約することで利用可能になる。

スマートフォンの右隣にあるのが、eSIMを搭載したNTTドコモの「ワンナンバーフォン」。スマートフォンに接続する必要なく、単体でスマートフォンにかかってきた電話が受けられる

だが現在、国内ではeSIM端末専用のプランやサービスは用意されていても、スマートフォン向けの通常の料金プランをeSIMで契約することはできない。実際にSIMを抜き差ししたことのある人なら分かると思うが、非常に小さいSIMを本体に挿入する作業には専用のピンが必要になるし、利用を開始するにもさまざまな設定が必要であるなど、面倒な手間がかかる。そうしたユーザーの負担を減らす上でも、eSIMは非常に便利な存在であるはずなのだが、携帯電話会社側が積極的に対応しないのはなぜだろうか。

携帯電話会社にとってeSIMの採用メリットは少ない

それにはeSIMが誕生した経緯が大きく影響している。そもそもSIMカードを内蔵するというニーズが生まれたのは、M2M(機械間通信)、現在でいうところのIoT機器のような、通信機能を備えた機器を開発する法人からの強いニーズがあったためなのだ。

理由はSIMの管理の面倒さにある。例えば通信機能を搭載した自動車を大量に製造して世界各国に輸出し、それぞれの国で通信機能を利用できるようにするには、1台1台にそれぞれの国に対応したSIMを物理的に挿入する必要がある。しかも自動車とは別にSIMの管理もする必要があり、非常に手間がかかってしまう訳だ。

そうした法人の手間を減らすため、製造段階であらかじめSIMを組み込み、輸出後に各国のキャリアの契約情報を遠隔で書き換えるという、現在のeSIMの発想が生まれ標準化が進められていったのである。eSIMであれば必ずしもSIMカードのサイズにこだわる必要はなく、より小型のICチップにして機械に直接はんだ付けすることも可能なことから、機器の小型化や耐久性を高めることにも貢献できるというメリットもある。

eSIMは必ずしもSIMカードの形状をしている必要はなく、機器に内蔵しやすいようより小型のチップ状のものが多く用いられている

だが携帯電話会社の側からしてみた場合、遠隔で契約情報を書き換えるというeSIMの仕組みは、確かに法人のニーズを満たす上では便利なものだが、コンシューマー向けとなるとユーザーが契約だけでなく解約も簡単にできてしまうため、ほとんどメリットがない仕組みでもあるのだ。それゆえ法人向けと比べると、スマートフォンなどのeSIM対応サービスはあまり積極的に進められていないのである。

しかしながらアップルだけでなく、グーグルも「Pixel」シリーズで、海外では既にeSIM搭載モデルを投入している(日本向けの「Pixel 3」「Pixel 3 XL」では未採用)など、いまメーカー側からeSIMの採用を積極化する動きが進んでいる。最近でも中国のスマートフォンメーカーであるMeizuが、表面だけでなく側面からも端子やボタンを廃止したスマートフォン「Zero」を発表し話題となったが、この端末もSIMスロットを廃止するため、eSIMを採用しているのだ。

日本ではeSIMが搭載されていないグーグルの「Pixel 3」だが、実は海外向けのモデルはeSIMが搭載されている

ユーザーの利便性を高めたり、スマートフォンのデザインをよりよくしたりする上でも、今後メーカー側がeSIMを採用する動きは一層高まってくるだろうし、そうした端末が増えるとともに携帯電話会社側も何らかの対応が迫られることとなるはずだ。海外ではeSIMに対応したサービスを提供する携帯電話会社が徐々に増えてきているが、日本でもeSIMへの積極的な対応に期待したいものだ。

NewsInsight 更新終了のお知らせ

NewsInsight 更新終了のお知らせ

2019.06.17

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○ゲームとともに振り返る“平成”という時代
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○企業戦士に贈る「こむぎのことば」
https://news.mynavi.jp/series/komuginokotoba

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https://news.mynavi.jp/series/food_science

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○知って納得、ケータイ業界の"なぜ"
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○カレー沢薫の時流漂流
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最後になりますが、改めて皆様に感謝いたしますとともに、引き続き、マイナビニュースにてご愛顧いただけましたら幸いです。

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

カレー沢薫の時流漂流 第47回

放置されていた不寛容? 国会まで届いた「パンプス強要」騒動

2019.06.17

最近女性の間で「#MeToo」ならぬ「#KuToo」運動がにわかに盛り上がっている。

「#KuToo」とは「靴」と「苦痛」をかけており、職場や就職活動で、足を痛めるパンプスやヒール靴の強要をやめようという運動である。

そもそもそんなの誰も強要してねえよ、と思われるかもしれない。確かに規定として靴の形状やかかとの高さまで定めている会社はレアだろう。しかし、私の元いた会社でも、規則があるわけでも、誰に言われたでもなく、みな一様に黒のパンプスを履いていた。それが「暗黙のルール」であり、それ以外は「非常識」と見られる風潮は確かにあるのである。

これが就職活動になると、パンプスを履いていないだけで「こいつは常識がない」と見なされ不採用になってしまうかもしれない、ということだ。そうなると女子学生は足を負傷してでもパンプスを履かざるを得なくなってしまう。

正直、パンプスは苦痛

パンプスがそんなに苦痛か、というと、靴の中では殺傷能力が高い方である。これは他人への、という意味ではなく自分へのだ。他人を殺傷したいならカウボーイが履いている、かかとにピザカッターがついている奴を履いた方が良い。

狭いつま先に足の指が密集されるため、私もよく爪で隣の指を切って足を血だらけにしていたし、伸縮性にかける素材のため、あわないパンプスだと試着の時点で靴擦れが出来るレベルなのだ。

世の中には素肌に荒縄で亀甲縛りを施し、その上に上等なスーツを羽織って出社している人も多いと思う。とても痛いだろうが、それは強制されたわけではなく、その人が好きで楽しいからやっているのだ。

つまり、好きでもない上にとても痛いパンプスを強制で履かなければいけないというのは、上等なスーツの下が亀甲縛りなことよりも「異常」なことというわけだ。

この運動はすぐに広まり、いきなり国会でも議論されたという。これにより「厚労相がハイヒール強要を容認」という見出しのニュースまで踊り出ることになった。

完全に自由と言われても困るのでは?

「厚生省に、女がハイヒールを履かないと死ぬ病の人が!?」と驚いたが、記事をよく見ると見出しほどのことはなく、厚労相の発言は「これは社会通念に照らして業務上、必要かつ相等な範囲かと、この辺なんだろうと思います」というかなりボンヤリしたものであり、どっちでも良い事を聞かれた私のリアクションに似ている。

しかし「ハイヒールが履けない女は何やってもダメ」などと強い事を言っているわけではないが、「業務上必要ならパンプス履くべきだろ」という「容認」に聞こえなくもない。すぐさま「業務上ハイヒールが必要な仕事って何だよ」という疑問が挙がり、「SMの女王様」「(ハイヒールでキレッキレに踊る)perfume以外ありえない」などの声が相次いだ。

この社会問題がすぐ大喜利になってしまうのは良くも悪くも「ザ・ツイッター」という感じだ。

確かに「業務上必要」となると、まだかかとにピザカッターがついている靴の方が「ピザを食う時」必要な気がする。

ただ、靴や服装を完全に自由化し、何でもOKにすれば良いかというと、それはそれで問題が起きると思う。ファッションに疎くコーディネートが苦手な人間からすれば、職場に何を着ていいのか全く「指針」がないというのは迷子になるし、接する側としても、車を買いにいってディーラーが、イモ―タンジョ―の完コスで出てきたら「キャデラックしか買うことを許されないのか」と委縮してしまう。就活マナー本に「俺の考えた最強の就活ファッションで挑みましょう」とだけ書かれていても逆に困るだろう

着る側としても、それに接する側としても、社会において服装にある程度規定や模範があるというのはメリットでもあるのだ。

そもそも規定や常識というのは、秩序を作ることにより問題を減らすためにあるものなのだ。しかしそれが元で「足を負傷する」という「問題」が起こっているなら本末転倒なので、やはり解消はすべきなのだろう。

極論に流れない寛容さが足りない

おそらく「#KuToo」を提唱している人も「ドラゴン柄のコンバースで就活したい」と言っているわけではないのだ。最近は「パンプスに見えるスニーカー」なども存在するし、パンプスでなくても地味な靴はいくらでもある。そのような靴を履いていても「パンプスじゃないから非常識」と見るのをやめてほしいという話だろう。

ちなみに私が会社員時代履いていたパンプスだが、黒の革靴ではあったが、つま先は限りなく丸く、ヒールはなきに等しい、今思えばあれはパンプスだったのか、70過ぎのババアが旅行に行くときに履くヤツなんじゃないか、という代物であったが、特に何も言われなかった。

「#KuToo」が求めるのも、そのぐらいの「寛容さ」なのではないだろうか。

【お知らせ】
連載「カレー沢薫の時流漂流」の掲載場所を変更します。
→ 新しい掲載場所はこちら https://news.mynavi.jp/series/jiryu_hyoryu